Music

人種差別撤廃のために、大手レコード会社は何をすべきか

〈三大メジャー〉と呼ばれる大手音楽レーベルが真に人種的不平等に対処するためには、自らのビジネスモデルを再考する必要がある。
10 July 2020, 2:22am
Fly Anakin and Chuck Wilson
Photo of Fly Anakin by Jax Teller; photo of Chuck Wilson courtesy of Babygrande

〈Black Out Tuesday(ブラック・アウト・チューズデー)〉と称された音楽業界のストライキが実施された2020年6月2日火曜日、〈三大メジャー〉と呼ばれる大手音楽レーベル、ワーナー、ソニー、ユニバーサルの3社は、この運動に寄せてまったく個性のない似通ったコメントをSNSで発表した。このコメントによれば、各社とも誇りをもって「黒人コミュニティを支持」し、この1日を「内省する」ことに生かしたい、と語っていたが、人種差別と闘う団体への寄付はしていなかった。それに対する世間からの不満の声や有名アーティストからのプレッシャーを受け、各社はようやく数日後に援助を約束。ワーナーソニーはそれぞれ1億ドル(約100億円)、ユニバーサルは2500万ドル(約25億円)の寄付を計画していることが発表された。少なくない額だ。しかし、黒人のインディレーベル経営者の目には、三大メジャーの貢献はまだまだ不十分に映る。

「彼らは、正しい方向への巨大な一歩だと思えるような、重大な変革を生み出すことができるほどの大企業です。そう思うと、これは大海の一滴にすぎないと思います。1億ドルなんて彼らにとっては大した額ではないので」と語るのは、シカゴのヒップホップレーベル〈Why? Records〉の共同経営者、ジョシュア・ヴァーチュだ。

6月3日に発表されたところによると、ワーナーミュージックの現在の時価総額は約150億ドル(約1兆6000億円)。ソニーとユニバーサルはそれぞれ約330億ドル(約3兆5000億円)だ。それに対する寄付金額の割合は、ワーナーは0.6%、ソニーは0.3%、ユニバーサルは0.07%にすぎない。さらに記事執筆時点(6月11日)では各社とも、設立した基金への拠出を何年程度予定しているか発表しておらず、ワーナーとソニーは基金の支援先となる団体名も公表していない(ユニバーサルは発表済み)。〈1億ドルの寄付〉は見出しとしては大いに目を惹くが、3社が有している想像を超えるほどの財産を思うと空虚でしかない、とヴァーチュはいう。しかもその富は、黒人ミュージシャンを搾取し、利益を正当に分配せずに築いたのだ。

「僕個人としては、僕らが自分のカネを自分で管理できるようになるまで、この国に生きる黒人として自分たちのアートを管理できるようになるまでは、どんな行動も充分じゃないと思います」

メジャーレーベルとの平均的な契約においては、アーティストは自分の音楽の権利を有せず、作品の収益のわずか一部しか受け取れない。その代わり、流通面での支援や高額な前払金を受け取れる。ただし、そううまくはいかない。たとえば2014年、ブルックリン出身で、当時メンバー全員が10代前半だった3ピースの黒人メタルバンド、UNLOCKING THE TRUTHが、ソニーと180万ドル(約1億9000万円)の契約を結んだ。巨大な数字に騙されてはいけない。契約の内容は恐ろしいものだ。まずバンドに支払われたのは、1stアルバムの前払金6万ドル(約645万円)のみ。そして1stアルバムを25万枚(現在の音楽業界においては事実上不可能な数字だ)売らなければ、2ndアルバム制作のための前払金を手に入れることはできないのだ。実際に180万ドルを手にするには、6枚のアルバムをリリースし、大ヒットさせなければならず、何年かかるかもわからない。結局彼らはソニーに借金をしている状態となり、契約破棄を求めて闘うことになった。UNLOCKING THE TRUTHの例は、残念ながら珍しいものではない。このような状況は、数十年ものあいだ続いている。特に黒人アーティストはそうだ。

ソニーがブラック・アウト・チューズデーに際し、1億ドルの基金設立を発表したときも、同社は黒人アーティストにとって公正な契約に修正することには言及しなかった。ワーナーとユニバーサルも同様だ。

「自分がつくった作品を所有することが困難であってはいけない」と語るのは、リッチモンドのヒップホップレーベル〈Mutant Academy〉の共同経営者、フライ・アナキンだ。「僕らを所有し、家畜扱いするんじゃなくて、パートナーになる道をつくってほしい」

メジャーレーベルにおいては、A&Rから役員まで、企業内の黒人の少なさが問題となっている。三大メジャーはどこも社員の人種構成は公表していないが、音楽業界で影響力があるビジネスパーソンを集め、1年に一度発表するビルボードの〈Power 100〉リストの顔ぶれは、毎年ほとんどが白人男性だ。メジャーレーベルにおいて要職についている黒人はごく少数なのだろう。もし黒人が要職についていたとしても求められる役割は限定的で、〈アーバン〉部門(この名称自体が、人種差別的だと批判されている)しか担当させてもらえないこともしばしばだ。

