大好きなサイゼリヤにて。女子大生かな。3人組が夏休み旅行の予定を立てていました。テーブルの上には、ワインと真イカとアンチョビのピザと若鶏のグリルと〈伊豆白浜〉のパンフレット。ああ、今年の夏はフィーバーですね。でも3人組って不利らしいですよ。日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。※浦豊(うら ゆたか)さん 35歳:ニットコンサルタント会社経営浦さんは、社長さんなんですね! 本日はよろしくお願い致します!よろしくお願いします。社長とはいっても、奥さんが経理担当のようなこじんまりした会社です(笑)。
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〈株式会社:糸〉って、素敵なお名前ですね。糸は束ねると太くなりますし、人と人を繋げるという意味も込めてつけました。お上手!それにうちはニットを扱っている会社なので、〈アパレル=繊維〉という意味合いもあります。最初は、商号登録が無理だと思っていましたが、意外にあっさり取れました(笑)。〈株式会社:いとう〉だったらダメでしたけど(笑)。会社を立ち上げてどれくらいですか?4年目になります。それにしても〈ニット〉ってお洒落な言葉ですよね。私は恥ずかしくて〈セーター〉っていっちゃいます。〈パンツ〉と〈ズボン〉、〈アウター〉と〈ジャンパー〉、〈パスタ〉と〈スパゲッティ〉みたいな。うちがやっているのもセーターですよ(笑)。具体的に、どんなお仕事をされているんですか?肩書きは〈ニットコンサルタント〉といいまして、ニットでセーターをつくるための、仕様書や設計図をつくっています。アパレルさんやデザイナーさんが、「こういう服を、このくらいの値段で売りたい」と、イメージを持って来られ、綿の糸を使うのか、ウールの糸を使うのかなど、シーズンにあわせつつ、値段にハマるデザインをうちが提案しています。浦さんがデザインもされるんですか?ある程度の雛形は、デザイナーさんが考えて、うちはそのアイデアにプラスアルファの提案をしています。糸商で糸をつくることもできるので、オリジナルの糸を使って製品をつくったりもしますね。糸商っていうのは、糸屋さんのことですか?はい。うちはハイセンヰ(株)と提携していまして、「こういう糸を探してください」とお願いし、そこから弊社の協力ニッターさん…ニット生産工場のことなんですけど、そこに生産依頼し、納品までをやっています。アパレルのOEMのような感じですね。OEMってなんですか? オエム? ワンオートリックスなんちゃらネヴァー?〈Original Equipment Manufacturer〉といいまして、他の会社のブランドを製造することです。でも、ただのOEMだと面白くないので、うちは様々な提案をしているんです。だからコンサルタントさんなのですね。昔からセーター…いえ、ニットがお好きだったんですか?好きではなかったです(笑)。最初はデザイナーになりたくて、文化服装学院のファッション工科基礎科に入ったんですけど、1年目でデザインセンスがないと気がつきました(笑)。その後、ニットデザイン科の就職率が1番高かったので移ったんです。正直申しまして、ニットについて考えたことはほとんどありません。現在のニット事情について教えてください。そうですね。うちで扱っているニットは、ほぼ国内生産なんですけど、国内で販売されているニット生産率って、今は1%を切っているんですよ。少ない! じゃあ0.何%とかなんですか?はい。国内で売られているニットの、ほとんどが海外でつくられています。国内の生産率を上げたいという気持もあり、うちは国内生産をメインにやっています。それは、人件費とか経費が高くなっているからなのですか?そうですね。人件費は、どんどん高くなっています。ですから、ユニクロとかだと、ニットは5〜6千円で売っているんですけど、うちで扱っているのは、だいたい2〜3万円とかしますね。やっぱり、ユニクロのニットとは暖かさが違うのですか?暖かいというより、物が良いんです。物が良いというのは、穴が空きにくいとか?
