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パンクを勘違いしているサブカル好きに贈る『MOTHER FUCKER』大石規湖監督インタビュー

「うーんと、あの人たちは〈ロックスター〉ではなく、〈パンクスター〉ではなく、〈パンクヒーロー〉だと思うんです」

これまでトクマルシューゴ、DEERHOOF、奇妙礼太郎、BiS階段のミュージックビデオ、ライブ作品などを手掛けてきた映像作家の大石規湖が、劇場長編作『MOTHER FUCKER』で映画監督デビューした。この作品のメインキャラクターは、U.G MAN、GOD’S GUTS、そして現在はフォークシンガーのFUCKERとして活動し、音楽レーベル〈Less Than TV〉の代表を務める谷ぐち順と、その妻であり、Limited Express(has gone)、ニーハオ!を率いるYUKARI、そしてひとり息子の共鳴(ともなり)。最低だけど超最強で、ダサいけど超クールで、まったく偽りのない超現在進行系の〈パンク生活〉を映し出したドキュメンタリーである。構想開始から6年、撮影期間は1年と2ヶ月。とんでもなく濃ゆい〈谷ぐち一家〉との超蜜月を経て、監督・大石規湖も家族のいち員になった。ビッグダディも驚愕するビッグファミリーのひとりになった。

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うちでもSNSで告知させていただいたのですが、自動サムネイル表示がされませんでした。

いえ、谷ぐちさんです。まだ何もきちんと決まっていないのに、電話をいただきまして。「映画のタイトル決めました。『MOTHER FUCKER』です」と。〈MOTHER〉が奥さんのYUKARIさん、そして〈FUCKER〉が谷ぐちさんなんです。

ああ、なるほど! では、その〈MOTHER〉と〈FUCKER〉おふたりの映画を撮り始めたきっかけをおしえてください。

フリーランスになって、好きなバンド、自分がいいと思えるバンドを、いろんなライブハウスで撮り続けていた時期があったんですけど、たまたまYUKARIさんのLimited Express (has gone?) のリハーサルに出くわしたんですね。そしたらYUKARIさんは共鳴くんをおんぶ紐で背負いながらリハをやっていて、谷ぐちさんはそのときメンバーではなかったんですが、一緒にサウンドチェックをやってたんです。おふたりで言い合いなんかしながら(笑)。

いえ、まだです。勇気がなくて(笑)。「METEO NIGHT* 撮らせてください」って潜り込んだり、younGSoundsのモリカワさんに「映像を撮りたいんですけど、谷ぐちさんは受けてくれると思いますか?」なんて訊いてみたり。コソコソと探っていました。

「いやぁ〜、谷ぐち君は、そういうの嫌がるからねぇ〜」って(笑)。以前、Less Than TVのドキュメンタリーをつくる企画があったそうなんですが、ヒストリーものだったので、谷ぐちさんは断っていたそうなんです。

コソコソ活動をしているうちに、谷ぐちさんの耳にも「大石なんちゃらが映像を撮りたいらしい」って話が入っていたようで。その後、2014年の怒髪天の武道館公演で、たまたま谷ぐちさんに会いまして、そしたら「大石さん、MV(ミュージックビデオ)をつくってくれませんか?」っていわれたんです。YUKARIさんと一緒にやっているユニット、FOLK SHOCK FUCKERSの〈イン マイ ライフル〉のビデオだったんですけど、「ああ、やります!」って即答して。

ドキュメンタリーではなく、まずはMVで試されたと?

まぁ、そうですね(笑)。「映画のタイトルを決めました。『MOTHER FUCKER』です」と。

そうなんです(笑)。いきなりタイトルからスタートしたんです。「MOTHERがYUKARI、僕がFUCKERです。大石さん、一緒にやりましょうよ!」と。

でもなにも決まっていませんでした。だけど、私は家族が撮りたかった。谷ぐちさんは、〈MOTHER〉と〈FUCKER〉といってくれた。お互い意思確認はしていなかったのですが、ここで合致した部分があったんです。それで2015年の年末から撮り始めました。

でも、『MOTHER FUCKER』以前の大石監督は、トクマルシューゴやDEERHOOFなど、様々な〈大好きなバンド〉のMVで活躍されていましたよね。先ほど「フリーランスになったのに、好きなこともできていない」とおっしゃっていましたが、どんな状況だったのですか? ちょっと意外に感じたんですが。

おこがましい話なんですけど、MVをつくっても、アーティストのためになっているのかな、という気持ちがずっとあったんです。そのときは100%出し切ったつもりでも、「もっとやれたんじゃないか」と振り返る場面も多かったですし。大好きな音楽に対しても、まだ恩返しできていない、伝えられていないのでは、とずっと考えていました。

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いえ、それもありませんでした。MVでもYouTube映像でもよかったんです。ただ、フリーランスになって、川口潤監督の『kocorono』* の製作に関わらせていただいたんですね。これまで映画業界の人が音楽映画をつくるパターンは知っていましたけど、音楽業界の人が映画をつくるパターンは初めてでした。映画なんてまったく別世界の話だと思っていたんですが、『kocorono』を手伝わせていただき、こういう方法もありなんだ、こういう手段で音楽を伝えるのもありなんだと、教えてもらったんです。

