Photos by いくしゅん

若き写真家が見る歪んだ世界 vol.12 いくしゅん

連載企画「若き写真家が見る歪んだ世界」第15回目は、先日アップした「サッチャー政権下の労働者階級〈カジュアルズ〉とフレッドペリー 」でコラージュを担当した佐伯慎亮を紹介する。生と死、仏教、そして、ユーモアが絡み合う混沌とした世界観は、どのようにして生まれ、型づくられているのだろうか?

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Dec 15 2015, 8:59am

Photos by いくしゅん

世の中で一番の楽しみはイク瞬間である。あの手この手を使い無我夢中であくせくしながら、その時を迎える。そこまでたどり着くまでに相手の演技やあざとさが見て取れると一気に冷めてしまう。一方で相手のその時を逃さぬよう、注意深くその反応を探る。さらには自分と相手が同時になんて、甘い夢を見てしまうが、それがぴったりとあうことが何よりも快感である。

若き写真家が見る歪んだ世界、第12回目は、日常の中にある豊かなリアリティーのなかでの絶頂を切り取る、いくしゅんの作品とインタビューを紹介します。

写真を始めたきっかけを教えてください。

今35歳なんですが、大学を卒業してサラリーマンになって、仕事にも慣れてきたころにカメラを買いました。写真を始めたという意識はなく、ただカメラを買ったってだけですが。

そもそもなぜカメラを買おうと思ったんですか?

趣味がほしいなと思っていた時期に、ちょうどデジカメが安くなり始めていたので、持っていても損がないかなと思って。

どのようなデジカメを買ったのですか?

コンパクトカメラです。旅行に行ったときとか、友人の結婚式とかで使いそうだし。今でこそ外出するときは持ち歩きますが、最初の3年くらいはカメラを家に置きっぱなしとかでした。

では現在のように写真を本格的に撮るようになったきっかけは?

大阪にオシリペンペンズっていうバンドがいて、ファンなのでよくライブに行っていました。面白そうな人たちだし友達になりたいなって思っていました。でも当時の僕はおっさんになりかけの歳じゃないですか? 友達になってくださいってお願いするのも変だし怪しまれるし、そおっと近づくために、勝手にライブの写真を撮って勝手にブログにアップして、メンバーの誰かに気づいてもらおうと思ってやっていました。検索とかで僕のブログが引っかかって気づいてもらおうと思って。あとアウトドアホームレスとかクリトリック・リスっていうバンドとかも撮っていました。そしたら割と早い段階で、そのうちの誰かが気づいてくれて、今度ライブ来たら声かけてよ、ご飯行こうよって誘ってくれたんです。で、「まあ別にいいけど?」みたいな感じで返して(笑)、それで友達になることに成功しました。そしたら、ライブの写真も良いけど、それより普通のスナップ写真のほうが面白いって言ってくれて。自分が面白いと思ってる人たちに面白いって言われたら嬉しいじゃないですか? じゃあ写真続けてみようと思って、それをモチベーションに今もやってる感じですね。

ブログもやばいですね。最初完全にいくしゅんさんは女子高生だと思ってました(笑)。

ブログを登録したときはこんなに長く続けるとは思ってなかったんで、プロフィールとか適当でいいやと思って、ブログを登録したその日に書いたものを今でもそのままにしています。ブログのタイトル、読んだら3日以内に絶対うんこもらすブログもそうですね。

女子高生がうんことか言うのかって、びっくりしました(笑)。では撮影方法について聞きたいのですが撮影日を設定したり、ロケ場所を決めてスナップに出るのですか?

撮影日はとくに設けてなくて、だいたい土日くらいしか撮らないんですけど、どっか外に出かける予定とか、遊びの予定があるときはだいたいカメラを携帯するようにして、その道中に撮るみたいな。最寄りの駅とかコンビニに行く途中に撮ることが多いです。

機材は今もコンパクトのデジカメですか?

今使っているのは1万5千円のミラーレスのデジカメです。3年前に秋葉原のソフマップで買いました。型落ちの中古でボロいんですけど、3年間壊れることなく、全然使えてますね。持ってるのはこの1台だけです。

撮った写真を加工しているんですか?

ほとんどしないですね。ホワイトバランスが狂ったときに戻すくらいです。明るさとかが飛んじゃったりしたときは、明るさを調整しますけど、色味を変えるということはないですね。

写真の質感を被写体の面白さが引き立つように加工しようとは思わないんですか?

思わないですね。発色も初期設定で満足しているので。理想の質感とかもないので、どこかをいじる理由がないんです。解像度もべつに高くなくていいし、RAW現像もやり方がわからないのですべてJPEGで撮っています。

逆光とかで思うように写らないこととかないのですか?

