浮いた酒とドラッグ代で集めたヴィンテージTシャツコレクションを大公開

3週間の自宅待機のあいだに自分が着たTシャツすべてを撮影し、それぞれのアイテムにちょっとしたコメントを書いてみた。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
浮いた酒とドラッグ代で集めたヴィンテージTシャツコレクションを大公開
All photos by Bob Foster

数年前、僕は酒とドラッグを完全にやめた。そうして、別のお金の使い途を探すことを強いられた僕は、ヴィンテージTシャツの収集を始めることにした。

古着のTシャツが好きなのは、一着一着に歴史があるからだ。当然、その歴史の半分は、推測しなければならないが、巡り会ったTシャツの情報収集は実に楽しい冒険だ。ただ、絶対に知り得ない情報もある。前の所有者は誰だとか、そのひとはどうやってこのTシャツを手に入れたんだとか、どうして首元がこんなに焦げてるんだろう、とか。それはまさに神のみぞ知る、だ。でも、Tシャツを着ながらそういうことに想いを馳せるだけでも楽しい。

僕は10年来古着のTシャツを買ってきたが、その購入場所は米国各地のリサイクルショップ、eBayやDepop、他のオタクとの交換、よくわからない小さなショールームなど多岐にわたる。LAの大きな邸宅に暮らすコレクターから大量のTシャツを買い受けたこともある。僕は、相手がてっきり生活のためにTシャツを売っているひとだと思っていたので、実は彼が有名電子タバコメーカーのサイレントパートナー(公には知られていない共同出資者)でもあると知って驚いた。

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Tシャツコレクターのなかには、超高額なレアアイテム(例えば、1990年代のMY BLOODY VALENTINEのTシャツは1500ポンド(約20万円)はする)の収集に励むひともいるが、僕は安い男なので、レアかどうかではなく、とにかく変なアイテムを集めている。

ロックダウンが続き、なかなか自由に外には出られない状況を楽しもうと思った僕は、5月頭までの3週間の自宅待機のあいだに自分が着たTシャツすべてを撮影し、それぞれのアイテムにちょっとしたコメントを書いて公開しようと決めた。ゾッとするような数字や恐ろしいバイブスが蔓延している皆さんのニュースフィードに、新しい風を吹き込めたなら幸いだ。

SLAYERのタイダイTシャツ

slayer tie die

黒くないメタルのTシャツは最高にカッコいい。なぜならそれは、自らの〈ヘヴィネス〉への自信の表れだから。そう、このTシャツで、SLAYERはこう言っているのだ。「俺らは陰鬱さをわざわざ演出する必要はない。俺らの評判がすでにそれを語ってくれてる。このターコイズのタイダイTシャツいいだろ」と。しかも『Undisputed Attitude』といえば傑作アルバムだ。パンクソングのカバーアルバムだが、オリジナルよりも緻密な演奏で、1996年当時、僕のようなニキビ面のキッズロッカーたちがクールなバンドに夢中になるきっかけとなった。

フラタニティの伝説、パディ・マーフィー

paddy murphy t shirt

パディ・マーフィーに関しての〈伝説〉はインターネットで色々と見つかるが、簡単に言ってしまえば彼は、アル・カポネの手下のなかで唯一の大卒であり、男子学生社交クラブ(フラタニティ)のシグマ・アルファ・イプシロンのメンバーでもあった。いまだにシグマ・アルファ・イプシロンのメンバーたちはその事実を誇りに思っているようで、まあ、その気持ちはわかる。

THE GRATEFUL DEADの説明文

grateful dead

GRATEFUL DEADのTシャツは、Tシャツ収集業界のなかでも一大セクションで、高値で取引される。このTシャツはそういう類のものではないが、GRATEFUL DEADというバンドについて、実に明確な説明をしてくれているアイテムだ。それにしても、彼らはどうやってこんなに多くの黒のラブラドールと出会ったんだろう?

本分を果たしたCYPRESS HILL

cypress hill

1993年当時、郊外のショッピングモールをうろついていた非行少年が着ていたこのTシャツを見た共和党員が、「バギーパンツ履いて学校サボってレンタルビデオ屋の前にいるこのガキ、マリファナ政策に関してはなかなか的を得た主張してるな!」と納得し、そして法律を変えるに至ったかと思うと、すばらしいTシャツだ。

GRATEFUL DEADリスペクトの女子社交クラブTシャツ

grateful dead

アルファ・サイ・デルタは女子社交クラブで、その公式サイトによると、どうやら「シスターフッド、リーダーシップ、知識、サービスを提供することで、女性が自らの可能性に気づけるよう」な活動をしているらしい。そのサイトには「GRATEFUL DEAD風のイケてるTシャツを作る」ことについては言及されてないものの、このクラブがそういう活動もしていることは間違いない。

