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ラグビーW杯日本代表通訳が語る大躍進の裏に隠された知られざる物語

2019年9月、日本で開催されたラグビーW杯。日本代表ブレイブ・ブロッサムズの通訳は、なんとデスメタルバンドのボーカル、佐藤秀典氏だった。今年の流行語大賞まで受賞した〈ONE TEAM〉は、どのようにして生まれたのか? とてつもない重圧のなか、日本代表はどう戦い抜いたのか。まだまだ熱気冷めやらぬ、W杯の舞台裏を聞いた。

by Yuichi Abiko; photos by Shinryo Saeki
22 December 2019, 11:00am

©JRFU

2019年9月、日本で開催されたラグビーW杯。日本代表はグループリーグを4戦全勝で突破し、初めてベスト8まで勝ち進んだ。その熱狂は、ラグビーに馴染みのなかった多くの人々を巻き込み、閉幕から1カ月が経過した今も冷めてはいない。なかでも、〈ラグビーの代表は国籍に縛られない〉という事実は、多様化の進む世界で、じつに先進的に映る。

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2019年の流行語大賞を受賞した〈ONE TEAM〉が生まれた経緯を教えてください。

ジェイミー・ジョセフHCは、細かく、いちから説明していくのではなく、議題を最初にドンと挙げて、まずは選手たちに考えさせるというスタイル。自分たちのあり方や存在意義について、小さなユニットでディスカッションさせ、その後それぞれのユニットが、みんなにプレゼンして、チーム全体の約束事を決めていくんです。
上から降りてきた決め事を破るのは〈自分の意思とは関係なく、与えられたルールを守らない〉だけですけど、このチーム・マネジメントだと〈自分もルール作りに参加している〉ので、その約束を破ることは〈自分自身を裏切ること〉であり、〈仲間を裏切ること〉にもなります。
みんなで決めて、みんなで守る――。それが今回の日本代表のやり方だったような気がします。ONE TEAMというフレーズも、選手たちのディスカッションのなかで生まれた言葉でした。

でもONE TEAMって英語ですよね。佐藤さんは通訳じゃないですか。ONE TEAMって言葉が出たときに「一致団結!」みたいな熟語にしちゃおうとはならなかったのですか

なんでもかんでも、英語を日本語にすればいいって仕事でもないですからね。そこは、選手たちが何を求めているかを感じるセンスではないでしょうか。日本語にするのか、英語のままいくのか、どっちがコーチ陣と選手たちが求めているニュアンスに近いのか。
それは単純なレベルでいえば、どっちがカッコいいかみたいなことでも判断しないといけないし、日本人の選手には馴染みはないかもしれないけれど、その都度その都度言い換えて伝えるんじゃなくて、定着させるためにあえて使い続けたり。その判断を委ねてもらえるのが、通訳の仕事の醍醐味のひとつかもしれません。ただ、たまに英語のフレーズで伝えたら「いや意味わからないんですけど」って、言われたりもしました。

日本代表チームのなかで、あえて英語で使い続けた単語をいくつか教えてもらえませんか。

〈alignment――連携する、意識を合わせる〉や、〈consistency――一貫性を持ってやる〉、〈drive――自分たちで促していく、引っ張っていく〉などの単語は、ジェイミーが好んでよく使っていたので、最初に意味を説明した後は、なるべく英語のまま伝えるようにしていました。
スタッフ、コーチ、キャプテン、選手に対して、ジェイミーはいつも「ヘッドコーチとコーチ陣、コーチンググループとスタッフ、コーチンググループとキャプテンをはじめとするリーダー陣とアライメントを取り、同じ絵を見て、コンスタントにドライブしていくことが大事」という内容を、いくつも表現を変えて話しかけていました。
なかでも〈alignment〉は、そのまま〈アライメント〉と言い続けたら、次第に選手たちが使い始めたんです。そういう言葉が、だんだんとチーム用語になっていくみたいなところがありましたね。

通訳するという行為は、訳して伝えるだけではないんですね。恥ずかしながら、僕はほとんどラグビーを観たことがなかったので、ラグビーの代表が国籍の壁を越えて選ばれることを知りませんでした。多国籍の集団だと、言語の習熟度も各自で違いますよね。言葉だけでなく、文化的な違いをすり合わせていくのも難しかったのではないかと思うのですが。

スポーツに限らず、言葉や文化が違えば当然、マナーや気持ちの表現方法も変わってきます。その衝突は、ブレイブ・ブロッサムズでもなかったわけではありません。後から聞くと、和歌山合宿で「チームの結束力が高まった」という声が多かったです。ジェイミーはディスカッションを重視するので、この合宿では〈文化の違いを尊重し、互いに受け入れる〉ためのワークショップをやりました。

具体的には、どんな内容だったのですか?