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ニットなので、どうしても穴は空いてしまうんですよ(笑)。物が良いというのは、ニットの目や並び、縫製方法がキレイということです。もちろん、中国製なども良くなってはいますが、やっぱりメイドインジャパンを欲しがるかたは多いですよね。では、日本のニット工場も少なくなっていると?はい、少なくなっています。ただ僕は文化を卒業して、島精機製作所という、ニットの編み機をつくっている会社で働いていたので、国内の工場を知ることができました。そこでお付き合いしていた工場やお客さんがいらっしゃったから独立できたんです。正直申しまして、私はニットを着ることがあまりありません。室内はエアコンもありますし、外でもトレーナーとジャンパーで充分暖かいので。そうなんです。困っちゃいます(笑)。実際、日本のニット市場はどんな感じなのでしょうか?めっちゃ衰退しています。ニットってアウターにはなりませんし、購入の順番アウターの後になります。「ついでにニットも買っておこうかな?」くらいの位置なので、衣類のなかでは売れないほうですね。そんな状況でも、ニットでご商売をしようと決心されたのはなぜですか?島精機で働きだしてから、ニットが好きになったんですね。アウターが薄くても大丈夫で、暖かく、しっかりしたニットをつくり、アウターとセットで提案すれば売れると考えて始めたんです。ちなみに、糸さんがつくる〈暖かく、しっかりしたニット〉って、どういうものなのですか?そうですね。一昨年なのですが、1kgで2万3千円くらいするカシミヤの糸でニットをつくりました。カシミヤを二重に編んだものでして、値段は9万円くらいのものです。おおー!! …でも、売れるんですか?はい。Ron Hermanに卸したり、BIOTOPに別注をかけてもらったりしてトータルで100着超えました。まぁ、でもそれはデザイナーさんの力なので、僕はお手伝いをしている感覚ですよ。各ブランドも、毎年新作のニットを出しているんですか?はい、出しています。ただ、国内の大手工場は、ロットが300枚~500枚くらいなんです。サイズとカラーで3〜4種類、合わせての300枚なんですけど、それすら売り切るのって結構大変なんです。それくらい厳しい市場なんですよ。そうなんですね。ちなみに糸さんの最低ロットはどれくらいなんですか?50枚とかの少ロットから受け付けていますが、その代わり、どうしても割高にはなってしまいます。ですから、「値段は高いですけど、クオリティーも高いものを出しますよ」というスタンスでやっています。あと、〈アパレル総合デザイン〉という業務もされているようですが、これはどんなお仕事ですか?〈送り柄〉といいまして、柄が繋がっている服のプリントをつくったりもしています。他にも「この糸を編んだらどうなるのか?」というご質問に対し、実際に糸をスキャナーで入力して、編んだイメージをバーチャルで出したりもしています。実際に高価な糸を買って編むとコストがかかりますが、うちでは事前に確認していただけるようにしているんです。アパレルに関してのなんでも屋です(笑)。すごい! ニット界もVRなんですね!島精機が、そういうデザインシステムも販売していたので覚えたんです。これでもっと仕事が増えればいいんですけどね(笑)。
浦さん、ご出身はどちらですか?横須賀の走水というところです。観音崎の近くですね。
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現在35歳。ということは、あまりよろしくない時代の横須賀ですか?はい、その通りです(笑)。「どぶ板通りには行くな」といわれていた時代ですね。6個上の兄がいるんですけど、その時代のほうがよろしくないですね(笑)。齋藤さんも横須賀のかたでしたが、中学生が普通にタバコを吸っていたとおっしゃっていました。僕も兄から教わっていました(笑)。あらまー。じゃあ、浦さんもヤンチャだったんですか?いえ、そんなこともなく普通でした(笑)。