憂鬱なとき、朝気持ちよくベッドから出るためのアドバイス

世界に向き合うことができそうにないほどつらい朝、1日を気持ち良くスタートするにはどうすればいいのか。今回私たちは、メンタルヘルスの専門家複数名にアドバイスを求めた。うつ病と診断されているひとだけではなく、あらゆるひとに有益なアドバイスだ。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
Image of the back of a topless woman laying in a very plush bed with a lot of ruby tones.
Photo by Kelli Seeger Kim, via Stocksy.

この世界で、こんなにも鬱々とした気分と闘っているのは自分だけじゃないかと思うこともあるかもしれないが、それは間違っている。米国では毎年1600万人もの成人がうつと闘っており、国内の精神疾患で最大の患者数だ。

女性のうつの発症率は男性の2倍。全体として、発症率がいちばん高いのは黒人の成人だ。また、LGBTQのひとびとがうつなど精神疾患を発症する確率は、そうではないひとの3倍となっている。

〈大うつ病性障害〉と診断された患者は、気分が落ち込む、意欲が低下する、これまでの趣味に関心を失う、疲労感、食欲低下など、様々な症状をみせる。また、多くの場合、過眠、または不眠といった睡眠障害にもなる。

うつ病がどんなかたちで発症するにしても、うつを抱えて生きるのはしんどい。ときには、布団を蹴り飛ばし、ベッドから出る、という単純な行動さえもが、不可能に思える。世界に向き合うことができそうにないほどつらい朝、1日を気持ち良くスタートするにはどうすればいいのか。今回私たちは、メンタルヘルスの専門家複数名にアドバイスを求めた。うつ病と診断されているひとだけではなく、あらゆるひとに有益なアドバイスだ。

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前もって準備をしておく

覚えのある絶望感が雨雲のように心に広がるのを感じたら、夜のうちに翌朝の気分を予想して準備をしておこう。

例えばアラームを起床の最低1時間前にセットしておくことを提案するのは、ジョイ・ハーデン・ブラッドフォード(Joy Harden Bradford)博士。ジョージア州の公認心理師で、〈Therapy for Black Girls〉というポッドキャストを配信している。そうすることで、「ゆっくりと1日をスタートする」時間を確保できる、という。

「ギリギリまでベッドから出ずに、ドタバタと支度をして、乗るはずのバスを逃し、仕事に遅刻する…。そういうことがあるとさらに気分がどんよりしてしまいます。自分で自分のストレスレベルを上げていますから」

また博士は、夜のうちに翌朝の服や、学校、仕事の準備をしておくことも勧めている。そういった小さな準備が、朝の流れをスムーズにしてくれて、朝にしなくてはいけない決断を減らしてくれる。博士によると、うつ病患者は、決断すること自体が困難なときもあるという。

自分に優しく

自分の心が「ベッドにいよう」「どっぷり落ちこもう」と叫んでいるときには、セルフコンパッションを実践すると良い、というのは、セントルイスの心理学者で、『The Self-Confidence Workbook: A Guide to Overcoming Self-Doubt and Improving Self-Esteem』の著者、バーバラ・マークウェイ(Barbara Markway)博士。シンプルに、自分自身に励ましの言葉を、落ち着いたトーンで語りかけることでセルフコンパッションを実践できるという。例えば、「ベッドから出るのって大変だよね。もっと気分が良ければなあ。こんなに落ち込んでるのもつらいよね」など。口に出しても出さずとも良いそうだ。

「第三者として自分自身に語りかけることで、自分が気遣われているという感覚が喚起されます。同時に、自分自身に優しく触れてあげても良いでしょう。自分の片手をもういっぽうの手に重ねたり、前腕部をなでてあげたり。それによりオキシトシンというホルモンが分泌され、身体に鎮静反応が促されます。自分の経験したつらさを認識すれば、自分でコントロールできるようになる可能性も高まります。『とりあえずベッドから出て、コーヒーでも飲もう。今はそれだけやればいい』といった具合です」と博士は説明する。

