©2018 - Maneki Films - Wild Bunch -Arches Films - Gapbusters - 20 Steps Productions - RTBF (Télévision belge)

エヴァ・ウッソン監督インタビュー。『バハールの涙』で描いた女の戦場。

2014年8月3日、IS(イスラミックステート)の戦闘部隊が、ヤズディ教徒30万人が暮らすイラク北部のシンジャルに侵攻。逃げ遅れた男性は殺害、女性は性奴隷にされ、子供たちはIS戦闘員の養成所へ送られた。過酷な現実から立ちあがり、自らの尊厳のためISと戦った女たちのリアルストーリーから着想を得て、映画『バハールの涙』はつくられた。監督のエヴァ・ウッソンに話を聞いた。

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18 januari 2019, 12:10pm

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この映画の準備の段階で、ヤズディ教徒の女性に取材したそうですね。ISによってレイプされたり肉親を殺されたりといった悲惨な体験をした人たちです。彼女たちに心を開いてもらうために心がけたことはありますか?

私は自分が無遠慮になることにとても恐怖心を抱いていました。トラウマを抱えた人が話をしたがらないのはわかっていました。拉致から脱出した女性たちから話を聞くのですから、私はセンセーショナルな事実のディテールにズケズケ入り込まないように気をつけました。そして相手が話したくなさそうだったら、それ以上は聞かない。沈黙を尊重するのも大事なことでした。とくにレイプについては──。イスラム教は姦淫を禁じていますが、ISは一方的に「婚姻関係」を結ぶことでレイプを合法化しました。そのため、脱出後に女性たちが被害に遭ったことを告白するとISのメンバーと結婚したのと同じにとられる場合があるんです。そういった事情を酌みとる必要はありました。

取材したなかで、とくに印象深かった人物をひとり挙げていただけますか?

イラク北部クルド自治区シャリアの難民キャンプで会ったゼリという女性の証言に心を打たれました。彼女は14回売られて何カ月も奴隷の生活を送り、そのあいだに男の子を出産しています。本作のバハール(ゴルシフテ・ファラハニ)とラミア(ズュベイデ・ブルト)を足したようなエピソードをもった女性でした。

本作に登場する女性兵士についてお聞きします。「異教徒め」と罵ったISの兵士に対し女性兵士のひとりが「私はムスリムだ」と言い返すシーンがあります。女性兵士のすべてがヤズディ教徒というわけではないんですね?

バハールの戦闘部隊はヤズディ教徒の女性で構成されています。ただ、舞台となったイラクのクルド人自治区北部のゴルディンにはクルド人武装勢力、自治政府軍もいて、それら3つが同居しているという複雑な状況です。あの台詞には、皆がひとつになって戦うことの難しさを込めたつもりです。言ったのはベリヴァン(エヴィン・アーマドグリ)という女性兵士で、映画の冒頭で戦場ジャーナリストのマチルド(エマニュエル・ベルコ)がヘリコプターで現地に降り立ったときにふたりは会話しています。彼女はシリアからやってきた兵士で、マチルドとは顔見知りだったという設定です。

映画のなかでバハールと女性兵士たちがうたう歌は、実際のクルドの女性兵士の歌ですか?

いいえ。歌詞は私が書いて、曲はこの映画の作曲家につくってもらいました。歌詞のはじめの数行は取材中に聞いた歌から拝借し、クルドの歌をたくさん聞いて曲調もできるだけ近いものにしょうとしました。映画に関わったクルド人スタッフからもお墨付きを得ています。

あのシーンは胸に迫るものがありました。

そう言っていただけて感動です。物凄く重要なシーンだし、いま観てもあそこでいちばんグッときます。メッセージを込めた歌を集団でうたう文化は、私の国(フランス)にはありません。だからこそ、あの歌の強さに私は惹かれたんだと思います。

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戦場をリアルに描くためにどういう方法をとりましたか?

