〈人食いバクテリア〉とは何か。発見した臨床医が語る、その実態

短時間のうちに体の壊死を引き起こす〈人食いバクテリア〉。国内でいち早くこの症例を発見し、論文を発表したのは清水可方医師だ。清水医師はどのような経緯でこの細菌を発見し、対峙してきたのか。臨床の現場から発見当時を振り返る。

by T.I
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maj 18 2018, 10:07am

※この記事には、気分を害する恐れのある写真が含まれていますので、閲覧にはご注意ください。

短時間のうちに体の壊死を引き起こす〈人食いバクテリア〉。その原因が劇症型A群レンサ球菌という細菌であることは感染症の専門家、秋山徹氏に聞いた通りだ。では実際の絵臨床の現場ではどのような対策が講じられてきたのか。国内でいち早くこの症例を発見し、論文を発表した医師がいる。長野県の岡谷市民病院に勤める清水可方医師だ。当時は千葉県の病院に勤務していた清水医師は、どのような経緯でこの細菌を発見し、対峙してきたのか。

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最初の患者のことを教えてください。

1992年6月4日の夕方のことです。当時、私は千葉県旭市の旭中央病院に勤めていたのですが、44歳の男性が救急外来にやってきました。来院時は発熱と喉の痛みを訴えたので、ウイルス性咽頭炎と診断して抗生剤を処方して帰宅させました。翌朝、足の痛みを訴えて再び来院し、再度診察したところ、前日にはなかった暗赤色の発疹のようなものがあったんです。

同日午後から右足が壊死し始めました。皮膚組織の内側に筋肉を覆っている筋膜という組織があるのですが、その筋膜の壊死、〈壊死性筋膜炎〉が起きていた。港町である銚子近辺という旭市の土地柄を考慮して、生の貝類を食べることで発症するビブリオ・バルニフィカスという感染症を疑いましたが、どうも違う。ともかく壊死が始まっているので右足の切断を余儀なくされました。1.5時間ほどの外科手術を終えると反対の左足にも〈壊死性筋膜炎〉が起きていた。また慌てて切断です。

A群レンサ球菌による壊死性筋膜炎は進行が早いことも特徴だ。写真左は午前6時時点。写真右は正午時点。壊死が腿全体に広がっている。(提供:清水医師)

術後、切断面を検査すると、〈レンサ球菌〉が検出されました。レンサ球菌による壊死は創傷部から入ることが一般的なので、当初は両下肢に偶発的に同時に菌が侵入し、壊死を起こしたと考えざるを得ませんでした。

にも関わらず、入院4日目には両手、両耳、鼻にまで壊死が飛び火したんです。通常〈壊死性筋膜炎〉は連続して広がります。つまり、右膝で始まった壊死は腿から鼠径部へと拡大していくはずなんです。非連続に壊死が拡大することはない。そうなるとこれは血中にレンサ球菌が入り込んでいる、つまり〈敗血症〉の疑いが強い。ですが、レンサ球菌が血中に入る症状は今まで報告されていませんでしたし、教科書にも載っていなかった。私は麻酔医ですので、感染症の専門家ではありません。なぜ今まで誰も気づかなかったのか、今でも不思議です。

なぜ不思議だと感じているのですか?

敗血症による多臓器不全の95%がグラム陰性桿菌によるものです。わかりやすく言うと、大腸菌ですね。大腸菌が何かの拍子に血流に乗って悪さをすることが多い。残りの5%は髄膜炎などの日本ではほとんど見られない感染症です。レンサ球菌による敗血症症状は報告されていなかったんです。

その後、最初の患者は?

