100日間限定営業 歌舞伎町の筆談バー『デカメロン』
Photo: Courtesy of Tezuka Maki

100日間限定営業 歌舞伎町の筆談バー『デカメロン』

「新宿歌舞伎町の評判を回復し、安心してお酒を飲める場所だということを示したい」
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP

新型コロナの感染拡大の影響で、私たちは他人との距離に警戒するようになった。そもそもマスクは品によって個体差があるし、マスクをつけていたとしても、友達との会話で、ウイルスをまき散らすリスクがあることは変わりない。感染予防のために家にこもるひとも増え、バーやレストランなど、ひとが密集したり、他人同士のやりとりが交わされてきた空間は今、安全に配慮しながら客を迎える新しい方法を模索している。

新宿歌舞伎町にあるブックカフェ&バーのデカメロンでは、客は口ではなく、ノートを使った筆談でコミュニケーションをとる。入り口で客を出迎える店員も、喋るのではなく筆談をする。この店は、国内有数の繁華街、新宿歌舞伎町において唯一無二の〈筆談バー〉だ。

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ノートに記されたメッセージ。PHOTO: COURTESY OF TEZUKA MAKI

店の名前は、中世イタリアの作家、ジョヴァンニ・ボッカッチョによる物語集『デカメロン』からとられた。本書は14世紀に猛威をふるったペストから逃れるため、フィレンツェ郊外の村へと引きこもった男女が語る100の物語を収めた作品で、私たちが生きる今の時代にまさにふさわしい。

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​Photo: Courtesy of Tezuka Maki

オープンは今年の7月下旬。ビール、ワイン、カクテル、ハードリカーなどを提供し、ウェルカムドリンク、グッバイドリンクもふるまわれる。

「(ウェルカム、グッバイドリンクは)お客さんに、その世界にどっぷり浸かってもらうための歌舞伎町の伝統です」と語るのはデカメロンオーナーの手塚マキだ。「店に入るとき、出るときには、お客さんに気分良くいてほしいので」デカメロンでは、彼が経営する近隣の店舗のフードも提供している。

店内では、ドリンクを飲むとき以外はマスクをつけなければならない。客は友人と普通に話すこともできるが、多くのひとはこの店ならではの筆談の楽しみを味わっているようだ。

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Photo: Courtesy of Tezuka Maki

ドリンクやフードを注文するさいはバーが用意している紙に記入し、店員もその紙の上で返事をする。コロナ禍に適応した新しいコンセプトの店だが、経営はなかなか厳しいという。足を運ぶ客はいるものの、歌舞伎町の他の店舗同様、充分な売り上げはあげられていない。同エリアのホストクラブやキャバクラ、ラブホテルなども、パンデミックで大きな打撃を受けている。

「歌舞伎町エリアは、コロナウイルスで大打撃を受けています。緊急事態宣言が出されたときも、セックスワーク、ホストクラブやキャバクラなど、歌舞伎町のあらゆるビジネスが見捨てられました」と手塚は述べる。

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Photo: Courtesy of Tezuka Maki

歌舞伎町で営業している店舗は、4月に出された緊急事態宣言で休業を余儀なくされた。5月に営業再開すると、今度はホストクラブでクラスターが多発。歌舞伎町での感染に関する報道に東京都民の懸念は高まり、かつて賑わいが絶えることがなかった街は閑散とした。

それについて手塚は、残念なことだ、と嘆く。実際は、歌舞伎町の大半の店舗が、感染対策に真摯に取り組んでいるという。

「歌舞伎町で働く多くのスタッフが、クラスターの発生前から検査を受け、感染者がいないことを確認していました。歌舞伎町の文化においては、信頼と誠実さが非常に大切です。スタッフは、会った相手について上司に報告していたし、ちゃんと検査も受けていました。彼らの多くが若者なので、無症状で済んだのは幸運でした」と手塚は説明する。

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バーの店員。PHOTO: COURTESY OF TEZUKA MAKI

「歌舞伎町では継続的に検査を行い、安全性に気を配っていましたが、ニュースではそれが報道されませんでした。僕らはモンスターだとみなされているんです」

歌舞伎町で営業している店舗の従業員たちは、自分たちがコロナウイルスを広めるスプレッダーとして忌避されていると感じている。デカメロンをオープンしたのは、歌舞伎町の評判を回復し、安心してお酒を飲める場所だということを示したいからだと手塚はいう。〈夜の街〉でのクラスター発生に対応するため、日本政府はナイトクラブ向けのガイドラインを発表した。その中には、大声での会話を避ける、という項目もあり、デカメロンはガイドラインに準じた店舗だといえるだろう。

「もっと多くのひとたちに歌舞伎町、デカメロンに来てほしい。そして歌舞伎町で働く人間を、教育を受けていないとみなすのはやめてほしい。僕らはお客さんとスタッフの安全を、何よりも優先しています」と手塚は訴える。

「デカメロンでは、友人とのコミュニケーションにおいて筆談という選択肢を提案しています。このコロナ禍の中で、お客さんたちが自分の頭の中にある考えを自由に書ける場を作りたいとも考えているんです」


デカメロン
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