今夏も放送された『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2017』。北川景子、遠藤憲一、杉咲花、手越祐也、野村周平など豪華メンツが熱演した。そこには〈ほん怖クラブ〉の子供たちも館主・稲垣吾郎にしがみつくほど、極上の恐怖が溢れまくっていた。
しかし今年の夏はまだ終わらない。VICE PLUSでは『ほんとうにあった怖い話』の配信をスタート。こっちは〈う〉が付く。あっちは〈う〉が付かない。たった一文字の違いではあるが、両作品のあいだには大きな懸隔がある。それは〈う〉シリーズを手がける森内健介監督のオリジナリティ溢れる作家性に尽きる。おぞましいリアルな現場で叩き上げられた彼の手腕は、〈う〉が付かないあっちとは、まったく異質の恐怖を醸し出している。さらに、『奇跡体験!アンビリバボー』を凌駕するシリーズ『怪奇!アンビリーバブル』では、監督自らが実際に心霊現場を訪ね、予想だにしなかった奇妙な体験を私たちに提示する。日常と非日常の境界線上にこそ、本物の恐怖が存在している、と監督は教示してくれているようだ。
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VICE PLUSでは、森内健介監督作品を特集する。現在は次作への準備のため、表舞台を避けていた森内監督だが、ついに長い沈黙を経て、これまでのおぞましい体験について語ってくれた。納涼なんて言葉では済まされない、ガチの冷気(霊気)を感じていただきたい。
*インタビューでは作品内容について詳細に語っていただきました。ネタバレにご注意ください。
§
二日間かけまして、森内監督の全作品をみっちり拝見させていただきました。
ありがとうございます。でも1本見ればだいたいわかるかと思いますが。
監督は、『ほんとうにあった怖い話』の「九夜」「十六夜」「十七夜」と『怪奇!アンビリーバブル』を撮っていますが、どのような経緯で監督をされるようになったのですか?
先にスタートしたのは、『ほんとうにあった怖い話』です。私は、テレビ埼玉で映画の紹介番組を担当していたのですが、そこで知り合ったプロデューサーに声をかけていただきました。いきなり「やれ」と命じられました。
怖い話はもともと好きだったんですか?
子供の頃に、中岡俊哉とか、あのへんの本を読んではいたので、好きは好きでしたけど、別にホラーをやりたいという気持ちはありませんでした。でも、やってみたら意外と面白かったです。
その『ほんとうにあった怖い話』ですが、〈ほんとう〉ってところが…(笑)
はい、そうです。そこがミソです。〈ほんとう〉か〈ほんと〉か。〈う〉が付くか、付かないか。
森内監督の作品は〈う〉が付く。
はい。
〈う〉が付かないと、稲垣吾郎さんが館主を務める…
はい。フォーマットをまるまるいただこう、という企画だったと記憶しています。
監督の『ほんとうにあった怖い話』は、投稿者の実話に基づいた再現ドラマですよね。怖い話は公募されていたんですか?
はい。どのくらい来ていたのかは把握していませんが、会社のある雑居ビルにメールとかハガキが届いていました。
脚本は、どなたかが書いてらっしゃったんですか?
はい。私がプロットを書いていました。
森内監督の『ほんとうにあった怖い話』には、結構すごいメンツが出演されていますよね。「GPS」はプロ雀士の和泉由希子さんですよね?
えっと、どうだったかな?
「遅れてきたメール」は、『ゴッドタン』にも出ていた西館さをりさん。
そうだったような…。
「忘れられぬ人」は、『ビアン婚。〜私が女性と、結婚式を挙げるまで〜』の著者で有名な一ノ瀬文香さん。でも残念ながらこの前離婚されましたよね。
はぁ、そうだったんですか。
そして「おまじない」には、今をときめく中村ゆりかさん。JRのCMにも出ていますよね!
ああ、そこまでいったんですか。確かあの娘、オスカーですよね。オスカーは教育がしっかりしていますからねぇ。
スターダストみたいですよ。
ああ、そうでしたか。
監督は、あまりキャスティングに関してはご興味がなかったのですか?
