成都をチャイニーズヒップホップの一大中心地に変えるラッパー7選

HIGHER BROTHERSに続き、中国におけるラップミュージックの未来をかたちづくるアーティストたち。

by Lauren Teixeira; photos by Tony Wu
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11 April 2019, 2:14am

中国南西部に位置する四川省の省都、成都。成都といえばジャイアントパンダ、激辛の火鍋、大勢の地元住民たちが麻雀に興じる茶館が有名だ。しかしラップファンにとっては、チャイニーズ・トラップミュージックの一大中心地になりつつある都市。成都出身のアーティストで圧倒的な知名度を誇るのは、HIGHER BROTHERS。カリスマ的で、さまざまなジャンルを取り入れる4人組は、そのコミカルなリリックや遊び心のあるプロダクションスタイルで、海外で成功を収めた初の中国本土出身ヒップホップグループとなった。しかし成都のヒップホップシーンには、HIGHER BROTHERS以外にもたくさんのおもしろいアーティストがいる。彼らの共通点は、音楽的な挑戦を恐れない、クールな姿勢だ。

成都でトラップが広まった理由は定かではない。ヒップホップシーンの歴史でいえば、北京や上海のほうが長い。ただ、ひとつ指摘できるとすれば、四川語だろう。成都のラッパーは鼻にかかったような発音が特徴の四川語を使用しており、中国の公用語となっている標準中国語よりもトラップというスタイルに自然にハマる。中国において、方言にはいまだにスティグマが根強い。たとえば、北京大学の新入生や、政治家を目指す若者は方言を消そうとする。しかしHIGHER BROTHERSをはじめとする成都出身ラッパーたちのおかげで、四川訛りはいまや、特別な価値をもつようになった。

成都のヒップホップシーンを牽引するのは〈说唱会馆(CDC)〉だ。CDCとは2008年、フリースタイルバトルの技術をともに磨くことを目的に若いラッパーたちが発足したコレクティブで、これまでいくつかのヴェニューと強固な関係を築いてきているものの、明確な拠点があるわけではない。成都のラッパーやファンたちは、成都のダウンタウンにある21階建てのオフィスビル〈Poly Center〉の衰退を嘆いている。このビルには、最盛期には3~4軒のクラブが入っていたのだが、十代のクラブ客がビルの薄汚れた廊下で大量の亜酸化窒素(笑気ガス)を吸っていることを当局が嗅ぎつけ、ほとんどが2016年に閉店に追い込まれた。それでも、新人ラッパーにとって成都はいまだに恵まれた場所だ。20年以上の歴史を誇るヴェニュー〈Little Bar〉は絶大な人気を誇り、新たに2店舗をオープンした。アンダーグラウンドの小さなDIYヴェニュー〈Nuspace〉は、同じストリートだがより広く、より集客を望めるビルへと移転した。また、潤沢な資金を有する独立起業家で、サイモン(Simon)と呼ばれるヒップホップファンが地元のラップシーンのアーティストたちを支援しており、成都のダウンタウンにある〈339 Center〉の地下にヴェニュー/クラブの複合施設を経営。そこには使用料無料のレコーディングスタジオも併設されている。

中国において検閲の脅威は遍在しているが、成都のラッパーたちに対する検閲は、北京や上海のラッパーたちに比べてまだ緩い。北京や上海では、当局によって開演直前にライブの中止を求められることが日常茶飯事だ。しかし、今回私が話を聞いた成都のラッパーたちも、中国のヒップホップミュージシャンの未来について、不安を吐露していた。2017年、『The Rap of China(中国有嘻哈)』というリアリティ番組が人気を博し、アンダーグラウンドの世界で頑張ってきた多くの中国人ラッパーたちも、思わぬ風に背中を押されるかたちになった。しかし、ラップ人気は諸刃の剣だ。ヒップホップが自国の若者たちに与える影響を危惧したのか、2018年1月には国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局が、タトゥーや卑猥な歌詞などを含むいわゆる「ヒップホップカルチャー」をテレビで扱うことを禁止した。セックス、ドラッグ、暴力、そして政治を語るラップづくりは、今や不可能だ。

