カタールW杯のスタジアムを建てた労働者たちは低賃金で酷使されていた

移民労働者の6人に1人が、賃金は全額払われなかったと答えている。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
Workers Who Built Qatar’s World Cup Stadiums Were Abused and Underpaid, Report Says
FIFAワールドカップカタール2022に向けた新スタジアム7つの建設と既存スタジアム1つの改修に寄与した移民労働者たち。PHOTO: KARIM JAAFAR / AFP

人権団体Equidem(エクイデム)によると、FIFAワールドカップカタール2022のためにスタジアム建設に従事した移民労働者たちは危険な労働条件で酷使され、そのなかにはサッカー当局に伝わらないよう隠蔽されていたケースもあったとされる。

同団体は移民労働者60名への取材をまとめたレポートで、国籍に基づく差別、違法な採用活動、賃金未払いなど、広範な労働法違反が確認されたと述べている。カタールはW杯という権威あるイベントを、国の国際的評価を高めるための機会として生かそうとしていたが、この証言により労働者の酷使が蔓延しているというイメージが補強されてしまった。

インドからのある移民労働者はEquidemに対し次のように述べている。「地元の労働者たちが現場で休んでいても、監督者たちは叱らない。何度水を飲んだり、トイレに行ったりしても同じ。でも移民に対してはそうじゃない」

FIFAが2022年W杯の開催国をカタールに決めたのは2010年だが、その決定は当初から批判を浴びていた。FIFAのジョセフ・ゼップ・ブラッター元会長でさえも、その規模について言及し「悪い選択だった」と述べている。

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カタールはW杯開催国として史上最小の国であり、既存のサッカー用施設が不足していた。そのため何十万人もの移民労働者を動員し、スタジアムをどんどん建設しなければならなかった。他のアラブ湾岸諸国同様カタールには、移民労働者が国内に滞在する権利を仕事に関連づける〈カファラ制度〉がある。この制度により、移民労働者は雇用主の許可なく仕事を辞められず、酷使されても声を上げることができない。

Equidemが収集・発表した証言によると、この力関係は11月20日に開幕したW杯の準備期間中、ずっと続いていたようだ。

「不満の声を上げた労働者は警察に逮捕され、刑務所行きになる可能性もあると言われました」とインド人電気技師は語った。

この労働者は、カタールの王族が所有する会社、ハマド・ビン・ハリド・コントラクティング(HBK)社に雇われていた。

HBKは労働者の権利を守っていない契約者として同レポートのなかで名前を挙げられているが、労働者にサッカー当局と交流をさせず、過酷な労働条件を隠蔽したことについても非難されている。

HBKの下でアル・バイト・スタジアムの建設に従事していた別のインド人労働者は「視察が来るといううわさがある日には、業務で別の場所へ送られたり、宿舎へ行かされたりした」とEquidemに証言している。

カタールの王族にコメントを求めたが返答はなかった。Equidemは同レポートのなかで、4社が不正行為の疑惑を否定し、HBKからは返答がなかったと述べている。

カタールとFIFAは、W杯の会場建設のために合同で2290億ドル(約31兆円)を費やしたが、Equidemによると労働者のうち6人に1人が賃金は全額払われなかったと答えている。

ネパール出身の27歳の空調技術者、アニシュ・アディカリは、W杯の8会場のうちのひとつ、ルサイル・スタジアムで働いた。元々、800リヤル(約3万円)の月給に加え、200リヤル(約7500円)相当の食料と宿泊施設が提供されるという契約だった。

「私は高い所で働かなければなりませんでした。ネパール人労働者たちは高所で働かされたんです。私たちは勇敢なので、高所で働きました。他のひとたちは怖くて働けないというくらいの高さです。会社は『あそこで働くネパール人には残業代を多めにつけてやる』と言いましたが、その特別手当は支払われませんでした。ウソだったんです。労働に見合った対価は得られませんでした」とアディカリは証言した。

さらに思わぬ差し引きがなされ、結局アディカリに支払われた額はひと月あたり600リヤル(約2万2500円)だったそうだ。

「文句を言った労働者たちは国に帰されました」とアディカリは述べる。

Anish Adhikari, 27, migrant worker from Nepal. Photo: courtesy of Equidem

ネパール出身の移民労働者、アニシュ・アディカリ、27歳。PHOTO: COURTESY OF EQUIDEM

ロンドンを拠点とするオンラインニュースサイト、Middle East Eyeの記事によると、今年8月、カタールは賃金の未払いや遅延に対し抗議をした多数の労働者を強制送還した。カタールの治安維持法に違反したとして送還された労働者もいるという。

Equidemのレポートでは、送還された労働者たちはネパール、インド、ヨルダン、エジプト、バングラデシュ、フィリピン出身の移民労働者たちであることが明らかになっている。約半数がネパール人、残りがインド人、ヨルダン人、エジプト人、バングラデシュ人、フィリピン人だった。

8月14日のストライキに参加した労働者、オサマは、Equidemに次のように語っている。「捜査もせずに刑務所に入れられました。立件も起訴もされず9日間勾留されました。まるで犯罪者であるかのように写真を撮られました」

またEquidemのレポートでは、労働条件が過酷であったこと、夏のあいだ、気温が45〜55℃にまで及ぶなかでも休憩や水分補給が制限されていたことも主張されている。

アディカリはEquidemに対し、仕事中に亡くなった労働者もいたと語っている。彼の証言では、バングラデシュ人と中国人の2名が、高所から転落して死亡したそうだ。

W杯開幕前日、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は1時間にもわたる演説で、西洋社会による大会への批判を偽善だと非難した。Equidemは会長の発言について、W杯の実現に寄与した労働者たちに対する「侮辱」だとしている。

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