フォトグラファー ハル。布団圧縮袋に裸の男女が入った摩訶不思議な作品を撮るフォトグラファーをご存知だろうか? 外国人が日本に観光に来た際、まるで観光名所を訪れるかのように、ハルに連絡し、俺たちも撮ってくれと撮影の依頼をするなど、口コミで密かに噂になっているという。
作品を見れば、なんともグロテスクでありながらも、なぜかポップ。話を聞けば聞くほど、ハル自身の辛辣な悩みが作品に表れており、その奇妙なテイストにも深く頷ける。フォトグラファー ハルを動かす衝動に迫るインタビュー。
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まず、この作品のコンセプトについて教えて下さい。
コンセプトとしては、「そんなに好きなんだったら、もっと、もっとくっついちゃえ」です。好きな人同士、カップルをできうる限り引っつけたいって欲求が芽生えまして。
いつから、そういう欲求が芽生えたんですか?
僕自身、ひとつのシリーズの写真を撮影していく中で、次のシリーズのアイディアが浮かび、写真集として具現化していく過程を踏んでいるので、最初に撮り始めたものから説明すると、もともと夜クラブに遊びに来ているカップルに惹かれたのが始まりです。もちろん、普通は写真を撮らせてくれって声をかけると緊張したり畏まったりするんですが、たまにカメラの前でキスしたり、いちゃついたりする人がいて、これは面白い、カップル撮影の肝だなって思って。それを突き詰めていくと、どれだけ2人が距離を縮めて写真に写るかで、2人の愛の深さや、関係性の深さみたいなものを表現できるんじゃないかと思ったんです。具体的には、このときに、まず「もっとくっついちゃえ」っていうコンセプトが出来上がりました。それで続編『PINKY & KILLER DX』という作品を作るんですが、あとはドンドン、エスカレートしていきます。
これがパリのセレクトショップ、コレットの目にとまり、世界で注目を集めるきっかけになった作品ですね?
そうですね。とにかくカップル2人が抱き合って距離を縮めて撮影する。それを200組くらい撮ったんです。そしたら、たまたま評価されて。でも、まだまだエスカレートします。この作品を撮影していくうちに、本人たちの意思に関わらずくっつかざるを得ないものを見つけまして。それがバスタブで、中に2人を押し込んじゃえば、強制的にくっつかざるを得なくなるっていうのが肝だなって。ここら辺で、僕の中でも明確に2人を凝縮させたいって欲求がより具現化された感じです。それでできたのが『Couple jam』っていうバスタブシリーズの写真集です。
このタイトルにはどういう想いが込められているのですか?
フルーツで作ったジャムと、ジャムセッションのジャムと2つの意味を掛け合わせて名付けています。イメージとしてはカップルを凝縮して煮込んでいくイメージで、フルーツジャムならぬカップルのジャムを作る。そしてモデルと僕との即興による化学反応が起こるというジャムセッション的な行為ということを掛けて名付けてます。あと、イメージソースとしては子供が木の上に登って逃て、それをトラが追いかけてきて木の周りをグルグル回っているうちに溶けちゃってバターになっちゃうっていう、幼少期に観た『ちびくろサンボ』から来ています。表紙を見てもらえれば分かりやすいのですが、黄身とトラのイメージの黄色と、とろけていく感じが象徴的だと思います。
そして、次にいよいよ布団圧縮袋に行き着くわけですね。
はい。ただこれには、構想から半年くらいは撮り始めるまでに時間がかかりました。『Couple jam』はどこの家にでもあるバスタブであることが面白いと思うんです。これを、撮影セットを作って撮影したら全然面白くない。風呂に入る道具ではなく、カップルを入れる容器として捉えるものの見方が面白い。そこで、日常生活で使うもので、よりカップル2人をくっつけさせられるものって考えたときに浮かんだのが、布団圧縮袋だったんです。それで世の中に存在する一番大きいものを取り寄せて実験を繰り返して。
具体的にはどうやって撮影しているのですか?
実際には、布団圧縮袋に入ってもらって、業務用の掃除機で空気を抜いていくんです。だいたい、2分くらいで抜け切るんですけど、そしたら、そこからは時間勝負です。なんせ息が止まっている状態ですからね。なんならカメラを構えてから10秒です。それ以上は危険なんで、シャッターを一回押したら、すぐに空気を抜いて。それを3回繰り返して、その中でもグラフィカルで面白いものを作品としています。布団圧縮袋も今では完全特注で作っています。ただ、この作品って真空パックになっていることに、フィーチャーされがちなんですが、僕にとっては、そこは大事じゃないんです。顔がゆがんでいたり、テカリだったりは副産物でしかないんです。裸かどうかも、正直どっちでも良くて。なんせ、テーマは「そんなに好きなんだったら、もっと、もっとくっついちゃえ」なのですから、あくまで密着度なんです、重要なのは。『FLESH LOVE』ってタイトルも、まず生肉って意味での、ひとつの塊にしたいっていう僕の欲望と、真空パックにして、2人の愛の状態を永遠に残すっていう。そういう2つの意味を込めて名付けました。
そして最新作の『雜乱』に行き着くんですね。
そうですね。これまで、「そんなに好きなんだったら、もっと、もっとくっついちゃえ」をコンセプトに、とにかく削ぎ落としてきたんです。ある意味、そのコンセプトは『FLESH LOVE』で行くとこまで行ったと思うんです。もうこれ以上くっつきようがないっていう段階まで。だったら次は、生活に使ってるものとか、仕事道具とか、ライフスタイルの中で大好きなもの、大切にしてるものをカップルといっしょに入れちゃえって。これは惑星のイメージです。惑星って、最後ビッグバーンを起こして爆発して、その後、急速に縮んでブラックホールになるって言う説があるじゃないですか?そのときに周りのものを吸い寄せるっていう、そのイメージなんですよね。
なるほど。ところで、そもそも、なんでそんなにカップル同士がくっつくことに魅力を感じるのですか?
おそらく実生活のフラストレーションだと思います(笑)。
やっぱり、なんか不満があるんですね(笑)。
結構深刻な、、、。僕自身結婚しているんですけど、僕の奥さんは僕の作品を嫌いだっていう。相当悲しいですよ、なんか全否定されている感じで、なんで一緒にいるんだろうって思っちゃたりして。
つまり、halさんが作品を撮り続けているっていうのは?
実生活のフラストレーションが製作意欲に繋がっています。つまり、実生活が上手くいってないから、それを補う行為として、セックスをビジュアル化して喜んでいる変態ということです(笑)。単純に自分自身エロいってことに尽きるという、完全なる性欲、個人的なフェチを楽しんでいる感じで作品を撮り続けているということです。
PHOTOGRAPHER HAL
グラフィック制作の会社に勤務するフォトグラファーでありながら、今回紹介した写真集のように、フリーの作家としても活動する異色のアーティスト。パリフォトやブックフェアなど海外の作品展にも積極的に参加する。
http://www.photographerhal.com/
ipad application Flesh Love
itunes;http://itunes.apple.com/jp/app/flesh-love/id472646206?mt=8
Photo Book Zatsuran
http://www.tosei-sha.jp/