避妊をめぐる闘いはもう始まっている

緊急避妊薬や子宮内避妊用具では中絶できない。
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
Pro-abortion rights demonstrators rally in Boston, Massachusetts on May 8, 2022. ​
2022年5月8日、マサチューセッツ州ボストンで開催された、中絶権賛成派のデモの参加者たち。PHOTO BY JOSEPH PREZIOSO / AFP VIA GETTY IMAGES

共和党は次の戦場への準備を始めている。その戦場とは〈避妊〉だ。

米国内での中絶の権利を認めた判決を覆す意向を示した米連邦最高裁判所の意見書草案が外部に流出してから1週間も経たない2022年5月8日(日)、ミシシッピ州のテイト・リーヴス知事はNBCの番組で、避妊を禁止する法案に署名するか否かについての明言を避けた。

「ミシシッピではそんなことは起きないと思います。他の州では議論されるでしょうが」とリーヴス知事。ミシシッピといえば、中絶へのアクセスを規制する全国的な保守派キャンペーンの最前線にある州だ。ミシシッピ州では妊娠15週を過ぎたあとの中絶を禁じる州法が可決されており、実際これは、1973年に連邦最高裁が米国内での中絶を合法と認めたロー対ウェイド判決を覆す意見書草案のきっかけになった訴訟の中心になっている。

「質問の答えになっていませんよ」と司会のチャック・トッドが追及すると、「まあ、議論できることはたくさんありますから」と州知事は答えた。

Advertisement

アイダホ州では、下院委員会の委員長を務めるブレント・クレイン州議会議員が、緊急避妊薬〈プランB〉の禁止を提案する法案の審議に「おそらく」応じる、とテレビのインタビューで語った。

「IUD(子宮内避妊用具)に関しては、まだどのような立場をとるかわかりません」とクレイン議員は付け加えた。

中絶禁止派の活動家たちは、プランBやIUD、またホルモンに作用するその他の避妊具は「堕胎薬」である、つまり妊娠を終わらせるものであると長らく主張してきた(どのタイプの避妊具が該当するかは誰に尋ねるかによって変わる)。しかし、科学的に見て彼らは間違っている。上記の避妊具のうち、妊娠を終わらせる作用があるものなどない。そもそも定義上、避妊具は妊娠を予防するためのものだ。

中絶反対派は、受精した瞬間から妊娠が始まると信じていることが多い。しかし医学界は、受精卵が子宮に着床したときを妊娠の始まりとしている。そしてプランBやIUDは通常、着床を妨げる作用はしない。

2013年、リプロダクティブ・ヘルスのための医師会(Physicians for Reproductive Health)や米国産婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologists)が代表する複数の医師会がまとめ、連邦最高裁に提出した報告書では、プランBをはじめとする緊急避妊薬は「作用がそれに限定されるとは言わないまでも、主として排卵を抑制することで受精が起きるのを妨げるもの」だと説明されている。また同報告書では、IUS(子宮内避妊システム)でもそれ以外の種類でも、IUDは精子が卵子へとたどり着かないようにして受精を妨げると書かれている。IUS以外のIUDが緊急避妊法として使用された場合にのみ、受精卵の着床を防ぐことができる。

それでも、「受精や着床が起きるのを防ぐ避妊法は、どう考えても堕胎薬にはなり得ない。それは個人の信念や宗教的信条などとは関係がない」と同報告書は指摘する。

当時連邦最高裁では、ホビー・ロビー(Hobby Lobby)というクラフトショップの店長が宗教上の理由で従業員に特定の避妊具の保険適用を認めないことを許可するか否かについて議論がなされており、最終的に連邦最高裁はホビー・ロビーの店長の言い分を認めた。その意見書をまとめたのはサミュエル・アリート判事。5月頭に流出した草稿をまとめたのも彼だ。

政治と科学の闘いにおいて、科学が勝利することは多くない。もしロー対ウェイド判決が覆され、州法で中絶を禁止することが可能になれば、議員たちが中絶を誘発するものとして特定の避妊法を法的に再定義し、違法と定める方向に動くかもしれないのだ。

「中絶を違法化することで、彼らはいずれ避妊法にも切り込んでくるかもしれません」と去年12月、ミシシッピ州の中絶禁止法にまつわる口頭弁論後、VICE Newsの取材に語ったのは、フロリダ州立大学法学部で生殖にまつわる法制史を学ぶメアリー・ジーグラーだ。

ロー対ウェイド判決は、1965年のグリズウォルド対コネチカット判決や1971年のアイゼンシュタット対ベアード判決など、避妊を行う法的権利を拡大した連邦最高裁の数々の判決のひとつの基礎ともなっている。もしロー対ウェイド判決が誤っていると見なされれば、これらの判例も、ひいては避妊の権利自体も危険にさらされるだろう。

「宗教右派が政府内での勢力を強めている現在の政治情勢では、容認できない性的関係を結んでいるひとたちへの監視や懲罰へとつながる可能性があります」とスミス大学の女性・ジェンダー研究プログラム(Program for the Study of Women and Gender)の代表を務めるキャリー・ベイカー教授は今年の5月頭にVICE Newsに語った。「女性が避妊法を使用したことや、中絶や婚前交渉を理由に解雇される可能性のある世界も予想されます」