「今の女性にとって何が幸せなのか、おばあさんの私には全然わからないけど、私は〈普通でよかった〉」

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旦那を看取れた幸せな〈女性〉

「今の女性にとって何が幸せなのか、おばあさんの私には全然わからないけど、私は〈普通でよかった〉」

女性の社会的地位、格差についての議論が増えるのと同時に、〈女性が働きやすい職場〉〈女性が輝ける社会〉〈女性がつくる未来〉を目指し、女性を応援する制度や価値観を生みだそうとする動きが社会全体に広がっている。だが、ここでいう〈女性〉とは、果たしてどんな女性なのか。女性に関する問題について真剣に考えている女性、考えていない女性、そんなのどうでもいい女性、それどころじゃない女性、自分にとって都合のいい現状にただあぐらをかいている女性。世の中にはいろんな女性がいるのに、〈女性〉とひとくくりにされたまま、「女性はこうあるべきだ」「女性ガンバレ」と応援されてもピンとこない。

「いろんな女性がいるんだから、〈女性〉とひとくくりにしないでください!」と社会に主張する気は全くないし、そんなことを訴えても何にもならない。それよりも、まず、当事者である私たち女性ひとりひとりが「私にとって〈女性〉とは何なのか」本人独自の考えを持つべきではないのか。女性が100人いたら、100通りの答えを知りたい。

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鈴木鶴子(80)

「〈女性〉とは」と考えたことはありますか?

なんだろうね、あんまり考えたことないね。「自分は女だ」って感じたこともあんまりない。私たちの時代は、今みたいに情報がいっぱいなかったし、まともな教育も受けてなかった。とにかく流れに身を任せて生きてきただけ。

どのように身を任せてきたのか、詳しく教えてください。

まず、家が貧乏でね。7人兄弟だったから、家計は常に苦しかった。中学を卒業して、就職か進学かなんて迷う暇もなく、とにかく一刻も早く家を出て少しでも家計を楽にしようと、寮に入れる仕事を選んだ。それが、当時は看護婦だった。特に将来の希望もなかったし、姉たちもみんな看護婦だったから「まぁいいか」って。そこに自分の意志とか、そんなもんは何もなかったね。

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看護婦になるにしても、勉強が大変なんじゃないですか?

当時と今とじゃ、看護婦になる難しさがだいぶ違うからね。むしろ、落ち着いて勉強をする暇も与えられなかったよ。看護婦の〈養成所〉で、なんの知識や資格もないまま、お給料をもらって働いて、空いた時間で勉強をして、寮へ戻って、また仕事へ行って。だからろくに勉強してない。私たちは、そういう制度のなかで生まれた看護婦だから〈精神科〉の看護婦にしかなれなかった。

その養成所に通っていた女性たちは、みんな精神科の看護婦になったんですか?

ほとんどの人はそうね。私も含め大多数は、もっと勉強しようとか、意志を持っていなかったから。でも私の姉のように、向上心のある看護婦は自分で勉強して、出世していった。

意志を持っている女性と、持っていない女性、当時はどちらが好意的に受け止められていたんでしょうか?

どうだろうね。自分の意志を貫ける女性って、そもそも少なかったから。でも私の旦那は、最初は私の姉狙いだったみたい。ただ、姉は気が強かったから、相性が合わなかったんだろうね。モノを知らない、田舎っぺの私のほうが、彼にとってはちょうどよかったのかもしれない。彼とは、知り合ってすぐに結婚した。

あなたにとっても、リードしてくれる旦那さんはちょうどよかったんですか?

そうね、彼と私とじゃレベルが違ったというか、喧嘩にならなかったね。言い争いになっても、彼の言い分に納得しちゃうから。社会の常識は全部彼から教わった。

レベルが違う男性といっしょにいて、劣等感のようなものは感じませんでしたか?

劣等感はなかったね。とにかく物知りで粋な彼だったけど、金銭面では私のほうがしっかりしてたし。彼は金遣いは荒くて賭け事は大好きで、私の給料からいくらかくすねたり、私が月賦で買ったカメラを質屋に入れたり、好き勝手やってたね。

よく離婚しませんでしたね。

娘からも「よく離婚しなかったね」なんて言われるけど、私はあんまり辛いとは思ったことない。私の性格だろうね。「まぁしょうがないか」とすぐ諦めちゃう。今だってそう。何かあっても「まぁいいか」「まぁしょうがないな」って、受け入れちゃう性格は昔からずっと変わらない。

これまで、自分の意志を貫いたことはありますか?

ない。本当に、自分の意志を貫いた記憶がない。人生すべて、流れに身を任せてきた。要するに利口じゃなかったんだよ。ちゃんとモノを考える力とか、判断力とかを持っていなかった。女性はそういうのを持たなくてもいい時代だったから。でも、だからといって不幸だったかと言われると、そんなことない。

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女性に生まれてよかった、と実感したことはありますか?

旦那を看取れたときは、女性でよかったと思ったね。今の男性はわからないけど、昔の男性は、掃除も洗濯も料理も何もできない。家事は全部女性がやってたし、「女がやるのが当たり前、男なんて台所に入るもんじゃない」という時代だったから。だから、残された私が女性でよかったなって。何もできない男性がひとり残るのは、惨めだよ。今は女性が先に死ぬことだっていくらでもあるから、男性が家事をするようになった今の社会は、ある意味良いと思う。

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女性が社会にでて、働くことについてはどう思いますか?

今は、女性が盛んに働きたがっているみたいだけど、女性は本当に働きたいのかな?

どういう意味ですか?

女性は子供を守って、男性は一生懸命働いて、という〈普通〉じゃダメなのかな、って。才能がある女性は、才能を活かして働いていけばいいと思うけど、どっちつかずの女性は、普通の家庭を持って、子どもを育てたり、そういう幸せを感じてほしい。そうじゃなくたって、これからどんどん子供が減っちゃって、もっと大変な世の中になるんだから。

あなたは〈どっちつかずの女性〉だった、ということですか?

そうね。特別な特技もない〈普通〉の女性。でも、それを引け目に思ったことはない。普通以上でも、普通以下でもないから。その時代時代によって女性の価値観も違うし、今の女性にとって何が幸せなのか、おばあさんの私には全然わからないけど、私は〈普通でよかった〉。私と同い歳くらいで、ひとりで暮らしているおばあさんに「うちは娘夫婦と暮らしていて、孫が近くにいて…」なんて話すと、「良いわね〜」と絶対言われる。普通がいちばん良いよ。結果論だけど、流れに身を任せてきて〈ラッキー〉だった。このままでポックリ死ねたら、もっと幸せ。