あまりないですね。オート露出の精度がいいんでしょうか。

撮影前にどういうものが撮りたいなど、想定していることはあるのですか?

これを撮りたいっていうのが全然なくて、来たものに対して「いらしゃいませー」みたいな感じでシンプルな構図で撮るだけです。自分から積極的にハンティングするっていう姿勢がないんです。どちらかといえば来るのを待つタイプです。飲み会とかも自分からは誘わないし。

いつから、作家というか写真家としての活動を意識していたのですか?

今でも意識はしてないつもりです。そもそも写真家になりたくて始めたわけではないし、好きな写真家もずっといません。写真をやっていくうちに、あのカメラが欲しいとか、あの写真集が欲しいとか、写真の勉強をしたいとか、そういう欲がどんどん出てくるはずだと思っていたんですが、今でもなぜかそういう欲は出てこないです。むしろその逆で、使うカメラもどんどんショボくなってるし(笑)。まさかこんな自分が出版社から写真集を出せるなんて思っていませんでしたが、こんな感じだからこそ逆に面白がってもらえたんじゃないかと思っています。

今の現実をどう受け止めているんですか?

本を出版して、もちろん嬉しいこともいっぱいあるんですけど、面倒くさいこともいっぱいあって、ちょっと憂鬱になることがありますね。まさかのマタニティブルーです。

お気に入りの写真は?

特別これってのはなく、全てフラットです。ただ最近は人気のある写真は展覧会で積極的に使うようにしています。それは単なるサービス精神で。

では今回の写真集で表紙にした写真はどのように決めたのですか?

版元である青幻舎さんに決めていただきました。何枚か候補があって、僕は別の写真が良いって言ってたんですけど、青幻舎さんがこっちが良いって言ったんで、なんか他人にこっちが良いって言われたら、そっちが良いような気がしてきたんですよね。プロの意見だし。売れなかったら青幻舎さんのせいにもできますし(笑)。もともとこの表紙の写真は本編に入ってなかった写真なんですけど、制作していく過程で、もうちょっと本に厚みが欲しい、ページ数を増やそうって話になって、当初の予定より16ページ増やしたんですけど、そこで食い込んできた写真なんです。2軍からいきなり1軍の4番バッターを任されたみたいな。大抜擢でホームラン打ってくれましたね。今ではすっかりお気に入りの1枚です。

展示するときはどのような考え方で展示したりするんですか?

最初はずっとテキトーにやっていました。なんとなくこれくらいのサイズの写真がこれくらいの枚数あればいいだろうみたいな。いっぱいプリントしすぎて余った分は床に放置したりとかしていました。そしたら間違って同じ写真を何枚もプリントしていたみたいで、気付かず同じ写真を2枚壁に展示していたりして、お客さんに「どういう意図で同じ写真を展示してるんですか?」って聞かれて、あ、間違いです1枚剥がしときますみたいな(笑)。今は順番やサイズを結構考えて展示していますが。

写真を仕事にしようと考えたことはありますか?

ないですね。たまに頼まれて撮影仕事をやることもあるんですけど、だいたい請求書は送り忘れますね。催促されたら送りますが。写真をお金に変える意識が低いんだと思います。友達の手伝いをしたくらいしか思ってないというか。だから過去の展覧会でも展示したプリントを全部タダでお客さんにあげたことが何度かあります。何十枚もあって、プリント代も10万円以上かかってることもあるんですけど、欲しいって言われたらあげたくなるんですよ。小学生のころビックリマンシールを集めていたんですが、同じシールを2枚持ってたら1枚友達にあげてたんで、その延長ですかね。

写真集の印税もいらないと?

印税はいただきます(笑)。印税はシステムが面白いじゃないですか。何にもしてないのにお金が入ってくるって最高じゃないですか。漫画家さんみたいだし、印税生活は憧れますよね。ロマンです。

アートとして評価されている現状は。

あまり意識してないです。その場に応じてアーティストぶったり、写真家ぶったりしてますけど。クールなふりしたりとか(笑)。

賞もらう時ですね(笑)。では写真新世紀で2度佳作を獲っていますが、これに応募した理由は?