たとえば日本社会には年功序列、出る杭は打たれる、争いを避けるためにあまり自己主張しないといった弱味があると仮定した場合、欧米社会では効率優先の観点から成果主義、自己主張が許されるという強味が仮定されます。
その一方、柔軟性が高いはずの欧米社会のプレイヤーは瞬発力はあっても忍耐力に欠け、保守的な日本社会のプレイヤーは馴れるまでに時間はかかるが丁寧で繊細、長期的な展望のための忍耐力を持っている。
こういった形で、それぞれの文化の特徴をまとめた資料をつくりました。良い面と悪い面を互いが認識したうえで、それぞれの長所を出していく。それが、ONE TEAMという自分たちの〈グローカルな言葉〉に繋がっていくんです。

佐藤さんはとてもクールに周囲の状況を観察していますが、ヘッドコーチの言葉を瞬時に、リアルタイムで伝えなければならない試合中の指示を通訳しているときも、そんなに余裕はありますか?

試合中こそ、平常心を保たないといけないと肝に銘じています。優位に試合を進めていようが、劣勢だろうが、ぜったいにパニックにならないように。
片方の耳にイヤホンをしているので、もう片方の耳で、ジェイミーとアシスタントコーチたちが話してるのを、ずっと聞きながらメモをとり、選手の動きを見ます。じつはラグビーの通訳って、ヘッドコーチの言葉を〈喋り終わったら、瞬時に伝える〉だけじゃないんですよ。ヘッドコーチから「今だ!」と言われた瞬間に、これまで頭に溜めた彼らの言葉を一気に伝えないといけない場合もあるんです。
「次は何人ラインアウトで、どこどこでボールを取って、何々のプレーをしたほうがいいと思うんだよね」ってコーチたちが話をしている。これは、べつに僕に向かって話しているわけじゃない。それでも、いきなり「今だ!」となったりするので、その場で生まれている会話は、すべて頭に入れておかなければなりません。
僕は、試合の内容に意識を向けるのではなく、試合中に起こる全ての会話に一点集中しています。監督の指示はもちろんのこと、誰かが怪我で倒れたら、瞬時にドクターとのやり取りが始まります。それに伴い交代で入る控えの選手を準備させるために、選手交代を担当するマネージャーとのやり取りに進んだり、試合が動いている状況なので、一刻を争う。
日本代表ではドクターやマネージャーは日本人なので、通訳というワンクッションが入ります。そこが詰まるとワンテンポ遅れて、最悪の場合は勝敗に関わる可能性もあります。なので、そのステップをできる限り簡潔に、的確に処理できるかどうかが鍵ですね。だから試合に熱中したり、ボールを目で追っていたら仕事になりません。余計な感情は全て捨ててます。

そうなんですね。

あと、こんなことも――。とある選手がノックオンしたら「Fu●k!!!」って、僕の耳元で怒鳴られて。「ノックオンすんなって言え」って。僕は通訳なので、まあ、伝えるじゃないですか。 そしたら、伝えた後、すぐ次のプレーで、同じ選手がノックオン。「お前、本当に伝えたのか?」って怒鳴られて「伝えた」と答えると「じゃあ、なんで同じことになってんだよ」みたいな。あっ、これ言ったのはジェイミーじゃないですよ。

完全に嫌な役回りですね。

そういう意味でも平常心でいることがとても大事ですし、通訳は熱血漢であってはいけない場面の方が多いと思います。職分の意識はけっこう重要で、さっきの文化の違いの話じゃないですけど、日本でも欧米でも、個性的なのは良いんですが、職分として〈出過ぎ〉はダメなんです。
代表の通訳をやっていると、試合以外の場面でも、チーム内の対立だったり、選手同士が分かり合えないでいるところに立ち会ったり、双方の本音を聞く機会もあったりしますが、それは、あくまで〈ロバの耳〉でいることが大事で、そういう場面で〈口〉になっちゃうのは、あまり良くない。