というかですね、撮影前日に「キャスト、こちらです」と資料が来るんです。宣材写真とプロフィールが送られてきて、「これで明日やってください」って。ですからノープランというか、その場のぶっつけに近いんです。
前日ってすごいですね。では、いわゆる本読みとかも?
一切ありません。ただ脚本は送っているので、出演者のみなさまは、ある程度、読み込んでくれていました。
当日にならないと、どんな人がどんな芝居をするかは全くわからないと。
はい。その通りです。
では、何カットも撮ったりして?
いえ、時間がありません。その日の内に少なくとも1本は撮り終えないといけないのです。
1日に1本撮るんですか?
はい。そういうスケジュールじゃないと予算的にもかなりキツくなります。本読みはもちろん、リハも出来ないですから。なんとかスタッフを集めて、1日1本、5日間で5本を撮りきらなければなりません。
1本あたりの予算をうかがってもいいですか?
スタッフのギャラ含めて100万くらいです。自分の取り分はそんなになかったですね。ロケセット代とか制作費とか、細かい雑費がたくさんあるのでキツかったです。はい。
じゃあ、他にお仕事もしていたんですか?
その頃はTSUTAYAあたりでバイトしていました。
TSUTAYAでご自身のDVDを整理したり(笑)?
あったような気がします。変な気分でした。
TSUTAYAでのレンタル回数が良かったら、何%か監督に入るんですか?
そういう契約ではないのです。買い切りです。いくら売れてもこっちは関係ないんですよ。
ちょっとずつギャラが上がったりは?
なかったですね。むしろ下がりかけました。
スタッフもご自身で集めていたのですか?
はい。ロケ地も自分で探したり、知り合いに探してもらったりしていました。
そういえば、すごく気になるロケ場所がありました。「秘密の日記帖」のお家なんですけど、どう考えても一般家庭が住む家ではありませんよね。洋館みたいな超豪邸で(笑)。
あれは大学時代の先輩の家です。
すごい先輩がいたもんですね(笑)。
白金台の家だったんですけど、無理やり、貸してくれ、と頭を下げました。
でも本来だったら、ご自身のつくりたい物があって、それに合わせてロケ場所を決めるじゃないですか? 自分の演出がどうっていうよりも、詳細が決まってから演出するようなスタイルになりますよね?
そうなんです。プリプロ* がありませんから。撮りたい場所があっても、そこで予算を使い果たしちゃうんです。〈プラネアール〉という、ロケセットを安く貸してくれる業者があるので、そこで借りて、時間を見ながら撮っていました。グロスで7時間とか8時間。弁当も30分で食べきらないと。
つまりプロデューサー業務も同時にやらないといけない?
そうですね。お金の管理もしなくてはなりません。
森内監督が撮られた『ほんとうにあった怖い話』は、「キャーッ!!」という悲鳴で終わるパターンが多いですよね。あそこで切るのが森内スタイルですか?
私のスタイルというわけではありません。投稿なので、投稿者、そして、その周辺の当事者が主人公なのです。だから殺されないし、勝手に殺しもできません。最後は少しうやむやになるんです。だから、オチというオチはありませんよね。
だからこそ逆にリアルに感じますよね。でも「ロシアンルーレット」という作品があったじゃないですか。あれは明らかに趣が違いますよね? かなりグロいものが出てきて。
あれは脚本を別の映像作家に書いてもらったんです。そいつがスプラッター好きだったんです。朝倉加葉子といいまして、現在は劇場映画なども手がけている敏腕女性監督です。
では「906号室」というホテルのお話も? あれもドロドロでしたが、朝倉さんの脚本ですか?
いえ、あれは私です。もともと私は、リアルな地味系ホラーが好きなんですけど、あのときはビジュアル的に飽きちゃうかな、と考えて、ちょっと内臓を出してみました。
ちょっとじゃないですよ! 天井からめちゃくちボタボタ落ちていましたよ!
