世界のポップスターが盗用する ダンスホールの現在

ドレイクから、ジャスティン・ビーバー、そしてタイガまでもが、ダンスホールを取り入れている。しかし、この音楽の文化的背景を追跡するのはより難しくなった。

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01 september 2016, 1:51am

今でもラジオをつければ、年頭にリリースされたあの曲が流れてくる。ミニマルな忌まわしさと、デジタルに誘発されたベースライン。空しく反響するシンセと一体となり、リアーナ(Rihanna)は、変幻自在にメロディーを宙に放つ。それもパトワ語、ジャマイカン・アクセントを使って。「Work」は、何の疑いもなく、ジャマイカから生まれたトラディショナルなダンスホールのリディムをベースにつくられている。ダンスホール・サウンドは楽器ではなく、主にデジタルプロダクションから生まれる。歌詞は、傲慢なのに悪びれる様子もなく、あからさまにセックスのパワーを公言する。そして現在、ストリートカルチャーの中心となったダンスホールは、全世界のクラブのフロアを先導中だ。ドレイク(Drake)から、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、そしてタイガ(Tyga)までもが、ダンスホールを取り入れ、いち音楽ジャンルとして、本当にクールな存在になっている。しかし、この音楽の文化的背景を追跡するのはより難しくなった。オリジネイターたちの力により、ダンスホールはグローバルな影響力を獲得したにもかかわらず、その過去は抹消されつつあるのだ。

レゲエは、ジャマイカン・ミュージックであるメントとスカに、アメリカからのジャズ、そしてR&Bの影響を受けて、60年代後半に生まれた。ラスタファリアンの文化と、解放への欲求、平和と自由を謳う歌詞とともに、オリジナリティー溢れるサウンドは、本国ジャマイカのみならず、世界中に広がった。しかし、80年代に入ると、マーケットに媚びはじめ、本国の人々は中指を立て始める。同時期、人民国家党の失政により、ジャマイカの政治、経済は混乱を極め、レゲエの硬派なスタイルや、ラスタファリズムの意識も時代に合わなくなった。ジャマイカの人々は、もっと自分たちに近く、気軽に音楽に触れたくなる。そこで生まれたのがダンスホール・レゲエ。踊れる「ダンス・ホール」と、大音量を生み出すサウンドシステムが、ジャマイカに新たなパーティー文化、そしてライフスタイルを築いたのだ。

そして21世紀に入ると、ダンスホールは新局面を迎える。ショーン・ポール(Sean Paul)が2002年にリリースしたアルバム『Dutty Rock』は、世界中のチャートを席巻。焼け付くようなビートと、ド派手なパーティー・スタイルで、世の恋人たちを熱くさせた。さらにショーン・ポールは、ビヨンセ(Beyonce)のチャート・トップ・シングル「Baby Boy」にも客演し、その人気を決定付けた。また、すでにジャマイカでは確固とした人気を誇っていたビーニ・マン(Beenie Man)も、アルバム『Tropical Storm』(2002)、『Back to Basics』(2004)の二作が世界的にヒットし、各国のメインストリームで成功を収めた。この二人の成功の布石は、90年代にあった。スーパー・キャット(Super Cat)、シャバ・ランクス(Shabba Ranks)などが、ダンスホールをメインストリームに紹介し、見事に世界の注目を盗むのに成功。スーパー・キャットは、ディディ(Diddy)、クリス・クロス(Kris Kross)、ノトーリアス・B.I.G.等とコラボレーションし、ヒップ・ホップにレゲエの魂を初めて吹き込んだ。シャバ・ランクスは、ヒット曲「Mr. Loverman」で、ダンスホール特有のセクシャルな歌詞とスタイルを大きく広めた。ダンスホールは、確実に21世紀へ向かっていたのだ。