BL'AST!はイケてる

bl'ast

BL'AST!がカッコいいのは、全てのテンポを緩め、面白さが全く失われてしまったBLACK FLAGになる前のBLACK FLAGみたいな演奏をしているからだが、サウンドだけじゃない。『It's In My Blood』のアートワークだって最高だし、〈It's In My Blood〉というアルバムタイトルも最高だ。イメージとテキストのコンボでゾクゾクする。そんなわけでこのTシャツは完璧。2013年、デイヴ・グロールとサザンロード・レコードが『It's In My Blood』のリマスター盤を『Blood!』というタイトルで再々リリースしたが、アートワークは一新されてしまった。オリジナルのアートワークを使うにはコピーライトの問題などがあったのだろうと推察するが、それでもやっぱり悲しい。

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EXTREME NOISE TERROR…名前もTシャツも最高すぎる

extreme noise terror

グラインドコアは間違いなく、Tシャツを念頭に置いて生まれたジャンルだ。EXTREME NOISE TERRORだって、この最高に面白い組み合わせの言葉をTシャツに載せて、キッズたちに着てもらって、その言葉の意味についてはっきりと一線を引くために付けた名前であるに違いない。

花の1950年組

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最初にこのTシャツを着ていたひとたちは、今は90歳近いということだ。この〈Manual Arts High School(マニュアルアーツ高校)〉について僕が得られた情報といえば、1910年に創立された当時はLAで3番目の高等学校だったということと、大豆畑のなかに位置していたこと。有名な卒業生はアーティストのフィリップ・ガストンと連続殺人犯のジョン・フロイド・トーマス・ジュニア。後者はちょうど1950年に同校に在籍していた(卒業はその2年後だが)。皆さんも、このTシャツが面白い理由がわかってきただろう。

もはや過去となった〈新生〉MISFITS

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新生MISFITSは旧MISFITSよりも長い歴史があるが、旧MISFITSが再結成を果たしたため、新生MISFITS時代の曲をライブで聴くことはもう二度とないだろう。とはいえ、パンクバンドに対して苦言を呈したり、下に見たりする態度はよろしくない。好きなものは好き。他人の意見など関係ない。

バート・シンプソン×ポートランド消防団

Bart Portland

ポートランドの消防団とバートの非公式コラボ(しかしこのポートランドがどこのポートランドかは不明)。バート・シンプソンを勝手に使ったアイテムは1990年代に大量に生産され、今はInstagramに〈非公式バート〉を集めたアカウントが星の数ほどある。どれも興味深いので、時間がないとは言わずに見てみることをオススメする。

LSDバイブス

LSD t shirt

LSDの生みの親、アルバート・ホフマンへのトリビュートTシャツ。これを着て空港のセキュリティを抜けるのは至難の技だろう。このTシャツについては以上。

超90年代なR.E.MのTシャツ

REM t shirt

90年代は今、どの年代よりも特別な時代だ。なぜなら当時ティーンエイジャーだったひとたちが、今のカルチャーの要職についているから。現在38歳のクリエイティブディレクターやシニアスタイリストたちの十代といえば、Blind Skateboardsの『Video Days』を観たり、ロラパルーザに行ったり。だからこそ今のカルチャーがこんな感じになっているというわけだ。きっと、2040年に2020年を振り返ったらよくわからないことになるだろう。

地獄のようなOZZFEST 2001

ozzfest t shirt

なんという時代だったのだろう。UNION UNDERGROUNDって誰? なんでBLACK SABBATHの下に名前が書かれてるんだ? それにしても、真夏のOZZFESTのモッシュピットから、また新型コロナのさらに新しい型が広まったりして…みたいなことを考えてしまう。

GREEN DAYってクールだったよね

green day

今や1990年代は遠く過ぎ去った。なので、みんなで「90年代のGREEN DAYってカッコよかったよね」と言っても問題ない。個人的には、2000年代に入りメンバーがステージでお揃いの衣装を着始めてからイマイチになったと思っている。ガソリンスタンドシャツと茶色のDickiesを履いてた頃のほうが好きだ。

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MCAユニバーサル・ホームビデオ

MCA

もし2001年にロックダウンが起きていたら? 家にはVHSテープしかない。『フレンズ』のシーズン5の3話分のテープ3本、〈あの〉シーンの部分だけがすり切れた『ワイルドシングス』、エディ・イザードのスタンドアップコメディショー、800回は見たスケートビデオ『411 Video Magazine』、そして『サウスパーク/無修正映画版』…。最低だ。今はつらいが、せめてストリーミングサービスがあって本当によかった。

