イギリスのブラックミュージックは進化しているか

昨今の英BBC 1Xtraの編成に対して批判的な記事を寄稿したケリー・オケレケ。それに対し、BBC Radio 1Xtraのマネージャーを務めるAustin Dabohは「現在イギリスのブラックミュージックは未だかつてない成功を収めている」と切り返し、 BBC 1Xtraの存在意義を主張する。彼らのやり取りの中からBBC 1Xtraと英ブラックミュージックの深い関係性に迫る。

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28 October 2014, 2:43am

数ヶ月前、ケリー・オケレケ氏(脚注①)がBBC 1Xtraに対して批判的な記事を寄稿した。その内容は「昨今イギリスのブラックミュージックが低俗なダンスミュージックに追いやられている」というものであり、その要因となっているのは「伝統的にブラックミュージックをフックアップし続けて来たBBC 1Xtraの変化」だと主張した。もともと英国内のメディアに対する皮肉的な物言いがいつも注目されるケリー・オケレケではあるが、具体的にアーティスト名やプロデューサー名を挙げるなど、今回はいつにも増して強い論調でBBC 1Xtraに食ってかかっているような印象を受けた。

その背景には、彼自身のブラックカルチャー全般に対する危惧がある。オケレケ氏は、BBC 1Xtraが予算削減という名目のもとレジデントDJを解雇し、専門性の高い番組を減らすことによって「良質なブラックミュージックを紹介する機会が減っているのではないか」という不満があるようだ。昼間のBBC 1Xtra はHardwell、Calvin Harrisといったダンスミュージックばかりが流れているとも言及している。その一方で、BBC 1Xtraがブラックカルチャーにとって非常に重要な役割を果たしてきたと主張した。

というのも、ブラックミュージックの紹介はもちろん、ブラックカルチャーが直面する社会問題について多くの議論を交すような重要な「場」であったからだ。歴史問題、教育問題、黒人コミュニティの現状などが議論されることも多く、そのような「場」を失うことに対する危惧が、オケレケ氏にあったことは間違いない。一ラジオ局という立場を超えた意味を持っているBBC 1Xtraだからこそ、彼はその変化(昨今の編成)に不満を覚え、敢えて痛烈に批判したというわけだ。

ブラックカルチャーと密接に結びついているブラックミュージック。そしてその密接な結びつきを象徴する場所であったBBC 1Xtra内の良質な番組の減少に対する批判、すなわち「専門性の高い番組をきちんと提供できているのか。ブラックミュージック、ひいてはブラックカルチャーの発展の一翼を担えているのか」というケリー・オケレケの問いかけに対して、BBC 1Xtraマネージャーを務めるAustin Dabohが声明を出した。今回はその一部始終を紹介したい。

イギリスのブラックミュージックは未だかつてない成功を収めている

グラストンベリーのピラミッドステージ(メインステージ)に出演したRudimental

Austin Daboh:
我々はラジオ局として、百万を超すリスナーがいるわけで、その中で批判的なフィードバックがあるのはいたって普通のこと。それは歓迎すべきことだし、リスナーがラジオ局を良くしようというような動きは我々にとっても大事なことだ。ただケリー・オケレケ氏が最近の記事で「BBC 1Xtra内でイギリスのブラックミュージックの割合が減っている」というようなことを言っていることに対しては、反論しなければならない。

私は、現在イギリスのブラックミュージックは未だかつてない成功を収めていると信じている。Meridian Danの「German Whip」が全英シングルチャートで13位を記録したことに始まり、Rudimentalがグラストンベリーのピラミッドステージ(メインステージ)に出演したことにいたるまで、BBC 1Xtraによって見出され、大きくなっていったブラックミュージックの成功事例は挙げるとキリがない。

BBC 1Xtraは、ブラックミュージック、とりわけイギリス発のブラックミュージックを支えてきて、他のどんなラジオ局でもここまで自国のアーティストをサポートしている局はないはずだ。プレイリストの少なくとも40%は英国内発のものであり、番組に関しては100%自国制作で、イギリスのブラックミュージックを広めることに全てを捧げていると言っても過言ではない。アメリカのアーティストをゲストに迎えたとしても、「イギリスのブラックミュージックとどこか繋がりはないか?」なんてことを常に考えているのだ。

BBC 1Xtraの幅広い、そして一貫したブラックミュージックへのサポート

今夏、英国内のフェスに多く出演し話題を集めたKwabsのBBC 1Xtraセッション

BBC 1Xtraの幅広い、そして一貫したブラックミュージックへのサポートは音楽業界に大きな影響力があると言えるだろう。多くの黒人アーティストがメジャーレーベルと契約するに至っており、Stylo G、Fekky、Wretch 32、Kwabs、Mista Silvaなどが、BBC 1Xtraによって見出され、ときには誰にも注目されていない頃からサポートしてきたわけである。