どういうことですか? 彼らは、佐藤さんに相談に乗ってもらいたいから話しているのに。

やっぱり胸の中では、こうした方がいいのにとか、チームのために、みたいな気持ちはありますけど。でも、僕の職分は通訳です。彼らの悩みを聞くことや、私生活についての自分の見解までは許されますが、ラグビーやチームについての助言をするのは、ヘッドコーチやコーチの職分。その一線を越えちゃいけない。
それは、他の職分に対する敬意の問題でもあるし、プロフェッショナルとは何かということにもつながると思っています。もちろん昔は、失敗しましたよ。変な正義感にかられて、余計なことを言っちゃったりとか。でも、その仕事は僕の仕事ではないし、その役割が与えられてるわけでもないから、何度も墓穴を掘る失敗を重ねて、ようやく学びました。

佐藤さんは、南アフリカを破ったエディ・ジョーンズ時代の代表通訳も務め、初めて決勝トーナメントに進んだ今回のW杯でもジェイミー・ジョセフの相方でした。いわば、近年の躍進する日本代表に並走してきたともいえるわけですが、その強烈なプレッシャーを、どうやって跳ねのけたのですか。

変な話ですけど、自分がバンドをやっていることも大きいかもしれません。音楽でもラグビーでも、準備段階が練習。僕にとってのライブが、選手にとっての試合。まあ、スケールは全然違いますけど、そのときのプレッシャーとか気持ちの持っていき方がシンクロするというか。いざ笛が鳴ったら緊張が解ける。僕もステージにあがって1曲目が始まったら緊張が解けるみたいなことで、なんとなく分かちあえるというか。

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佐藤さん、デスメタルバンドのボーカルなんですよね。

ははは。10歳のとき、家族でオーストラリアに移住したのですが、そのときにPANTERAとか、SLAYERとか好きになって。高校を出てから日本に戻り、大阪で働くようになってからパンク、グラインドコア、ハードコアなどいろんなバンドをやったんですが、当時大阪で、極悪ハードコアみたいなのが流行っていたんです。SXSXSって聞いたことありますか?

はいはい(笑)。完全に、怖い系ですよね。

今はみんな丸くなりましたけど、当時は、めっちゃ怖かったです。STRAIGHT SAVAGE STYLEっていうバンドがあって、そのボーカルがやってるImmortalityって、デスメタルが入ったハードコアバンドに参加したんです。その時期に怖い先輩方から礼儀について、音楽に対する姿勢、何かを成し遂げるためには仲良しこよしではなく、ぶつかり合いが大事、一生懸命だからこそ、衝突するという事を学びました。〈ふざけた奴はステージにあげさせんな〉、〈音楽をやることは、遊びじゃない〉ってことを叩き込まれて。その後、やっぱりデスメタルがやりたくてメンバー集めてバンドをつくりました。今でも活動しているのですが、若い頃に体育会系気質を叩き込まれたことも大きいのかなぁ。

ハードコア時代に身につけた、上下関係の感覚ですか。

上下関係というと、ちょっと言葉が悪いかもしれませんけど、否定はできないですよね。何かを成し遂げるためには、やっぱり嘔吐するくらいキツいことをやらないと、突き出ることはできないっていうのを教えてもらったので。前ヘッドコーチのエディ・ジョーンズも、そういう考え方をもってる人だったので、気持ちがわかるというか。

デスメタルバンドのボーカルは、叫び続けるイメージがあります。今、話しているのも渋い声で、かっこいいですね。その声が、試合中に役立ったりした場面はありましたか。

歪ませすぎだからですかね、こもってるとは言われます。まあ、声が通って聞きやすいというのはあるのかもしれませんが、残念ながら、デスメタルは関係ないでしょうね。元々、こういう声帯だってだけで。

ああ、デスメタルは関係ないんですね(笑)。先ほど、通訳の職分を逸脱した余計なアドバイスはしないと仰っていましたが、自国開催というプレッシャーまでかかっていた選手たちは、どうやって重圧を克服していったのでしょうか。