小学時代は、日曜日の朝に習字を習わされていたんですけど、ちょうど、その時間に『キン肉マン』をやっていたんですね。どうしても観たかったので、友達の家で観せてもらって、「習字に行ってきたよ」というような、ずるい子供です。しようもない感じの(笑)。中学時代はどうでしたか? 浦さんの学校も荒れていましたか?うちはそこまで荒れていなかったのですが、周りの中学は結構ひどかったですね。2階の窓から机が落ちてきたり。怖っ!あとは、アフロの先輩がいたり(笑)。え? アフロ!!!!!ええ。その人は小学生のときからアフロでしたね(笑)。天パじゃないんですか?いえ、違いました。気合のアフロです(笑)。浦さんはなにをしていたんですか? 部活とかは?入らずに、友達とたむろしたり、プラプラしていましたね。お! どぶ板プラプラデビューですか?いえいえ、まだ中学生なので、そんなにどぶ板には立ち入れませんでした。プラプラしていたのは、横須賀中央あたりですね。当時のどぶ板通りには、外国人がめちゃくちゃいましたし、事件も多発していたんです。女性のひとり歩きは危ないっていわれていましたからね。最近はSPも多くなったんですけど。え? どぶ板通りにはSPがいるんですか?今はめっちゃいますよ。昔は、問題が起きてからやっと来るような感じだったんですけどね。横須賀駅の近くに、ヴェルニー公園っていう公園があるんですけど、前はそこが藪で、女性が襲われる事件なんかがたくさんありました。でも今は、本当にキレイになりましたね。プラプラしていたから時間もたっぷりあるし、それに浦さん、シュッとしているじゃないですか。やっぱモテたんじゃないですか?いえ、中1のときは、小太りでした(笑)。それがコンプレックスだったので、中2から走って痩せる努力をしました。そこからは、まぁモテるようになったかな(笑)。お! これは相当のモテモテ野郎とみました。どれくらいモテたんですか?同級生からはそんなにモテなかったんですけど、なぜか年下と年上にモテましたね。モテモテ中学生野郎は、どこでデートしていたんですか?海(笑)。泳ぐんですか?泳ぐ海も、釣りの海も(笑)。あとは公園を散歩したり(笑)。エッチなことをしちゃったりは?しちゃったりもしましたけど(笑)。横須賀のモテモテ中学生野郎は、どこでエッチをするんですか?家です(笑)。中学生での初体験は早いほうですか? 横須賀だったらそうでもないのかな。横須賀は関係ないと思います(笑)。人によるんじゃないですか。プラプラして、海に行って、女の子と遊んで。めちゃくちゃ楽しそうな中学時代ですね。そうですね(笑)。あと、小6のときにスケボーを兄に教えてもらったんです。その後、平成町というところにスケートパークもできたので、ずっとスケボーをやっていましたね。プラプラして、海に行って、スケボーして、女の子と遊んで。めちゃくちゃ楽しそうな中学時代ですけど、お勉強は?
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まったくできませんでした。大嫌いでしたし(笑)。でも高校受験はやってきますよね? どうしたんですか?横須賀の私立に入りました。オール2くらいはあったので。オール2じゃ、〈あった〉とはいわないと思いますが(笑)。自分のなかではあるほうだったんですよ(笑)。オール2あれば、推薦がもらえて、面接だけで入れる高校に入学しました。
どんな高校生活を過ごしていましたか?やっぱりスケボーをやっていたんですが、その仲間の先輩に教えてもらってヒップホップを始めたんです。高2から高3までやっていました。おお! MCということですか?はい、MCです。どぶ板とか六本木のイベントに呼ばれたりもしていました(笑)。あんなに怖がっていたのに、どぶ板の顔になっちゃったと!いえ、そんなことはありませんが(笑)、結構本格的にやっていましたね。どんなリリックを書いていたんですか?一緒にやっていたヤツが、少年工科学校っていう自衛隊の幹部候補生を育てる高校の生徒だったんです。そこで今の自分たちの立場と、陸上自衛隊用語を踏まえながら、アンチなものを歌ったりしてました(笑)。カッケー!! 横須賀クルーって感じですね!