セラピストへの〈10の質問〉

ドイツ、ケルンのダニエル・ワグナーの診察室には、診察用の椅子がない。34歳の心理療法士である彼は、クライアントの対角線上に座る。「こうすれば、クライアントは、私と視線を合わせずに会話できます。必要以上に〈病気〉だと感じてほしくないので、〈患者〉ではなく〈クライアント〉と呼んでいるんです」と彼は説明した。

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20 december 2017, 11:30am

写真は全て筆者撮影

ドイツ、ケルンのダニエル・ワグナー(Daniel Wagner)の診察室には、診察用の椅子がない。34歳の心理療法士である彼は、クライアントの対角線上に座る。「こうすれば、クライアントは、私と視線を合わせずに会話できます。必要以上に〈病気〉だと感じてほしくないので、〈患者〉ではなく〈クライアント〉と呼んでいるんです」と彼は説明した。

彼は、街でクライアントにバッタリ会ったとしても、無視されて構わないそうだ。少なくとも、彼からは決して話しかけない。「私を紹介するのに、気まずい思いをしてほしくないのです。もし挨拶されたら、私も返しますが」。そんな彼に、セラピストについて、みんなが知りたがっていることを質問してみた。

1. メンタルヘルスの問題を抱えるセラピストが多いというのは本当?

そのステレオタイプはある意味本当です。そういう兆候がある同僚がいます。けれど、何をもって〈普通〉とするか、誰が説明できるでしょう? 私にはできません。この仕事を通じて、ひとつ明らかになったのは、健全な精神と病んだ精神のあいだに明確な区分はない、ということです。人生は思いがけない出来事の連続ですし、幼少期につらい経験をした人も少なくありません。そういった原因によって精神に苦痛がもたらされると、行動や習慣に問題が生じるのです。

2. 幼少期の嫌な思い出は?

それほどつらい体験はありません。心理療法士として幼少期を見つめ直すと、私は〈調和者(Harmonizer)〉で、兄弟や両親がケンカするたびに仲直りさせようとしていました。けれど、他人のいざこざ、他人の幸せを優先し続ければ、自分の負担は増すばかりです。今では、自分を思いやる大切さも理解しています。

3. クライアントの泣き言に苛立った経験は?

私は〈泣き言〉とは捉えていません。心理療法士にわざわざ会いにくるのですから、どのクライアントも悩みを抱えています。思い切り泣くために来ているわけではありません。一見、泣き言のようでも、その下にはもっと深刻な問題が隠れています。

4. セラピストには守秘義務があるでしょうが、つい友達に仕事の話をしてしまうこともありますよね?

確かに、つい話したくなる出来事は少なくありません。けれど、一線は越えていません。守秘義務は、医療関係者の必須条件です。

クライアントには、政治家、俳優、有名なビジネスマンもいますから、決して口外はできません。〈ホワイトカラーの犯罪〉 など、世間から厳しい目を向けられる対象を扱う場合でもそうです。世間を騒せる話題を、報道前に知ることもあります。

5. クライアントの嘘は見破れる?

例えば、勃起機能不全などの話題であれば、見破れたりもします。初対面で個人的な話をしたがらない男性も多いですし、印象を良くしようと、あえて男らしさを強調するクライアントもいます。彼らは、信頼関係を築くまで悩みを打ち明けてくれませんが、それで構いません。私の仕事は、人の内面を暴くことではありません。私は、警察官でも弁護士でもなく、セラピストです。クライアントと対立するのではなく、サポートするのが仕事です。

6. クライアントに恐怖を覚えた経験は?

今までに何度か、クライアントが攻撃的に反応するなど、緊張した場面はありましたが、暴力を振るわれた経験はありません。ですが、彼らの行動が彼ら自身か他の誰かを傷つけるかもしれない、と不安にもなります。例えば、クライアントが小児性愛者であれば、意図的または衝動的に、恐ろしい行動にうったえる可能性があります。

7. 自ら命を絶ったクライアントは?

幸いにも、今のところひとりもいません。けれど、この仕事を続ける以上、覚悟はしています。もし、クライアントが自殺をほのめかしたら、次の面会までに実行する可能性はあるのか、もしくは、施設に入ってもらうべきなのか、見極めるのも私の責任です。強制的に施設入りさせるケースはとても稀です。たいていのクライアントは理性的ですから。

8. 誰かを泣かそうとすれば、泣かせることはできる?

(少し考え込んで)できないでしょう。(また考え込んで)できません。答えはノーです。身近な知人であれば、泣かせるツボがわかるかもしれませんが、あえて泣かせたりはしません。少なくとも、セラピーにおいては、そんな必要はありません。セッション中にクライアントが泣く確率は半々です。私が泣かせるのではなく、自然と涙が溢れるのです。

9. クライアントに好意を持たれることは?

ときどきあります。男性と女性、両方からです。あからさまに好意を示すクライアントもいますが、たいていの場合、まず、いっしょに出掛けよう、と誘われます。私は、セラピストとして、クライアントのどんな話でも聞き、全力で向き合い、感情をぶつけられても我慢し、真剣に受け止め、助けになろうと努めますから、誰であれ、そんな相手に惹かれるのは当たり前でしょう。もし、好意を示されたら、光栄だ、と伝えたうえで、説明して納得してもらいます。クライアントとの関係が何かに発展する可能性はありません。最後のセッションから10年以内に、クライアントとプライベートで、もしくは、ビジネスで関係を結ぶのは違法です。セラピストがクライアントの個人情報を悪用して利益を得られないよう、法律で定められているのです。

10. セラピストが恋人だったら?

最高だと思います。セラピストほど感情の機微に敏感で、気配りのできる人は、なかなかいないはずです。感情に対処する方法を熟知していて、あなたの気持ちにも耳を傾けてくれる。素晴らしいパートナーでしょう。

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