国籍を伝えるタイミングを待つ〈在日コリアン〉の父親

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国籍を伝えるタイミングを待つ〈在日コリアン〉の父親

日本人の妻と子供と日本で暮らしている〈在日コリアン〉の男性に、生活のなかで経験した苦労や、国籍を告げていない子供への想いをうち明けてもらった。彼は幼い頃から〈在日〉を意識しながら生きてきた。生来の国籍は偶然決まるのに、人それぞれ、国籍についての意識にギャップが生まれるのは何故だろう。
kumpei kuwamoto
Tokyo, JP

日本人の両親に育てられ、日本で暮らしてきたというだけで、私は自分の戸籍すら確認せずに、自分自身を日本人だと思っている。これまで私は、自分や他人の国籍について、意識したり、疑問を抱きもせずに、日本で生活を送ってきた。仮に自分の戸籍を調べて、日本籍でなかったとしても、特に大きな問題として捉えないような気がしている。一体、国籍とは何なのだろう。

日本人といっても、海外で生まれ育った日本人、海外に移住した日本人、他国に帰化する日本人…など様々。帰化して日本籍を取得した父親と、日本人の母親のあいだに生まれた子供は戸籍上、日本人だ。

また、在日外国人も、帰化をすれば日本籍を取得できる。しかし、そうしたところでその人は、日本人扱いされるだろうか。それほど、国籍というのはよくわからない。

今回、日本人の妻と子供と日本で暮らしている〈在日コリアン〉の男性に話を伺った。彼が生活のなかで経験した苦労や、国籍を告げていない子供への想いをうち明けてもらった。彼は幼い頃から〈在日〉を意識しながら生きてきた。生来の国籍は偶然決まるのに、人それぞれ、国籍についての意識にギャップが生まれるのは何故だろう。

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ご自身が在日コリアンだと知ったのは、いつですか?

小さい頃から、何となくわかってました。僕はお父さん、お母さんを〈アボジ、オムニ〉、おじいさん、おばあさんを〈ハルベ、ハンメ〉と呼んでたり、食卓に並ぶ料理も、キムチとかで全体的に赤かったし、おじいさんの家では朝鮮新聞を読んでましたから。僕が悪さをすると、親父から「お前、朝鮮学校に入れるぞ」と怒られたりもしましたね。だから、小学校に入学する前から「僕はみんなとは違うんだな」と思ってました。

小学生時代、自分が在日コリアンだと周囲に公表していましたか?

僕は親父や親戚から「在日コリアンは馬鹿にされるから、隠した方がいい」とすり込まれていたので、隠してましたね。おじいさんの家の近くに、朝鮮部落があって、自分以外にもひとり、在日コリアンの生徒がいました。そいつは脇が甘くて、作文に「僕のハンメが…」と書いて、学校の先生から、「ハンメって何ですか?」とツッコまれていたのは覚えています(笑)。

いつまで、在日コリアンであることを隠していたんですか?

中学校の教師にバラされました。ひどいですよね。43歳のおっさんになっても、恨んでいます。僕が中2のとき、体育教師が「あいつは在日コリアンで育ちが悪いから、あんまり仲良くさせないほうがいい」って同級生のお母さんにバラしたんです。次の日、部活が始まる前に少年ジャンプを読んでいたら、同級生から「聞いたよ。お前、在日コリアンなんだってな」と。ガーンですよね。「在日コリアンだけど、何か?」と返す勇気もありませんでした。その同級生からは、「俺は、お前が在日コリアンだろうと関係なく、友達だからね」といわれたのですが、妙に腹が立ちましたね。

なぜですか? いい友達じゃないですか。

簡単に在日コリアンだとバラす親の子どもと仲良くなれるわけねえよって(笑)。今では一緒にバーベキューをする仲ですが、顔を見るたびに、バレたときを思い出します。在日コリアンだとバレるのが嫌で嫌で仕方ありませんでしたから。

なぜ、在日コリアンだとバレるのがそんなに嫌だったんですか?

親父とか親戚から、バレたらいじめられるとか、色々聞かされてましたから。本当にバレたらどうなるのかわからない怖さはありましたね。

在日コリアンが理由で馬鹿にされたり、実際にいじめに遭いましたか?

それが理由でいじめられてはいません。でも、好きな女の子に、「在日コリアンだから、嫌われたらどうしよう?」とか、「在日コリアンだとバレてなければ、この恋は実ってたかもしれない」みたいなネガな発想はありましたね。

失敗をしてしまったら、「在日コリアンだから」だと考えていたんですか?

自分がしてしまった失敗を、在日コリアンのせいにはしません。でも〈対、人〉の場合は、在日コリアンが頭にありました。誰かと接するときにどう見られているのかは気にしてましたね。好きな子ができても、「僕はこの子とは結婚できないんだな」とか。

他に覚えているお父さんの言葉はありますか?