今考えると恥ずかしくてしようがありません(笑)。その後も、ラップは続けたんですか?いえ、高校だけでやめました。ちょうど、卒業後の進路を考えている時期に、あるプロダクションの人に「お前ら、ラップで食っていくつもりはないか?」って、声をかけられたんです。おお!!でも「ラップでは食っていけないよな…」って(笑)。大人ですねぇ〜。自信もなかったんです。即興で韻を踏んだりもできないので、無理だろうって。それに給料も高卒初任給くらいの金額を提示されまして。かなり現実的な数字ですね。更に曲作りのノルマもあって、出来高制だったんです。中途半端なのも嫌だったので、高校卒業前にラップ自体をやめました。Wu-Tang ClanみたいなB系の服も、そこでサヨナラです(笑)。そして文化に入学されたんですか?いえ、そこではまだ。ラップの延長というわけでもないんですけど、音楽は好きだったので、西葛西にある東京スクールオブミュージックという専門学校に入ったんです。ああ、そうだったんですね。どんな勉強をされていたんですか?レコーディングエンジニアです。ただ、そこに入ってから楽譜が読めないことに気付きまして(笑)。レコーディングエンジニアさんに、楽譜が必要なんですか?そうなんですよ。それで2年目はイベンター科に移りました。その頃、横須賀の先輩がイベンターの会社をやっていまして、そこでインターンをすると、学校も出席扱いになったんですね。ですから、そのままそこで働くようになったんです。ただ、その会社が本当に忙しくて、時間も長くて。まぁ、今でいうブラックですね(笑)。風呂に入るために家に帰るくらいで、それ以外はずっと仕事なんです。場所も、どぶ板にあったので、毎日のようにスタッフと外国人が揉めたりして。今日のお話だけで、どぶ板通りのイメージが完全につきました。もう嫌だなぁ、と思っていたんです。給料もお小遣いレベルでしたし。高卒初任給以下?いや、もうホント数万円の下の下の下くらいで(笑)。ラップしとけばよかった!いや、そんなことはないんですけど(笑)、1年くらいズルズル働いて辞めました。そのあとは、兄の繋がりからプレス屋で働いたり。
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うーん、ニットどころか、ファッションの気配がまったくしませんね。ええ、まだなんです(笑)。海外にも行きたかったので、働いて貯めた金でニュージーランドへ遊学したり。りんご摘みのバイトをしながら、グルッと1周しました。でも人とあんまり接しなかったので、英語も喋れないままでしたし、飽きちゃって1年もいませんでしたね(笑)。ただ、帰国してから、やっとファッションのつながりが出てきたんです。お、遂に!! お願いします!!イベント会社で働いていたとき、独学でIllustratorを勉強していたんです。そしたら、それまで知り合いだったアーティストからTシャツをつくってほしいと頼まれたんですね。へぇー、いきなりですか!はい。データをつくって、ANVILのTシャツに刷って。そうこうしているうちに、本格的に服のデザインをやりたくなったので、寿司屋でバイトしたり、グッドウィルで派遣の仕事をしたり、お金を貯めて、文化に入りました。やっぱ人生って転がりますね! それが、おいくつのときですか?21歳です。文化って新宿ですよね? 横須賀から通っていたんですか?はい。2時間かけて。プラプラしたり、海に行ったり、女の子と遊んだりは?まぁ、つきあった子はいましたけど、この時期はちゃんと勉強をしていました。これまで全部中途半端でしたし、親にも迷惑をかけていたので、文化では皆勤賞を狙うくらいの気持ちで通っていました。多分、3年間で1日しか休んでないですよ。エライ! 私なんか、今もガンガン休んじゃいますよー。ですから、文化での成績は良かったですね。それで島精機製作所に入社できたんじゃないか? と(笑)