シナリオを書いているときから映画の完成までのすべてのプロセスにおいて、さまざまな人たちにアドバイスを求めました。フランス人の戦場ジャーナリストのグザヴィエ・ムンズはそのひとりで、私は1年にわたって彼から話を聞きました。また、クルド人の元兵士のサムからは、武器の種類や扱い方から、兵士たちが夜寝るときに銃をどこに置くかといったことまで、戦場にまつわるすべてを教わりました。
映画の冒頭に3人の戦場ジャーナリストが出てきますが、そのひとりをグザヴィエ自身が演じています。撮影の初日、彼はサムに言いました。「なんだかちょっと胸騒ぎがする。この撮影現場にいるとまるでクルディスタンにいるような気分になってしまう」と。サムは、「君もか。僕はいま、無意識に地雷を探していた」と答えたそうです。実際に戦地にいた彼らがそんなふうに反応したことに私は凄く驚いたと同時に、安堵もしました。現実に即した形で戦場を表現するのにひとまず成功したわけですから。

役づくりについてお聞きします。ゴルシフテ・ファラハニは、どのようにして女性部隊の隊長に変身しましたか?

ゴルシフテはかなりの美人ですから、過去の出演作では美しさに価値をおいた役を当てられがちでした。だけど本当の彼女は山の一軒家に住んでいて、草花を植えて土をいじったり、自然のなかを短パンとスニーカーで歩きまわったりするような人。多くの人が夢想する彼女のイメージとはかけ離れているんですね。武器の扱いも上手ですから女性兵士の役にうってつけで、私は彼女に対して何か演出しなければならないとはまったく感じませんでした。もうできていたんです。掲げられたISの旗をバハールが捨て、「自由クルディスタン万歳!」と叫ぶシーンがありますね。彼女は私に何も相談しないまま、いきなり4メートルの鉄塔を登ったんです(笑)。あれはシナリオにはありません。

実在した隻眼の戦場ジャーナリスト、メリー・コルヴィンと、ヘミングウェイの3番目の妻で従軍記者のマーサ・ゲルホーンをモデルにしてマチルドというキャラクターをつくったそうですね。この役にエマニュエル・ベルコを起用したポイントは?

エマニュエルは自分のなかに同居している力強さと脆さを外に出せる女性で、私が追い求めていたマチルド像にぴったりでした。これまで私が映画のなかで見た戦場ジャーナリストは、みんな歳をとっていて、ちょっとシニカルなところがありました。ところが今回、グザヴィエをはじめ、何人かの戦場ジャーナリストたちから話を聞くと、そういったイメージとかけ離れていて驚かされました。ちょっとおめでたく感じるほど、彼らは理想主義的な考えの持ち主だったんです。だから私は、戦場ジャーナリストをそんな人間味溢れる存在として描きたかった。

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バハールの部隊の女性兵士が目隠しをしたまま銃を扱う訓練をしているシーンを見て、女性でも男性と同じように優秀な兵士になり得るという当たり前の事実に気づかされました。

兵士に必要な技能や勇敢さにおいて、女性と男性に違いがあるとは思いません。人類の歴史をみると、女性は戦ってきた事実があります。古代にも女性の戦士はいましたし、19世紀の西アフリカには女性だけで構成された戦闘集団(ダホメー王国の女性軍団「アマゾン」)があり、第二次世界大戦のソ連軍には多くの女性兵士がいました。だけど、それが映画のなかで描かれることは、ほとんどありませんでした。大衆的な文化のなかで、生命を与えることも奪うこともできる存在として女性を描くことは──観るほうもですけど──多少の恐怖心がともなうと思うんです。
この映画で女性たちが銃をとった理由は、性欲を満たすための道具のように扱われ、踏みにじられた尊厳を取り戻すためです。日本の皆さんにとってデリケートな問題だったら申し訳ないのですが、いままで取材を受けてきて、戦時中の慰安婦と比較してお話になる方はいませんでした。私はそこをもっと考えるべきだと思います。

最後に宗教についてはどのようにお考えですか?

私は無神論者です。私は小さいころからフランスのカトリック文化のなかで育ちました。教師だった私の両親は、7世紀から10世紀にかけての教会がどれだけ酷かったかをよく話してくれたものです。でも、この映画を観た人には、特定の宗教を悪く言わないでほしいです。私が伝えたかったのは、すべての宗教は家父長制的な世界を維持するために存在し、人々を抑圧するものだということなんです。

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映画『バハールの涙』は、1月19日(土)より、新宿ピカデリー&シネスイッチ銀座ほか全国公開。

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