世界初の大麻合法国家・ウルグアイにみる、大麻合法化の未来

ひとびとは大麻合法化に大きな不安を抱くが、合法化すれば今よりマシになることに気づき、そのうち興味を失う。
世界初の大麻合法国家・ウルグアイにみる、大麻合法化の未来

2013年、ウルグアイが世界に先駆けて大麻を合法化したさい、ほとんどの国民がそれに反対した。しかし、世間に不信感が蔓延しても、法律における問題や弊害を指摘してそれを是正しよう、という動きは生まれなかった。それどころか、2019年10月に始まった大統領選挙のあいだ、大麻合法化をめぐる議論は完全に忘れ去られていた。もはやこの議論は、数多ある政治問題のひとつに過ぎないのだ。

ウルグアイは驚くべき先例をつくった。多くの政治家がドラッグ合法化を政治における大きなリスクとしてみなしている。しかし、2018年に世界で2番目に大麻を合法化したカナダでも、状況は同じだった。ジャスティン・トルドー首相が再選を果たした10月のカナダ総選挙で、大麻の問題は表立って論じられることはなかった。一体、何が起こっているのだろう。

ウルグアイは、近隣諸国と比べるとリベラルな国だ。6年前に大麻合法化の法案が通過し、その翌年に成立。さらに、タバレ・バスケス(Tabaré Vazquez)前大統領は、コカインの合法化も提案した。さすがにそれは実現せず、バスケス大統領は任期を終えて退任。彼の後継者の候補2名は、両者ともウルグアイの大麻産業には言及していなかった。

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「大麻が合法化されても、大規模な混乱が生じたり、ゾンビのような薬物乱用者たちがモンテビデオの街をうろついたりすることはなかった、と国民はみなしています」と説明するのは、ウルグアイの大麻関連法が及ぼす影響を報じたレポートの共著者、ジェフ・ラムジー(Geoff Ramsey)だ。「ほとんどの国民の生活には、特に影響はありません」。2018年4月以降、ウルグアイでは大麻合法化に賛成する声が反対の声を上回っているという。

左派の与党、拡大戦線のダニエル・マルティネス(Daniel Martínez)候補は、第1回投票では勝利を収めたが、当選要件である過半数票は獲得できなかった。中道右派、国民党のルイス・ラカジェ・ポウ(Luis Lacalle Pou)候補との決着は、決選投票へと持ち越された(2019年11月28日、選挙管理委員会がラカジェ・ポウの当選を発表)。

「ラカジェ・ポウは、合法化に批判的な立場をとっています。でもそれは、現在進められている合法化において、大麻の規制が重視されているから、というだけの理由です」とラムジーは言明する。「実際、ウルグアイで大麻合法化の最初の法案を提出したのは彼です。でも、その内容はかなり放任的で、国家による干渉を制限することに重きを置いていました」

ウルグアイの大麻関連法廃止について真剣に論じていた唯一の候補者は、大統領選では劣勢だった。退役将校グイド・マニーニ・リオス(Guido Manini Ríos)は、今年3月に結成され、急速に勢力を伸ばしてきた国家主義政党〈Cabildo Abierto(直訳:公開討論会)〉の党首。観測筋によると、彼の大麻関連法に対する姿勢は、与党のリベラルな公約を攻撃する意味合いが強く、法律の効果そのものよりも保守思想を重視しているという。

大麻に関する新たな規則によって、ウルグアイでは個人でも団体でも嗜好用大麻を栽培できるようになる。しかし、大麻使用者にとって最大の変化は2017年、薬局が大麻の販売を始め、ネット上で大きな話題を呼んだことだろう。当時、大麻を購入するには法的な登録が必要だった。購入登録を行なったウルグアイ人は、最初の1ヶ月で約4900人から1万3000人以上へと膨れ上がった。

そうはいっても、合法大麻の産業は、依然として発展途上の段階にある。厳しい規制と経済状況により、許可を得て合法的に大麻を販売している薬局は、全国にわずか17件しかない。さらに、米国の銀行に規制薬物の販売、流通に携わる企業との取り引きを禁じる(米国の大麻産業でも問題になっている)〈米国愛国者法(USA PATRIOT Act)〉も、ウルグアイの小売業者にとって大きな壁になっている。米国内の銀行口座と海外の銀行口座間のやりとりにも、同法が適応されるためだ。