島精機製作所の勤務地は、どちらだったんですか?最初の3年半は、本社がある和歌山でした。和歌山…。すいません、井出商店くらいしか浮かびませんでした。私は、豚骨の匂いが苦手なので行きませんでしたが(笑)。和歌山では、ひとり暮らしだったんですか?はい。TSUTAYAで100円のDVDを借りてめっちゃ観るような生活でした(笑)。知り合いもいなかったでしょう? 寂しくありませんでした?そうなんですけど、和歌山に来てから2年目に、文化のときからつきあっていた子と結婚したんです。あー! 経理の奥様ですか?いえ、前妻です(笑)。僕、バツイチなんです。あ、そうなんですね。どうして離婚されたのですか?うーん、奥さんも不満だったんでしょうね。僕は仕事が忙しくて、毎日深夜に帰ってくるような生活だったんです。全く知らない土地だから、奥さんも辛かったと思います。その後、東京支店に転勤になったんですけど、そしたら今度は奥さんがはっちゃけてしまって。もろもろあって、その後、離婚しました。現在の奥様とはどこで知り合ったんですか?法律事務所で事務をやっている友達の女の子に、知り合いを紹介したんです。そしたら、そのお礼に紹介してもらった子です(笑)。5年くらい前に結婚しました。じゃあ、ご結婚されたあとに独立されたんですね。奥さまは、独立に対して、なんていってました? 不安だったとか?いえ、それはありませんでした。逆に励まされました。ずっと僕のなかには、独立したい気持ちがあったんですけど、それを奥さんに話したら「行動に移せばいいじゃん」っていってくれて。会社のほうはどうでしたか?こちらも応援してくださいました。上司に話したら、「1年間、準備期間として動いてもいいよ」といってくれまして、それから事業計画書を立て、1年後に退社し、会社を立ち上げたんです。
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でもお金がかかりますよね? 開業資金はどうされたんですか?事業計画書を見せて、親族から借りまくりました(笑)。「本当に大丈夫なの?」なんていわれましたけど、こっちもそれはわからない(笑)。はい(笑)。「大丈夫じゃない」とはいえないので、とりあえず「大丈夫」といいました(笑)。それが今では大成功。そんなことありません(笑)。まあ、なんとか食っていけるくらいにはなりましたけど、まだまだですね。さて浦さん、さっきから気になっていたんですけど、本日は大荷物ですね。なにが入っているんですか? 糸の山?ちょっと見てもらいたいものがありまして。こちらです。
んん? 何ですか、このパネルは? 絵…じゃないな。これもニットなんです。ニットって、着るだけのものじゃないというのを自分はつくりたくて。すごい! 確かに触るとセーターと同じですね!18ゲージという細かいゲージで、ジャガード編みという編み方をしたものを巻きつけているんです。一応、〈photricot®︎〉という商標も取っているんですけど、技術商標ではなくて、ハイクオリティージャガードニットの製品っていうブランド商標みたいなものです。これはTRUMPとTRUTHをかけたものですね。さすが元ラッパー! メッセージが強い!! 浦さんがデザインされているんですか?そうです。完全にアーティストじゃないですか! つくるのにどれくらい時間がかかるんですか?工場が空いている時間にやってもらうんですけど、データは仕込んであるので、編むだけだったら1時間くらいですね。あとはパネルに貼る作業だけです。
こちらは、どこかで買えるんですか?弊社ECサイトで売っています。でもあんまり売れていません(笑)。インスタのフォロワーも増えませんし(笑)。海外からの注文はあるのですが、日本人って壁にパネルを飾ったりしないので、色々と試行錯誤しております。メッセージ性も強いので、方向性が違うのかな? とか、額に入れると高く見えるんですけど、そうすると触れなくなっちゃうしなぁ、とか。これはゼッタイ実物を見て、触ってもらったほうがいいですよ! 個展とかは、やられているんですか?いえ、まだやったことはありません。そうですよね、やります(笑)。これって、「プリントと変わらない」っていわれると、確かにプリントと変わらないんですよね。実際、プリントのほうが安いですし、遠くから見たら、どっちかわからない。