成都のラッパーたちは当局に目を付けられずに活動を続けているほうだが、それでも彼らのトラックがネット上で不可解に削除されることもある。チャイニーズヒップホップの未来は不透明だ。しかし、どんなかたちであれ、未来は必ずある。そしてチャイニーズヒップホップは、成都を中心にして発展していくはずだ。成都のシーンをかたちづくるアーティスト7組をご紹介。

ボス・シェイディ(BOSS SHADY)

HIGHER BROTHERSが海外リスナーに成都を知らしめたのは2018年だが、国内では、2014年にはすでに成都が話題になりはじめていた。成都出身のラッパー、ボス・シェイディが、人気音楽オーディション番組『The Voice of China(中国好声音)』で、挑戦的な歌詞の「Daddy Ain’t Going to Work Tomorrow(明天不上班)」を披露したのがそのきっかけだった。この曲はしばらくのあいだ人気を博したが、ヒップホップがメインストリームの仲間入りをすることはないまま3年が経った。容赦なく事実を暴露するシェイディには、時機を逸する才能があったらしい。2017年8月、ちょうど中国でヒップホップ人気が爆発した時期、彼はキツい訛りでラップをかます「Fuck Off Foreigners(瓜老外)」をリリースした。

「お前自分の国じゃ負け犬なんだろ/認められたくて中国に来てる」という過激な歌詞を含むこの曲のおかげで、シェイディは中国国内でのパフォーマンスを1年間禁止される。しかしやられっぱなしの彼ではない。2018年3月には、微博で、成都ラッパーのTy.とレコードレーベルを立ち上げると発表。その名も〈DISS〉。いかにも彼にふさわしい名前だ。

TY.

長身で無表情、CDCの重鎮、Ty.。彼の武器は、眉ひとつ動かさずに繰り出す、広がりのあるオートチューンのフック。彼がシーンを牽引する存在となったきっかけは、2014年にリリースした最高のトラップ、「Hooked on drugs(嗨藥上了瘾)」。「起きてハイになろう、ケタミン2キロを投与」というジョークを含む歌詞で、当然ながら、中国のインターネットからは削除されている。『The Rap of China』に出演して以降は、台湾のポップスター、シンディ・ワン(王心凌)とコラボしたキャッチーな「20」、ボス・シェイディをフィーチャーしたバウンシーな「Tigress(母老虎)」など、より一般ウケする作品も発表している。HIGHER BROTHERSとは長らく友人であり、コラボも発表してきた彼は、2018年4月、HIGHER BROTHERSと組んで3曲入りEP『功成名就(Gong Cheng Ming Jiu)』(〈功成り名を遂げる〉の意)を発表。彼は既にワーナー ブラザース チャイナと契約を結んでおり、中国国内ではもっとも成功している成都出身ソロラッパーといえるだろう。

ハリキリ(HARIKIRI)

HIGHER BROTHERSファンなら、その名を知っているだろうハリキリ。2018年2月にリリースされたHIGHER BROTHERSのEP『Type-3』の共同制作者としてクレジットされている。謎に包まれた彼の正体は、ロンドン出身のプロデューサー、アンドレ・アレクサンダー(Andre Alexander)。かつて中国に留学していた彼は、2年前に成都に拠点を移した。2017年夏、HIGHER BROTHERSの取材時、本人が語っていたところによると、彼はロンドンのプロデューサー界の凝り固まったヒエラルキーから逃げ出すために移住を決めたという。「誰かに勝つ必要はない」と彼は成都のシーンについて説明する。「才能があれば、みんなに認められる。で、俺には才能がある」

