〈サボテン〉と聞いて、あなたは何を想像するだろうか。メキシコの荒野? 手塚治虫の『サボテン君』? あるいは、気軽に生活に緑を取り入れられるインテリア? かたちはどうだろう。ウチワ形? 埴輪みたいな棒状? それとも、ころんとした球形? 〈THE FASCINATED〉は、サボテンのステレオタイプを更新する展示会だ。
日本では伝統園芸として、ランや盆栽と並び、長らく金持ちの道楽というイメージのあったサボテンだが、近年、KENZO、Dolce&Gabbana、GUCCIなどをはじめとする数々のブランドからサボテン・アイテムが登場し、あらゆる媒体で撮影に利用され、洋服や雑貨と合わせてサボテンを扱うセレクトショップが増えたりと、ファッション業界でも注目され、盛り上がりを見せつつある。そんな、国内のネオ・サボテン文化を牽引しているのが、静岡のセレクトショップ〈doodle & haptic〉だ。一般市場ではなかなかお目にかかれない、奇形、つまり突然変異サボテンを含む、不思議なかたちのサボテンを中心に栽培、販売している。また、今年39歳になる店主、横江亮介さんは、日本中を周り、精力的にサボテンの展示会〈THE FASCINATED〉を開催している。
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かつては「ゴミ扱い」されていた突然変異サボテンだが、数年前より、横江さんをはじめ、サボテン・ニュースクール世代がサボテンのおもしろさをフラットな視線で発見、発信しはじめ、それを皮切りに、現在では国内外問わず、局所的にサボテン・ブームが生まれた。他の植物にはないサボテンの魅力は、「見たときの驚きに尽きる」と横江さんはいう。確かに、〈THE FASCINATED〉で展示されているサボテンは、「キレイ」とか「カワイイ」とか、現代人お得意の単純な評価を軽くあしらうような、グロテスクで形容しがたい風貌だ。砂漠という極地で、誰の助けもなくサバイブしてきた生き物なのだ、と納得せざるをえないほどの、孤高かつ強靭な生命力、そして、生命そのものに備わる官能性をも感じさせる。人間の意識の裡からは生まれえない、純然たる自然の造形だ。
作家であり、サボテン研究家の龍膽寺雄は、著書『シャボテン幻想』で、サボテン好きのなかには〈動物的〉性格ともいうべきタイプがいると指摘した。「積極的で、能動的で、エネルギッシュで、脂肪っこくて、敵味方の観念が強く、利己的で、闘争的で、どうかすると貪婪で、(中略)意地わるでさえあるような」人間だという。横江さん自身は、多くのサボテン農家の動物的性格を認めながらも、自分はそうではないはずだ、と笑う。彼がサボテンの世界に身を投じているのは、サボテンの「かっこよさ」をひとりでも多くの人に知ってほしい、という純粋な動機ゆえである。そのため、彼がターゲットとしているのはサボテンマニアではなく、サボテンの知識など何ももたない、一般人だ。
形状や存在感のみに惹かれ、〈オブジェ〉として、インテリア感覚でサボテンを購入する顧客もいるそうだが、横江さんは、生き物として大事に育ててくれる人に持って帰ってほしい、と願っている。「つくり手は、良い親木を買ってきて、種を取って、それを育てているわけですけど、僕は、種を取ったらもういいかなって、こうやって親木を売りに出しているんです。でも、本来は売らないほうがいい。何十年もかけて育てられた大切な親木は、ちゃんと管理できる人が持っていたほうがいいですから。僕らのこういうやりかたを面白がってくれる農家さんもいるけれど、きっと、良くないって思ってる農家さんもいるはずです。だからこそ、やっぱり大事に育ててほしいですね」
「サボテンにとって大事なのは、〈日光〉〈水〉〈風〉の3つ」だと横江さん。しっかり日に当てて、たっぷり水を与え、風通しの良い場所に置いて土を完全に乾かす。ただ、そうやって丹念に育てても、日々、目に見えて成長していく植物ではない。しかし、横江さんによれば、300~400年、もしかしたらそれ以上生きているサボテンもあるらしい。人間の寿命では、さすがにそこまで面倒は見られないが、腰を据えて、ともに生きていくくらいの気概をもって育てるべき植物なのだ。媚びずに、孤独を受け入れ、それでも力強く生きるサボテンは、何かと心をすり減らすことの多い現代人にとって、特に〈動物的性格〉の持ち主にとって、心強い伴侶となることだろう。
横江さんは、突然変異サボテンのスペシャリストと偶然に出会い、そこからサボテンの世界にのめりこんだ。「サボテンの圧倒的な魅力を知ってもらうためには、まず写真や実物を見てほしい。そして興味をもったら、サボテンを知っている人に話を聞いてみてほしい」と横江さん。「サボテンって、説明してもらってやっとわかる。そこからハマるって感じなので」
以下、〈THE FASCINATED〉の展示サボテンを紹介する。深遠なるサボテンの世界へようこそ。
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