ジェイミーが連れてきたメンタルコーチの存在は大きかったです。チーム全体に対しては、前例のない事を達成するにはプレッシャーを受け入れて、こよなくそれを楽しむことだと教えていました。そして、何事に対しても果敢に挑めるようになるためには先祖を知ることが大事だと。
このアドバイスはすごく面白くて。僕自身もふくめて、今の日本人の多くは自分の先祖を知らないじゃないですか。遡っても、せいぜい曽祖父母ぐらいで。でも、ジェイミーはめちゃくちゃ立派な家系図を持っていて、僕らにも見せてくれました。彼は、大昔に先祖がニュージーランドに来たころから全部知ってるんです。
もちろん、その家系図のどこまでが歴史的事実なのかというのは分かりませんけど、「辛いことがあったり、独りになっても、今の自分は、これだけ多くの人たちから形作られているっていうのがわかってるから、強くいられるんだ」と言っていました。
それで、メンタルコーチが、選手たちにも先祖を調べさせたんですよね。そうしたら武家の人がいたり、農家の人がいたり、いろいろだったんですけど。自分の血の繋がりや、自分の歴史を知ることで、窮地に立たされたり、プレッシャーがかかったとき、人生に迷ったときに強くいられる。

へえ、面白いですね。

あとは「勝ち負けは宇宙が決める、運命が決めるから関係ないんだ」と。「君たちは、その瞬間その瞬間に、やるべきことをやるだけだ」って。
ダミアン・マッケンジーという名選手がいるんですが、彼はボールを置いて、蹴る前に、かならずゴールポストを見て微笑むんですよ。決めなきゃいけないとかじゃなくて、この瞬間の世界には、自分とボールだけがあって「俺は、このボールを蹴るのが好きで好きでしょうがない」と自己暗示するための、幸せの笑顔。
今回の日本代表のメンタルコーチは、ダミアンのコーチでもあって、そのルーティンを考えたのも彼だそうです。田村優は週の頭に必ず個人面談して、その1週間のプランとプレッシャーへの立ち向かい方を相談していましたね。

すごく興味深い話ですが、心理学だったり、深層心理の話を訳すのもまた難しそうです。

僕もそう思ったのですが、実際会ってみたら、すごく面白いオッチャンでしたよ。彼が最初にワークショップをやったとき、「お前らは、本当に勇敢なのか?」ってみんなに問いかけていました。
自分が家にいるときに、奥さんや恋人が帰ってくる。部屋まで上がってくる音が聞こえたとき、「やった! 愛する人が帰ってきた」と感じるのか。「うゎ、もう帰ってきてしまった」と感じるのか。もし、本当は嫌だと思ってるのに、笑顔でごまかして迎えているなら、それは問題を話し合うことから逃げている臆病者だと。「勇気を持って話し合えない奴が、いったいどうやってW杯で果敢に戦えるんだ」と。

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そんな沢山のプロフェッショナルの支えが、今回の大躍進につながっていたのですね。そのW杯が終了して約1カ月が経ちましたが、ジェイミー・ジョセフHCの続投が決まりました。でも、佐藤さんは教育の世界に移ってしまったんですよね?

そうなんです。大阪にある履正社医療スポーツ専門学校で、スポーツと実戦英語を組み合わせた新しいカリキュラム〈スポーツ外国語学科〉の学科長になりました。

今年、甲子園で優勝した履正社ですか?

同じグループですけど、それは履正社高校ですね。僕が籍を置くのは、履正社医療スポーツ専門学校です。理学療法士や鍼灸師などの医療国家免許や、アスレティックトレーナー、スポーツ指導者などのスポーツ専門資格を取る学校です。

どうして、学校なんですか。ブレイブ・ブロッサムズはこれから黄金時代でしょう。

正直にいえば、かなり迷ったんですけどね。新しい学科を創りたいという話をもらったのは、今回のW杯よりもずっと前なんです。
釜谷一平さんという、もともと『Number』の編集者だった方がいて。この人が、いま履正社の広報部長なんですけど。日本のラグビーがそこまで注目されていない2015年のW杯のときに、彼だけは自費でイングランドまでワールドカップの取材に来ていて、そうしたら、南アフリカに勝つというね。日本ラグビー史上に残る大熱戦があって。
釜谷さんとは、その少し前からの付き合いなんです。それで、彼といろいろ話しているときに「日本のスポーツ関係者、コーチにしても、トレーナーにしても、世界レベルの技術を持つ人が沢山いるのに、言語の壁だけで、活躍の余地が狭められてしまっているんじゃないか。英語を話せるスポーツ関係者を増やすことで、日本スポーツ界に貢献できるんじゃないか」という点で、思いが一致したんですよね。

