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可愛らしいブルドッグの可哀想な現実

「ブルドッグが現在の姿に至るまでには何十年、何百年もの時間を経ています。それは、過去の姿に戻すためにもかなりの時間がかかる、という意味でもあります」

酸素を求めて喘ぐ疲れ切ったブルドッグ。こんなに悲しいものはない。顔のシワに沈んだ濡れた瞳、自らの体重に潰されそうな短くずんぐりした足。

ブルドッグは自然の寵愛を受けていない。それは、われわれのせいだ。

最新の研究により、われわれがブルドッグの遺伝子構造をどれだけ歪めてしまったのかが明らかになった。「理想のブルドッグ」を求めて何世代にもわたって続けられた近親交配により、純血種のイングリッシュ・ブルドッグは、慢性的に健康が損なわれた状態にある。オンライン誌『Canine Genetics and Epidemiology』に発表された論文で、ブルドッグの多様性が血統書ではなく、DNAレベルで初めて解析された。

「ブルドッグが現在の姿に至るまでには何十年、何百年もの時間を経ています。それは、過去の姿に戻すためにもかなりの時間がかかる、という意味でもあります。イングリッシュ・ブルドッグの遺伝的多様性は大幅に失われてしまいました。そして今では、悪しき特徴がブルドッグの普遍的な特徴になっています。然るべき特徴は消えてしまったか、残っているとしても、少数のブルドッグにしかみられません」と論文の筆頭著者であり、米カリフォルニア大学デービス校アニマルヘルス獣医学センターのニールス・ペダーセン(Niels Pedersen)教授は語る。

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今回の研究では、世界中で純血種として登録されている「ドッグショーに出場できるレベル」のイングリッシュ・ブルドッグ102頭のDNAを、大量繁殖させられたブルドッグの遺伝子と比較分析した。この調査は、営利目的のブルドッグ・ブリーダーが健康問題を蔓延させたのではないか、という仮説に基づいている。

結果、どちらのグループでもイングリッシュ・ブルドッグの大半のゲノムが、何百年と続いてきた選択的交配の影響に侵されているのが明らかになった。また、免疫反応を制御する遺伝的多様性の地域差がかなり失われている、とも判明した。皮膚のシワや臀部の形成異常などの「悪しきチャームポイント」についても、ブルドッグの遺伝的多様性が欠落してしまったために、現存の遺伝子プールから問題を「除去する」のはかなり難しいようだ。

さらに、多くのブルドッグの特徴である、平らで幅広の頭蓋骨は、頭の構造にも複雑な変化を与え、呼吸器系の疾患を引き起こす、と発表。それは、ただ顔を「長く」するだけでは治らない。

純粋犬種の犬籍登録などを統括するイギリスの国際的愛犬団体『ザ・ケネルクラブ(The Kennel Club)』の2015年度調査によると、1980年から90年にかけて、血統書付きブルドッグ同士の近親交配が急増したそうだ。生殖に参加する個体数が限定され、遺伝的多様性が失われたのは、人気のオス犬が何度も交配に利用されたからではないか、と推測されている。

また、ブルドッグは脳の神経膠細胞の癌「グリオーマ」(脳腫瘍の一種)に罹患しやすくなる遺伝子を持っている、とスウェーデンの研究者たちは科学雑誌『PLOS Genetics』で発表した。さらに、顔がつぶれ、下顎が出ている短頭種の特徴は、グリオーマと関係のあるゲノム領域に現れている。短頭種の特徴を繰り返し選択してきたために、癌にかかりやすい遺伝子が広まった可能性もある、と指摘した。

イングリッシュ・ブルドッグはブリテン島で生まれた。現在は法律で禁止されている、この犬種による「ベア・バイティング」という競技が当時は盛んだった。しかし、厳つい短躯、広い顎、大きな頭などの特徴を好んだ人間が恣意的な交配を進めたため、当初は働き者だったブルドッグは徐々に行動力を失った。そのせいもあり、ブルドッグの出産のうち80パーセント以上が帝王切開だ。

ほとんどのイングリッシュ・ブルドッグは年齢に関係なく、癌や心停止により死亡する可能性がある。「オールド・イングリッシュ・ブルドッグ」と呼ばれる原初のブルドッグを復活させようと試みるブリーダーのグループもいるが、現在の遺伝子プールに、新たな多様性を急激に持ち込むのは危険だ、と警鐘を鳴らす研究者もいる。

しかし、ペダーセン氏は、「深刻な健康問題をクリアしつつ、ブリーダーが望むような特性、身体的特徴をブルドッグに求めるのは前向きな傾向です。
ブリーダーたちは、数年前から問題に気づき、伝統的なブリーディングに見切りをつけ、改革に着手したのには先見の明がありました」と付け加えた。

クロスブリードは、ブルドッグ愛好家にとっては良い折衷案かもしれないが、健康問題の解決には繋がらないのでは、とペダーセン氏に疑問を投げかけてみた。

「クロスブリードによって、短頭症や骨軟骨異形成のない、普通のシッポを持ったシワのない子犬が生まれたら、それは親よりも確実に健康です」