残念ながら亡くなりました。死後、病理解剖すると脳や睾丸、膵臓、腎臓など大半の臓器がやられていました。多臓器不全を引き起こしていたんです。メディアは〈人食いバクテリア〉という名前や、壊死している様子などショッキングな症状ばかりを取り上げますが、本質はそこではありません。劇症型A群レンサ球菌、海外ではTSLS(streptococcal toxic shock-life syndrome)と呼ばれていますが、名前の通り、ショック症状が起きるのが特徴です。突発的に起きる敗血症が原因で多臓器不全を起こすのがその本質だと考えています。ですから、壊死が起きず、いきなり心停止を招くこともあります。私の感覚では壊死性筋膜炎が起きていたのは症例の50%程度です。〈突発的〉とは外傷などの明らかなトリガーがないことを意味します。通常のA群レンサ球菌は創傷部から侵入すると考えられていましたから。その後も複数例、同様の症状を発見したので、93年に論文として学会に発表しました。

この患者は左足に壊死性筋膜炎が起きている。外見からはわかりにくいが、右足に比べて腫れ上がっているのがわかる。(提供:清水医師)

学会の反応は?

感染症が専門ではない麻酔医だったこともあり、〈嘘つき〉呼ばわりされました。血中に入り込んだ菌の画像を説明したところ、「死体の血中写真を出してるんだ、死後に免疫が低下して菌が繁殖した状態の画像だ」と言われました。もちろん存命中の画像なのですが、案の定、学会が大混乱になるほどの騒ぎでした。

確認ですが、レンサ球菌自体は珍しくはないんですよね?

そうです。レンサ球菌自体は誰が保有していても不思議ではありません。A群レンサ球菌による咽頭炎などは小児科ではよく知られています。ですが劇症型になる理由は解明されていない。ある患者の家族を調べたところ、家族全員から同種のA群レンサ球菌が発見されたのに、劇症化していないケースもありました。つまり菌の保有者になんらかの要因がある可能性があります。その要因はまだわかっていません。当たり前ですが人体実験が認められていない以上、臨床段階では、発症した患者を個別に分析していくことしかできません。

最初に症例が千葉県に集中したことから千葉県の風土病だとされたそうですね。

確かに私が勤務していた病院で多くの症例が見つかったのは事実です。ですが、これには理由があります。実は最初の患者さんが千葉県の公務員で、来院する直前に役所の上層部と一緒に海外に行っていたんです。A群レンサ球菌は空気感染するので、役所の上層部が「自分たちも感染したかもしれない」とパニックになった。そこで対策委員を立ち上げました。対策と言っても、講じた対策は「不審な死」を報告することです。すると今まで病院に運ばれて、すぐに亡くなったケースは〈急性心筋梗塞〉や〈原因不明死〉などで処理されていましたが、調べてみると劇症型A群レンサ球菌だったことがあったんです。

前出のケースとは別ですが、とある患者は朝4時に激しい腹痛で失神してしまい病院に連れてこられたのですが、運び込まれて15分後に心臓が止まってしまった。通常であれば〈原因不明の死〉や〈急性心筋梗塞〉と片付けられるところですが、病理解剖してみると人食いバクテリアに侵されていた。つまり、現在、感染者数が増えている背景には医師の間で認知が進んだことで、〈不審な死〉として処理するのではなく、術後に検査や報告がきちんとあがる仕組みが出来上がったことが一因でしょう。ただし、感染者数については、実は、2000年前後にパタっと止んだ時期があります。A群レンサ球菌のトレンドが変化することが要因でしょう。

トレンドの変化というと?

A群レンサ球菌の周囲にある〈M蛋白〉という棒状の物質です。これが人間の免疫をかいくぐるのですが、M蛋白の〈型〉は地域や年月によって変わります。

菌の周りにトゲのように生えているのがM蛋白(提供:清水医師)

病気のトレンドが変わることはしばしばあることです。劇症型ではないA群レンサ球菌の感染症のひとつに〈猩紅熱〉がありますが、これは18世紀までは治る病気でした。ところが19世紀半ばに突如、致死率30%の重病になりました。日本でも明治維新以降、法定伝染病に分類されていましたが、昭和以降は再び治療しやすい病気になりました。菌や症状にもトレンドがあるんです。

どのように防ぐことができるのでしょうか?

早期発見に尽きます。特に初期症状として発熱、強い全身倦怠感、低血圧が見られます。筋痛は特徴的で「運動後の筋肉痛」にも似た症状を引き起こします。いまだになぜ〈劇症化〉するかについては解明されていません。研究機関の頑張りを待つしかないのが現状です。

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