DJ KRUSHインタビュー  生きている音 ニオイのする音

DJ KRUSHが待望のニュー・アルバムを出す。いや、待望…なんてもんじゃない。超を付けて、超待望にしてもまだまだ足りなさ過ぎる。なんたって11年ぶりに放たれるアルバムなのだから。産まれた赤ちゃんが分数のかけ算・わり算をやるのが11年後、ビーグル犬の平均寿命が11年、ヨン様フィーバーと福沢諭吉が万札になったのが11年前。

しかし、そんな11年をまったく感じさせないのが『バタフライ・エフェクト』。もちろんDJ KRUSHが止まっていたわけではない。かといって、2015年に寄り添っているわけでもない。この作品には、毎日、毎日を呼吸して、歩いて、明日を迎えるDJ KRUSHがいる。だから11年でなくていい。昨日でもピッタリなんだ。時間軸を越えた音。生きている音。それがDJ KRUSHだということ。

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私たちも彼と同じように11年を生きてきた。そしてその間、私たちの頭の中でKRUSHの音も生きていた。そんな生き続けるDJ KRUSHから、さらなる新しい生命が届いた。

ニュー・アルバムが完成して、今のご心境はいかがですか?
そうですね、海外に行くたびに「KRUSH、いつ出るんだ?」「アルバムはどうなってるんだ?」って言われ続けていたんです。ご存知のとおり11年間言われ続けてきました。「オマエ、出す出す詐欺か?」なんてことも(笑)。

新手ですね(笑)。

ですので、完成したことは本当に嬉しいですし、早くみんなに聞いてもらいたいですね。

11年間言われ続けるのも辛いですが、言い続ける人もすごいですね。それだけみなさん待ちに待っていた作品なのですが、なぜそれほどまでに間が空いてしまったのでしょうか?

まず前のレコード会社との契約期間が終わりました。さらに時代の流れもあり、販売形態も変わってきて。ネット上でファイルのような状況の中で、どのようなスタイルで作品を発表すればいいのか、売っていけばいいのかと。実は、結構悩んでいました。何回かこの11年の間に「出そう」というタイミングもあったのですが、それがなかなかアルバムに繋がらなかった。と、同時に、DJの現場も増えてきて、海外に行くことも多くなってきた。そうここうしているうちに11年が経っていましたね。

スタートしたきっかけはなんだったのでしょうか?

やはり、新しいアルバムを出していかないと未来に繋がらないと思いました。「もう本当にいい加減やらないとダメだぞ」って自分に言い聞かせて(笑)。それに震災もあったじゃないですか。あそこで考え方も大きく変化したと思います。

震災によってどのような変化があったのですか?

あんなこと起きないだろう…ってことが最近本当に起きるようになってきた。先日の大雨もそうですよね。今まで本当に考えもしなかったことが起きてしまう。だから行動しなくてはならない。動き出さなくてはならない。どうなるかわからないのだから。強くそう思うようになりました。もちろんそれは日本だけではなく、地球規模で、世界の国々で色々な問題が起こっているから、世界中の人々も僕と同じように考えているんじゃないかな。それが自分の人生に大きく繋がっているということを改めて感じ始めたと思いますね。

製作を始めるにあたって、作品にコンセプトはありましたか?

先ほども話したとおり、この時代背景を考えると、普通に道を歩いていても石ころを踏んだことによって、骨折してその先の人生が変わってしまうかもしれない。そんな些細なことで大きく変化してしまう。本当は世の中ってそういうものなのに、それに気づいていないし、結構他人事だと思っている。繰り返しますけど、震災以降、そうじゃないんだと。それを音として表現していくには、『バタフライ・エフェクト』というコンセプトがピッタリ来るんじゃないかと思いました。

「バタフライ・エフェクト(バタフライ効果)…初期条件の僅かな差が、その結果に大きな違いを生むこと。チョウがはねを動かすだけで遠くの気象が変化するという意味の気象学の用語を、カオス理論に引用した」
(三省堂 大辞林より)

悪い方向にいくかと思えば、良い方向に行くこともあります。もしくは断ち切られてしまうことも。そういう中で我々は生きているんだよ、無駄な時間は無いんだよ…ってことなんです。ゲストを迎えながら、それぞれの曲で、それぞれの「バタフライ・エフェクト」を表現しました。

そのゲストの方々なのですが、どのように選んだのですか?

