デコチャリ少年! 一番星ブルース

「カミオンは2歳から読んでいます」。日本一のデコチャリを所有する中学生が、静岡県浜松市にいると聞き向かった。トラック野郎世代でもない若者が、なぜ、今、デコチャリなのか。平成生まれのデコチャリ少年に、この奇妙なカルチャーについて聞く。

キツイ割に低賃金。サービス残業だらけ。若者の車離れ。理由は多々あろうが、全国でトラックドライバーが不足している。この問題を解決しなければ、2020年という近い将来、荷物が何も届かなくなる可能性があるという。政府は高卒の若者に目を付け、今年からトラック運転資格の取得を緩和するなど対応に追われている。そんななか、興味深い少年たちと出会った。

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「日本一のデコチャリを持つ少年が静岡県浜松市にいる」という話を聞いた。教えてくれたのは〈全国デコチャリ青年団〉の初代会長で現在、大学生の佐野圭佑くん。全国デコチャリ青年団とは、中高生を中心としたデコチャリ少年のネットワークだ。3年ほど前、当時高校3年生だった佐野くんを取材したのだが、スチールの塊のような異様な自転車に圧倒されたのを思い出す。ママチャリに施された手作りのアルミの箱やベニヤ板の外装。ギラギラと光るLEDライトの電飾。映画『トラック野郎』のテーマ曲「一番星ブルース」を爆音で鳴らしながら走る様は、ガラパゴスな文化を見たようだった。その彼の後輩が所有するデコチャリが、今一番「ヤバい」という。

デコチャリブームのルーツは、もちろんデコトラ。デコトラのブームは、1970年代に遡る。1960年代後半、高度経済成長とともに高速道路が日本中を結び、東西南北に行き交うトラック乗りが急増。やがてトラックは大型化し、自由に電飾を施したり外装をきらびやかに飾るドライバーたちが出現する。日本独自のトラック・カルチャー<デコトラ>が誕生した。1970年代にはデコトラ乗りのグループが結成されはじめ、1975年に映画『トラック野郎』(監督:鈴木則文、シリーズ全10作)が公開されると瞬く間にデコトラブームが花開く。菅原文太演じる主人公・星桃次郎と、愛川欽也演じる相棒の元警察官でトラック乗りのやもめのジョナサンが、全国をトラックで走り回りながら義理・人情・色恋沙汰を繰り広げる娯楽映画に老若男女が夢中になった。同時に少年たちには、デコトラを真似た〈デコチャリ〉が流行する。しかし、違法な電飾や重量オーバーといった理由で警察と陸運局がトラックの規制を繰り返し、1990年代以降、デコトラは減少していくとともに、自転車を改造する遊び、デコチャリブームも過ぎ去っていった。

このようにして、ほぼ絶滅危惧種となったデコチャリ文化。しかし2017年の今でもこの文化を受け継ぐ若者がいる。トラック野郎に憧れ、デコチャリ〈天龍丸〉のオーナーである現在14歳の中学3年生、佐口公太くんだ。若者の車離れや物流危機が日本を直面する中、デコチャリ→デコトラへとステップアップしたいと夢見る彼は稀有な存在。平成生まれのデコチャリ少年に、その魅力を語ってもらった。

デコチャリに興味を持ったきっかけを教えてください。

お父さんが元々トラック乗りで、よくデコトラの集会に連れて行ってもらってました。それで興味を持ちはじめて、親戚の家に行ったらこの天竜丸があってカッコいいなと。デコチャリは『カミオン』で見ていて存在は知っていたんですが、本物を見たら「スゴイ!」ってなってはじめたんです。『カミオン』は2歳の頃から読んでいます。

2歳からデコトラ雑誌『カミオン』を愛読していたんですか?

2歳の時は雑誌をパラパラめくってただけですが、今も定期購読していて発売日より2日くらい前に家に届きます。

デコトラの集会では、どういうことをやるんですか?

デコトラ乗りのグループが集まって撮影会をするんです。この間も「哥麿会(うたまろかい)」のイベントが近くであったので参加しました。

「哥麿会」といえば、『トラック野郎』の撮影に全面協力している日本最大のデコトラグループですね。『トラック野郎』は好きですか?

もちろん。全部観ていて、ストーリーも暗記しています。特に「暴走一番星」(シリーズ第2作)と「望郷一番星」(シリーズ第3作・北海道が舞台。お色気シーンが多め)が好きです。「望郷一番星」に出てくる「トラック音頭」という曲がイイですね。

AKBとかアイドルグループには興味ない?

