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63歳から93歳までのグラフィティ・クルー

定年を迎え、退職した個性豊かな面々が揃う〈Graffiti Grandmas〉は、ポルトガルの最年長グラフィティ・クルー。メンバーたちは、非営利団体〈LATA 65〉が開催する、グラフィティ、ストリートアートのワークショップを受講している。主催者と60歳前後のクルー3人に話を訊いた。

定年を迎え、退職した個性豊かな面々が揃う〈Graffiti Grandmas〉は、ポルトガルの最年長グラフィティ・クルーだ。メンバーたちは、非営利団体〈LATA 65〉が開催する、グラフィティ、ストリートアートのワークショップを受講している。同ワークショップは、コビリャ(Covilhã)で開催されるアート・フェスティバル〈WOOL〉でのプロジェクトとして始まった。〈LATA 65〉設立者のララ・ロドリゲス(Lara Rodrigues)は、数年前から、高齢者向けのセミナーやワークショップを通じて、高齢者への偏見や文化的認識の打破に努めている。ワークショップの最後、参加者は、色とりどりのスプレーや自作のステンシルを手に、街に繰り出し、作品を制作する。

参加者、活動内容が相まって〈LATA 65〉は、その名を広く知られている。しかし、世間の大勢がコビリャを拠点に活動する〈LATA 65〉を、リスボン発、と勘違いするなど、同団体は謎に包まれている。ほぼ、もしくは、まったく経験のない高齢者が、なぜ、このようなワークショップに参加し、若者ならではのストリートアートへの情熱をまっさらな壁にぶつけるのだろう。

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60歳前後のクルー3人は、ワークショップでのアドベンチャーについて、主催者のロドリゲスは、〈みんなにアートを届けたい〉という願い、20名の高齢参加者が自発的に地元警察に出頭した逸話を披露してくれた。

〈LATA 65〉と〈WOOL〉フェスティバルについて説明をお願いします。プロジェクトのコンセプトは、いつ、どうやって閃いたんですか?

〈LATA 65〉は、ふたつの情熱から生まれました。ひとつは、グラフィティをはじめ、ストリートアートへの情熱。もうひとつは、コビリャそのものと、繊維産業と密接な関係にあるコビリャの歴史への情熱です。2011年に始まったコビリャのアーバン・アートフェスティバル〈WOOL〉は、比較的新しいコンテンポラリーアートであるグラフィティなど、ストリートアートを活用して、社会、文化、経済、そして、街全体の変革を目指す、ポルトガル初の試みです。

〈WOOL〉以降、同様の試みが国内外で、あらゆるかたちで開かれています。アートフェスティバルを開催すれば、あらゆる年齢層、特に、開催地で暮らす高齢者に、簡単にアートを届けられます。この街の高齢者は、私たちにとって、仲間であり、〈観客〉でもあるんです。今では大勢の高齢者がミサやカードゲームのためだけでなく、街なかの作品を鑑賞するために、昼夜問わず外出するようになりました。

そんななか、共同作業スペース〈Cowork Lisboa〉を運営するフェルナンド・メンデス(Fernando Mendes)と、私たちの取り組みや成果について話していたら、高齢者向けのワークショップを開くよう勧められました。

プロジェクトはどのように発展していったんですか?

まずはアーティストを招待して、無料のワークショップを開きました。そこで手応えがあったので、ワークショップを継続するための資金調達方法を検討したんです。2013年には、リスボン市議会の市民参加型予算に応募し、住民投票の結果、補助金を得ました。その翌年、私たちはアゾレス諸島のフェスティバルに招待されました。折角なので、多額の資金を投じて、現地の講義、会議、大学でもワークショップを開催しました。2015年1月には、リスボンで12回、催しとワークショップを実施しました。おそらく、リスボン市議会から補助金をもらったので、私たちの活動拠点がリスボンだと報道されたんですが、実際は違います。2015年6、7月には、ポルトガルのカステロ・ブランコで1回、コインブラ近くのモンテモル=オ=ヴェーリョで3回、ワークショップを開きました。

参加者たちは、グラフィティのようなユースカルチャーのアートに抵抗を感じていませんでしたか?

ワークショップに参加する高齢者は意欲的で、グラフィティを取り巻く問題にも先入観を抱いていません。誤解も多いですが、みんな積極的に学ぼうとします。

みなさんが教えるのはグラフィティですか? それともストリートアート?