確かに、彼にはズバ抜けた才能がある。ウィットに富み、多様なサウンドを取り入れたプロダクションスタイルで、巧みな技を用いながらも、ポップス的なセンスも失わない。『Type-3』で特筆すべきは、DZ Knowをフィーチャーしたソウル寄りなサウンドの「Nothing Wrong」と、MaSiWeiをフィーチャーした瞑想的な「Storm」だろう。彼は『Type-3』以外でも、中国系米国人ラッパーのボーハン・フェニックス(Bohan Phoenix)とコラボした「No Hook」、J. Mag(以下参照)とコラボした「Workin」など、HIGHER BROTHERSとの共作を手がけている。

J.MAG

HIGHER BROTHERSと親しく、彼らとのコラボも多いJ. Magは、スーダン生まれのラッパーで、家族の転勤でオマーンに移住しそこで育った。2015年、西安交通大学でエンジニアリングを学ぶため中国で暮らしはじめるが、彼の心を占めていたのは、エンジニアリングではなくラップだった。中国にやってきてすぐに、彼はインターネットでMaSiWeiをはじめとするCDCクルーと知り合う。J. Magの中国語は片言ではあったが、言葉の壁は特に問題ではなかった、と彼はいう。「俺たちは音楽で会話してるから」

保守的なオマーンでヒップホップを聴いて育った彼は、米国のラッパーよりもHIGHER BROTHERSとの共通点のほうが多いと感じるという。しかし基本的にテンションの高いHIGHER BROTHERSと違い、J. Magは落ち着いており、ゆったりしたフロウが特徴。ハリキリがプロデュースし、CDCのラッパーたちを多数ゲストに迎えた2018年のEP『Light Work』も要チェック。

顶级玩家A.T.M.

〈顶级玩家(〈一級プレイヤー〉の意)〉とも呼ばれるA.T.M.は、CDC出身の若きラッパートリオ。彼らのトラップミュージックは実にソリッド。2018年1月、自信たっぷりにリリースしたデビューアルバム『First Rate Players』は、中国のアンダーグラウンドラップ界で絶賛された。ホームタウンに捧げたトラック「Local(当地人)」は、彼ららしいループビートに乗せてタイトに重ねられた、方言丸出しのヴァースが特徴。A.T.M.のメンバー、Meng Zi、Lil Shin、ANSRJの3人は、これからそれぞれの個性をさらに磨いていくことが求められるが、いずれにせよこれから大注目のグループだ。まったく覇気がない四川のオヤジたちとA.T.M.が麻雀に興じる「Local」のMVでは、成都のストリートライフをのぞき見れる。

T$P

比較的最近CDCに加入したTSP。成都生まれのチベット人で、自分が開いたバーの経営が行き詰まったので、ラップの世界に足を踏み入れたという。トラップからダンスホール、R&Bまで多彩なスタイルを取り入れている彼が得意とするのは、不思議なオートチューンを多用したR&Bトラック。しかも、中国の厳しいネット上の検閲をあえて挑発するような歌詞だ。先生全員とセックスがしたい、と歌う人気曲「我的老师(My Teacher)」はネット上から排除されてしまったが、ドレイク(Drake)を想起させる「这个坏男孩(This Bad Boy)」はチェックできる。

YOUNG13DBABY & FENDIBOI

TSPの舎弟、Young13DBabyとFendiboiは、ともにCDCのチベット高原出身の新人で、コラボも数多い。Young13DBabyは甘粛省、Fendiboiはラサ市の出身だ。彼らは、中国における少数民族として、米国人ラッパーに親近感を抱いているそうだ。さらに、チベット人たちの好む金歯や編み込みヘアは、MIGOSなどのグループを想起させるという。彼らはCDCを通して、チベットラップの新しい波を率いていきたいと望んでいる。ヒマラヤ製ヒップホップを味わいたいなら、彼らがラサのポタラ宮の前でラップをかます「Yeti Bandz」のMVをチェック。