大学受験のときに、「在日コリアンだから、学習院は無理だぞ」「在日コリアンだから、一流企業には就職できない」とか。それは親父の経験と妬みもあります。在日コリアンは就職に影響するって聞かされて育ちましたから。

お父さんから、「在日コリアンだから…」といわれ続けて日本が嫌になりませんでしたか?

日本は生まれ育ったところだし、在日コリアンを気にしない人もいるので、今は居心地が良いかもしれないです。もう、国籍を隠していませんし、聞かれれば答えます。

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何がきっかけで、在日コリアンを隠さなくなったんですか?

ニューヨークに留学して、日本人と韓国人の違いをちっぽけに感じました。歴史は浅いけど、いろんな人種の人がいるので、僕は米国が好きなんです。僕にとって〈在日コリアン〉はアイデンティティです。単純に個性のひとつだと思っています。

アイデンティティ、個性のひとつとして、お子様に伝えないのでしょうか?

アイデンティティも、プラスに働く場合とマイナスに働く場合があるじゃないですか。日本というコミュニティにいるから、そこはやっぱり意識しますね。在日コリアンは、韓国でも〈ギョッポ〉と馬鹿にされてしまいますから。

ご自身を韓国人だと思っていますか? 日本人だと思っていますか?

日本人でも、韓国人でもありません。〈在日コリアン〉です。そう考えると、いっそ本物の韓国人のほうが良かったかもしれません。

本物の韓国人?

在日コリアンではなく、韓国から来た韓国人です。在日コリアンよりもわかりやすいじゃないですか。だって、僕は「韓国人なの? 日本人なの?」って思われてますから。だから、帰属意識も薄いんですよね。

お子様は日本人ですか? 韓国人ですか?

僕の子供は二重国籍です。国籍選択をしなくても法務大臣から催告が来ないのは国籍法の抜け目ですよね。だから、国籍は子供自身がいつか判断すればいいかなって。でも、「パパは在日コリアンだけどね」って見えない圧はかけるかもしれないですが(笑)。

圧をかけるのは、韓国籍になってほしいからですか?

正直、わかりません。圧はかけるけど、自分で決めればいいですかね。教育上良くないかもしれないけど、よく子供に「パパとママどっちが好き?」って質問はしています。子供なりに答えに迷うんですよ。

〈パパとママどっちが好き?=韓国と日本どちらを選ぶ?〉ですか?

それは関係ないですが、パパとママっていうのは究極の二択ですよね。どちらかを決めるのは、罪の意識があるのかもしれません。僕もサッカーの日韓戦を観て、どちらを応援するか訊かれたら、「うーん…米国」と答えますし(笑)。だって、接点の多さでしか判断できないじゃないですか。「この場合はこっちかな?」って。だから、帰化するかどうか、日韓どちらを応援するかについては「どっちも選べない」が答えでしょうか。

ニューヨークに留学して、日本人と韓国人の違いなんて大した問題ではないと気付かれたそうですが、お子様にも、同じ経験をしてほしいですか?

そういう経験をしなくても、大した問題じゃないとわかってほしいです。僕がどれくらいサポートしてあげられるかが、父親としての課題ですかね。僕は親父から「お前は在日コリアンだから…」といわれ続けたけど、僕の子供には「いやいや、在日コリアンなんて関係ないから」と説明したいです。

なぜ、今、お子様に国籍を伝えないのでしょうか?

あらゆる問題、リアクションを想定して、冷静に子供の質問に答えたいです。僕の場合は中2のときに教師にバラされたので、しっかり答えを用意したいです。でも、精神年齢や理解力もあるから、自分が上手く伝えられる自信がありません。

お子様が何歳になれば、上手く伝わるのでしょうか?

わかりません。僕が自分を在日コリアンだと公言できるようになったのは、19歳とか、20歳になってからです。長女は小学6年生なのですが、思春期は難しいですよ。自分を日本人だと信じ切った後に、違うと知るのはショックでしょう、遅かったかもしれないですよね。自分が子供だった頃とは、時代も違うから、未知の世界です。僕にすれば、本当に読めないんです。おっさんになるほど、自分の読めない世界っていうのは怖いですね。

お子様を想って、自身の国籍を隠しているんですか?

厳密には、隠しているわけではありません。隠すというのは、質問されて、嘘をつくことですから。「パパは韓国人なの?」と、子供に訊かれたら正直に答えるつもりです。ただ、長女に免許証を見られ、「パパの名前が違う」といわれたときは、とっさに「この免許証、間違ってるんだよね」といってしまいましたけど(笑)。

でも、僕の母親が韓国料理屋をやってたり、必ず食卓にはキムチが出てきてたから、子供は何か引っかかってるかもしれないですね。僕は重要な問題として考えてるけど、妻からは「そんなの大した問題じゃないよ。私とパパだって結婚してたし、そのふたりの子供でしょう?」といわれて。でも…正直、父親としてはいいたくない気持ちがあるのかもしれないです。今の時代はわからないけど、僕は嫌でしたから。やっぱり自分の子供に嫌な思いはさせたくないです。