そして現在。これまでと異なる時代が来た。一つの例として、イギリスの女性シンガーソングライター、ジョス・ストーン(Joss Stone)を挙げよう。R&Bからソウル、ブルース、ロックなど、様々なスタイルに挑戦してきた彼女が、初めてレゲエにアプローチしたアルバム『Water for Your Soul』が、2015年度ビルボード誌の最優秀レゲエ作品に選ばれてしまった。サウンドはさておき、この作品でジョス・ストーンは、パトワ語を取り入れている。パトワ語にまつわる問題は根深いのに、軽い気持ちでそれを音楽に取り入れるのはいかがなものか。軽薄なパトワ語使用が頻繁に起こると、女性の役割とセクシュアリティを再定義し、楽曲や歌詞、ライブ・パフォーマンスで努力を続けているSpice & Tifaのような女性ダンスホール・アーティストも埋もれてしまう。

これら、ジャマイカへの憧憬を作品化するアーティストの活動は、リアルなジャマイカの動きを曇らせてしまう。アルカライン(Alkaline)やマシッカ(Masicka)などのジャマイカ新世代ダンスホール・アーティストから、既に活躍しているヴァイブス・カーテル(Vybz Kartel)、モバド(Movado)やアイドニア(Aidonia)まで、本国には素晴らしいムーヴメントがある。そんななか、オリジネイターのひとりであるミスター・ヴェガス(Mr. Vegas)は、ダンスホール色に溢れたアルバム『Views』をリリースしたドレイクに牙を剥いた。

「ドレイクは、あのアルバムに参加したジャマイカのアーティストをきちんとクレジットしていない。ダンスホール・レゲエに対するリスペクトが足りない」

実際、このアルバムには、ボーカルで参加したポップコーン(Popcaan)やビーニー・マンのクレジットはあるものの、「featuring」としては記載されていなかった。また、SNS上でも、多くのジャマイカンやカリビアンが、ヴェガスの意見に賛同している。

カリブサウンドと、現在のシーンを最も顕著に現しているのが、そのドレイクの『Views』だ。パトワ語が使われていた「Controlla」、「One Dance」、「Too Good」などを含め、アルバムの政治性に関する議論も巻き起こった。ドレイクが育ったトロントにおけるジャマイカ移民の多さから、島の文化に慣れ親しんでいた、と推測すれば、その影響を反映した作品と、結論づけるのは簡単である。しかし、これまで、音楽業界ではジャマイカン・ミュージックからの影響が軽んじられ、無視され、利益のために利用されてきた歴史がある。実際にドレイクも、「ジャマイカ・シーンの構造を真似た」と語っている。今作には、その裏にある政治性や歴史を考えず、ジャマイカなら売れるから使ったのでは、という批評も多いが、それも否定しきれないはずだ。

もちろん、新しい音楽をつくるのに、他ジャンルの要素を拝借してはいけない、というわけではない。ただ、少なくとも、人生をかけて、はじめにその音を生み出した先達がいた事実を忘れてはいけない。既存のスタイルをリメイクするのではなく、新しい音をつくるべく、必死に取り組んだアーティストが過去にいた、と認識するべきだろう。真のアーティストとは、その才能を搾取されるのも厭わず、出会ったこともないオーディエンスに、自らの音楽やカルチャーを晒せる人間だ。確かに、ジャンルを超えたコラボレーションは新しいスタイルへの近道となる。自国で認められようともがいているアーティストは、オリジナルに敬意を払わず、潤沢なリソースにアクセスし、他人のアイデンティティをいくらでも寸借する。そんなシーンで、真のアーティストも競い合わないといけない。そうこうしているうちに、本物のアーティスト、オリジネイターたちは忘れられてしまう。今現在「クール」なアーティストは、真摯に向き合ったこともないジャンルを利用し、レジェンドたちの遺産を盗用し、継承者として英雄になっているだけなのだ。

ジャマイカ人たちは、音楽や文化を植民地化された犠牲者、と哀れんでもらいたいのではなく、自らのカルチャーからうまれた音楽のアイデンティティを正しく表現して欲しいに違いない。そうすれば、ジャマイカン・ミュージックがすぐに使い捨てられたり、ただの新しいブームでしかない、という印象は無くなるだろう。活気あるカルチャーを共有し、門外漢がそれを吸収するのは悪くない。しかし、いかにしてそのジャンルが生まれたのか、という豊かな歴史を考えると、単純な音楽的トレンドとしてもてはやされるだけのカルチャーに貶める動向に防御反応があるのは、全くもって正しいのだ。

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