全く興味ないです。

では、菅原文太の星桃次郎とキンキンのやもめのジョナサンではどっちが好きですか?

うーん…、菅原文太ですね。星桃次郎が乗っているデコトラ「一番星号」のようなトラックが好きです。ああいうのを〈レトロ系〉っていうんですが。

〈全国デコチャリ青年団〉は、どういう活動をしているんですか?

青森から鹿児島まで17人のメンバーがいて、デコトラの集会で集まったり、改造の情報をLINEでやり取りしています。入会するには自分で1台デコチャリをつくらないといけないというルールがあります。

LINEグループとは現代的ですね。じゃあ、みんなで集まってデコチャリを見せ合ったり走り回ったりしているんですか?

いえ。会ったことのない子の方が多いです。

それはなぜですか?

ここからいちばん近いところに住んでいる会員でも伊豆の子だし、なかなか会えません。デコチャリは乗るんじゃなく、電飾とかを組むものなので。僕も天竜丸を家の敷地から、一度も外に出したことがないです。こんなモノがガレージにあるなんて、近所の人たちは誰も知らないと思います。

デカすぎて、もはや外に出せないと。全国のデコチャリ少年から一目置かれているという天竜丸ですが、これは誰がつくったんですか?

デコチャリ青年団の二代目会長だった親戚がつくりました。今年高校を卒業して同時に青年団も卒業したのでオレが譲り受けました。自分で新しく作っているのは〈佐口商店〉というデコチャリで、今はグレードアップ中です。

それでは、天竜丸の装飾コンセプトを教えて下さい。

これはガンダム系アートといいます。〈ラッセル戻し〉という形状のフロントバンパーや突き出した8角のロケット、2本のタワーアンテナが特徴です。

たしかにメカメカしくてガンダムっぽいですね。この荷台は何で造っているんですか?

ベニヤとか角材を組んでいます。荷台に描かれているこの絵、誰だかわかりますか?

なんか見たことあるような…。すいません、誰でしょう?

女優の広瀬すずです。デコトラには八代亜紀や工藤静香が描かれていることが多いんですが、その代わりに描いてもらったみたいです。

広瀬すずさんが八代亜紀・工藤静香のラインにいるとは知りませんでした。たしかにネットで調べるとヤンチャなエピソードがチラホラひっかかりますね。車両に積んでいるバッテリーは自動車用ですか?

はい。自動車用の12Vバッテリーです。電飾とバックカメラやスピーカーを動かしています。

自動車用バッテリーを扱える中学生は滅多にいなさそうですね。同級生とどんな会話をしますか?

デコチャリに興味を持ってくれる子はいるけど、学校に同じ趣味の子はいません。

デコチャリ青年団では佐口くんが最年少ですか?

いえ。鹿児島に中2の子がいます。その子は兄弟でデコチャリをつくっています。

なるほど。では、改造用のパーツはどのように集めているんですか?

近くに住んでいるデコトラ乗りの先輩たちからパーツをもらって付け方を教わったりしています。あとは近くのトラックパーツ用品店の〈ミヤヂ〉に通っています。

〈ミヤヂ〉は有名なお店なんですか?

有名っていうか、近くにあるので。外装に使う角材とか材木を譲ってくれるお父さんの知り合いの人も近くにいます。

先輩やパーツ屋が近くにあるのは、恵まれた環境ですね。やはり将来は…。

はい。トラックに乗りたいです。今はやめてしまってるんですが、お父さんがまたトラックを手に入れて運送業を始める計画があるので、高校を卒業したらすぐに〈準中型〉免許を取って仕事を手伝いたいです。

親孝行なんですね。じゃあ、トラックの改造はお父さんと共同作業ですか?

お父さんは電飾系はイジれないんで、オレがやります。お父さんの趣味もあるんで、それを反映しながらこっそりオレの好きな方向に改造していきます(笑)。

§

話をひと通り聞き、天竜丸を撮影していると公太くんからこんな提案をされた。「今からデコトラ乗りの先輩たちが集まってくれるんですけど、〈ナイトシーン〉を撮影しませんか? 天竜丸も一緒に撮りたいんですが、空き地まで押すのを手伝ってください」

デコトラオーナーたちは、夜に車体をライトアップする〈ナイトシーン〉をよく撮影する。彼らにとっては、自慢の愛車の電飾を披露する見せ場だ。2人で天竜丸を押しながら、初めて家の敷地から外に出す。全長2メートル以上あるため内輪差がすさまじく、曲がるのにもひと苦労。50メートルもない距離だが、かなりハード。さらに、通りがかりの住民からの好奇の目や訝しげな視線が刺さる。

