Z世代による、懐かしのラブコメ映画辛口レビュー

『(500)日のサマー』『シーズ・オール・ザット』『ブリジット・ジョーンズの日記』は2020年に生きる社会問題に意識的な若者たちにどう受け入れられるのか。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
Z世代による、懐かしのラブコメ映画辛口レビュー
Still from '500 Days of Summer'

もしかしたらあなたは、毎年クリスマスに『ラブ・アクチュアリー』の上映会を開催したり、サンドラ・ブロックの全作品にめちゃくちゃ詳しい、立派な〈ベーシック〉だったかもしれない。あるいは『JUNO/ジュノ』が好きとか言っておきながら、誰もいないときにこっそり『ホリデイ』を楽しんでいる、(口先だけの)人とは違うクールガールだったかもしれない。いずれにせよ、もしあなたが今20代ならば、ティーンの頃数々のラブコメ映画に出会ってきたはずだ。

ラブコメが人気を博したのは1990年代から2000年代。すなわち、すべてのひとがストレートで、シスジェンダーで、白人で、オフィスの棚にしまってあったサンプルサイズのPradaのワンピースも着こなせてしまう時代であり、世界にはニューヨークしか存在せず、〈うつ〉なんて誰も聞いたことのなかった時代だ。あの時代、コンデナストの女性誌編集部だけが唯一の仕事場だった。それでもよかったのだ。なぜなら主人公の本当の〈仕事〉は、セクシーな白人男性と公衆の面前で愛を確認し合い、結婚することだったのだから。

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そういった作品は、今の時代ならどう受け止められるのだろうか。Z世代と呼ばれるキッズたちのほうが、バービー・フェレイラのInstagramをフォローしていたり、気候変動への対策を訴えるデモに参加したりと、前の世代よりも社会問題に敏感なはずだ。彼らは、ジェンダーは連続的なスペクトルのように多様だと知っているし、ピアーズ・モーガンなんて相手にもしない。そんな彼らが10〜20年前に一斉を風靡した懐かしのラブコメ作品を観たら何を思うのだろう。5本の代表的作品を選び、それぞれの感想を聞いてみた。

『シーズ・オール・ザット』(1999)

「性差別が気になって楽しめなかった。登場人物の女子たちはあまりにモノ扱いされすぎていて、気分が悪くなった。メインキャラの男子は最初、『立派なオッパイ』がついててボーイフレンドがいさえすれば、どんな女子でもプロムクイーンになれるっていうんだけど、それってこの作品を観てるティーンの女子たちに、お前らの価値は容姿と彼氏によって決まるって言ってるようなもの。私は登場人物たちの同年代だけど、彼らには全く共感できなかった。みんな別の生き物みたい。登場人物たちの夢は有名になること、プロムクイーンになることだけ」──リディア、16歳

「彼女にフラれたメインキャラの男子が、あんな女の『代わりは作れる』とその方法を述べるんだけど、あいつはメイクを剥がせばただの『ワンダーブラ着けてるCマイナス評価』の女だ、っていうセリフがある。フラれてつらいからって元カノをニセモノでバカだというのはめちゃくちゃミソジニー的だと思う。それに、男にとって重要なのは容姿と社会的地位だけだ、っていうことも示唆してる」──テイラー、16歳

「主人公のレイニーは、メイクや洋服に関心がないからってだけで変わりものの負け組、って思われてるけど、彼女はトムボーイ的で、アートが好きなだけ。彼女が〈変身〉させられたときは、彼女を彼女たらしめていたすべてを剥ぎ取るような感じがした。女の子の魅力はその身体だけだという意見が透けて見えるし、女の子はみんなとことん女の子らしくあるべきで、個性や興味は邪魔なだけ、って言われてるよう」──ハンナ、17歳

『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)

「ブリジットはロンドンに住んでて、ロンドンといえば英国でいちばん多様な場所のはずだけど、僕が覚えてる限り作品に出てきたのは白人の上流階級だけ。モブキャラにも多様性はなかった。今の時代にこんな作品つくってたら受け入れられなかっただろうね」──ジャック、15歳

「ブリジットはボーイフレンドがいないから孤独だし落ち込んでる、っていうのがこの作品の前提。そこを気にしないようにすれば面白い。ブリジットはかなりリアルだし、ラブコメでよく描かれてるような女性キャラと比べてもよく描かれてる。でも、やっぱり女性は男性パートナーがいないと不充分だというメッセージがみえる」──リディア

「主人公のブリジットは立派な仕事に就いているし、ちゃんと自分のアパートに暮らしてるけど、手のつけようもないほどめちゃくちゃで、魔法のような力で彼女を直してくれるような男が必要、っていうことになってる。あと、この作品では太ってることがやたら嫌悪されてる。彼女の体重は標準だけど、周りから太ってる、って言われたり。『私が太ってるからうまくいかないっていうの?』みたいなセリフがあったし。痩せてないと誰にも愛されない、って言ってるのも同然」──デイジー、19歳