ワークショップでは、まず最初に、グラフィティとストリートアートの大まかな歴史に触れます。グラフィティであれば、1960年代後半から1970年代前半にかけて米国で誕生し、ヨーロッパを経由してポルトガルに伝わるまでの流れを、絵や写真で説明します。次に、グラフィティ、ストリートアート、メキシコ壁画運動のそれぞれの特徴、ルール、テクニックに加えて、ライターとアーティストの違いなどを解説します。参加者に、街なかの作品に気づき、理解してもらうのが目的です。その後は、参加者がタグ、壁に何を描くかを決めて、実践に移ります。参加者は、ストリートで使う様々なテクニックを学び、準備万全な状態で街にでかけます。

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ワークショップでは、グラフィティをはじめ、ストリートアート全般を扱います。文字以外にもいろいろな作品を扱うので、いわゆるアート的な要素が強いかもしれません。個人的には完成した作品を眺めるのも好きですが、ワークショップの肝は、参加がストリートの作品を理解し、表現を紐解くプロセスです。ワークショップの準備や開催には手間がかかりますが、新しいことを学び、達成する悦びを参加者に味わってほしい、というのが私たちの願いです。

参加者の特徴や雰囲気を教えてください。

先ほども伝えましたが、偏見のない参加者がほとんどです。みんな学びに貪欲で、次から次へと質問が飛びだします。今までこんな機会がなかったからでしょう。ざっくばらんな雰囲気で、いつも笑いが絶えません。

ワークショップの流れを教えてください。

ワークショップは、1日4時間、2日間、参加者の上限は15名です。関節の痛みなど、健康に問題を抱える参加者もいますから、進行や流れは、子どもや若者向けのワークショップよりのんびりしています。内容は参加者に合わせて調整しています。63歳から93歳まで、参加者の平均年齢が74歳だったこともありました。通常、1日目はたいてい屋内で、グラフィティ/ストリートアートの表現を理論的、視覚的に解説する座学の後、〈タグ〉を決め、ステンシルの下絵を描きます。2日目、ステンシルを切り抜き、街に出ます。

〈LATA 65〉の活動のなかで、もっとも印象的な出来事を教えてください。

〈LATA 65〉の成功例はたくさんありますが、いちばん驚いたのは、やはり最初のワークショップですね。2012年、第1回目のワークショップに参加した、元医師のルイーザ・コルテゾ(Luísa Cortesão)さんは、ステンシルをつくるのも、ストリートで絵を描くのも初めてでしたが、最終日には、家から自作のステンシルをもってくるほどでした。それが、この団体のロゴになりました。以来、ルイーザさんは、ストリートでステンシルとペインティングを続け、ワークショップも手伝ってくれています。

ワークショップ後の参加者の感想も、心に残っています。

「ここにいるあいだは、死ぬまでに残された時間を忘れられます」 – マヌエル(Manuel)さんa.k.a. バリ(Balé)

「違う視点から壁を眺めるようになりました。今では、壁に何が描かれているかわかります」 – D・ルージス(Lurdes)さん a.k.a. アルマンド(Armando)

プロジェクト最大の課題を教えてください。

活動の継続、資金繰り、そして、より多くの高齢者の役に立つことです。残念ながら、高齢者向けプロジェクトへの投資は限られており、苦戦しています。

屋外で、警察など、権力と揉めた経験はありますか?

警察が壁の前で立ち止まり、高齢者20人に、バンに乗って署に出頭するよう命じたことがありました。もちろん、私たちは事前に許可を得ています。でも、参加者たちは、むしろ進んで出頭しようとしましたね。

参加者たちの声:

お名前、年齢、簡単な自己紹介をお願いします。

ルイーザ・コルテゾです。Facebookで検索してください。65歳、元医師です。

いつから〈LATA 65〉に参加していますか?

2012年11月のワークショップからです。

参加したきっかけを教えてください。

ちょっとした楽しみが欲しかったのと、街なかのグラフィティを眺めるのが好きだったので、参加しました。

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いちばんの思い出は?

全部ですね。ワークショップを手伝い、初めて体験する参加者の反応を見るのも楽しいです。

お孫さんの反応は?

みんな好意的です。私のステンシルでいっしょに塗ったりもします。

何を描くのが好きですか?

私のトレードマーク、魔女です。

お名前、年齢、簡単な自己紹介をお願いします。

マルガリーダ・ジアス・カヒーロ(Margarida Dias Carreiro)、58歳、元教師です。写真、エアロビ、水泳、体操、映画、ハイキングが好きです。

いつから〈LATA 65〉に参加していますか?

2014年7月、アゾレス諸島のワークショップからです。

いちばんの思い出は?

ポンタ・デルガダ中心部の壁に描いたことです。絵は永遠に残りますから。

〈LATA 65〉の好きなところは?

一流のテクニックを教えてもらえること、先生と生徒の絆が強いところです。

お名前、年齢、簡単な自己紹介をお願いします。

エドゥアルド・マシャード(Eduardo Machado)、68歳、有機農家としてパイナップルを栽培しています。水彩、油彩、アクリル絵の具で絵を描くのが好きです。趣味はアマチュア無線、写真、射撃、水泳、ウォーキングです。あと船長としてセーリングもやっています。

いつから〈LATA 65〉に参加していますか?

2014年7月、アゾレス諸島のワークショップからです。

〈LATA 65〉の好きなところは?

間違いなく講師です。みんな、このワークショップに全力を尽くしてくれています。

お孫さんの反応は?

孫たちも大好きで、いつも作品のアイデアをくれます。

何を描くのが好きですか?

パネル画制作が楽しかったです。この作品はポンタ・デルガダ中心部に飾られています。詳しくは〈LATA 65〉のFacebookページをチェックしてください。