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そのときを待つヌスラ戦線の自爆志願兵

男たちは、「殉教者リスト」と呼ばれる名簿に自分の名前を登録しており、爆薬を積んだトラックと共に自爆する作戦の順番を待っている。

爆発物を積んだヌスラ戦線のトラックに乗るアブ・カスワラ

2016年8月、自爆を志願する男たちを追ったドキュメンタリー映画『Dugma: The Button』の配信が開始された。監督はノルウェーのジャーナリストであるポール・レフスダル(Paul Refsdal)。この作品では、シリアで活動する国際テロ組織アルカイダ系の反政府武装組織、ヌスラ戦線の戦闘員たちを追っている。この男たちは、「殉教者リスト」と呼ばれる名簿に自分の名前を登録しており、爆薬を積んだトラックと共に自爆する作戦の順番を待っている。前線に着いたら、あとはボタンを押して天国へ向かうだけだ。

このドキュメンタリーでは、ポール・レフスダルのカメラを通して、「永遠の生命」という甘美な言葉に酔う男たちの頭のなかを、ダイレクトに観察できる。中心人物は、ジョークとフライドチキンが好きなサウジアラビア出身のアブ・カスワラ(Abu Qaswara)、恋をして家族を持ちたいと望むイギリス出身のジハーディスト、アブ・バジール・アルブルタニ(Abu Basir al-Britani)だ。

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2016年7月29日、ヌスラ戦線の指導者アブ・ムハンマド(Abu Mohammed)は、「ヌスラ戦線はアルカイダとの関係を絶ち、組織名も『レバント征服戦線、もしくは、アルシャム解放戦線』に改める」と発表した。国連や西側諸国からテロ組織に指定され、国連主導のシリア和平協議への参加は拒まれた。さらにアメリカとロシアが、ISとヌスラ戦線に対する軍事協力を検討しているとの情報を得て、アルカイダからの離脱し、名を改めたようだが、アサド政権を倒し、シリアを手中に収める、という彼らの最終的な目的は変わっていない。戦いは続くのだ。

ノルウェーに住んでいるレフスダルに殉教者、兵士の人間性、拉致、そしてアルカイダの真実について話を訊いた。

『Dugma: The Button』予告

この作品では、殉教志願者たちの「人間性」を描写しようとしたのでしょうか?

最初に現場入りしたときは、自爆犯をテーマにしようとはしていませんでした。ヌスラ戦線の下級戦闘員たちの姿を映したかっただけなんです。可能な限り密着し、彼らの心理を把握できれば、と考えていました。だから今の質問についての答えは、ある点ではイエスですね。でも、もっと自由な気持ちで向かったんです。例えば、自分の目の前で、彼らが誰かを処刑したなら、私はカメラを向けるのに、何のためらいも抱かなかったでしょう。『セサミストリート』みたいな作品にしたかったわけではないので。

組織には、どうやって接近したんですか?

就活みたいでしたよ、本当に。履歴書などの資料を組織に提出しましたから。また、2010年に、タリバンに関するドキュメンタリー『Behind the Taliban Mask』を発表したのですが、そのなかでは、タリバンの人間性を中心に撮りました。ですので、それについてもプレゼンテーションしましたね。あとは、2011年にアメリカ軍がウサマ・ビンラディン(Osama Bin Laden)を殺害した後、彼の隠れ家から大量の手紙が発見されたんですが、そのなかにアルカイダ広報担当者からの手紙があり、彼が推薦するジャーナリストの名簿があったんです。そこには私の名前もあったので、それも今回のコンタクトにも役立ちました。

ドキュメンタリーの内容について、ヌスラ側から圧力はありましたか?

全くありませんでした。好きなようにしろ、と。客観的な作品を望んでいたみたいです。例えば、私たちがいた場所の近くを有志連合が空爆したときに、ある男が怒りながら叫んでいました。「住宅地を空爆してるぞ!」と。すると別の男が来て、「本当のことをいいなさい」と、言葉の訂正を促したんです。実はそこには軍の基地もあったんです。訂正を求めた男はヌスラ戦線の指揮官でした。ヌスラのプロパガンダができるチャンスだったのに、全くしようとしなかった。正直でありたかったんでしょう。

アブ・カスワラ

なぜ、アブ・カスワラという人物をメインにしたのですか? 彼にどんな魅力があったのでしょう?