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『10日間で男を上手にフル方法』(2003)

「主人公の男女は、映画の最初は同じ土俵に立っているようにみえる。お互いがお互いを操ることができるって思ってるわけだし。もちろんそれだけじゃ完璧ではないけど、主人公の女性が仕事における野心をもって、やる気に満ちているのはいいと思う。彼女は記者で、『政治とか宗教とか、〈重大な〉テーマ』を扱いたい、と願ってる。ただ、登場人物の女性たちがみんな痩せてるとか、伝統的な美にとらわれてるのは多様性の欠如だと思う。あと、女性の人生がどんな男を捕まえられるかで決まるっていうこの作品のテーマは、ヘテロセクシュアルが唯一の性のあり方ではない、という事実を軽視してる」──リディア

「この作品のいちばんの問題点は、主人公が書いている記事が、男性とのデートのさいに女性が犯しがちで、フラれることにつながるような過ちを女性に示すためのもの、ということ。これは、もし男性に好かれたいと思うなら、自分の本心を隠し、ある程度演じなければならない、ありのままの自分ではいられない、っていうメッセージを示唆してる。これを観た若い女性たちに、自分を二の次にすること、自分の感情や幸福を優先しないことを教えてしまっていると思う」──テイラー

「この作品が発信しているメッセージは、多くの女性が男に依存し、感情的になる、っていうことで、それはもちろん問題だと思う。それに、取り繕わないアンディが魅力的な理由は、彼女が『クール』で、バスケットボールやカードゲームっていう『男みたい』な趣味をもっていて、自分の好きなものを飲み食いして、ベタベタしたり感情的になったりしすぎないけど、しっかりメイクして着飾ればセクシーだから、っていうのもよくない。そんなの男性が女性に抱く幻想にすぎないし、男にモテたければこうすべき、っていう道筋を示してる」──ハンナ

『幸せになるための27のドレス』(2008)

「面白かったけど、問題があるなと思ったのは、すべての女性は豪華でキレイなウェディングドレスを幼い頃からずっと夢見てる、と思わせるような演出。女は結婚式のために結婚するのであって、相手は誰でもいい、というメッセージにはうんざりした」──リディア

「すごくモヤモヤしたのは、主人公が上司に恋すること。彼は彼女のことを下僕みたいに扱ってて、優しくしてくれるのは彼女がかいがいしく彼の世話をしたときだけ。このふたりの力関係は、支配権を握るのも、より多くのお金を稼ぐのも男性でないといけない、っていう考えを示唆してるのかも。全編通して呆れっぱなしだった」──テイラー

「主人公がまだ未婚なのは、あまりに多くの友人のブライズメイトを務めすぎて、他のことをする時間がなかったから。そして彼女の人生は結婚を中心に回ってる。そういう感じが前面に出てた。女性は男性と結婚していなければ人生の意味なんてない、っていう。女性が人生に満足するには、絶対に結婚しないといけない、っていう社会規範に関しては、今は変わってきてると思う」──デイジー

『(500)日のサマー』(2009)

「主人公の男性は、サマーの笑い声や笑顔や髪型が好きだと思ってたくせに、あとになって同じところを指摘して、そこが嫌いだ、っていう。それって彼の思いはそんなに真剣じゃなかったってことだし、ストレートの男性が女性に優しくしたり、女性を尊重するのは、往々にして女性から何か見返りを受けようと思っているときだけってことがわかる」──ジャック

「サマーは男が憧れる、古典的な〈男を振り回す不思議ちゃん〉。映画では白黒のモンタージュでサマーの紹介がされるんだけど、学生時代、彼女がアイスクリーム屋さんで働き始めたら客が殺到したとか、誰もを魅了してしまうのでいつも家賃を安くしてもらってるとか、そういうエピソード。実際にそんな女子はいないし、トムだってサマーというリアルな人間ではなくその幻想に惚れていたわけで。サマーが彼を振るのも当然」──テイラー

「100%男性視点で語られるラブコメは面白いと思うけど、いろんな意味で問題が多い。トムは、自分は何してもいいと思ってるし、自分はサマーの愛と注目を浴びるに値するかのように振る舞う。彼目線で話が進むから、私も1回観たときにはトムがクソ野郎だとは気づかなかった。彼は実は、THE SMITHSが好きとか笑顔がかわいいとか、そういう表面的なこと以上に彼女を知りたいとは思ってないようだし、サマーに弄ばれたみたいなポーズをとってるけど、彼女は映画の最初のほうで、付き合うつもりはないって彼にちゃんと言ってる。彼が聞く耳をもってなかっただけ」──ハンナ

This article originally appeared on VICE UK.