空き地でしばらく待っていると、電飾がギラギラしたド派手なトラックが4台、「ブオオオ~~ン!」とデカイホーンを鳴らしてやってきた。街灯もまばらな典型的な地方都市の風景に、あきらかに違和感のある車両が並ぶ。乗っているのは、ヤンキーか威勢のいいオラオラ系の若者なのかと思っていたが、中から出てきたのは意外にも全員、20代前半の好青年だった。彼らから、デコトラ・デコチャリを取り巻く現状を教えてもらった。

「元々、僕らもデコチャリをやっていたんです。ここらへんはデコチャリやってるヤツが結構いるんで、あいつ(公太くん)は弟みたいなもんですよ」4人の中で最年長、25歳の新村拓哉さんがいう。聞けば、静岡県はデコチャリ・カルチャーが昔からあり、細々と後輩へ伝えられてきたようだ。明確な答えは出なかったが、東名高速道があるため大型トラックが身近で、デコトラ・デコチャリ文化に接する機会が少なくないのだという。しかし、ものすごく局地的で、広がりようはなかった。

「今の方がデコチャリは盛り上がってますね。自分らの時は、LINEとかないから誰がデコチャリやってるかを知らないし、情報がなかったです。孤独でしたよ。デコトラのイベントにデコチャリで参加して、同じ趣味のネットワークをつくる感じでした。だから、あいつらは恵まれてますよ」

それまではごく狭い範囲で共有されていたカルチャーを、デコチャリ青年団は全国の同好と繋いで広げたという。

「最近、周りから〈騒がしい〉と言われるようになってきちゃったんで、あんまり光らせてないですけどね」

天竜丸を囲むように自分のトラックをライトアップする彼らからは、後輩の公太くんたちを可愛がっているのが伝わる。

では、かつてデコチャリ少年だった彼らは順調にステップアップし、トラック野郎になったのか? というと、そう上手くはいかないと新村さんが言う。

「僕らの世代は、〈中型免許の壁〉がありましたから。高校を出てすぐに乗れたのが2トントラック。中型免許を取るまで二年も待ってられなくて、2トントラックを買ったんですけど、そんなんじゃどこも雇ってくれないです。運送業は諦めて、今は板金塗装をやっています」

中型免許は2007年に制定された。それまでは普通免許さえ持っていれば、車両総重量8トンまでのトラックが運転可能だったが、以降は最大積載量3トン、車両総重量5トンまでとなる。さらに、中型免許の取得には普通免許取得後、二年の運転経験が必要だった。20代の彼らはモロにその世代だ。トラック野郎は諦め、趣味でトラックを改造して乗用車として乗っているという。

今年の4月から導入された〈準中型免許〉を取得すれば、18歳でも総重量7.5トンまでのトラックが運転可能になる。今の時代であれば、もっと大きなトラックを手に入れて、今ごろ全国を走り回っていたのかもしれない。

撮影を終え帰りがけに、公太くんのお父さんと仲間も現れた。元トラック乗りであるお父さんからは、デコトラ業界の厳しい現状を聞かされた。

「元々、デコトラが好きで自分も改造してたんだけど、どんどん規制が厳しくなってきて。仲間もパーツを外してやめてくのが多かった。大きな運送会社なんかじゃ、まずダメだし、市場の一部とかデコトラが入れる場所がどんどん少なくなってるし。今は自家用車ってことにして、〈白ナンバー〉で運送会社から仕事を請け負うくらいしか、やりようがないよね」

現在、国土交通省は〈不正改造車を排除する運動〉を実施している。業界団体の〈全日本トラック協会〉もそれに呼応して、デコトラの規制に前向きだ。現実に、重量オーバーな車両からタイヤが外れる事故や、重さで道路が歪むなど違法改造車が引き起こす重大事件も多い。そのため規制が厳しくなるのは当然として、デコトラ乗りたちは事故を起こさないように日頃から入念に整備をし、イベントを開いて磨き上げたトラックを子供たちに披露しているという。

公益社団法人〈鉄道貨物協会〉の統計によると、2020年までに10万人ものドライバー不足に陥いる可能性も指摘されているが、現実にはこれからも改造車への規制は厳しくなり、デコトラ乗りにの未来は明るくなさそうだ。

最後に、お父さんが公太くんがトラック免許を取ったあとの展望をこう語ってくれた。

「うちの小僧もデコチャリにすごい夢中だしね。トラックをもう一回やってみようかなって。小僧がトラックに乗れる頃には、オレのトラックも〈デコトラに〉仕上がってると思うから、その時にまた取材してよ(笑)」