敏腕プロデューサー マイク・ディーンが語る、カニエとトラヴィスと大麻

カニエ・ウエストと長らくタッグを組み、グラミー受賞歴もある敏腕プロデューサーが大麻を吸いながら答えてくれた、ロックダウン中のZoomインタビューをお届けする。
Ryan Bassil
London, GB
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
敏腕プロデューサー マイク・ディーンが語る、カニエとトラヴィスと大麻
Photo: James Banasiak

マイク・ディーンをご存じだろうか。英国のサッカー審判員のマイク・ディーンではなく、テキサス出身のマルチプレーヤーのほうのマイク・ディーンだ。現在55歳の彼は、2007年のアルバム『Graduation』以来、すべてのカニエ・ウエストの作品を手がけ、フランク・オーシャンの『Blonde』と『Endless』、2 Chainzのアルバム数作にも参加している。その他関わったアーティストは、トラヴィス・スコット、ビヨンセ、ヤング・リーン、キッド・カディ、マドンナ、UGKなど、枚挙にいとまがない。

COVID-19によるロックダウンで自由な時間が増えたひとは多かったと思うが、このグラミー受賞歴のある敏腕プロデューサーもそうだった。そんな自由時間で彼がしたことといえば、いろいろな実験をしたり、ハッパを吸ったり、そしてアルバム『4:20』をリリースしたり。本作は、大麻に関連深い時間として世界的に知られている〈4時20分〉を冠したタイトルから連想できるように、宇宙的なシンセやリフに溢れた、実にサイケデリックな作品となっている。インスタライブで披露したジャムセッションの音源をベースにした全28曲入りの『4:20』は、ロックダウン中に生み出された大麻関連プロジェクトで、ピザや、ジョイントを吸うキリストを含まないものとしては初となるだろう。

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私はマイクにZoomでインタビューをし、このアルバムについて、そして彼がこの数十年いっしょに仕事をしてきたアーティストについて、さらにスカーフェイスなど90年代を代表するラッパーたちと過ごしたキャリア初期の話を聞く…つもりでいた。しかし終わってみれば、大麻についての話がほとんどで、しかも中盤にはインタビューが中断されるアクシデントもあった。まあ、これぞ長時間のビデオ通話インタビューの醍醐味だろう。ぜひご覧あれ。

──今も吸ってらっしゃいますが、目覚めてすぐ大麻を吸うって感じですか?
マイク・ディーン:ああ、もちろん。これは今日2本目のジョイント。

──普段は1日にどれくらい吸うんですか?
さあ。8〜12本くらいかな。

──まさに『4:20』というアルバムタイトルのとおりですね。本作は気の狂いそうなトリッピーなサウンドですが、もともとどういう意図でつくられたのでしょうか。
真にピュアでシンプルなものをつくりたかった。いや、そこまでシンプルじゃないか(笑) オシレーターを何個も使う代わりに、ベースとリードを弾いた2台のMoogにオシレーター1個しか使ってない。よりピュアな音にした。

──スタジオに入ったときには、どういう方向性、ジャンルにするか既に決めていたんですか?
いや即興だよ。毎日5分スタジオに入って、ライブストリーミングをつないで、サウンドについてツイートして、その日はどんなテンポで行こうか決めて、リフを思いついたらそれを中心にいろいろ試したり、あるいは全くの出たとこ勝負の場合も。

──即興とは思えないクオリティですね。
面白いよね。プロダクションやドラムを加えたのは短めの3曲だけで、あとは全部ライブセッションそのままだから。オーバーダブもポスプロもしてない。

──ちなみに制作時は何を吸ってました?
えーと、ジェットフュエルとビスコッティ。

──僕はジェットフュエルは試したことがないんですが、ビスコッティなら英国でも手に入ります。別の音楽をつくったりレコーディングしたりするときは、別の品種を吸うことで作業効率が上がったりします?
クリエイティビティに関しては、ジェットフュエルは万能だよ。疲れを感じないし。気分を安定させてくれる。

──あなたがいっしょに仕事をしてきたひとたちの中で、特に大麻フレンドリーだったのは?
うーん… デヴィン・ザ・デュードかな。あと2 Chainz。トラヴィス(・スコット)もかなり吸うね。

──ブラントを巻くのが上手いのは?
俺かな? いや、もうブラントは3ヶ月くらい前にやめたんだ。

──あなたがこれまで手がけてきた作品について聞かせてください。あなたはこの数十年、実に幅広いアーティストたちと仕事をしてきました。プロデュースを手がけるアーティストの頭の中に入り込み、彼らが生み出したいと思っているものを理解するために、あなたはどんなテクニックを使っているのでしょう?
とにかくたくさん聴くこと。アーティストの望みを理解しつつ、自分自身の理想の方向へと彼らを導いてあげること。でもとにかく彼らのしたいことにひたすら注意を向けることが大事だね。

