なぜひとびとはTikTokの情報を信じてしまうのか

「ユーザーである我々は手の中に情報が延々と供給される、孤独な状態に置かれている」
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
A mouth with a snake coming out of it on TikTok
Collage: Cathryn Virginia | Photos via V Staff and Getty Images

ダコタ・フィンクはウソを広めるつもりは毛頭なかった。

2021年5月、LA在住のモデルである23歳のフィンクは顔にピールオフパックをしていた。「もう少しTikTokをバズらせないと」と考え、彼女はジョークとして動画を撮影した。カメラの前で肌色のパックを剥がし、「女性は生理のあと皮膚を剥がす必要がある」というキャプションをつけた。

「知らないとかマジありえる?」というタイトルがつけられたこの動画は明らかなおふざけであり、2023年2月現在でいいね数は440万、シェア数は22万回を超えるほどの人気動画となった。しかし、このジョークを解さないひともいた。

女性の生理に伴う苦難がまだあったなんて全然気づかなかった、というコメントをして、真剣にシェアをするひとが現れはじめたのだ。当然ながらそのほとんどが男性であったが、このジョークに乗った女性たちの語り口があまりに真に迫っていたため、本来はこういう現象が必ず起きるもので、経験したことのない自分はただ幸運だったのだと思い込む女性もいた。

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「Instagramで大人の女性たちからたくさんメッセージが届きました。『私は一度も体験したことないんだけど、あなたのご家族の遺伝か何か?』って」とフィンクは語る。「衝撃的でした」

これは人間がTikTokで見たものをまるっと信じやすい傾向にあることを示す一例だ。ショート動画を信頼しやすい現象は、これまでもSNS上で指摘されている。TikTokで見るものを何でもかんでも信じようとする自分たちと、FacebookやTwitterで流れてくる、話題性だけを目的にしたような低俗極まりないコンテンツを簡単に信じていた親世代とを比較するユーザーもいる。新型コロナのワクチンの効果についてのデマを広めるひとたちは別としても、あまりにもできすぎているように見え、結局ウソだと判明する恐ろしい話は定期的に出てくる。例えば2021年に米国を襲ったハリケーン〈アイダ〉の被害者が自宅でワニと鉢合わせた動画とか(ウソ)、ディープフェイクのトム・クルーズとか(実際は俳優がディープフェイクの技術を使い、よりトム・クルーズに似た見た目になるようにしたということだったのだが、彼がニセモノだと告白するまでひとびとが騙されるほどの説得力があった)。

これはある意味で、報じる価値があるものとないものを選別する役割の不在というSNSの恩恵が仇となってしまった、より広範な問題といえる。「ジャーナリズム的視点の品質検査を常に伴う、門番としての機能を提供していたトラディショナルメディアが終焉を迎えたことで、ユーザーである我々は手の中に情報が延々と供給される、孤独な状態に置かれています」と語るのは、TikTok研究者でドイツ・ハンブルク応用科学大学のフェロー、マルクス・ボッシュ(Marcus Bösch)だ。

その供給に終わりはない。TikTokには、英国内だけでも1日あたり最低160万本、全世界では1時間で500万本の動画が投稿されており、永遠にTikTokをスクロールできる。どちらの数字も2020年のもので、TikTokは成長し続けているため、現在はそれ以上の数が見込まれる。「自分に寄り添うかたちでパーソナルに供給されるコンテンツがあまりに多く、それらをあまりに素早く消費しているため、私たちはどちらのスタンスをとるかの選択を常に迫られているんです」とボッシュは述べる。「誰かの話に耳を傾けようと決めたら直ちに、束の間の信頼の基盤ができるわけです」

TikTokのショート動画やデザインは、ユーザーが可能な限り多くのコンテンツを短い時間で消費できるように細かく調整されている。そのため、私たちは自分が何を見ているかについてもはや慎重に考えることをしていない、と考えるSNS専門家もいる。そしてクリエイターは、本当のことを言う真面目なコンテンツを公開するよりも、バズりそうな奇抜なコンテンツを公開するほうがいいと考えるようになる。