ステレオタイプの自爆犯像とは真逆の人間だったんです。自爆犯といえば、自分の生まれた町以外は知らず、狭量な若者だ、と想像していました。でも、彼は全然違いました。サウジアラビア出身で、年齢も32歳。とても寛大ないいヤツだったんです。

本作で一番心を揺さぶられたのは、アブ・カスワラが、「トラックに乗って自爆攻撃に向かっているとき、私は父親と電話しているだろう」と語るシーンです。

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理解を超えた事実でしょうが、彼の父親が少なからず自爆を強制していたんです。サウジアラビア人にとっては、それが普通だとも聞きました。殉教者は、天国の一番高いところへ入れるのです。それに親族も70人連れて行けます。親族たちの死後を救済する役目に、息子が任命されるのです。この映画のなかでは、はっきり言及されてはいませんが、父親が息子の自爆の瞬間に電話をしていたい、という事実によって暗に示されているのではないでしょうか。「いつ死ぬ予定だい?」というメッセージを父親は送ってくるんですから。アブ・カスワラ自身が本当に望んでいるのか、それはわかりませんでした。

しかし、物事は計画通りに進みませんでした。現在アブ・カスワラは、どうしているんでしょう?

昨日、彼からメッセージの返信がありました。私は、「無事でいてくれ」と送ったんですが、「世界中に鶏肉がある限り僕は無事だ」とね。彼はフライドチキンが大好きなんです。

アブ・バジール・アルブリタニ

イギリス出身のアブ・バジール・アルブルタニについてはどうですか? 彼は、殉教者リストから名を外す決断をしましたが、兄弟からの尊敬を失ったりはしなかったのでしょうか?

アブ・バジールにとっては大変だったでしょう。彼は私に、「自分の至高の夢は、殉死行為を貫徹すること」と断言していましたから。でも実際は、そんなに問題にならなかったのでは。人の考えが変わるのは普通です。それに、組織にとっても、作戦のなかの些細な部分ですからね。自爆犯を前線に送り、トラックを爆発させ、さらに穴をつくる。主力兵たちがその穴を利用して攻撃する。そういう流れの作戦だったのですが、最初の自爆犯が翻意しても、ちゃんとバックアップを用意していますし、リストには大勢の名前が残っていますから。アブ・バジールは汚名を被らなかったでしょう。

『Behind the Taliban Mask』で撮影したタリバンと、今回のヌスラ戦線、比べてみてどうでしたか?

完全にヌスラの方が楽でした。言葉の問題だけじゃなく、文化理解という意味でも。裕福なペルシャ湾岸諸国出身で、学位を持っている人もいるので、コミュニケーションは取りやすかったですね。アフガニスタンの大勢は、危険な状況を把握していなかったし、読み書きもできませんでした。故郷の谷から離れた経験のない男たちばかりでした。全然違います。

しかもタリバンは、撮影中のあなたを拉致しましたよね。

そんなことがあたり前に起こる場所なんです。指揮官は再婚を考えていたようで、お金が必要だったんです。だからジャーナリストを捕虜にして、身代金を取ろうとした。バカげています。

1週間も捕らえられていたようですが、どこに監禁されていたんですか?

老人と彼の息子たちが住む家です。夜には、そこを出て用を足すのも許されていました。しかし、もし人質が逃げてしまったら、その家族が罰せられる、と通訳者に聞きました。信じてもらえないでしょうけど、他のイスラム過激派組織に私が奪われるのを恐れていたので、タリバンは私に弾丸が装填されたカラシニコフ* を持たせていました。彼らはノルウェー領事館に交渉の電話をしたんですけど、交換台に繋いでもらえませんでした。それにプリペイド式携帯電話だったので、利用できる金額も残っていなかった。結局、私の携帯でノルウェー領事館に電話をかけたんです。私は、領事館の警備員とノルウェー語で話し、ここの場所やここにいる人数など、すべて説明できました。まるで『空飛ぶモンティ・パイソン(Monty Python’s Flying Circus)』のエピソードみたいですよね。