「このような状況下で、ウルグアイの銀行に残された道は、大麻を販売する薬局との取り引きを停止するか、米国の主要な金融機関のウルグアイ撤退というリスクを冒すか、そのどちらかだ」とラムジーの記事には記されている。「ウルグアイの銀行がどちらを選ぶかは明らかだった。薬局は口座の閉鎖を告げられた」。現在も大麻の販売を続ける17件の薬局は、米国銀行とは無関係の地元の銀行と取り引きをしているか、現金のみの取り引きへと移行した。

さらに、供給不足の問題もある。ウルグアイには国家公認の大麻供給業者が2件しかないのだ。また、観光客のドラッグ購入は違法なため、闇市場の需要が絶えない。大麻合法化のそもそもの目的は違法市場の縮小だったはずなのに、本末転倒だ。

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「社会的な体験、またはためになる体験などと称して有料の〈大麻ツアー〉を行なうことで、法の抜け穴をかいくぐって観光客に大麻を販売しようと試みる家庭栽培者やクラブもある。そのツアー中は、観光客は自由に大麻を試すことができる。また、屋内に隠れて観光客に大麻を直接売るところもある。口コミによって密かに成り立つグレーマーケットだ」とラムジーはレポート中で述べている。

「合法でのアクセスを拡大するには、まだ課題は山積みですが、銀行の問題さえ乗り越えれば、近い将来に実現するでしょう」とシンクタンク〈Washington Office on Latin America〉の麻薬政策・アンデス地域担当者のジョン・ウォルシュ(John Walsh)は断言する。

ここで注意すべきは、法律制定後も問題が相次いでおり、合法化の当初の目的に相反する状況があるにもかかわらず、世論がこの法律に好意的なことだ。ウルグアイでは、闇市場が残存しているだけでなく、暴力事件も増加の一途をたどっている。2018年上半期には、221名が殺害された(前年同時期の殺人件数は131件)。2019年には22%減少し、上半期の殺人件数は171件だった。当局は、2019年の殺人の約半数は組織犯罪によるものとみている。しかし、あるシンクタンクの分析によれば、暴力事件の増加と薬物取引の関連性を裏付ける証拠はほとんどないという。ある観測筋は、暴力の原因は格差の拡大、特に国民に負担を強いている人口過密やコミュニティの貧困によるものだ、と主張している。

結局、大麻の合法、違法にかかわらず、ウルグアイにおけるコカインなどの麻薬取引が絶えることはないのだ。2018年、世界で2番目にカナダが嗜好用大麻を合法化し、近年のドラッグ改革における画期的な出来事とされたが、それも徐々に話題性を失っていった。大麻合法化に対し、まるで地獄へと扉が開かれたような過敏な反応もあったが、大麻は概して大統領選において取るに足らない問題のように見受けられた。カナダ保守党は、大麻合法化に関していい加減なガセネタを流し、トルドー首相と自由党への攻撃を試みたが、結局失敗に終わった。ドラッグ改革の立役者であるトルドー首相は、今も政権の座につき続けている。

南米でウルグアイの他にドラッグ栽培を政策に取り入れているのが、世界第3位のコカ栽培国であるボリビアだ。同国には、2万2000ヘクタール(約220平方キロメートル)もの政府公認のコカ畑が広がる。合法化を進めたエボ・モラレス(Evo Morales)前大統領は、4期目の再選を狙っていたが、10月20日に行なわれた大統領選をめぐる混乱を受けて辞任し、現在メキシコに亡命している。

メキシコは最近、大麻合法化法案の審議を見送ったが、すぐに合法産業を始めると予想されている。合法化よりも規制が優先された場合、大麻の商業化は来年にずれこむ可能性もある。しかし、組織犯罪による暴力が横行するメキシコは、ウルグアイの先例から学ぶことが多いはずだ。

私たちが大麻合法化の現状を分析するさい、重視するのは〈起こったこと〉ではなく〈起こらなかった〉ことだ。前述の先行国では、特に目立った混乱は起きていない。ひとびとは当初、合法化に大きな不安を抱くが、合法化すれば今よりマシになることに気づき、そのうち興味を失う。未知への恐怖は、繰り返される日常のなかでかき消されていく。今後も多くの国々がウルグアイとカナダに続き、論争と需要の渦中にあるこの植物を合法化していくのだろう。

This article originally appeared on VICE US.