台北のハラール・スケーター

スケート・カルチャーとイスラム文化を融合した空間。

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17 April 2016, 7:29am

しばらく台北で暮らしていれば、ハラール・フードはそれほど珍しくもない。観光で台北を訪れるだけではわからないかも知れないが、私は、タトゥーパーラーで、イランのケバブ職人とトルコのケバブ・ラップ職人がケバブの調理法について口論するのを目撃した。台北のハラール・マーケットは小さいとはいえ、しっかりとした基盤がある。

友人たちから「外国人じゃない。台湾人だ」と評される、ナイジェリア出身で21歳のモハメド・ナメイラジ(Muhammad Namairage)と高校の同級生、台北出身で21歳のマーク・ライ(Mark Lai)は、台北ハラール・マーケットの新顔だ。

ハラール屋台「NoType」の厨房に立つモハメド・ナメイレジと彼を見守るマーク・ライ

モハメドは14年前に台北に移り住み、その後すぐに台北のスケート・シーンに飛び込んだ。彼の父は、台北にあるナイジェリアの在外交館長なので、外国のパスポートを所持する学生しかいないアメリカンスクールやらヨーロピアンスクールの類いから、地元の学校への編入が実現した。彼は、そこでマークと出会う。スケートボードへの情熱とともに、2人が創りだす新しい「何か」を吐き出す必要にかられていた。

そんなときにモハメドは、ハラール・フードを販売するアイデアを閃いた。「俺はいつもハラール・フードを食べていた。しかも、ハラール・フードは誰が食べてもいい」。このアイディアは、台北市内の外国人街で暮らす住民にとっては願ったり叶ったりだ。しかも、モハメドはヴィーガン向けのメニューも用意している。そのなかでも、キノコを挟んだピタは絶品だ。

台北市内の高級ステーキレストランに隣接するNo Type

そんな経緯でモハメドとマークはハラール屋台「No Type」を立ち上げた。No Typeは、スケート・カルチャーとイスラム文化を融合した空間だ。東アジアのどこを探してもこんな店はないだろう。天井からぶら下がるデッキ、壁に貼付けられたスケートボード雑誌の切り抜き、グラフィティなど、内装は、飲食店にしては異彩を放っている。しかも、この小さな屋台は、要人や富裕層御用達の高級ステーキレストラン「Tasters」に隣接しているのだ。そんなシチュエーションのせいもあり、No Typeの奇抜さは際立っている。

手作りのピタを手にするマーク・ライ

2人はこの場所を虎視眈々と狙っていた。モハメドとマークが屋台をオープンする以前、外資系のフライドチキン・ショップがここに店を構えていた。しかし、この辺りにはストリートで肉に喰らい付くような輩があまりいなかったので、フライドチキン・ショップは早々に店を畳んだ。

このエリアでナイト・マーケットは開かれていないが、週末、No Typeは午前1時半まで営業する。私見だが、まずどこかで1杯ひっかけて、朝5時まで営業するバーに移動する間に立ち寄るには最高の営業時間設定だ。

No Typeの天井から吊られたデッキ

No Typeの料理は、ナメイラジ家秘伝のレシピでつくる。彼は 、生のハーブとスパイスをすべて手で擦り潰し、野菜は地元の市場で調達し、肉は台北から1時間の距離にある桃園市から取り寄せている。「台北には、いつでもハラール・フードがある」と彼はいう。「ときどき簡単に手に入らなくなるけど」

チップ箱

彼の材料へのこだわりは成果を上げている。おそらく台北ではNo Typeにしかない本格的なコフタケバブは、ラム肉を細かくすり潰し、それを香辛料とよく混ぜて、オーブンで焼き目を付け、グリルする。それを手作りのピタに挟み、ザジキソース(通常、チキンケバブにつけるソースだが、私は何にでもこのソースをかける)を添えて完成だ。モハメドのケバブは串刺しにしないかわりに、通常のピタ用肉よりも多量の香辛料を加えている。そのスパイス配合は秘伝らしく、彼は教えてくれなかった。

裏メニュー「モンスターケバブ」を手にするモハメド

私は、メニューには載っていない裏メニュー「モンスターケバブ」をモハメドにリクエストした。それは、チキンをショウガとタマネギでマリネして24時間寝かせたのち、大きな肉塊のまま豪快に串刺した逸品だ。これを聞いたアナタは、「間違った調理法だ」と訝しむだろうが、実はこれが大正解。アナタもこの裏メニューをリクエストできるが、モハメドはVIP限定メニューだ、と応えてくれないだろう。春節のあいだモハメドは、チーズとラム肉を混ぜた餡をクスクスと小麦粉を混ぜた生地で包み、油で揚げたメニューを用意する予定だ。残念ながら、私はまだこの新メニューを食べていない。

モハメドとマークに、No Typeの事業拡大の予定を尋ねたところ、「するよ。レストランをやりたい」とモハメドは力強く答えた。

「俺たちはNo Typeを今よりデカくしたい」とマークは言葉を重ね、台北の若者が抱く野心を象徴するかのように、「マクドナルドみたくね」と付け加えた。