ああ、そうでしたでしょうか。
では、監督ご自身が1番に気に入っている『ほんとうにあった怖い話』を教えていただけますか?
ボクシングのやつですね。先輩とのやつです。
「亡霊拳闘」ですね! どういった部分がお好きなのですか?
あれも出演者5~10人の宣材写真が送られてきたんですが、演技などは確認できませんから、いつも通り顔で選びました。それで顔で選んだボクシングのトレーナー役の人が、いい感じに話が通じない人だったんです。
「困ったなー」の出演者ですか? 「連絡がつかねえんだよなー」の人ですよね(笑)。
そうです。あの棒読みの人です。あの人はよくわからないまま現場に来ていたんですね。それを後で見たら、いい感じにパンチドランカーな味が出ていまして。まったく演出してないのに。あれは面白かったですね。
ホラーなのに、面白いですか(笑)。
ホラーですけど、とても面白かったです。
ちなみに監督には〈怖い〉という感覚はあるんですか?
オカルトは昔から嫌いじゃなかったんですけど、怖い話っていわれても、〈怖い〉と感じた記憶はないですね。自分の作品を見ても全然怖くないです。実際に現場でつくっているのは私ですし。
でも視聴者を怖がらせるためには、ある程度自分で〈怖い〉と感じる部分がないと、怖がらせられないのではありませんか?
もちろんそういうポイントはありました。というか、あったはずです。
では視覚的な話になりますが、怖い幽霊のメイクは、監督のイメージ通りにしていたんですか?
あれもメイクさんにぶっつけ本番でやってもらっています。事前にコンセプトは伝えてあるんですけど、打ち合わせは時間がないのでやっていません。
じゃあ、〈風呂場から出てくる若い女性の幽霊〉なんてお願いすれば、それに合わせてくれると?
はい。でももちろん失敗もあります。現場でいきなりやらされるのですから。
ものすごくインプロ的なアプローチをされているんですね。
インプロというと聞こえはいいですけが、こちとらどうしようもないというか、危機感だけです。
撮影当日は、どういう気持ちで臨んでいたんですか?
もう胃が痛くて、痛くて、しょうがなかったですね。ある程度は絵コンテも描くんですけど、本当に胃が痛くてしょうがなかったですね。
どうやってもうまくいかないから、OKを出さざるを得ないなんて状況もありましたか?
はい。次におさえている場所の時間がないので。
あとは編集でなんとかすると?
何とかならないんですけど。現場で何とかしないと、大抵のことは何とかならないんですよ。
そもそも、どうして映画に興味を持ったんですか?
ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)監督の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(Back to the Future, 1985)を子供の頃に見まして。身も蓋もない話ですけど、小学校のときにテレビでやっていたんです。すごく細かい小ネタだらけで、どのシーンを見てもそういうネタが溢れていたんですね。映画には、こういう楽しみ方があるんだなって。 漫画も好きだったんですけど、絵心がなくてやめまして、大学で映画サークルに入り、卒業後は映画美学校に入りました。
映画美学校っていうのは、他の映画専門学校とは違うんですか?
蓮實重彦とか、黒沢清とか、青山真治とか、あの辺の立教大まわりの作家が中心となってつくられた学校です。〈次世代の映画作家を生もう〉としていた学校でして、例えば他の学校…東放学園とかバンタンとかは、〈現場で使える人間を育てよう〉というコンセプトでやっているはずですが、映画美学校は、そういう感じではありませんでした。ですから、就職したときは、現場で結構怒られました。
どうしてですか?
実践的な授業があまりなかったからです。作家性ありきというか、批評ありきというか、そっち系の学校だったので、現場で役立つスキルが身についていませんでした。卒業してからわかりました。私も含めて、みんなそうだったはずです。
どのような会社に就職したんですか?
テレビ番組の制作会社に入って、細かい番組とかをやっていました。
就職してからも、映画を撮りたいお気持ちはずっとあったんですか?
ずっとありました。どうしようかな、と考えていたところに、『ほんとうにあった怖い話』の話をいただきました。
それで会社も辞めて?
