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メタルで分かる現在のグラミーと紅白歌合戦の日米差

2015年。今年もグラミーはやって参りました。だからこそとかくメタルに優しいVICEの音楽チャンネルNoiseyはこんなコラムを掲載しました。

私の姪っ子は安室ちゃんのファンなのですが、年末になるといっつも「なんで安室ちゃんが紅白に選ばれないのよ!」って怒っています。「いやいや、もうそういうのとは関係ないとこでやってる人でしょ」と言っても、彼女の憤慨は一向に収まることはありません。そこで思ったのが、紅白やレコ大、ってのは一般的にはまだまだ評価の大きな大きな重きになってるのか~、ってこと。ヤフー!とかで「和田アキ子なんでまた選ばれる!?」とか「aiko、落選で悲しみのツイート!」なんてニュースが上がるのも、そんな権威がたっぷり残っているからなのかもしれませんね。紅白もレコ大も、あと日本アカデミー賞とかも「ああ、芸能界の話ね。全く関係ない話でしょー」と意識しなくなった日本のこっち側の人たち。「なんでトーフビーツが選ばれないのよ!」って怒るファンの方は皆無だと思いますしね。

さあそこでアメリカ。もちろん「こっち側の人たち」は「グラミーなんてねぇ~」というスタンスなのですが、それでも確実にチェックはしてるんです。いくらグラミーが気にくわなくても、納得させるチョイスを最低限は期待しているワケで。例えばちょっと前ならニルヴァーナ、ここ10年でもグリーン・デイとかアーケイド・ファイヤーとかボン・イヴェールなんかが獲ったりしてね。なのにスピーチでは暴言吐いたり、受賞式にも来なかったり。「あはは!最高!ポカーンとしてるセレブの顔ったら!」とは、テレビ見てる「こっち側の人たち」。グラミーをアンチテーゼとして楽しんでる感もあると思うのです。

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さあ、そして2015年。今年もグラミーはやって参りました。だからこそとかくメタルに優しいVICEの音楽チャンネルNoiseyはこんなコラムを掲載しました。二本まとめてご紹介。われらがジャパーンはこんなこと書ける状況にはなりませんね。ちょっと羨ましいコラムなんです。

マニアックなデスメタルバンドEXECRATIONがノルウェーのグラミー賞を獲得

スカンジナビア地域においてエクストリーム・メタルバンドは本当にビックリするほどポピュラーな存在だ。メインストリーム級の反響や、彼らへのサポートは他国・他地域とは全く比べものにならない。伝統的なスウェーデンのデスメタル、ノルウェーのブラックメタルは、このジャンルで最も敬愛されている存在だし、更には挑戦的で激しい新世代のメタルバンドもガンガン生まれ、彼らのアルバムは常にトップチャートの常連。決定的だったのは、ノルウェー外務省が文化や産業への理解を深めるように、とブラックメタルの歴史を学習するよう外交官に命じたんだから!これほどまでに「メタルに寛容な国」は絶対に存在しない。そして年が明けて早々に起きた事実が更にそれを証明している。

われわれが「アトモスフェリック・ドゥームのテイストを多分に加えたスラッシーで複雑な非の打ちどころのないデスメタル」…と称賛したバンドEXECRATIONがアルバム『Morbid Dimensions』で、ノルウェーのグラミーにあたるSpellemanprisenでメタル部門の最優秀賞を獲得した。過去にもMAYHEM、DIMMU BORGIR、ENSLAVED、KVELERTAKといった強力な面々が受賞してるんだけど、投票委員会を仕切った人物は、メタル・コミュニティの動向を確実に理解しているのは明らか。

ここでちょっとした問題提起のために、米国グラミー賞のハードロック/メタル部門の受賞者と比較してみよう。BLACK SABBATH (2014)、IRON MAIDEN (2011)、JUDAS PRIEST (2010)、METALLICA (2009)、SLAYER (2008)、といった具合。まあ、悪くないが、問題は受賞作をどう考えるかだ。Spellemanprisenが1972年の開始以来、自国アーティストが新しく発表したエキサイティングかつ画期的な作品にスポットライトを当てているのに対し、グラミーは無難なチョイスに終始し、名声の確立したレジェンドが入れ替わるだけ。新鮮味のない栄光を与えることに満足しきっているようだ。それらのアーティストは明らかに全盛期を過ぎていて「安パイ」としか見られていないのだ。

2015年のグラミー・ベストメタル・パフォーマンス部門のノミネートは、ANTHRAX、MASTODON、MOTORHEAD、SLIPKNOT、TENACIOUS D…と、今回も酷くはないけど、唸るような面子でもない。とにかく、ことメタルに関してはグラミーには完全に意味がないということ。しかしYOBやPIG DESTROYER、MUTILATION RITESといったバンドが我が国最高峰の音楽賞にノミネートされるところを想像するのは悪くない。むしろ楽しい。そんな場面を思い描いているティーンエイジャーもいるだろう。んなこと絶対にないけど。

兎にも角にもEXECRATION、おめでとう!