ある時期に写真家の友達ができて、写真新世紀っていうコンペがあるから出したら獲れるよって言われたので応募しました。彼は過去に優秀賞を獲っていたので、こいつが獲れるっていうんだから獲れるんだろうみたいな感じで。

それですぐに賞を獲れたと。

初めて応募した時は佳作でした。それで審査員や偉い人にちょっとダメ出しをされたんですよ。60枚くらいでまとめたポートフォリオで応募したんですが、もっと数を絞れ、いろんな要素が入りすぎているから要素も絞れって言われたんですけど、2年後にさらにいろんな要素を混ぜて90枚ぐらいで応募したんですよ。アドバイスと真逆のことをやって賞を獲ったら面白いだろうと思って。それを写真評論家の清水穣さんが賞に選んでくれました。その清水さんが僕の知らないところで青幻舎さんに、面白い写真家がいるよと紹介してくださっていたみたいで、翌年京都で展覧会をやった時に青幻舎さんが見に来てくれました。その展示を気に入ってもらえたみたいで、後日写真集のお話をいただきました。

写真新世紀で一気に変わったってことですね。

一つのきっかけになったという感じです。どうせコンペに応募するんだったら落とされたくなかったので、編集作業にはそれなりに時間をかけました。枚数が多いし色んな要素が入ってるから編集が大変で(笑)。プリント代もそれなりにかかってるので、落とされたら嫌じゃないですか。時間も無駄になるし。

展覧会も積極的にやっていたんですか?

声をかけてもらったらやるって感じです。その写真新世紀で展示しているときに、東京のギャラリーからオファーをもらって、そこで初めて個展をやったらいろんな人が取り上げてくれて、その個展をきっかけにその後も展示などのお誘いをいただくようになりました。

なるほど。では作品についてもう少し教えてください。いくしゅんさんの写真を観ていると、個人的には街ではとても面白いことが起きていて、とても豊かな日常が感じられます。

多分他の人よりかは10倍くらい周りをよく見ていると思います。人海戦術ですね。一人でやる人海戦術です。他人の10倍周りをよく見れば、他人が10年かからないと見れないものを僕は1年で見れることになりますから。

こんなに気づけるもんなんですね?

いや結構頑張ってると思いますよ。この写真集は10年くらい撮り貯めた中からセレクトして作りましたが、もしこの内容のものを1年で作れって言われたら絶対に無理!ってなります。10年撮ってたんだからそれなりに面白い本になってもらわないと困るというか、割に合わないというか。

1枚くらいセットアップしたのがあるんじゃないかとも勘ぐってしまいますが。

例えば上の姪っ子の写真で、すごくジャンプしている写真なんですけど、これは何回か飛んでもらいました。ていうか勝手に飛び出したんで、撮ったら違う、もう一回飛んでとか言って撮りました。指示を出したのはそれくらいですね。

そういう意味では犬がこっちを見続けているのも、すれ違っても振り返ってまでいくしゅんさんを見てますよ(笑)。

犬ってカメラを構えるとこっちを見るんですよ。あいつ何やってんだって感じで、じっーーと。だから動物と目を合わせるのはそんなには難しくないです。

しつこいなって言われませんか?

しつこいのが好きなんですよ。こいつ、しつけぇ!!!って半笑いで言われるくらいがちょうどいいですね。しつこくされるのは嫌いですが(笑)。この犬を発見したときは、なんか大名みたいだなっていうか、後ろのカゴにちょこんと座っておばちゃんが運んでるみたいな。それでなんとなく1枚撮ったら犬がこっちを見て、なかなか向こうが目線を外さないんで、ずっと撮り続けました。なんか目線を先に外した方が負けみたいな勝負が僕と犬の間で始まったんです。

ではこの勝負に勝ったわけですね。

そういうことになります(笑)。本当はこの一連の写真が17枚くらいあるんですけど、さすがに17枚は本にしたときにくどすぎるかなと思って10枚に絞りました。

このモグラの写真も最高ですね。

これはネズミですね。

失礼しました。モグラ叩きを連想しちゃって(笑)。

確かにそう言われるとモグラにも見えますね(笑)。この写真は高田馬場のちょっと路地裏に入ったところなんですけど、最初はタワシが落ちてると思ったんですが、なんかちょっと動いたぞって思って、近づいてよく見るとネズミだったわけです。交差点の真ん中なんですよね。タイヤがここを通るから危ないと思ってすぐに駆け寄って、交通整備をしながら挟まってるのが抜けるまでちゃんと見守ることにしました。見守ったお礼として写真を撮らせていただきました。

高田馬場には何しに行ったんですか?

新宿で展覧会の打ち合わせをやって、そのあと馬場で友達と会う予定があったんですが、時間に余裕があったのでちょっと歩こうと思って。その道中です。

移動手段は歩きが多いのですか?

時間があれば歩きます。普段通勤のときは自転車なんですが、自転車に乗っていたら景色の流れが速くなるので近くのものがあんまり気づけないんですよね。気づけたら前ちゃんと見てないってことで危ないと思うし。

そうですね(笑)。ではいくしゅんさんの作品は歩くって行為とリンクしてるんですね?

