コロナ危機で、米国の3分の1の若者が職を失っている

新型コロナウイルスのパンデミックを抑制するための大量レイオフ(一時解雇)で、特に大きく影響を受けているのは米国の18〜34歳の若者たちだ。
コロナ危機で、米国の3分の1の若者が職を失っている
24歳のエルサルバドル出身の不法移民フアナと、彼女の夫で23歳、ホンジュラス出身のサウール。2020年3月25日、コネチカット州ノーウォークにて。新型コロナウイルスのパンデミックにより、フアナは掃除婦としての仕事を、サウールは塗装工としての仕事を失った。不法移民は失業手当も受け取れず、連邦議会が可決したコロナウイルス対策法案に基づく資金援助も受けられない。(PHOTO BY JOHN MOORE/GETTY IMAGES)

23歳のエミリオ・ロメロは、無職になったことについて複雑な思いを抱いている。大学を卒業したばかりの彼にとって金銭的には大きな痛手だが、過去に二度肺炎で入院したこともあるため、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが爆発的に拡大している今、レストランでの労働は彼にとって心安いことでははなかった。

「レストランで働けば、当然多くのひとや汚れたお皿と接触することになる」とロメロ。「正式にレイオフ(※再雇用を前提とした一時解雇)される前からずっと、あらゆる物事の進め方が僕の安全のためにはよくないんじゃないかとすごく不安だった」

彼がサンディエゴのリトルイタリーのレストランで受付係として最後に働いたのは3月16日。同日、サンディエゴ市はすべてのレストランにテイクアウトとデリバリーのみの営業に移行するよう命じた。以来、カリフォルニア州の新型コロナ感染者数は、現地時間の4月11日午後10時時点で2万2409名と、3月16日時点の598名から約37倍にも増加している。もし明日から再雇用だと言われたとしても働きたくはない、とロメロはいう。

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とはいえ、貯金額も心配だ。今彼の銀行口座には、1ヶ月分の家賃と支出を賄える程度の額しかない。彼は大家に、実家に帰る間、賃貸契約を解消できないか尋ねてみようか考えているという。ただ、3月27日に成立した2兆ドル(約200兆円)の景気刺激策の一環として給付される小切手があれば、今の家に暮らしながら不動産免許試験の勉強ができる、と期待しているともいう。しかし不動産業界も、新型コロナによる経済危機に大きな影響を受けている業界のひとつだ。

パンデミック対策が仕事を奪い、深刻な景気後退に繋がることで、特に大きな影響を受けているのはロメロのような若年成人たちだ。3月30日に実施されたニュースサイトAxiosと調査会社Harris Pollの合同調査によると、18〜34歳の回答者の31%が、新型コロナ流行を原因としたレイオフ、一時的休職状態にあると答えた。いっぽう、35〜49歳でそう答えたのは22%、50〜64歳では15%に留まった。

4月2日、米国における3月第4週の失業保険の申請件数が前週の2倍の660万件以上に上ったと発表されたが、前述の調査データは失業保険の申請件数を考慮に入れていないことをHarris PollのCEOジョン・ガーズマは強調した。彼はこの数字について、「18〜34歳のひとびとはいっそうの痛みと混乱を経験していることを示唆している」と語る。

いっぽう、新型コロナのリスクが明らかになるにつれ、多くの若者にとって、経済的な不安よりも、健康への不安のほうが大きくなりつつある。それは自身の既往歴にかかわらない。この数ヶ月、新型コロナで重症化するのは主に高齢者や持病のあるひとだ、という言説が流布されてきたが、実際は若者にも危険を及ぼし、呼吸不全のような深刻な症状をもたらすことがわかっている。

「たとえ高齢者に比べれば軽症で済むとはいえ、感染すれば若者も相当のコストを払うことになることが、より多くを学ぶにつれ、明らかになっていくでしょう」と語るのはカリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California-San Diego)の健康・労働経済学者、ジェフリー・クレメンスだ。「ひとびとが働きたいと思うか否かには、ある程度はその仕事の内容以外のことも関わってきます。たとえば、深刻な健康被害、身体へのリスクがあるかどうか、などです」

経済的な打撃は甚大だが、「疫学者と経済学者の見解は、少なくとも短期間は人との接触を避けることが必須だということで一致しています。どちらの面からみても、感染者数の増加を避け、充分に減少したといえる理想のレベルまで数を抑えるためです」と説明するのは、トロント大学(University of Toronto)労働経済学者で、マサチューセッツ州ケンブリッジに本拠を構える全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)の研究者、フィリップ・オレオプロスだ。

長期間の失業状態や低賃金に加え、長く続く不景気の期間に労働市場に参入することで、死亡率上昇など健康リスクが高まる、と不景気と賃金について考察した論文を共同執筆したオレオプロスは指摘する。

「それを考えると、夜も眠れなくなります」

1980年代初頭の不景気についての研究で、当時労働市場に参入したひとびとは、30代後半以降から死亡率の高さが顕著になると判明している。その死因は、肺がん、肝疾患、薬物乱用などだ。

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24歳以下の若者約2000万人が、パンデミックの打撃を受けた経済状況のなか就職活動をする、または仕事をすることになる、と語るのはUCLAの経済学者で前述の論文の共同著者、ティル・フォン・ワハターだ。

経済学者たちは、パンデミックがもたらした不景気がどのように若者に影響を及ぼすかを予言するには時期尚早だという。経済活動がどれくらいの期間絶たれてしまうのかは誰にもわからないし、労働者にまつわるデータは集まっている最中だ、と指摘するのは、カリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院(UC-Berkeley’s Goldman School of Public Policy)内に設けられた〈Berkeley Institute for Young Americans〉の学部長、サラ・アンジアだ。

しかし、米国内の失業保険申請は3週間で1600万件を突破し、すでに過去最高を記録。アンジアは、特に外出禁止令によりいちばんの打撃を受けた娯楽・ホスピタリティなどのサービス業界で働く若者は、これから数年、この不景気の影響を受け続ける可能性があると述べる。

今は多くの若者が、新型コロナウイルスの災禍が過ぎ去るのを待って、家にこもるほかない状態だ。

サンタバーバラ・シティ・カレッジ(Santa Barbara City College)に通う22歳のクイン・スティーブンスは、ホテル内レストランでの給仕の仕事を4月頭に失った。上層部からは以前より、新型コロナが心配な従業員は入っているシフトを削ってもいい、と言われていたが、それでも彼は働き続けていた。授業料を貯金するという目的があったし、当時はまだ、パンデミックの深刻さは実感していなかった。

しかし考えが変わった、とスティーブンスは語る。「今は家にこもるようにしています。自分の行動がいかに周りに影響するかを理解したので」。また彼は、自分以外の若者も同じようにウイルスにより「かなり甚大な影響を受けている」という。

「でも外出したりこれまでと変わらない生活を続けることは、少なくとも今は、大きな過ちだと思う。それによって多くのひとを死に至らしめてしまう可能性があるから」


本稿は、California Health Care Foundationの独立した編集権を有するサービス〈California Healthline〉を発行するKaiser Health Newsによって執筆された記事です。

This article originally appeared on VICE US.