でも、色褪せはしませんし、ニットが好きなかただったら、「ヤベエ」ってなってくれるんです。例えば、僕は、デザイナーの倉石一樹さんのニットを担当しているんですけど、その倉石さんも気に入ってくださいました。ニットをよく知らない私でも、これはヤベエです! ちなみに、これのセーター版はあるんですか?あるんですよ(笑)。倉石さんのアイデアでセーターにしたんです。去年、エディソン・チャン氏が主催の中国であった展示即売会〈innersect〉にも出品したんですけど、ほとんど完売しました。わかる人には、わかってもらえるんですけど、うーん、もっと頑張らないといけませんね(笑)。
浦さんのニット愛、本当にすごいですね。ニット道を極めた感はあるんですか?いえいえ、まだまだです。確かにニットのことは知っているほうだと思いますが、糸のことは糸商が強いです。うちは、コーデュラナイロンと綿の糸でニットをつくっていまして、コーデュラはスレに強く、5000回擦れても穴が開かないんです。それをニットにすれば、毛玉にならないし、穴も開きにくい。でも、そういうアイデアは、糸商のかたからの知識を借りて固めているので、これからは自分でも糸のことをもっともっと勉強したいと考えています。
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ニットを突き詰めると、糸に辿り着くんですね。綿の糸だったら、綿のワタをどこから持ってくるのか? 中国からか? インドからか? それとも、その他の国? 各国からワタだけを買い付けて日本で紡績する紡績屋さんもありますし、糸の状態まで海外で作って輸入してくる紡績屋さんもあります。本当にそこら辺は紡績屋さんによってバラバラなんです。綿は、日本でつくっていないんですか?はい、つくっていません。日本は良い綿を育てる気候に向いていないんです。いやぁ、深いですね。ええ。本当に深いんです。通常、アパレルさんがシャツなどをつくる場合、布帛を扱っている生地屋さんが積んでるものを買っているので、どこかに同じ生地が必ずあるんですよ。でもニットは糸から選べるので、編地が被ることは少ないですし、完全オリジナルのものがつくれるんです。例えば、白と黒の糸を撚れば、杢糸というのものができますし、編んだら違う雰囲気になるし、編み方を変えれば、違う柄にもなります。生地を1からつくるイメージですよね。なるほどー。お母さんや彼女が編む1点物と同じってわけですね!そうなんです。もっとたくさんの人がニットの魅力に気付いて欲しいですね。まぁ、先入観でメンテナンスが面倒だと思われがちな部分もありますが。確かに洗濯機に入れたら奥さんに怒られます。最近は自宅で洗える〈ウォッシャブルウール〉とかもあるんですけど、結局押し洗いをしないとダメなんですよね。そういう部分の改善も考えております。ニットってワンシーズン洗わなくても大丈夫ですか?カシミヤとかだったら、ワンシーズンの真ん中に1回、終わりに1回とかがベストですね。まぁ、人によりますが(笑)。クリーニングには出さなくても大丈夫です。手間はかかりますけど、メンテナンスはそこまで難しくないんですよ。化学繊維のメンテナンスは、確かに楽チンなんですけど、着心地、吸水性、速乾性を考えると、ウールや綿100%の天然物には敵わないんです。ユニクロとか、ファストファッションのニットはどうお考えですか? やっぱライバル?いえいえ、全然、思わないですよ(笑)。扱っているものが違いますしね。ユニクロはユニクロでいいと思います。安いから買い回しもできるじゃないですか。ただうちは、高いものは大事にずっと使おうよ、っていう考えだけです。そこら辺は気にしていないですね。こんなにセーターのことを考えた日はありませんでした! 今年の冬は、奮発しちゃおうかなぁ! ニットの浦さんに頼んじゃおうかなぁ!ああ、本当にそうなんです(笑)。〈ニットといえば浦さん〉になりたいんですよ(笑)。「ニットを頼むんだったら、あそこに頼めばいいよ」っていわれるように、これからも頑張って参ります。
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