そうですね。散歩は好きです。音楽やラジオを聴きながら歩くのが好きで、リラックスしたいときや考え事をするときも散歩しますね。自分の歩く速度とリンクして街の風景が変わるっていう当たり前のことも単純に面白いと思います。

また、動物の作品も多いですが動物が好きなんですね。

動物は大好きですね。休みの日はドッグランとか行って、知らない人の犬をタダで触らせてもらったりしてます。愛犬家のふりして(笑)。

面白いものを発見したあと、いざ撮影するとなったとき、どのようなことを意識しているのですか?

感覚としては、音ゲーに近いと思います。画面にバーが落ちてきてちょうど目印と重なったときにボタンを押したら得点になるみたいな。さっきの姪っ子のジャンプの話も最高到達点のときに、バシっと止めて撮るのが気持ちいいっていうのと同じなんですが、例えばカエルの写真とかも体が一番伸びてる、その一瞬のときに撮りたいなっていうのがありますね。連射はなんかズルいので使わないんですけど、その瞬間を逃さないように合わせてシャッターを押すみたいな、そのタイミングが合ったときが気持ち良いんですよね。

肉眼で見ているのとシャッターを押すのとでは微妙な誤差があると思いますが。

あります。その微妙な誤差も計算してシャッターを押す。それで合うのが気持ち良いんです。

あと、すごくフラットな写真が多く、客観性がよりユニークさを際立たせているように感じられますが、何か気をつけていることはあるのですか?

まず露出はオートで、ピントはちゃんと合わせて、カメラは傾けないっていうことだけを決めています。あとは好き勝手に撮るだけです。

晴れだろうと曇りだろうと、光がどうであろうと関係ないってことですね。カメラを傾けないのはどうしてですか?

傾ける理由が特にないからです。なんかこう、ただ普通に撮りたいというか。

まあ、斜めに傾けたりすると自分の目線がより写真に出ますからね。

ああ、そうかも知れないですね。

突然ですが、幼少期のことを教えてください。

3人兄弟の末っ子で、お兄ちゃん、お姉ちゃんがいて5歳と6歳離れているのですが、超過保護で、兄弟からも親からも愛情いっぱいで育っています。

出身は?

奈良です。関西ローカルのゆるいお笑い番組がいっぱいあって、タレントたちがローカル番組なのをいいことに緊張感なくダラダラやってる感じが好きです。東京にいるとあの雰囲気がたまに恋しくなります。

スポーツは?

幼稚園からラグビーをやってました。大学卒業するまでなので、幼小中高大ですね。スポーツ一家なので父や兄もラグビー選手でした。現役時代のポジションは五郎丸と同じフルバックです。司令塔的な役割もあるポジションで、チームの最後尾から攻撃とか守備の指示を出したり、戦況によって自分が攻撃に参加したり、結構自由に動けるポジションです。

じゃ写真もラグビーといっしょってことですね。全体を見回して、グラウンド全体に注意を払うっていうのと(笑)。

も~すぐそうやって写真と結び付けようとする(笑)。それ言われたら、そうですねって言うしかないじゃないですか(笑)。でも確かに最後尾からだと自分以外の選手が前に29人いることになるので、それを俯瞰で見て、あそこディフェンス弱いからもっと寄れとか指示出したりして、隅々まで注意は払っていますね。でも写真とはあまり関係ないかな(笑)。

自分自身が描く理想の写真みたいなことはありますか?

特にはないですね。理想通りの写真が撮れたと思って見返しても、けっこうあざとさみたいなのが写るんですよね。あざといのってダサいじゃないですか?(笑)なんか恥ずかしいし(笑)。なんとなくシャッターを切ったらたまたま理想を超えた写真になっていたみたいな、狙って撮れないような写真が理想ですかね。

あざとさがないということは、イコール派手ではない。つまり一枚単体の写真よりも、数十枚の写真を同時に見せた方が伝わるし、一見わかりづらいけど、さりげないからリアリティーを感じるってことですね。

リアリティーって大事ですね。セットアップでもリアリティーが出せる写真家はたくさんいると思うんですけど、僕は自分に演出のセンスがあるとは思わないので、オーソドックスな普通のスナップしかやらないですね。

では写真で何か伝えたいことはありますか?

ないです。もともと何かを伝えるために写真をはじめたわけではないので。仕事で煮詰まったときとかにこの写真集をパラパラめくってもらって、リフレッシュになればいいかな?というぐらいです。

なるほど。今後もこのペースで写真を撮り続けていくのですか?

そうですね。

ということは次の写真集を出すまでに、また10年かかるということですね。

まあ、5年かな?

そんな早くなるもんなんですか?

昔に比べたら無駄なく要領よく動けるようになったということですかね。ちょっと写真も上手くなったはずなので(笑)。

いくしゅん

1980年奈良県生まれ。2009年、2011年キャノン写真新世紀で佳作を受賞。2015年12月、ここで紹介した写真集『ですよねー』を青幻舎からリリースする。またブログはこちらから。

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