まず今回は10曲前後の作品にしよう、そして半分は僕のインスト、半分はゲストを迎えて作ろうと決めました。歌モノ、ラップ、そしてDJ同士のコラボレーション。僕にとって、とても個性的で、魅力のある人たちです。…せっかくだから、ひとりひとり行きましょうか?

それは光栄です!それでは早速Yasmine Hamdanさんから。レバノン出身の女性シンガーですが、以前からお知り合いなのですか?

彼女のことは知っていましたが、一緒にやるのは初めてです。Bill Laswellが「すごくいいシンガーだよ」って紹介してくれて、僕の音に合いそうだったのでオファーしたんです。彼女の声って独特なんですよね。予想以上にハマりました。

やりとりは何回もされたんですか?

いいえ、そんなに多くないです。デモを送って、まずそれを聴いてもらうんですが、そのデモはすでにサイズもきっちり決めて、歌が乗せられるように作ったものなんです。だからスムーズに進みましたね。

ではDyvine Stylerさん。Ice-T率いるRhyme Syndicateのメンバーです。

彼はもうね、レジェンドですから。僕も若い頃に、彼のアナログをかけていましたからね。ここ近年、彼のレーベルから「なにか一緒にやろうよ」ってオファーが来ていたんです。でもなかなかタイミングが合わず、進めることが出来なかったのですが、今回自分のアルバムが出るってことで、コンセプトを伝えつつ逆にオファーしたら「とてもいいコンセプトだ!やろうぜ!」って快く引き受けてくれました。

僕らが若い頃に大好きだったオールドスクールのアーティストと一緒に出来るのは、本当に嬉しいことですね。

片や若い方。Free the Robotsさん。

本人も言っていたんですけど、彼は、『STRICTLY TURNTABLIZED』の頃に、すごく刺激されたと。そういう世代なんですね。僕らのDNAが多少でも彼に継がれているのかなって思いますね。

KRUSHさんも彼の曲をDJでかけてらっしゃるんですよね?

そうですね。あの辺のLOW END THEORY周辺、LAのビート・シーンには面白い連中がいっぱいいるのでみんな好きですけど、特に彼の曲をよくかけますね。彼は様々なテイストを自分流に料理出来る人なので、こっちも刺激されるし、もっと彼のこと知りたいなぁ、なんて思ってオファーしたんです。でもこれはDJ同士なので、やりとりは何回もあったんですけど、これもスムーズに進んだなぁ。

やはりKRUSHさんのDNAがあったからじゃないですか?

それはわかんないけど(笑)。でもツボが一緒なんですよね。「ココはこう来たら…」「…やっぱこうだよね!」って。メールでのやりとりだけでしたけど、すごく楽しかったですね。

続いてCrosby ”Cross” Bolaniさんですが、南アフリカのマルチ・アーティストですね。

はい。ウチの事務所も含めて、アフリカ支援のプロジェクトをやっていまして、『African JAG Project』というのですが、その流れもあって、彼の声を聞く機会があったんです。でもこういうラガマフィン・スタイルっぽい方とやったことがなかったので、果たして僕の音に合うのかな…って思っていたんですけど、逆にちょっと寄り添って、柔らかいテイストのものを作ったらいいものが出来上がりましたね。

そしてtha BOSSさんです。

BOSSくんとのきっかけは面白かったですね。最初、日本語のラップを入れるかどうか悩んでいたんです。

それはどうしてですか?