でもいきなり『kocorono』っていうのもすごいですよね。とても濃いドキュメンタリーじゃないですか。

まぁ、初めのうちは(笑)。最初の現場撮影のとき、ブッチャーズの吉村さんの体調が悪かったんです。車のなかのシーンだったんですけど、吉村さん体調悪いから、携帯いじっているだけで。それこそ、この場面はどうしたらいいんだろう、この人に何を訊いたらいいんだろう、「体調悪いんですか?」って訊いても「うん、悪い」で終わるだろうし、この空気耐えられないって(笑)。ただ、被写体の感情のいっせんを越えなくては、撮影にならないっていうのは、ここで覚えました。でもそんなに簡単にできることじゃない。『MOTHER FUCKER』の撮影当初も、なかなかそれが越えられなくて、「泊まりにきてよ」って谷ぐちさんからいわれても、「いやぁ、ちょっと…」なんてごまかしていたんです。

というか、私にあったんです。最初は本当にビビってました(笑)。ただ、谷ぐちさんにはありませんでしたね。〈イン マイ ライフル〉のPV撮影のときから、「これうまいですよー。ほら食って」って食べかけのおにぎりを渡されたんですよ。「エエーッ!!」なんて恐縮しながらも、しようがないんで「ああ、美味しいです…」って気を使って食べて。本当に谷ぐちさんは、自然のままでしたね。

ではYUKARIさんとのご関係はどうでしたか?

谷ぐちさん同様に、普段のままに接してくれました。逆に私の方がまだ(笑)。やっぱりYUKARIさんって、エキセントリックなライブをしている方だし、バンドのフロントとして、自分の世界をしっかり築いている方じゃないですか。だから触れちゃいけない部分もあるんじゃないかと思って、勝手にあまり入らないようにしていたんです。まぁ、ビビってたんですけど(笑)。

ああ、あのシーンは、かなり最初の出来事だったんですね。共鳴君がインフルエンザになってしまったのに、YUKARIさんは大阪のライブに行かなくてはならない。

うーん、ある程度頭のなかには生まれていたんですけど、それもどんどん壊れていって(笑)。最初はカッコイイもの、クールなものにしたかったんですよ。ドキュメンタリーだから、家族とも距離を保って、ストイックな感じ…DISCHORDスタイルですよ。

そんな自分の気持ちと谷ぐち家を通じて、日本各地のアンダーグラウンドシーンを見せつつ、あわよくばU.G MANを撮れたらいいなあって。それが私の構想でした。しかし、撮影が始まったらトラブルばかりが起こる。インフルエンザもそうですけど、考えてもいなかった場面ばかりに遭遇するわけです。それで撮影から2ヶ月が経って、もうこれはしようがないと。撮ろうと考えていたものを撮ろうとしても撮れないんだから、考えるのをやめて、その場に起こったことをすべて受け入れるようにしたんです。それでも都度、整理はしていたんですけど、やっぱりそれ以上のなにかが起こる。それ以上の楽しいなにかが生活のなかに起こるんです(笑)。実際、私も楽しんでいたので、DISCHORDスタイルはやめにしました(笑)。

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谷ぐち一家にも、「DISCHORDスタイルはやめにしました。みなさんの生活に重きを置きます」と伝えたんですか?

ただ、ちょっと思ったんですけど、この映画は生活感が出過ぎているのかな、とも。例えばFUGAZIだったら、活動スタイルや音を聞けば、ある程度彼らの生活が見えるじゃないですか。

自腹でやるつもりでした。赤字には慣れていましたし(笑)。なにか他の仕事をやりながら、サイドワークにしようと考えていました。でも飯田さん* も交えて話し合った結果、「そんなLess Thanなんちゃらの自主映画なんて誰も観に来ないだろ」となりまして。谷ぐちさんと私も「確かになぁ」って(笑)。

それで、川口さんに相談したんです。「じゃあ、『kocorono』まわりの人を当たってみたら?」となりまして、キングレコードさん、日本出版販売さんを訪ねてみたら、快く引き受けてくれまして。

はい(笑)。実は『kocorono』が終わったあとに、Less Than TVの映画企画があがっていたらしいんです。ただ、それがヒストリー系の内容だったので、谷ぐちさんは断っていたんですね。

YOUR SONG IS GOODのJxJxさんとか、怒髪天の増子さん、ギターウルフのセイジさんとか…。

ああ! Less Than TVからのスターですね!

そうしないと、現在のLess Than TVを伝えられなくなると考えていました。あの人たちって、過去をまったく振り返らないんですよね。今を大切にしているんです。おもいつきで、どんどん突っ走る。面白いと感じたら行動をする。だから変なことして、失敗もたくさんあるんですけど(笑)。

あとコンピレーションアルバムの『Santa V.A.』とか。特殊ジャケットだから、うまく棚に入らなくてイライラしたのを覚えています。

『MOTHER FUCKER』には、各都市のLess than TV関係バンドがたくさん出演していますが、各地の様子はどうでしたか? こちらも突っ走っていました?

引き継いだからかどうかはわかりませんが、各都市のみなさんも本当に自由なんですよね。どこかのシーンに属している訳でもないし。これは私の勝手な憶測なのですが、やはりどこにも属していない…というか、属せない…かな(笑)、そんな人たちの隣には、Less than TVが自然に佇んでいる。そんな状況のなかで、各地にも外れ者たちが点々といて、様々な場所で面白い活動をしているんだなって感じたんです。

素敵ですね。そんな風にまったく変わらず、現在も突っ走っているレーベルって、全世界中見渡しても、もうどこにも存在しないですよね。DISCHORDもSSTもほぼストップしちゃっているし。

まずい世界に入っちゃいましたね(笑)。ちなみにLess than TVって、今年で設立25周年なのですが、『MOTHER FUCKER』は、その記念的な意味合いもあるのですか?

『MOTHER FUCKER』全国順次公開中。詳細はコチラで。