そうですね。1本でやろうかなと。集中したかったので。
おいくつくらいの頃ですか?
24、25歳の頃です。
では続いて『怪奇!アンビリーバブル』の話もお願いします。こちらはビートたけしの顔が浮かびますが。
また寄せています。
2008年スタートなので、『ほんとうにあった怖い話』と同じ年に始まっているんですね。
そうでしたっけ?
そうですよ(笑)。こちらはどのように始まったのですか?
すでに『ほんとにあった!呪いのビデオ』というシリーズがありまして。
こっちは〈う〉が付かないんですね(笑)。
はい、ややこしいです。このシリーズがヒットしていたんですね。それに付随するサブ的な物として、企画が何本かあがりまして、その内のひとつが『アンビリーバブル』だったんです。
『怪奇!アンビリーバブル』も投稿ありきですが、こちらは怪奇現象の現場を訪れるドキュメンタリーですよね。
ご覧になってらっしゃるのなら、もうおわかりだと思いますが。
はい(笑)。
はい。
えっとこれは、モキュメンタリーであると?
そうですね。全部つくりものです。
いっちゃっていいんですか?
見ればみなさんおわかりになるでしょう。
投稿された心霊写真に基づいて調査するスタイルですが、じゃあ、この心霊写真は?
もちろんこっちでつくっています。心霊写真自体もロケ当日に撮るんです。キャストも当日しか来れないので。
これも当日キャスティングなんですか(笑)。
そうです。
調査の題材になる心霊写真以外にも、何枚か他の心霊写真を紹介していますが…
あれも投稿ではなくて、私がどこかから漁ってきたのを使っています。もう覚えていませんが、心霊写真はいっぱいつくりました。
そこまでいっていいんですか?
いいでしょう。
では、モキュメンタリーのストーリーに沿った心霊写真をつくると?
その通りです。
心霊写真をつくるコツを教えてください。
自分のなかで手法は確立しています。まず、古い写真じゃないと馴染まない。今みたいな何千万画素のデジカメのスキルだと上手くできないので、昔の写真を集めてきてスキャンしていました。
昔の写真はどこから手に入れるんですか?
知り合いに貰ったりしていました。あとは捨てられていたものを使ったり。
すごいですね(笑)。
しようがありません。
『アンビリーバブル』には、投稿者や、その関係者が登場しますが、脚本もあるんですか?
はい。セリフもあります。勘のいい役者さんだったら上手くやってくれますが、そうじゃない役者さんも出演するので大変でした。
森内監督ご自身もディレクターとしてレギュラー出演されていますが、投稿者と喧嘩するシーンがあるじゃないですか? 「私たちに幽霊が見えないのはどうしてですか?」「誰も見えないんだから説明できないだろう!!」っていう名シーンですが、あれも脚本ありきで?
はい。アクセントとして入れとかないとダラダラしちゃいますので。
仲直りしたあとも、結局あの投稿者は「やっぱり俺は帰る!」といって、車を降りようとするじゃないですか。
はい。
そのときの監督のセリフが「ギャラ出ませんよ」って(笑)。何回も「今帰ったら、ギャラ出ませんよ。いいですか?」って(笑)。あれはなんでしょうか?
本当にお金がなかったので、そういうセリフにしたと思います。
さらにパンチのあるシーンといえば、森内監督が嘔吐されるシーンもありますよね。
プリンを食べて、そのまま嘔吐しました。
トイレで吐けばいいのに、と思いましたが。
あれは霊のせいですから。そういうていです。
さらに清掃社員のKさんもブチ切れて、監督は蹴られていましたね?
ああ。そんなこともありました、ありましたね。
どういったいきさつで監督ご自身も出演するようになったんですか?
私は滑舌も悪く、映像映えする顔でもないのでイヤだったんですが、制作費も少なかったので、ちょっと恥ずかしいけど、顔出ししました。
ご自身の芝居をNGにした経験はありますか?
