豊洲市場オープン日の築地 解体作業と日常的光景
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豊洲市場オープン日の築地 解体作業と日常的光景

アッチが開場した日。相当アッチは大変そうであったが、コッチはコッチで、新しい毎日を迎えていた。

2018年10月11日、東京都中央卸売市場の豊洲市場が開場した。周辺道路は大渋滞、トラックは駐車場にたどり着くまで約2時間。火を吹くターレ、別のターレに接触して救急車で搬送された女性。そして場内には、「狭い」「暑い」といいながら、地図を片手に彷徨う来場者が多数。豊洲初出荷の鮮魚たちは、無事ランチに間に合ったのだろうか。

「まだ、初日ですからね。点数とかは関係ない。これからです」

とは、すしざんまい社長のコメント。そう、豊洲は、まだ始まったばかり。これから新しいジャパニーズキッチンの歴史が始まるのだ。

いっぽうの旧築地市場。同じく2018年10月11日、早くも解体工事が始まった。勝どき門、市場橋門、青果門は封鎖され、管理者及び工事関係者のみが、正門からの入場を許されていた。しかし、この日の朝、移転に反対するいち部の仲卸業者などが「築地場内で営業を続ける」と公表したため、業者を支援する人たちが、都の職員を振り切って正門から場内に入ってしまった。そのため、騒動後のお昼には、更なる厳重なチェックが正門で行われていた。

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「なんだよ、なんだよ、ここからも入れねぇよ。いやんなっちゃうなぁ、おい」

市場橋門をガシャガシャしていたのは、場内で仲卸を営んでいたという男性。紛失物を探しにきたという。「しようがねぇなあ。前はこんなんじゃなかったんだよ。俺んちみたいに簡単に入れたのになぁ」と笑いながら、男性は正門に向かって歩いていった。

行政の対応は早かった。解体工事の早期着手はもちろん、バス停は〈築地市場正門前〉から、〈国立がん研究センター前〉に変更。中央区の管理地となる旨が告知され、市場案内図は養生テープでバッテン。青果門の看板も外されかけていた。場内にはヘルメットと安全靴の男性ばかり。先週までは、プレート帽子と長靴だらけだったのに。そう、私たちが知っている築地場内市場は本当に終わってしまったのだ。

しかし、こっちに来ると様相は変わる。いや、これまでとまったく変わっていなかった。築地場外市場。国際色豊かな観光客、威勢の良い売り込み、目に入ってくるのは、寿司、海鮮丼、牡蠣、カニ、海苔、しらす、さきイカ、ラーメン、ホルモン丼、そしてテリーの玉子焼き…とかとか、とかとか。

「場内関係者がいなくなったからね。確かに人も車もターレも少なくなったけど、観光客の人数は変わらないよ。いつもの平日通りだね」

乾物屋のおじさんが教えてくれた。確かに、年末の混雑ぶりを伝えるニュースやグルメ番組で登場する築地は、ほとんどが場外市場である。また、東京都が発表した〈平成29年度国別外国人旅行者行動特性調査〉によると、東京に訪れた1,377万人の外国人観光客の17.6%つまり約240万人が築地に足を運んだが、彼らが目指したのは場外だった。

「ガイドブックに載っていたのはコッチ」

「あっちは、一般人向けじゃないんでしょ?」

「最高にクールなマーケットだね!」

米国、ドイツ、中国、韓国などの観光客に話を訊いたが、みなさん、場外の築地で大満喫のご様子。そして、なかには、こんな返答も。

「え? ここがTSUKIJI FISH MARKETじゃないの?」

「クローズしたって? 今やってるじゃない」

これからの築地は、アメ横や黒門市場、錦市場と同じ〈日本を代表する観光市場〉になっていくのかもしれない。実際、それを見越したように、総合免税店のフリーバスは、観光客の乗車を待ち構えていたし、ちょっとしたトラブルからパトカーは集合していたし、真っ赤な江東区レンタルサイクルも颯爽と駆け抜けていた。賑やかで、騒がしく、熱気あふれる、もうひとつの築地。場内市場の存在が薄れていくのは寂しいが、これからも場外の人々は逞しく築地ブランドを守り、新しい築地をつくっていくのだ。

午後2時を過ぎると、閉店準備を始める店が増え、次第に観光客の数も減っていった。場内市場はもう無くなったのに、場内市場に合わせたスケジュールだ。ただ今後は、それも変わっていくだろう。ランチタイムにスタートし、ディナータイムも混雑する街になっていくだろう。さすがにこの夜はまだ、すしざんまいの社長人形も寂しそうであったが、東京オリンピックを迎える2020年には、もっとたくさんの人々がTSUKIJI FISH MARKETを訪れるだろう。