「TikTokの動画を簡単に信じてしまう原因はプラットフォーム自体だけではありません。それは私たちのアテンションエコノミーの進化と関わっています」と述べるのはイスラエルのヘブライ大学でTikTokを研究するトム・ディヴォン(Tom Divon)だ。「TikTokではおすすめページにより、一口サイズのナゲットを食べるように情報を取得していくスピードが止まらない。おすすめページはバズを導くためにデザインされています。真実を伝えている動画だからといって、常に望ましいレベルの露出を達成できる保証はありません」。要するに、動画の内容が荒唐無稽であればあるほどバズる確率は上がるというわけだ。

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次のバズコンテンツをつくりたいというクリエイターの欲求は、ユーザーが望むアプリの使い方と衝突する。今はTikTokを教育的プラットフォームとして使う割合が増えており、アプリ自体も〈#LearnonTikTok〉という取り組みを推進している。メディアは、Z世代が最初に使う検索エンジンとしてTikTokがGoogleを凌駕しているという記事を毎日のように発表している。「TikTokは非常に大きなプラットフォームだから、バカげたことであっても、常に新しい知識を学べるんです」とフィンクは語る。「私も毎日新しい知識を得ています」

注目すべきは、これらのプラットフォームのユーザーたちはコンテンツに騙されているにもかかわらず、自らが目にするコンテンツを疑うようにしている、と主張していることだ。2022年9月に発表された英国・オックスフォード大学にあるロイタージャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)の研究によると、英国・米国のユーザーのうち、TikTokで目にしたニュースを信じると答えたのはわずか20%だった。一方このプラットフォーム以外で目にしたニュースについては、英国のユーザーの53%、米国のユーザーの49%が信頼すると答えている。

しかし彼らは、騙されることには非常に敏感であると言いながら、TikTokで流れてくる情報を疑うことなく消費し、真実だと思い込み続けている。「それは、歴史的に人間がメディアリテラシーを教えられてきた方法に起因しているといえるでしょう」とボッシュは考える。「昔から、情報を受け取る側は『自分の目で見たものだけ信じろ』『写真がなければウソだ』と訓練されてきました。しかし今や、大多数のユーザーがそれらは必ずしも事実じゃないと学ぶ必要があるんです。シンセティックメディア(動画・画像・音声ファイルの一部分以上が改変、あるいは偽造されているもの)の時代ですからね」

また、TikTokのアルゴリズムやデザインに対する圧倒的な信頼が騙されやすさを補強している、とインターネットカルチャーの専門家であるアラバマ大学の助教(Assistant Professor)、ジェス・マドックス(Jess Maddox)は指摘する。「TikTokには数多くのデマが出回っていますが、それはアプリのデザイン、またカルチャーが一因です」と彼女は語る。「恐ろしいほどに正確なおすすめページやアルゴリズムのおかげで、ユーザーはTikTokに対し高い信頼を抱いているようです」

これにはディヴォンも同意する。「TikTokのアルゴリズムによるコンテンツのパーソナライズは、プラットフォームで目にする動画に対するユーザーの意識形成に大きな影響を与えています」とディヴォン。「ユーザーは、自分が目にする動画は自分自身の嗜好や信条に合わせられていると認識します。それが整合性や信憑性の感覚に寄与する場合があり、その結果プラットフォームにおいて出会った情報を受容し、共有したいというユーザーの意欲が高まります」

またマドックスは、TikTokにおける情報の提示の仕方がユーザーの信頼度を高めているとも考えている。「前面カメラで撮影された動画は、親密さが増します」とマドックス。「これがインフルエンサーやコンテンツクリエイターの成功のカギです。ユーザーは見知らぬ人ではなく、友達との一対一の会話のように感じるんです。そして、友達はウソをつきませんよね」

実際、友達もウソをつく。ビュー数を稼ぐことがお金につながるなら特にそうだ。では、私たちはどう対策すればいいのか。TikTokを通して、女性の身体についての認識をすべてのひとびとに見直させる機会を与えることになったフィンクはいくつかアイデアがあるという。「第一に、特にSNSでは何もかもを鵜呑みにしないこと。人気のプラットフォームに騙されてばかりにならないこと」

客観的な視点も役に立つ。「自分の生活、自分の姿を見つめ、考えるんです。『SNSで目にするもののうち、現実世界と100%同じじゃないものってどれくらいあるんだろう』って」とフィンク。「私たちがSNSで公開しているのは、最高に面白いヴァージョン、最高に美しいヴァージョンの自分です」