私は滑舌が本当にすごく悪いので、そこはテロップを出せばいいかなと思っていました。自分のところはサラッとです。
結構ハードな撮影でしょうが、こちらも1日で撮影を済ませていたんですか?
その通りです。
『怪奇!アンビリーバブル』もいい具合にモヤモヤが残りますよね。「この謎の声、おわかりいただけただろうかー?」みたいなのあるじゃないですか。ボリュームを上げてもあまりわからなかった(笑)。ああいう演出も狙ってらっしゃるんですか?
あまり派手な演出はやりたくないという気持ちがありました。まともに霊を出したくなかったんです。ヘッドフォンだと聞こえますよ。
何回かやって「う〜」くらいの小さな声が聞こえました。女性の声でした。
子供騙しなので。
ドラマじゃないから、こちらはほとんどやり直しもなく?
何回か重ねても、だいたい1回目が良いんです。ほぼワンテイク目を使っていますね。俳優さんもこなれてきちゃうんです。
でも『怪奇!アンビリーバブル』は、モキュメンタリーだと公表していませんよね? どのようなスタンスで撮られていたんですか?
みなさん、そのつもりで見てくれているんだろうなー、という気持ちはありました。ただ若い子とか、中高生とか、どの層の方が見ているのかはよくわかりませんでした。しかし、割り切って見ている方が大多数でしょうから、そこら辺を楽しんでいただけたら、とつくっていました。
本気で怖がってもらいたくなかったんですか?
本気で怖がりたいなら、他の監督さんの作品で。怖い作品、うまい方はたくさんいます。そこでは勝負出来ないと確信していました。出来るだけ、皆が引っかかるようなディティールを少しでもつくりたかった。
引っかかる、とは?
しこりが残るというか。気持ち悪いというか。
確かにしこりがたくさん残っています。スタッフ同士で喧嘩をするシーンとか(笑)。あと、基地みたいなアンビリーバブルの事務所も気になります。
『ほんとにあった! 呪いのビデオ』同様に、このシリーズもスタッフが肝なので、全員が常駐する部屋があるという設定でやっています。
こちらにも予算問題は存在していましたか?
『ほんとうにあった怖い話』より安かったですね。1本80万円くらい。ただ、ロケ地も全部ダマなので、その分お金はかからなかったですね。
ダマですか(笑)。どこかの〈城跡〉とかあったじゃないですか? あれも?
はい。あの城跡もダマで撮ってきて。
あそこにはカエルの死体もありましたね。「そのとき地面に…バーン!!」なんてアップになって。
ありましたっけ? たまたまだったかな?
たまたまですか? 「口から内臓が出ているカエルが!」といってましたよ(笑)。
ナレーションの方がうまくやってくれたんでしょうね。もうずっと回しっぱなしなので、面白いのがあれば使っています。
でも、こういう怖いものをつくっていると、実際におかしな現象が起きたりすると聞きます。監督はどうでしたか?
全くないです。なかったです。でもいち番怖かったのは、雨でテープが濡れること。
現実的な怖さですね(笑)。
やはり怖いのは、床を踏み抜いてしまう、といった物理的な怖さです。あとはヤンキーの皆様や、ホームレスの皆様ですね。
どうしてですか?
夏のロケとかだと、どこからか湧いてくるんです。殴られるというより、撮影が出来ないという怖さです。
実際にヤンキーに絡まれたりはしましたか?
ありません。でも、絶対に出てくると予感があったので怖かったです。ホームレスの方は、ロケ地で弁当を食べていましたね。ストロングゼロを飲みながら。
でも『アンビリーバブル』では、最後にお祓いするじゃないですか。その辺はちゃんとしていたと。
あの絵が欲しかったからだけです。でも女性のスタッフとかで、イヤだっていう娘もいましたね。私が塩を撒いてあげました。
映画美学校で勉強された作家性と、監督作品を経験されたあとに生まれた作家性に共通する部分はありましたか?