「とにかく自分に優しくなること。自分を叱りつけるよりも、小さな一歩を踏み出すほうが、ずっと良い変化を生みます」

ポジティブな内省

自分の感情に耳を傾けるために有効なのは、記録をつけることと瞑想、と語るのは、コロラド州の臨床心理士、アリエル・シュワルツ(Arielle Schwartz)博士。「気分が落ち込むときは、自分がこれまで悲しかった経験を思い出す傾向にあります」と博士は説明する。「それは〈状態依存記憶〉と呼ばれるものです。状態依存記憶は自分の好きに扱うこともできます。自分のポジティブな感情、感覚、記憶は相互に絡み合っています。つまり、自分の思考を、自分が楽しかったとき、自信がついたとき、穏やかな気持ちのときの記憶に集中するように仕向ければ、他のポジティブな経験を思い出せるんです」。そうすることで、自分の気持ちを安定させたり、上向かせたりできる。

身体を動かす

とある研究で、定期的な運動がうつの症状の治療に効く場合があると判明している。ベッドを飛び出してそのままランニングマシンに乗り、8キロのランに励むのはちょっと無理そう、というひとも、より軽い運動を試してみよう。目的が明確ならなお良い。

「BPMが速めで、気分を上げてくれる元気な曲をアラームとして選びましょう」と勧めるのは、ボルチモアの統合心理療法士、心と身体の医師であるショーナ・マリー=ブラウン(Shawna Murray-Browne)。「ゴロゴロしているより、踊りながらベッドを出るほうが何倍も良いですよ」

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また医師は、積極的に身体を揺らすことも提案する。「ヤバいひとに思えるかもしれませんが、ドラムやテンポの速い音楽に合わせて身体を揺らすことで、気分を高揚させる瞑想になるんです」と医師は説明する。「私は長いこと気功を教えているんですが、その生徒たちも驚いていました。落ち込んでいる暇がない、という感じなので」

「動き始めた瞬間から、うつを患っているひとたちの目は開くんです」と医師は語る。「自分のエネルギーを、適切な方向に向かせるようにするには努力が必要ですが、まったく違う世界が広がります」

誰かと話す

相手はメンタルヘルスのプロである必要はない。「自分の知り合いにポジティブな朝型人間がいるなら、そのひとにモーニングコールをしてもらう。そうすれば1日の準備ができます」とマリー=ブラウン医師は勧める。「自分が楽しみにしていることなんかをじっくり話してみましょう」

もしくは徹底的に他人を避ける

ニューヨークの精神分析医で、ソーシャルワーカーのカーラ・ジョー(Calla Jo)医師は、誰かに自分の話を聞いてもらえることが気分の高揚につながるのは確かだというが、精神衛生上、ときには独りになることも必要だと指摘する。特に、善意はあるがこちらの状況について理解してくれない家族や友人たちからは離れたほうがいいときもある。ジョー医師によると、そういうひとたちは「うつ病のように、変えることができない物事を変えるように迫ってくる」こともあるという。

「孤立は通常推奨されていません。なぜなら大半の人間は社会的な生き物ですから。しかし、善意はあれども、うつを理解できない家族や友人たちと喧嘩をするより、独りになったほうが元気になる場合もあります」と医師はいう。「うつのときは体力は落ちているし、何度も繰り返し説明したり、『大丈夫だよ』みたいな軽いメッセージ、または『早く立ち直れよ』みたいなトゲトゲしいメッセージを受け流したり、ということはなるべく避けたほうがいいです。ただでさえ不足気味の貴重なエネルギーを、こちらのつらさをわかってくれないひとたちに費やしてはいけません」

【ポイント】うつ病はひとそれぞれ

「うつ病の症状はひとによって表れかたが違います。1日を気持ちよくスタートするための治療も、自分に合ったかたちで、無理なくできるものでないと」とジョー医師はいう。自分のうつがどういうものなのかを理解するためには、しっかり時間をかけて自分を知ることだ。「自分を深く知ることが、効果的な治療戦略を考えていくうえで必須なんです」

「そもそもうつ病においては、目覚めること自体を恐れるひともいます」とジョー医師。「多くの患者が、『二度と目を覚ますことがないように』とぼんやりと(またはしっかりと)願いながら眠りにつくんです。目を覚ましてしまったら、望まない1日に直面することになりますから」

もし、しんどい朝を迎えて、ベッドで過ごす時間がもっと必要だと思うときは、無理にベッドを出る必要もないのだ。