DJ PREMIERの必聴JAZZ名盤なぜか7枚

DJ Premierは自身のサンプリングのスタイルについて「予想を裏切るようなネタでトラックをつくりたいんだ」と語る。「他のヤツらは、大ネタをかましたがるけど、俺は、爪のアカみたいなサンプルからトラックを創る。わかるだろ?」

DJ Premierこそ「パイオニア」という称号が相応しいプロデューサーだ。彼は、『Illmatic』(Nas, 1994)、『Ready to Die』(The Notorious B.I.G, 1994)、『Reasonable Doubt』(Jay Z, 1996)など、ヒップホップの名盤にプロデューサーとして名を連ねている。テキサス州ヒューストン出身だが、NYのHIP HOPを語るうえで、彼の名は外せない。

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ロイス・ダ・ファイブ・ナイン(Royce da 5’9”)とDJ Premierのユニット、 PRhymeの「Golden Era」では、ジョーイ・バッドアス(Joey Bada$$)が、90年代のヒップホップ黄金期をリリックにしているが、その内容こそ、DJ Premierの軌跡でもある。

90年代、ヒットを連発する以前から、DJ Premierは、 ジャズをネタに、ブラック・ミュージックの新時代を築いてきた。今は亡きグールー(Guru)とのユニット、ギャング・スター(Gang Starr)に加入後、初のシングルとなる「Manifest」(1989)では 、チャーリー・パーカーとマイルス・デイビスが共演した「A Night in Tunisia」(1946)をネタにトラックを構築。そして 、この曲が収められたアルバム『No More Mr. Nice Guy』(1989)が映画監督スパイク・リー(Spike Lee)の耳を捉え、『モー・ベター・ブルース(Mo’ Better Blues)』(1990)のサントラに参加した。

『No More Mr. Nice Guy』に収録されていた「Jazz Music」を、出世トラック「Jazz Thing」に昇華させ、同曲を『モー・ベター・ブルース』のサントラに提供した。DJ Premierによると、スパイク・リーは「オマエたちもっとスウィングできるだろ」と、彼らを『モー・ベター・ブルース』の音楽ディレクター、ブランフォード・マルサリス(Branford Marsalis)に引き合わせたそうだ。

その後も、ブレミアは、ケン・バーンズ(Ken Burns)の仰々しいドキュメンタリーとは趣を異にする、人並み外れたジャズへの造詣を頼みに、次から次へと、ヒップホップのクラッシックたり得る作品や、斬新なプロジェクトを世に送り出した。ブランフォード・マルサリスとのプロジェクト 『Buckshot Lefonque』(ジャズアルト・サックス奏者、キャノンボール・アダレイ のあだ名の1つから命名された) をプロデュースし、Guruのジャズ・バンドをバックにラップするプロジェクト『Jazzmatazz』にも貢献した。 また彼の才能は、Donald Byrd「Flight time」をサンプリングしたNaSの「N.Y. State of Mind」や、Les McCann「Vallarta」をサンプリングした、ノトーリアス B.I.Gの「Ten Crack Commandments」など、メインストリームの ヒップホップシーンでも遺憾なく発揮された。

90年代初頭、A tribe Called QuestやDe La Soulも、Gang Starr同様、ジャズをネタにした画期的な楽曲でシーンを盛り上げた。A Tribe Called Quest、De La Soulは、自らのスタンスを確立するべく、ハード・コア・ヒップホップからうまく距離をとり、ジャズを巧みに利用したフシがあるが、DJ Premierは、溢れんばかりのジャズ愛でもって、ジャズのハード・コアを、見事な手腕で自身のトラックに反映させた。「ジャズもヒップホップもストリートから生まれた音楽だ」「表現手法が異なるってだけなんだ。どちらも、貧困から抜け出し、現状を変えたい、って気持ちから生まれた音楽だ。マイノリティであるがために直面する問題を世間に知らせるために表現してるだけなんだ。そう考えると、ジャズもヒップホップも,かなり世の中の役に立ってきたと思うよ」と彼は解説してくれた。

そんなDJ Premierが、ヒップホップ界には収まりきらない貴重なジャズ史家として、ヒップホップ好きなら押さえておくべき、7枚の名盤をセレクトしてくれた。

MILES DAVIS – BITCHES BREW (1970)

「母親がこのレコードを持っていて、家の中でいつも聴いていた。母親は、美術の教師で、アフリカン・アートが大好きだった。自分でもよく絵を描いていて、テキサスの家 にはアフリカのオブジェや置物がそこいら中に飾られていたんだ。このアルバムのアートワークにはダークスキンの黒人が描かれている。黒人の肌の色は皆それぞれ違うのに、なぜだか、ライトスキン(肌色が明るい)の黒人が描かれることが多い。母親はいろんな絵を描いていたけれど、このジャケットみたいな、もろアフリカって具合のイコノグラフィーが好きだった。聴けばわかるだろうけど、このジャケットは、アルバムの中身を完璧に説明しているんだ」