齟齬しかないというか、やりたいことが全然やれないジレンマしかないというか。学校時代は、ロケ地とかプリプロがしっかりしていて、準備を整えていたので、自分なりにやりたい方向性も見えていました。でも、いざやってみたら、とにかく時間とお金の勝負なので、それを上手く進める部分が何より難しかったというのはありますね。
監督にとっての作家性とは? どういうところに現れているのでしょうか?
先ほどもいいましたが、ディティールですね。見つけなくてもいいし、見てくれてもいいし、見てくれなくてもいい。わかってくれる人だけに、わかってくれるような何かが含まれているというか、それが多い分だけ、豊かな映像になると信じていました。
それは実践されていましたか?
出来たかどうかはわかりませんが、それを目指してはいたのかな、とは思います。
即興性の高い現場のなかで、これまでの演出とは異なる面白い発見などはありましたか?
一般の皆様にもインタビューしていたんですが、そういうところを撮ったりしていると、こういうところにアレが出るんだなと。
アレとは?
癖ですね。顔の癖とか、体の癖とか。映像だと如実に出るんだな、と思いました。
絵作りという意味での演出に関してもお訊きしたいのですが、『ほんとうにあった怖い話』には、映画的な部分もあります。どういう意識で撮ってらっしゃいましたか?
長回しですね。カット数を出来るだけ少なくしていました。長回しで怖がらせられないかな、と常に模索していました。
私が感じたのはスペースです。映像のなかに、不思議なスペースがある場面が多い気がしたのですが、あれは意図的にやっていたのですか?
そうですね。余白を残して、何かが起きるような雰囲気づくりを意識していました。でも肝になる怖い場面は、ヨリでカット数を増やすのがセオリーなんです。引きじゃなかなか出来ないので。
でも、あのスペースというか、隙間というか、あれが森内監督作品のポイントなんじゃないかと。ベッドの下の隙間とか。
いろんな心霊写真を見ていましたから。いちゃいけないところにいるのが怖いというか。そういうのがツボでしたね。
幽霊の姿はいかがでしたか? どのように表現しようとしていたのですか?
当時の幽霊は貞子とか、清水崇監督の影響下のものが多かったのですが、あえてそうじゃない幽霊にしたい気持ちがありました。幽霊というものは、もっと地味な気がしていて、「ガッ」と見せるよりは「ジワジワ」見せるというか。
幽霊が出て来ない話もありましたよね。
ありましたっけ?
「秘密の日記帖」には出てきませんでしたよ。
ああ。それは予算の問題とも関わってくるんですけど、ただ、はっきり見せたい物と、見せたくない物がありました。
「忘れられぬ人」の幽霊はピエロでしたよね? もう完全にピエロのまんま。
多分、企画者はイヤだったでしょうね。「もっとわかりやすくやれよ」といわれた記憶はあります。
でもあの話は特に印象に残っています。生きている頃から、あのピエロはいっさい言葉を発しない。幽霊になってからも同じ。彼女とあの幽霊ピエロは、これからもいっしょに人生を歩んでいくような。
メロドラマをやりたかったんですよね。ホラーのなかで。
今、思ったんですけど、あのピエロは最初から死んでいたんじゃないですか? 公園でピエロがジャグリングの練習しているシーンがありますよね? そこで付き添っていた彼女が、いきなり泣いて帰ってしまう。不思議なシーンです。となると、あれは思い出だったのかもしれない。もうピエロは死んでいたのかもしれない。そうすると自分の中でしっくりくる。深読みのしすぎですか?
