TOTOの「アフリカ」は いかにして〈みんなのうた〉になったのか

ベタでエモーショナルなこの曲がリリースされてから36年。ネット上では、この曲への皮肉ゼロの純粋な愛が溢れてやまない。

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17 december 2018, 9:38am

カリフォルニアのロックバンド、TOTOによる「アフリカ」は1982年のヒットソングだが、私はこれまで、この曲について真剣に考えたことはなかった。「アフリカ」は、当たり前のようにそこにある曲だった。

しかしある日、この曲は唐突に私の目の前に現れ、私の心を奪った。あれは真夜中、アムステルダムの街を走っていたときのことだ。私はタクシーの後部座席に座っていた。それは暑い夏の日で、楽しい仲間たちと楽しいひとときを過ごした私は、極上の赤ワインで酔っていた。すなわち私は、この80年代のヒットソングに魅了されるための準備が充分に整っていたわけだ。この曲の嘘偽りないメランコリーが、人生を彩る完璧なサウンドトラックとなった。

こうして「アフリカ」にハマった私だが、同じようにハマっている仲間がいると直ちに気づいた。この曲はネット上で大人気で、ミーム状態となっていたのだ。4分55秒の壮大なこの曲は、インターネットの住民たちを魅了する〈マタタビ〉のようだった。その理由は、何といってもまず、曲のなかにある。「アフリカ」はただの曲ではない、感情だ。イントロは静かなので、タクシーのなかで聴いていた私は、これが「アフリカ」だと気づくのに少々時間がかかった。キーボードに乗せて、「I hear the drums echoing tonight(今夜 僕の耳に太鼓の音がこだまする)」と歌うデヴィッド・ペイチ(David Paich)の優しい声が聴こえると、私の耳は、車内に響き渡る彼の真剣な声に夢中になった(あの瞬間、世界中が彼の声に夢中になっていたのかもしれない)。そしてサビ前の「Hurry boy, it's waiting there for you!(急ぎなさい 若者よ/それはお前を待っている)」が聴こえると、私は何となしに続けていたタクシードライバーとの会話を切り上げ、サビを待った。「It's gonna take a lot to drag me away from you!(僕を君から引き離すのは大変だ)」と分厚く壮大なコーラスが聴こえてきたときには、私もいっしょに歌っていた。

リリースから36年経った今、ネット上では、このベタでエモーショナルな曲への、皮肉ゼロの純粋な愛が溢れている。Twitterには、この曲の歌詞をツイートする「アフリカ」ボットが存在し、公式MVを延々と流すサイトもあった(YouTubeにもいくつかループビデオがある)。またこの曲は、これまで様々なCMやTVシリーズに使用されてきた。記憶に新しいのは80年代ノスタルジー満載のSFドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(Stranger Things)だろう。また、米国の長寿アニメ『South Park』、NBCのシットコム『コミ・カレ!!』( Community)、同じくNBCの人気トークショー『The Tonight Show with Jimmy Fallon』などで、パロディとして歌われている(しかも『コミ・カレ!!』ではベティ・ホワイト(Betty White)、『The Tonight Show』ではジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)が歌っている)。更に今年の春には、〈@weezerafrica〉というファンのツイッターアカウントからのリクエストにより、WEEZERによる「アフリカ」カバーが実現し、Billboard Hot 100では89位にランクイン。WEEZERにとって2009年以来のシングルヒットとなった。

この曲に寄せられているのは、皮肉ゼロの好意だ。Twitterで〈アフリカ TOTO〉と検索すれば、スクリーンは幸福と愛に溢れたコメントでいっぱいになる。「TOTOの『アフリカ』の魅力を具体的に説明することはできないけど、これを聴くと、自分は何でもできるような気がする」。「TOTOの『アフリカ』を聴くのが朝の日課だから、それが終わるまで邪魔しないで」。「もしストレスを感じてるなら、TOTOの『アフリカ』という曲が存在していたことを思い出してほしい」…。

称賛のコメントは枚挙にいとまがない。

シカゴのポップミュージック愛好家、ニック・デジデリ(Nick Desideri)は、「アフリカ」はインターネットの住民にとって特別な位置を占めている、と証言する。彼が2017年11月に発表した、イケてる曲とイケてない曲を分布させた〈良曲の統合理論(Unifying Theory of Bops)〉のグラフは、大きくバズった。その翌日、彼はこうツイートした。「みんなおはよう、リプライが50人以上から来てるけど、全部TOTOの『アフリカ』についてだ」

「TOTOの『アフリカ』以外では、ビヨンセの『Love On Top』に異論が殺到しました」とデジデリはメールインタビューで言及した。彼によると、大多数のコメントが彼のグラフを支持してくれているそうだが、いらだちをあらわにする「アフリカ」ファンも数多くいたらしい。彼らは、「アフリカ」の評価がこんなに低いグラフなど信用できない、と主張しているそうだ。「TOTOの『アフリカ』は今ミーム化していますから、不満の声が上がるのも納得です。ただ、意見の本気度にはさすがに驚いてます」とデジデリ。

TOTOの押しも押されもせぬ名曲「アフリカ」が、新曲との比較に利用されることがあるのも、この曲への愛ゆえだ。例えば、2017年8月、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)がアルバム『レピュテーション』( Reputation)からの初シングル「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ~私にこんなマネ、させるなんて」( Look What You Made Me Do)をリリースしたとき、ロンドンのジャーナリスト、モリー・グッドフェロー(Mollie Goodfellow)のツイートに約6万もの〈いいね〉が集まった。ツイートの内容はこうだ。「TOTOの『アフリカ』なら1回聴けば夢中になるんだから、テイラー・スウィフトの新曲を〈好きになる〉ために6回も聴いてられない」