海外で出るので、日本語のものはまた別物としてリリースしてもいいかなって思っていたんです。それで迷っている最中にBOSSから、「THA BLUE HERBじゃなくて、ソロ・アルバムを作っているので、ぜひKRUSHにビートをお願いしたい」ってメールが来て。「全然やるよ!ソロって面白いじゃん。で、いつ出るの?」って返したら「秋口」だと。「…ん??」となりまして。

(笑)。

俺も秋だよなぁ…なんて思いつつ、「実は俺も今作っていて、それも同じ時期なんだよね…」「そうか、そうか…」なんてやりとりをしているうちに、「じゃあ作って、お互いのアルバムに入れよう」と。「すごく新しいアイデアだよね!」なんて言いながら。

シェアするってことですか?

そう。彼のアルバムももうすぐ出るんですが、同じ曲が僕のアルバムにも、彼のアルバムにも入っているんです。こういうのあんまりないよね(笑)。

確かに聞いたことないです(笑)。すごく新鮮に感じます。

それでは最後に新垣隆さんをお願いします。やはり例のイメージが先に出てしまうのですが。

そうですね。でも僕は前から知っていた方で、現代音楽…John Cageとかお好きで、もちろんクラシックまで幅広く活動されていて才能のある方です。それで今回ピアノ曲を入れようと思ったときに、懐かしいというか、痛くなくて、優しい曲にしたかったんです。何人か候補の方がいたんですが、新垣さんの場合、現代音楽ですから、そういった優しいイメージじゃなくて、アヴァンギャルドな弾き方をされるんですね。でもそんな方が、優しい感じで弾いたらどうなるんだろう…って気になってお願いしたんです。僕の中のこの曲のイメージは、子供の頃…僕は仙台なんですが、裏の広い田んぼで耕運機に乗って稲刈り手伝わされたこととか、虫取りしたこととか、川で遊んだりとか、蝉の鳴き声や田舎独特の藁の匂い…ああいう懐かしいものを出したかったんです。それを新垣さんに説明したら、3テイクくらい、それもいろんなパターンを弾いてくださったんです。そのとき新垣さんが「いろんな部分が使えるように変化をつけましたので、お好きなように編集してください」って言ってくださったんですね。普通一発でいくじゃないですか。それなのにそう言ってくださったことで、本当に僕のイメージ通りの形にすることが出来ましたね。やはりまずこれを聴いてもらいたかったので、一曲目にしました。

そしてジャケットに関してもお聞きしたいのですが、意外にもアニメですよね。デザインをされた森本晃司さんを選んだ理由は?

これまではどちらかというと日本的なものにしてきたんですが、違う側面から見ると、アニメも日本を代表する文化ですからね。「AKIRA」とか好きですし、映画だと「ブレードランナー」とか。ああいう混沌とした世界を森本さんも描かれるし、発想も奇抜でらっしゃるので、今までやったことないけど、今回はアニメで行こうと決めました。もちろん聴いて頂いて、それから描いてもらったんですが、どの程度それが森本さんの中に入って行って、僕の音が引っ張られたかなって、今でもすごく気になってます(笑)。

ジャケットを初めて見たときはどう思いましたか?

みんないろんなイメージを持つんだなって、やはり思いました。人それぞれだなって。でもこのジャケットを見ながらアルバムを一通り聴いたんですけど、作品のイメージを一回り大きくしてくれる感覚があったので、僕はすごく気に入っています。

たくさんの方々とやりとりをされて、「思い通りに進まないな」というようなことはありませんでしたか?