若いオーディエンスの好みが変わっていくにつれて、ブラックミュージックのジャンルというものは常に進化していく。R&B、ヒップホップ、ハウス、ガラージといったように、それぞれ色んなところでピークを迎えては、また変化していく。ラジオ局としては、このような多種多様な多くのリスナーの需要に応えながらも、我々の本質を維持していかなければならないわけで、ブリクストンのレゲエ好きからグラスゴーのグライム好きといった幅広い層にアピールしていかなければならない。必ずしも全ての曲が全てのリスナーに受け入れられるとは言えないが、BBC 1Xtraは常に一定のクオリティを維持しながら、信頼できるブラックミュージックを提供し続けていると感じている。だからこそRoute 94やDJ Zincを流しながら、Krept & KonanやPopcaanというようなアーティストをヘビーローテーションのリストの中に置くことができるのだ。昨今多くの1Xtraユーザーは自分たちが夏の間にホリデーで楽しんだときに流れていたような音楽をラジオにリクエストする傾向がある。ソカやヒッフホップと同様に今年はハウスへの反応がいい。そういったことを反映していくのも我々の役目なのだ。

また「セルアウト(商業的な成功を最優先に考えた楽曲制作や活動)」について、アンダーグラウンドでは度々議論の的になることがある。So Solid Crewが「21 Second」をリリースしたことは「セルアウト」だったのか否かなんてことは、何年も前にも議論したことを覚えている。そういう類いの議論は数年たってもほとんど何も変わっていない。(名前とかジャンルが変わっただけである)。いずれにしても、ブラックミュージックというものは、マイクに向かって唾を吐きかけているような若い黒人男性に限定すべきジャンルではないことは確かだ。そこは刺激的なアーティストの宝庫であり、より大きな市場が存在する。 KwabsやJacob Banksを純粋な黒人アーティストとして分類するべきなのか?Geroge the Poetは?Laura Mvulaは?Ill Bluは?とにかく言えることは、これらのアーティストは全てBBC 1Xtraで強くプッシュされているアーティストであるということだ。

我々は依然として専門性の高い番組を提供している

イースト・ロンドンの現状を詩にしたGeorge the Poetの「My City」

BBC 1Xtraは変化する経済の影響を受けるわけではないが、厳しい現実として、生き残るためには色んなものをカットしていかないといけない。つまり全てのアーティストを全て紹介している余裕はない。しかし新しい才能をどんどん紹介していかなければならないのだ。例を挙げるなら、「Seani B」、「Sian Anderson& A.Dot」というような番組でそういったことを行っている。レゲエ、ドラムンベース、アフロビート、ガラージなどそれぞれのジャンルにおいて、我々は依然として専門性の高い番組を提供しているはずだ。

英国のアーティストのサポートもさることながら、我々は世界中のブラックミュージックにもスポットライトを当てている。今年1月には、ジャマイカにてDamian Marley、Ninjaman、Tarrus Rileyというようなアーティストの演奏やインタビューを収録し、数週間後には「Destination Africa」というアフリカの最もホットな音楽の祭典のためにナイジェリアに入り、今後の予定としては8月にドラムンベース、11月にヒップホップが大々的に特集される予定である。とにかくBBC 1Xtraは、ブラックミュージックに全てを賭けているといっても過言ではない。

ブラックミュージックは常に進化している

私たちがあるアーティストを一旦サポートすると決めれば、成功への最大限のチャンスを提供できるよう最後まで彼らにコミットする。リスナーが聴きたいと思うかという点さえクリアしていれば、その音源をオンエアする。また我々の局の方向性と会えば、どんなコアなアーティストであれ楽曲をオンエアするという具合だ。というわけで、ケリー・オケレケ氏は才能溢れるミュージシャンだとは思うけれど、もう少し色んなことを知っておいた方が良い。こんなにも多くのブラックミュージックが古株の目を盗んでチャートに名前を連ねている事実は称賛すべきことなのだ。「Private Caller」のSkeptaが数回もトップ20に割り込んだことも誇りに思うべきだし、「Wifey Riddim」から大きくなってフェスのヘッドライナーを務めるTinie Tempahをサポートし続ける必要があるのだ。

ブラックミュージックに対するメインストリームからの支援とそれを取り巻く環境に関しては、多くの議論が巻き起こる事は事実。アーティスト自身も色んなプレッシャーを抱えているだろう。そういう私だって色んな思いがあるわけだけど、とにかく誰よりもブラックミュージックに入れ込んでいるという自負がある。だからこそこれだけは自信を持って宣言できる。ブラックミュージックは常に進化しているだけなのだ、と。

ケリー・オケレケの批判的問いかけに対して「ブラックミュージックは常に進化している」と主張するAustin Daboh。そしてその背後にはBBC 1Xtraがあり、英ブラックミュージックの発展に欠かせない存在であることを、昨今の成功したアーティストを例に挙げて、BBC 1Xtraの存在意義をシンプルに語っている。ただし彼が語っている「リスナーの需要(に合わせた編成)」が今後ブラックミュージック、ひいてはブラックカルチャー全般にどのような影響をもたらすのかというところの答えはまだ出ていない。ケリー・オケレケの主張を踏まえ、変化し続けるBBC 1Xtraの影響を、今後のブラックミュージックの発展とともに冷静に見守って行かなければいけないだろう。

Translated & Edited by Shotaro Tsuda