ここはポーランドのワルシャワ。とあるZ世代の学生グループが、ウクライナに抗HIV薬やホルモン治療薬を届けるべく、24時間体制で働いている。
ポーランドとオランダに住むこの3人の学生は、ベルリンの友人と協力して薬を集め、ポーランドとウクライナの国境への配達を手配し、戦争によって処方薬が手に入らないウクライナの人びとの元へ届けている。
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「最も必要としているひとの元に薬が届くよう心がけています」と主催者のひとりで、20代のトランスの学生(she/they)は語る。この団体はすでに5回の配達で何十箱、何十本もの抗HIV薬、トランスジェンダーのためのホルモン治療薬、甲状腺治療薬、鎮痛剤を届けることに成功している。安全上の理由のため、また、自分に処方された処方薬を第三者に譲渡することは違法なので、学生たちの個人情報は伏せる。
ロシア軍は2022年2月の侵攻以降、民間の医療機関を標的にし、市民の医療へのアクセスを脅かしている。しかし、ウクライナは戦争が勃発する前から、ヨーロッパの中で結核やHIVなどの深刻な病気が特に多い国のひとつだった。
これまでにも複数の支援団体や個人が、抗生剤をはじめとするさまざまな薬をウクライナ国内や亡命した難民に届けるべく力を尽くしてきた。しかし、この団体の3人の中心メンバーのひとりで、同じく20代の女性によれば、HIVやホルモン治療薬の優先度は低いという。
「いわゆる人命救助のための医療が優先されます」と彼女は説明する。「それでも、ウクライナにはまだ日常があります。ホルモン治療を受けたり、抗HIV薬や甲状腺の薬を飲まなければいけないひとがいるんです。西洋社会は、戦場に必要なのは包帯だけではないということを忘れています」
3人の学生は、多くの人びとが毎日頼っている処方薬も救援物資に含まれるべきだ、と口を揃える。
「戦争に巻き込まれ、トランジションを中止しなければいけなくなるなんて想像もつきません」と20代のトランス女性は語る。「薬がなくてホルモン治療を受けられなくなれば、ひどいうつ状態になります。存在すら認められていないのに、そのうえ戦争まで体験しているんです」

「薬が手に入らず、ウクライナに残っている」HIV感染者について、「状況がよくなることはないでしょう」と彼女は語る。
最初のきっかけは、彼女が今年2月のウクライナ支援のための学生主催のフリーマーケットで、自分用のエストロゲンの寄付を申し出たことだった。そこで他の薬を集めていたのが、このグループの3人目の主催者(they/them)だ。このイベントを通して、3人はホルモン治療薬と抗HIV薬の需要に気づいた。
3人によると、このグループは知名度が低く、当局に「気づかれずにすり抜ける」ことができるからこそ、薬の回収と配達に成功しているという。処方箋に掲載されていない第三者に処方薬を渡すことは法律で禁じられているので、有名な支援団体がこのような活動をすれば、トラブルに巻き込まれる可能性がある。このグループは、クィアの権利擁護団体によるLGBTQのウクライナ難民への支援を補完する役割を果たしているという。
今のところ、ウクライナに送られる薬のほとんどは寄付で賄われている。まず、数百人の人びとが自分の処方薬をこの生まれたばかりの草の根団体に提供する。団体がポーランドからウクライナにあるクィアのシェルターへの配達を手配し、そこでLGBTQの人びとが薬を手に入れる。
「素晴らしいことです。たくさんのひとが助けになりたいと申し出てくれて……本当に感動しています」と主催者のひとりは語る。
別の主催者は、この活動が支援をしたいが方法がわからないというひとへの良い手本になる、とVICE World Newsに語った。「このような活動をすることは、思ったほど難しくありません。誰でも自分ができることから始められますし、この活動がこれほどスムーズに進んでいることにわたし自身も驚きました」
3人にとって、ウクライナへの支援は人道的な活動であると同時に、パーソナルなものでもある。彼らは3人ともクィアコミュニティに所属していて、ウクライナのクィアの人びととも繋がりがある。例えば、ひとりの主催者はウクライナのホルモン治療薬を使っていたことがあるという。「私のトランスネスと深い関わりのある国です」と彼女は説明する。
もうひとりの主催者は、ウクライナの人びとがクィアコミュニティと出会うきっかけをつくってくれたと語る。
「ポーランドに住む自分にとって、ウクライナ人はクィアとはどういうものかを最初に示してくれた人びとでした。ウクライナには素晴らしいクィアコミュニティがあり、これらの人びとがいろんな意味で自分の人生を変えてくれたんです」
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