正直言うと、過去には何回かあったんですけどね。今回は無かったです。とてもスムーズでした。確かに机の上にはたくさんのパーツがあるんですけれど、それを噛み合わせることによって自分の力にもなっていくし、逆に噛み合わないかもしれないけど、ぶつけたら面白そうだとか。やはりこれまでの経験からなんとなく分かって来ているんです。

今回はアナログが先行リリースされますが、その意図を教えてください。

僕の音を聴いてくれる人って、やはりアナログが好きなんですね。僕ももちろんアナログ育ちですし、そこは意地張って。DJですから(笑)。

「悩んでいた」と最初におっしゃられていましたが、本当に音楽の販売形態が大きく変わりました。さらにお金を出さなくても音楽が聴けてしまう。このような状況に関しては、どのようにお考えですか?

本当に難しいですよね。アーティストにとってみれば、お金が入って来ないという現実はすごく苦しい。でもお客さんは気軽に世界中の音を聴くことが出来る。便利ですからね、お客さんの気持ちもすごく分かる。だからその中で、何が出来るのかを考えてリリースするしかないんですね。でも僕らはDJだし、いろんな国に行って、いろんな人に会うことが出来る。そこで直接広げていくことは出来るから、それは絶対にやらなくてはならない。でもアルバム単体だけで考えると、何年も持たないし、使い捨てみたいになっている状況を無視することは出来ません。だから自分が持っている…DJ KRUSHが持っているポリシーというものは、絶対に曲げる気は無いですけれども、この状況に関しては、臨機応変に、良い形でアーティストが進めるように対応していきたいと思っています。

アルバムというフォーマットにこだわりはありますか?

強くあります。コンセプトを決めて、ジャケのイメージを決めて、曲の流れを決めて。全部を考えて作るということをずっとやって来ましたからね。一枚がひとつの作品だという意識は絶対に捨てられません。

作品には、HIP HOPをベースにしながらも、たくさんのエッセンスが溢れていると思います。音楽的にも広がっていく中で、KRUSHさんのポリシーとはどういうものなのでしょうか?

確かにいろんな音は入っているし、いろんな曲があります。それにどんどん機材も発達して、誰でも音楽が作れるような状況になっています。でもどれを聴いても、どこを聴いても、DJ KRUSHの存在、DJ KRUSHがいるという芯は外せない。それを感じてもらいたいし、感じさせなくてはならない。ニオイですね。DJ KRUSHの。KRUSH臭とでも言いましょうか(笑)。

リリース後はツアーも始まります。お忙しくなりますね。

いえ、本当に楽しみですよ、しばらく行ってなかった国もあるし…。そういえば先日どこの国だったかな…DJで行ったときに若い子が近づいて来て「パパがファンでした!」って。時は経ったんだと思いましたね。ちなみにパパは来てなかったけど(笑)。

ツアーは大変じゃないですか?

昔は辛かったけど、今は全然。ま、カラダは確実に辛くなってますけどね(笑)。でも「いつアルバム出るんだ?」って、もう聞かれないで済むかと思うと嬉しいですね。いやぁ、本当に本当に解放されて良かった(笑)。

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DJ KRUSH / 『バタフライ・エフェクト』

Nostalgia feat. 新垣隆
Strange Light feat. Free the Robots
Probability
Everything and Nothing feat. Divine Styler
Song of the Haze
Sbayi One feat. Crosby Bolani
Missing Link
Coruscation
My Light feat. Yasmine Hamdan
Living in the Future feat. tha BOSS(THA BLUE HERB)
Future Correction

アナログ 2015 年 9 月26日 世界同時発売
CD / i-tunes 2015 年 10 月 28 日 日本先行発売
CD / i-tunes 2015 年 10 月 30 日 日本を除く世界同時発売

DJ KRUSH New Album “butterfly effect” Release Party

2015-09-18 (Fri) 23:00 SOUND MUSEUM VISION

[GAIA]
DJ KRUSH (LONG SET-open to last-)
and SPECIAL GUEST

[DEEP SPACE]

DJ QUIETSTORM
DJ YAS
KILLER-BONG
OLIVE OIL
DJ BAKU

[D-LOUNGE]
ShioriyBradshaw
Yukibeb(Soulection)
U-LEE
TSUBASA a.k.a JAM