──アーティストのヴィジョンに従いながら、優しく背中を押してあげるというイメージでしょうか。あなたが自分の意見を押し通すこともありましたか?
あったね。50:50って感じかな。俺は俺の好きなように進めたいけど、アーティストは納得していない、みたいな。そういうときは押し通す。

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──実際、あなたの意見を押し通したからこそ上手くいった、っていう作品はありますか?
トラヴィスとはないね。彼は基本的にこちらの意見を受け入れてくれるから。でもカニエは…

[おそらくEメールの通知音が鳴り、マイクの声が薄れていく。彼はパソコンのスクリーンをじっと見つめている。気まずい沈黙が長く続く]

──あの、すみません…
[キーボードの音]ごめん、メールが来て。

──大丈夫です。
[さらにキーボードの音]ごめん、無礼で。

──[1分経過]
オーケー、失礼。

──先ほどの話に戻りますが、トラヴィスは何を言っても受け入れてくれるけど、カニエはそうじゃないと?
そう。カニエが決めたことに俺が反対する、ってことが結構ある。「Good Life」はその好例だよ。コーラスでコードが変わって別の曲みたいになるだろ? 俺が関わる前のコーラスは、ただヴァース部分が何度もループされてるだけで、変わりばえしなかったんだ。1〜2週間彼に電話し続けて、やりとりを繰り返した結果、俺の主張が採用された。クラシックになったろ。

──ですね。この曲はいまだに僕のモーニングソングです。あなたとカニエとの関係性は、この年月で変化してきました? 『Jesus Is King』と『Jesus Is Born』も手がけていますが、あなたが得意とするジャンルではなかったのでは?
そこは別に問題じゃなかった。単純にアルバムとして、クワイヤをミックスするのは良いアイデアだと思うし。彼の音楽の基礎だし。それにカニエは前に比べたらリラックスしてる(笑) 他人に任せるようになってるんだ。今、彼がどういうマインドなのかはわからない。『Jesus Is King』以来会ってないし。今の彼のマインドを知りたいね。

──『4:20』の次はコラボアルバムを計画してるということですが、本当ですか? 参加アーティストは? サウンドはどんな感じになる予定ですか?
最高の作品になると思う。俺がこれまで関わってきたアーティスト全員がこのアルバムに参加するって想像してみてよ。俺、トラヴィス、(キッド・)カディ、シェック・ウェス。彼は『4:20』の曲にも興味を持ってくれててうれしい。豪華版にしたいんだ。みんなに3〜4曲歌ったりラップしてもらったりして。そうすることでアルバムに強い命が宿ると思うし、注目も浴びるだろうし。

──ヤバいですね!
(The Weekndの)アベルにも参加してもらおうと思ってる。

──アーティストたちを結びつけることで、あなたは何を求めているのでしょうか。
そうやって何かにいっしょに参加してもらうことで、彼らを引き合わせることができるだろ。長らく会っていなかったひとたちを引き合わせたいんだ。俺はジェイ・Zとカニエが参加している曲を聴きたい。もし可能であればだけど。ヤバいと思うんだ。

──しばらくはツアーの予定はありませんが、過去のツアーの思い出があれば教えてください。あなたはカニエとトラヴィスのキャリアの大部分を、いっしょに過ごしてることになりますよね。
カニエに関しては、2010年から〈サンデー・サービス〉まで、すべてのライブに参加してる。キーボードとギター、あとここ6年はDJをやってるよ。とにかく楽しい。トラヴィスは、LAとNY、ヒューストンのライブに参加してるかな。コーチェラみたいなデカいイベントがあるときはね。

──それらのライブで特に印象深いのは?
カニエとのグラストンベリー、トラヴィスとのコーチェラは最高だった。あと、ジェイ・Zとカニエと出たハックニーフェスティバル(※BBC Radio 1’s Hackney Weekend)。俺、あの日の前夜に足の指を骨折したんだよ。〈Watch The Throne〉ツアーの最終日で、着地に失敗して親指の骨を(笑) 空港だった。みんなで溝を跳び越えてコンクリートの端っこに着地してたんだけどさ。

それは痛い! これでインタビューは以上です。ありがとうございました。

『4:20』はPlatoonから発売中。

This article originally appeared on VICE UK.