JOHN COLTRANE – A LOVE SUPREME (1965)

「これこそスタンダード。今すぐ聴くべき1枚。もしコルトレーンを1枚も持っていないなら、まずコレから押さえておけば安心だ。すべてを語る1枚だ。例え聴いたことがなくても、この1枚は全てを物語る。それほど深い作品なんだ」

WEATHER REPORT – HEAVY WEATHER (1977)

「俺はベースもドラムもプレイする。特にベーシストが好きで、スタンリー・クラークの『Rocks, Pebbles and Sand』、『School Days』が気に入っている。特に『School Days』は、好きすぎて1日中聴いていられる。あと、このWeather ReportのベースだったJaco Pastoriusもヤバい。「Teen Town」をがきっかけで、他のアルバムも聴くようになった。『Black Market』や『Mysterious Traveler』とか、とにかくハマったよ。 それからジャコがソロ活動を始めるんだ。彼とピアニストのJoe Zawinulが大好きだった」

THE CRUSADERS – THOSE SOUTHERN KNIGHTS (1976)

「『Keep That Same Old Feeling』はとんでもなく有名だ。この曲のベースラインを弾くのは、スゴく難しい。俺も、こんな風にベースを弾けるようになりたかった。 だからこそ、この曲には思い入れがある。『Southern Comfort』『Chain Reaction』『 Second Crusade,』そして間違いなく『Street Life』、どれも名作だ。なかでも、時代を象徴する名曲『Keep That Same Old Feeling』が入っている『Those Southern Knights』は、俺の創るトラックのベースラインや、その上にどうネタを並べるか、ってことに関してスゴく影響された。この曲をサンプリングするつもりはないが、俺のトラック創りと、DJスタイルに大きな影響を与えたのは間違いない。

CANNONBALL ADDERLEY – COUNTRY PREACHER (1969)

「『Walk Tall』は、ジェシー・ジャクソンのスピーチで始まるんだ。俺たちは衝撃を受けた。ジェシー・ジャクソンがキャノンボール・アダレイの曲に参加してるよ、すげえな、ってね。 そういえば、A Tribe Called Questが”Footprints”でネタにしてるけど、著作権、クリアになってないんじゃないかな? 俺がどうこう言うコトじゃないけど」

HERBIE HANCOCK – HEAD HUNTERS (1973)

「ハービー・ハンコックの曲は、これまでも、これからも、生涯聴き続ける。世界的に大ブレイクした「Rock it」(1983)でヒップホップを前面に押し出す以前から、彼のスタイルは様々な変化を遂げてきた。それまでに『Head Hunters』や 『Thrust』、『Manchild』も既に聴いていたけれど、やはり「Rock it」が入ってる『Future Shock』は、彼が、ヒップホップに敬意を払う、って意味で、大きなステップになった1枚だと思う。この曲のミュージックビデオもそうだ。グラミー賞の会場でライブも成功させた。彼はシーンを牽引したんだ。どんなジャンルの音楽をやっても、ハービー・ハンコックはハービー・ハンコック。怖い者なしなんだ」

BRANFORD MARSALIS – RANDOM ABSTRACT (1987)

「『the Buckshot LeFonque 』に取り組んでた時、ブランフォード・マルサリスから本当に沢山のことを教わった。彼のサックスに対する姿勢からも、沢山学んだ。彼はリリックにあまり興味がなくて、リリックなんてどうでもよかったんだ。彼にとって大切だったのはトラックだ。そのことでいつも口論になるんだ。でも彼の素晴らしいところは、その正直さだ。そして、彼は、俺自身も、俺の仕事も、いつもリスペクトしてくれた。彼は、俺が音楽を自由自在に操る姿を見ていたんだ。彼とスパイク・リーのおかげで、Gang Starrとしてメジャーレーベルと契約することができたんだ。いくら感謝しても足りないくらいだ。俺とグールーが初めてブランフォードに会った、1987年に発売されたのが、『Random Abstract』だ。俺はこのジャケットに強く惹かれた。母親のことを思い出すんだ。 家にあった抽象画、近所の家に飾ってあった、たくさんの作品をね」

ロイス・ダ・ファイブ・ナインとのユニット であるPRhymeが、アルバム『PRhyme』のデラックス・エディションを12月11日に発表した。

PRhyme – Golden Era ft. Joey Joey Bada$$

そのほかにも、DJ Premierは、Joey Bada$$のデビューアルバムに収録された「Paper Trail$」のトラックを手掛けている。彼は、若手ラッパーであるJoey Bada$$を、この業界で成功する実力のある努力を惜しまない貴重な才能だ、と称賛する。

このトラックでは、定番ネタ元である作曲家、エイドリアン・ヤングのサンプルが使用されている。