不安定な情勢のなかでオープンした トルコの刑務所カフェ

2016年7月のクーデター未遂事件に続く取り締まり強化によって、トルコでは、5万人以上が逮捕された。現在、同国でのジャーナリストの逮捕者数は150人を超え、世界最多を記録している。さらに、職を追われた政府関係者数、パスポートを剥奪された人数の合計は、数千人にのぼる。国全体が野外刑務所になったかのようだ。

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21 March 2018, 9:00pm

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2016年7月のクーデター未遂事件に続く取り締まり強化によって、トルコでは、5万人以上が逮捕された。現在、同国でのジャーナリストの逮捕者数は150人を超え、世界最多を記録している。さらに、職を追われた政府関係者数、パスポートを剥奪された人数の合計は、数千人にのぼる。国全体が野外刑務所になったかのようだ。

逮捕、判決、刑罰の報道が相次ぐトルコに、突然、刑務所をテーマとしたカフェが誕生した。2018年1月、イスタンブールからフェリーで90分のマルマラ海(Marmara Sea)に面した街、ヤロヴァ(Yalova)にオープンした〈Haft Coffee Roastery〉だ。

ドイツ語で拘留、投獄を意味する〈Haft〉という名のこのカフェで、店員は、オレンジのつなぎ姿でオーダーをとる。身長目盛を背景に逮捕写真風のセルフィーを撮れるエレベーター、鉄格子と刑務所式の男性用トイレ付きの監房もある(監房内のトイレの使用はお控えください、と経営陣)。

ある日の昼下がり、〈Haft〉の前にはすでに長蛇の列ができており、4階建ての店内には、さらにたくさんの来客でテーブルが埋まっていた。特に、地元の大学生が多く、囚人服を試着し、監房内でポーズを決めて写真を撮とっていた。

共同オーナーのひとり、ジャンフー・アクトゥールー(Canhür Aktuğlu)は、店を始める前、受賞歴のあるグラフィックデザイナーとして活躍していた。彼は、〈Haft〉が単なるビジネスであり、政治的なメッセージはない、と断言した。

「完全に商売目的ですよ。アクション映画やドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の世界を再現したかったんです」とアクトゥールーは店内で取材に応じた。

共同オーナーのひとり、ジャンフー・アクトゥールー. Photo by the author.

「店のつくりも刑務所そっくりでしょう。オレンジの囚人服は、いろんな制服のなかでも、特に記憶に残ります」とアクトゥールー。

アクトゥールーは、〈Haft〉が世界初の刑務所カフェだ、と主張するが、パリには、1880年代から、同様のコンセプトのカフェがあった。最近、カイロにも似たような店がオープンした。ムンバイにも刑務所風のシーシャ・バーがあったが、2017年、未成年にシーシャを提供した咎で経営者が逮捕された。

〈Haft〉の店員のひとり、23歳のサナ(Sana)は、長い黒髪を結んで細縁の眼鏡をかけ、あご髭を伸ばしていた。サナは、彼の母国イランで政府から激しい迫害を受けているバハーイー教徒だ。逮捕を恐れた彼は、難民としてトルコに逃れてきた。

「収監されそうになったので、逃げてきました」とサナ。

「でも、辿りついたのは刑務所カフェでした」と彼は笑う。今のトルコに、このようなカフェがオープンしたことについても「皮肉ですよね」とコメントした。サナは、この職場環境を満喫しているという。イランでの収監を逃れた先で、囚人服を着て給料をもらうという皮肉な状況を、大いに楽しんでいるらしい。

〈Haft〉のバリスタ, サナ. Photo by the author.

アクトゥールーと店員はコーヒーをすするあいだ、地元の大学生たちは、オレンジの囚人服に身を包み、監房のなかで友人とセルフィーを撮っていた。彼らの世界は、トルコの苛酷な現実から何光年も離れているかのようだった。

2018年2月16日、「プロパガンダを広めた」といういわれのない罪で裁判を前に拘束されていた、ドイツとトルコの二重国籍を持つジャーナリスト、デニズ・ユジェル(Deniz Yücel)が釈放された。トルコのビナリ・ユルドゥルム(Binali Yıldırım)首相とドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Mer-kel)首相が、ベルリンで会談した翌日の出来事だった。しかし、この吉報は、同日のニュースによって、すっかり掻き消されてしまった。世間では、濡れ衣、と評判の、2016年のクーデター計画への関与を理由に、6人のジャーナリストが終身刑を言い渡されたのだ。他にも、大勢のジャーナリストが監房で裁判を待っている。

アクトゥールーの勧めで、私も囚人服に袖を通し、陰気な顔で鉄格子を掴んでいるところを撮ってもらった。7年前から故郷と呼んでいるこの国における、自分の職業の危うい現状を考え、深呼吸した。本物の刑務所に収監されることがないよう、願わずにはいられない。