なるほど。でも、佐藤さんの通訳の技術を教えるなら、語学学校の方がやりやすくないですか。

英語を話せるだけで、スポーツ業界で働けるわけではありません。やはり専門知識やスキルなど、スポーツのノウハウは必要ですし、その両方を身につけることのできる学校はこれまで国内にありませんでした。
また、グローバルな視点でみると、これからのスポーツ業界で活躍するには、通訳のノウハウだけでなく、どういうメンタリティやマインドセットが必要になるのか。そんな点でも教えられることがあるんじゃないかと思っています。
個性が強い選手やコーチ陣が集まっているなかで、名将と呼ばれる人々がどんな手つきでチームづくりをして、最高の一体感を生み出すのか。僕が間近で見てきた、そのノウハウを伝えられたらと。

世界で戦うためには語学も必要だし、メンタリティも必要だから、それをどうやって習得していくかということですね。

そうですね。語学については、それこそラグビーのトップリーグのみならず、バスケのBリーグなど、国内の現場でも外国のヘッドコーチは当たり前になってきていて、その人がアシスタントコーチを連れてきて、分析やメディカルまで外国の人がやって、ようやく、その下に日本人がつくみたいな構図になりつつあります。
もっと具体的にいうと、サッカーのJ1、バスケットボールのB1、ラグビーのトップリーグ、バレーボールのV1男子の全62チーム中、外国人が監督(ヘッドコーチ)を務めているのは27チーム、全体の44%に達しています。
実際、多くのチームでは英語が現場の共通語になっていると聞きますし、ラグビー日本代表チームでもアウトプットされる90%以上が英語から日本語への翻訳でした。
そういう意味では日本国内でも、もはや世界の中で戦うのと近い環境になってきているので、せっかくスキルや経験があっても、語学力が足りないだけでチャンスが減ってしまうのは、もったいないですよね。語学の壁に阻まれてしまうと、就職先も国内だけに限られてしまいますし。

それは、グローバル・メディアに身をおきながら英語が苦手な自分にとっても、日々直面する問題です。

技術や経験、資格を持ってる人は沢山いますけど、英語力まで兼ね備えてる人は、まだ多くはありません。今後グローバル化がさらに進むと予想されるスポーツ界で、なにで他者と差をつけるのか? 優位性を高めるため、限られたポジションを勝ち取るためには、英語が最も強い武器になることは間違いありません。それでも、いま小学校に通っている子供たちの世代になると、英語を扱える人材は急速に増えるでしょう。だからこそ、このプロジェクトは今やるべきだと思っているんです。

ラグビー代表チームのコーチ陣は、みなさん英語が話せたのですか?

スクラムコーチの長谷川慎さんは全然喋れないんですが、世界屈指の素晴らしいコーチング技術を持っています。

ラグビーファンの友人が「かつての日本代表のスクラムのイメージは、このところの代表のスクラムで完全に覆された。あれほど精緻で強いスクラムを組めるのが、夢のようだ」と言っていました。

それは、慎さんの指導があってこそでしょう。足を置く位置から、全員がどのタイミングでスパイクかけて、どのタイミングで膝を開けて、どこを掴んで、首の角度はこう、みたいな、ものすごい緻密な指導があったんです。
そういう素晴らしい職人芸を、海外に落とし込んだらものすごいことになりますよね。だからこそ、英語力があれば絶対その先があると思うんです。繊細な職人技がモノを言う分野、例えばトレーナーやメディカルスタッフもそうですが、ものすごく丁寧で献身的に働く優秀な日本人スタッフに、英語が備われば海外からのオファーが殺到するはずです。

先ほどの話じゃないですけど、でもこれ、成功のことばかりを考えるとダメですよね。

もちろん気持ちとしたら、すごいイキリ込んでやってますけど、目の前のことを精一杯やることだけに集中できれば、おのずと運命が良い結果をもたらしてくれると信じてます。
これは〈スポーツ外国語学科〉に興味をひかれた生徒さんにも伝えておきたいです。将来の夢を持つことは大事なんですけど、その夢や目標から逆算して、プランを立てて、まずは目の前の目標を明確にしてからひとつひとつの課題に集中して、取り組んでいって欲しいです。

ああ、僕の場合は、まずこの原稿をということですかね(笑) 。でも、もっとデスメタル的な話、聞きたかったなあ。

ははは。これからは先生になるんで、ちょっと上品を目指そうかな、と。

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