おっしゃる通りである。

それにしても、どうやって「アフリカ」は、ネットで愛される曲になったのだろう。この曲が米国のBillboard Hot 100の1位を飾ったのと同じ1983年は、マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」、デヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』( Let's Dance)、プリンスの『1999』などがチャート入りした年だ。これらのアルバムやシングルは、もちろん今もなお人気を博し、評価も高い。しかし独立した1曲である「アフリカ」はひそかに、それらを抜いた地位に収まっている。ベタであるからこそ、ミームづくりが得意で、ハッピーで有益なインターネットコミュニティの関心を惹いたのだ。

「『アフリカ』は、まさに80年代らしい曲です。完全に時代を反映しています」と指摘するのは、ロンドンの広告代理店BMBのエグゼクティブデジタルディレクター、ベン・ラント(Ben Lunt)。ラントは80年代後半の幼少期、この曲が「超ダサい」とされていた時期を覚えているというが、今やこの曲は、彼にとっても「公言しづらいけど好き」な曲だという。「『アフリカ』は世代を超えています。私の世代なら、真正のノスタルジーを感じますし、若い世代も、追体験的なノスタルジーを覚えるんです」とラント。彼によると、若い世代が「アフリカ」を好むのは、自分が幼い頃に両親が聴いていた音楽を思い出すからだという。「そういう幼少期とのつながりが、彼らに安心を与えてくれるんです」

もちろん曲自体の完成度も、この曲の人気に寄与している。力強いドラムループ、幾層にも重なったハーモニー、聖歌のようなコーラス。歌詞の意味はちょっとよくわからないが、80年代の曲はだいたいそう。全ての歌詞がナンセンスだ。しかしラントは、だからこそ「アフリカ」がネット上で生き残っている、と断言する。ミームは、みんながそれぞれの解釈をできる余地を有していなくてはならない。曖昧だからこそミームは広がる。「ただ、通常ミームになるのは、様々な〈アレンジ〉を施すことができるモノです」とラント。「でも『アフリカ』のアレンジバージョンは多くありません。みんな、幸福と愛を表現するさいに、この曲をそのまま使用しているだけです」

TOTOのキーボーディスト、デヴィッド・ペイチと、ドラマーのジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)は、この曲をつくった当時、アフリカに足を踏み入れたことがなかった。1992年に死去したポーカロは、歌詞についてこのように説明した。「白人の青年がアフリカについての曲を書こうとした。でもアフリカに行ったことがない彼に書けるのは、TVで観たイメージや、これまでの記憶だけ」。「アフリカ」は、アフリカ大陸についての曲であるはずがない。いち度も行ったことのない場所についての空想、あるいは追体験のノスタルジーを歌った曲なのだ。

「『アフリカ』は、当時の文化状況の産物です」と指摘するのは、南カリフォルニア大学(University of Southern California)でインターネットを研究するケイト・ミルトナー(Kate Miltner)。サビの「I bless the rains down in Africa(アフリカに雨が降りますように)」という歌詞は、80年代前半に発生したエチオピア飢饉を念頭に置くと意味がわかる、と彼女は説明する(エチオピア飢饉では、「ウィ・アー・ザ・ワールド」(We Are The World)や「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」(Do They Know It’s Christmas?)などのチャリティシングルが生まれるなど、世界の反応も大きかった)。「アフリカ」に表れているのも、白人的、西洋的なアフリカ大陸の見方だ。MVにも、もし現代に発表されていたら大バッシングを受けるであろう、アフリカのざっくりしたイメージが満載である(ちなみにテイラー・スウィフトは「Wildest Dreams」のMVでそれを思い知ったはずだ)。

文化盗用やホワイトウォッシュといった、論争を引き起こす文化的行為に殊更厳しいのがインターネットだ。そう考えると、オリジナルメンバー6人全員が白人のバンド、TOTOがつくった「アフリカ」に対する批判の声がそこまで大きくないのが不思議だ。ミルトナーはその理由について、歌詞の曖昧さを指摘する。歌詞をざっと読むと、「これは、ある女性に好意を寄せている男性の歌に思える」とミルトナー。さらに、この歌には神話的な部分もある、と彼女はいう。例えば「As sure as Kilimanjaro rises like Olympus above the Serengeti(セレンゲティを見下ろすオリンポスがごとく/そびえたつキリマンジャロのように)」という歌詞は、地理的に不可能だ。「論理的なストーリーを構築するというより、感情を引き起こす曲なんです」と彼女は付け加える。

今や「アフリカ」は少々ベタな曲として認識されているが、もともと100%真剣につくられた曲だ。「現在、インターネット文化では真面目で純粋なモノをありがたがる傾向にあります。犬やシカが甘える写真に〈この世界にはピュアすぎる〉というキャプションがついていることはよくあるでしょう」とミルトナー。この曲がネットで愛されているのは、〈真摯であること〉が社会的に広く認められている今の時代の性格もある、と彼女は指摘する。

もちろん80年代は80年代で、社会的、政治的な問題があった。しかしミルトナーは、TOTOの「アフリカ」がインターネットでバズったもうひとつの理由として、現在の政情を挙げる。実に真摯な、懐かしいこの曲は、決して〈クール〉ではない。でもそれが良いのだ。私たちはこの変な歌詞を大声で歌い、無条件で愛することができる。真夜中のアムステルダムを走るタクシーのなかで、私がこの曲に心を奪われたように。

ミルトナーはいう。「変な時代を生きている私たちに、カタルシスを与えてくれる曲なんです」

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