SUICIDAL TENDENCIESの破壊衝動

suicidal

メタルやパンクバンドのTシャツはめちゃくちゃ面白い。なぜならそれらのTシャツは、特に理由はないけど悪いことがしたい、というシンプルな欲望について語ってくれているから。本当に、どうしてひとは〈モナ・リザ〉を燃やしたくなるのだろう? このTシャツはSUICIDAL TENDENCIESの、1992年にリリースされた『ジ・アート・オブ・リベリオン』のヨーロッパツアーで販売されたもの。フロントにプリントされているのはアルバムのジャケットだ。

ジョン・ディア社のトラクター販促アイテム

John Deere t shirt

米国にはいろいろな問題点があるのは確かだが、トラクターとTシャツを組み合わせてこんなクソアイテムを生み出せるんだから立派だ。例えば英国のモリス・マイナー(自動車メーカー)が、プロレスグッズみたいなTシャツを販促アイテムとして出すなんて考えられるだろうか? おそらく米国は、こうやって道を誤ってきたんだろう。

UGLY KID JOE:十代のすべて

Ugly Kid Joe

UGLY KID JOEが1991年にリリースしたEP『As Ugly They Wanna Be』には「Everything About You」が収録されていて、この曲はティーンエイジの男子像の一番純粋な部分をすくい取ったエッセンスといっても過言ではない。最高。

グッド・バイブス

Determination tee

コネチカット・カレッジ(Connecticut College)のバスケットボールチームによる自己啓発的メッセージが書かれたTシャツ。良いバイブスはここにある! YOLO!

OFFSPRINGのボロT

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ヴィンテージTシャツの世界では、付加価値を与えてくれるダメージ感というものがある。いい感じに色あせ、いい感じに首元に穴が空き、裾は絶妙にすり切れている…というような、前の持ち主が大事に着たこと、自分の手元に届くまでに確かに別の誰かの人生があったことを示すダメージ感だ。とはいえ、物には限度というものがある。袖が完全にボロボロになったOFFSPRINGの1994年のオーストラリアツアーTシャツなんて、なんの価値もない。

THE LEVELLERS(僕の初めてのロンT)

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このロンTを買ったのは1996年10月5日、レディング・リバーミード・センターだった。僕は友人のアレックスと、彼女の両親の友人(両親よりは少し年下)の成人同行者ふたりとTHE LEVELLERSを観に行った。それは僕にとって人生初の本物のライブコンサートで、すごく楽しかった。このロンTがこんな良いコンディションで残っていることにも、そして親指を袖にぶっ刺し、反抗的で不安定な態度を示す当時のスタイルに乗らなかった過去の自分にも驚く。

SEPULTRA:〈年上のお兄さん〉たちのロンT

Sepultra

90年代のSEPULTURAブームに乗るには2歳若かった僕にとって、SEPULTURAはまさに〈ヘヴィメタル好きの兄貴〉のバンドだった。このロンTは、14歳の僕が出会ったすべての怖い17歳たちを思い出させる。みんな髪が長くて、気分のムラがひどくて、彼らの車の助手席の下には水パイプが置いてあったな…。 拒絶せよ! 反抗せよ!

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チルアウト・オア・ダイ!

Chill out or die

『Chill Out Or Die』は、1993年にライジングハイ・レコードからリリースされたアンビエントのコンピレーションアルバム。このレーベルの創設者キャスパー・パウンドは残念ながら2004年に33歳の若さで亡くなったが、このCGIのアートワークはクールで、1993年当時には最先端だったことだろう。また、すべてのテキストをフランス語で書いているのも面白い。ちなみにこのレーベルからリリースされた他の作品はよりハードなテクノやガバ寄りなので、Discogsをディグるのもオススメ。『Chill Out Or Die』は、ちょうどよく人生に寄り添ってくれる作品で、僕的には今の時代にこそふさわしいと思う。

おいでよTシャツの世界!


筆者のボブ・フォスターは、自身のInstagramにTシャツの写真とストーリーを掲載している。最近では、ジェレミー・デラー、アレックス・デ・モーラ、ルシアン・クラーク、ロロ・ジャクソン、レオ・リーなどをはじめとする英国の写真家/アーティスト総勢40名の新作、未発表作を集めた『Time On Our Hands』の編集にも携わった。本書のすべての収益は、コロナ禍における看護師や第一線で働くヘルスケアスタッフへの実用的、精神的なサポートを提供する〈RCN Foundation Covid-19 Support Fund〉へと寄付される。本書の詳細/購入はこちらから。

This article originally appeared on VICE UK.