何となく、ずっと流れているものをつくろうという気持ちはあったはずです。そこまで深読んでいただいてありがとうございます。
でもあのピエロ、ジャグリングが下手でしたね。
当日にならないと出演者の詳細はわからないので。〈修行中のピエロ〉という設定でいきました。
アパートの部屋のシーンなんですが、今の彼氏と酒を飲みすぎてましたよね(笑)。部屋中に缶ビールが散らばってました。ちょっと異常なくらいに。
飲みすぎというより、彼氏が全部飲んでますからね。
アパートに着く前、彼女は彼氏に「今日はビール2本までね」といってました。でも率先して「私、お酒買ってくる!」とか。ぶち壊れてて最高でした(笑)。
あれがビアンの子ですよ。
ああ、一ノ瀬文香さん。すごくいやらしい感じもありましたよね?「ンー、ハー、ハー」って。
ちょっとエロの要素も入れたいなというのは常にあります。
プロ雀士の和泉由希子さんの谷間もヤバかったですよね。
あれは意図していないエロです。ああいう服を着ていらっしゃったので。あれは意図したくなかった。
では、あのエロは? 「呪水」で、水道屋さんが修理にきたじゃないですか。「全然壊れてないですよ」「本当ですか?」とかいって、女の子がシンクの下に入るじゃないすか? そのときの水道屋さん、すごくいやらしい目つきで女の子を見てましたよね。必要以上に水道屋さんも濃いキャラで、口髭生やして、ギラギラしてて。ホラーじゃなかったら、このまま何かが起こるくらいの顔でした。あれに意図はあったのですか?
山上たつひこの『半田溶助女狩り』を想定していました。外部の電気屋が来て、ひと悶着、ふた悶着…と。
なるほど(笑)。「呪水」が出てきたんで、もうちょっとお訊きしたいんですけど、女の子がお風呂に溜まった水を流すじゃないですか、栓を抜いて。でもまた勝手に水が出て溜まってしまう。ってことは、幽霊がお風呂の栓をしているのかなーなんて。
え…
それともここは深読みしなくてもいいところですか?
ああ…すみません。
いえいえ、謝らないでください! ただ、常識的に考えると、水が勝手に流れるのはホラー的にありそうなんですけど、そうじゃない場合、栓はどうなってるのかなー? 勝手にジャラジャラーって閉まるのかなー? なんて、気になりまして。
そこはやらないといけないところです。物理的な法則に従わないのはおかしい。そこは栓が閉まるカットはあって然るべきです。それは現場では気が付かなかったし、誰もいってくれなかった。
なんか、思い出させてしまってすいません。
それはきっちりやらないといけないでしょう。ジャンプカットではないのに、ジャンプしてないのに、論理的に繋がってないのはイヤです。
幽霊が栓をしていることにすれば? だったら納得しませんか?
納得いかないですね。幽霊には栓をして欲しくない。日常的な仕草をして欲しくない。
なんか掘り起こしてしましって、本当にすいませんでした。
いえ、ありがとうございました。反省点です。
ピエロの「忘れられぬ人」が、森内監督最後の『ほんとうにあった怖い話』になりました。
はい。ちょっと体がもたなくなりまして。一区切りしようと。
バイトをしながらですものね?
はい。それに作品の仕事量も増えて、キツくなりました。編集などを誰かに投げれば、量産出来たのかもしれないですけど。
でも、作業自体は面白かったですか?
そうですね。今思うと面白かったのかもしれない。時間のないなかでやるというのは。
現在は古物商をやられているそうですが、今後、作品をつくりたいというお気持ちはありますか?
しばらくブランクがあるので、小手慣らしで何か撮ろうとは考えています。腐ってしまいますから。でもなかなか映像と仕事、両方をやりつつというのは難しいですね。
また撮るとしたらホラーですか?
そうですね。あとはドキュメンタリーとか。でも社会派は撮りたくありません。〈物〉とかには興味はあるんですけどね。
物というと?
物というかグッズというか…
伝統工芸とか? あ、古物商だし。
人よりは物…すごく抽象的ですけど。
物と映像がどういう風に結びつくのか楽しみですね。
わからないですけどね。自分で喋っておいて、わからなくなりましたけど。
VICE PLUSでどうですか? それこそ『アンビリーバブル』の復活とか?
ありがとうございます。
また出演していただいて。喧嘩したり、吐いたり、蹴られたり。
そのまま出るのはもう恥ずかしいので、私が死んで、親戚の設定でやるとか。そうでもしないと、たぶん無理です。
§
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