喜びも束の間、その一ヶ月後…な、なんと、TENACIOUS Dがグラミー賞を獲得してしまった

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ひとつはっきりさせておこう。やっぱグラミー賞は意味がなかった。スターが大勢集まる煌びやかなビッグイベントではあるが、音楽業界、エンターテイメント業界のライター、たくさんのセレブゲスト、そして一晩中Twitterで議論しなくては気が済まない連中以外には全く関係がない。メディアが発信する箇条書き情報や、自分のエゴをふくらませるのにはいいかもしれないけど、ホント、それだけのことである。しかしほとんどの音楽ファンはそれでも、グラミーが気にくわなくても、理にかなったチョイスをすることを最低限期待している。影響力があって、文化的にも意義のある人気アーティストが賞を獲る…それが普通だろう。

しかし毎度のことながら、メタルファンはそのような期待すら抱くことが出来ない。更に今回は忌々しいジョーク・バンドがグラミーのベスト・メタル・パフォーマンス賞を受賞…という大災難が起きてしまった。俳優のジャック・ブラックとカイル・ガスによるユニットTENACIOUS Dだ。しかもDIOのカバー曲だ。TENACIOUS Dの前作である2012年の『Rize of the Fenix』もグラミー賞の候補だった。しかしそれはベスト・コメディ・アルバム部門だった。なぜなら彼らはジョーク・バンドなのだから。なのに今回はメタル部門。そして受賞してしまった!

JETHRO TULLからTENACIOUS Dにいたるまで、ヘヴィーメタルやハードロックについて、グラミーの「とんちんかんさ」は本当に秀逸である。なぜグラミーのチョイスがいつも言葉にならないほどイケてないのか…もちろんそれをメタルファンは真剣に考えていないし、賞のことなんて大して気にもしてない。バンドにとっても、BLACK SABBATH、SLAYER、PANTERA、DREAM THEATERなどが、この業界独特の称賛を受けた後はセールスがちょっと上がったくらいのこと。KILLSWITCH ENGAGEやVOLBEAT、HALESTORMのような若手もそう。グラミー賞は、高校の通信簿で「A」をもらうようなものだ。教師はそんな生徒を変わり者だと思うだろうが、それでも成績表を冷蔵庫に貼るのは悪くない。

メタルに関するグラミーの無知蒙昧について文句を言うのは楽しい作業ではあるが、今回は本当に困った事態である。だって、TENACIOUS Dが実際に受賞してしまったという事実は、社会のメタルに対する一般的な姿勢を表すものという気がするからだ。音楽業界が、その年のそのジャンルの最高峰と見なすイベントの代表者としてジャック・ブラックとカイル・ガスを選んだということは、ヘヴィーメタル(そしてそのファン)に期待されている最大のものが、おバカでエンターテイメント性があって、更に、笑えることである、と言っているのと同じである。まぁJETHRO TULLだったらフルートでその悲しみを表すことは出来るか…。

もうちょっと話を聞いて欲しい。誰もYOBやPIG DESTROYERがグラミーを獲るなんて期待していない。所詮メインストリームの賞であるし、メインストリームのバンドがノミネートされている訳だから、それ以外の珍事を期待するのは愚かだ。でも、そんなことは問題にしていない。受賞者がTENACIOUS Dなのだ。同じことがラップやポップ部門で起きた場合に悲鳴は聞こえてくるだろうか? 答えは否である。地獄の門が開いて、もしイギー・アザリアが何かのベスト部門を受賞したとしても、そこには正当性がかすかに感じられるだろう。なぜならば彼女が創っているのはリアルな音楽だから。コミカルさとかジョークを演出していないのだから。完全に天然なのだから。

そして今回、グラミーの選考委員は熟慮し判断を下した。結成から40年後に素晴らしい作品をリリースし、とてつもない影響力で世界中から愛されているレジェンドMOTORHEADと、ハリウッドのお下劣でおかしな2人の一時的なプロジェクトとの二者択一。

どっちが選ばれたか?

TENACIOUS Dは現在のシーンにおいてキャリアと影響力を持ったメタル・バンドではない。将来性云々という立場でもない。一方ノルウェーでは現在進行形のデスメタルバンドEXECRATIONが、最高の栄誉Spellemanprisenを受賞した。彼らのスターダムへの道は始まったばかりである。せめてTENACIOUS Dもキャリアとか影響力はそのままに、その音楽性とスタンスとルックスが違っていれば良かったのに。あ、それはもはやTENACIOUS Dでは無いのだけれど。