「大手レーベルは、変革より廃業をすべき」──ジョシュア・ヴァーチュ

ソニー、ワーナー、ユニバーサルは、識者を集め、特別委員会を設置し、多様性やインクルージョンに向け取り組んでいくことを約束したが、研究によると、基本的にそういったイニシアチブは実際の変化につながらないことがわかっている。また、三大メジャーはより多くの黒人職員の雇用、黒人役員の任命などに関しては何も約束していない。ニューヨークのインディヒップホップレーベル〈Babygrande〉のCEO、チャック・ウィルソンはそれについて、2017年以来、米国における一番の人気ジャンルがヒップホップとなっていることを思うといっそう癪に触る、と憤慨する。

「メジャーレーベルには、米国全体の人口に見合った多様性はほとんど見出せない。人種構成の比率だけじゃない。アフリカ系米国人の音楽が、文化的、経済的にどれほどの影響を与えてきたかもまったく考慮されていない」とウィルソンは指摘する。「それなのに、あいつらは黒人音楽でバカみたいに稼いでる。そんな状況は是正すべきだ」

メジャーレーベルにおける黒人の不在はさまざまな影響を及ぼしている、とウィルソンはいう。まずひとつは、三大メジャーはこれまで、貧しい出自の黒人ヒップホップアーティストの「ひざの上にドンとデカいカバンを置けば」、「それですべて上手く行くと思って」きた、という歴史がある。彼らは、アーティストにお金の管理方法など教えないし、そのお金がアーティスト自身にとって害になったり、最悪の場合死に至ることを防ぐためのセキュリティチームも用意しない。ポップ・スモークとジュース・ワールドはどちらもユニバーサルの子会社と契約し、死亡した。会社はふたりを守るためにもっと策を講じるべきだった、とウィルソンは考えている。

「大金が手に入って、人生が一変する。そのときに、あらゆる人生の変化にどう対処すればいいかを誰が教えてくれる? ストリートの暮らしだけじゃなくて、音楽業界について教えてくれるひとは?」とウィルソンは疑問を投げかける。「会社的に、CEOがCEOであるためには四半期ごとの売上、あるいは作品が上位にランクインするかどうかが大事。でもそうやってランキングばかり気にしていると、アーティストとお金のことは忘れてしまう。それで結局アーティストが薬物を乱用したり、命を落としたりするんだ。人種は関係ない。彼らが危険な状況に置かれてしまう」

メジャーレーベルにおける多様性の欠如が生み出すもうひとつの問題は、メインストリームのヒップホップが、この10年で「暴走してしまったこと」だとウィルソンは語る。三大メジャーが契約するのは銃、ドラッグ、カネを歌うラッパーばかりで、黒人としてのその他の経験を歌うアーティストは排除されるという。

「アフリカ系米国人は、ストリートの生活以外にも、人間としていろいろな経験をしてる。バランスが欠けてないか?」とウィルソン。「メジャーレーベルには、そのバランスをとる責任がある。ドラッグをやったり売ったり、ギャングの暮らしをテーマにした音楽から、数十億とまではいかないにしろ、数億ドル稼いでいるのに、それ以外の生活を歌った音楽をやってるアーティストとは契約してないっていうのはおかしいと思う」

黒人の社員を雇ったり、役員に据えることだけでは問題は解決しない、とウィルソンはいう。レーベルは、多様なアーティストに投資をしなくてはいけない。たとえ彼らが「カネにならなかったり、手っ取り早く稼ぐことができなかったとしても」だ。レーベルは、一夜にしてスターになるタイプではない黒人アーティストに充てられる予算を確保しておくべきだ。

「黒人を雇っても、売れるスターを見つけてこい、毎回1位を獲れ、と四半期ごとにプレッシャーをかけていては意味がない」とウィルソン。「黒人女性、黒人男性に自由を与えて、文化に貢献するような新しい声を探させるんだ」

ウィルソンもアナキンも、メジャーレーベルには人種的不平等の問題にただ大金を投じるだけではなく、自らのビジネスモデルを再考し、全面的な変革をして、黒人アーティスト、黒人従業員をより公正に扱ってほしいと願っている。しかしヴァーチュは、現在のメジャーレーベルには変化する力などないだろう、と考えている。

「大手レーベルは、変革より廃業をすべきだと思います。規模や収益が大きくなればなるほど、企業は人間を搾取するようになる」とヴァーチュは指摘する。「これは警察についての話と同じです。もちろん警察が変わってくれればすばらしいし、ひとつの前進です。だけど僕は最終的に、警察なんてなくなればいいと思っているので」

This article originally appeared on VICE US.