SNSを武器に闘うジャーナリストたち 『ラッカは静かに虐殺されている』

IS支配下にある故郷ラッカの惨状を撮影し、決死の覚悟で世界へ発信する、シリアの勇敢な市民ジャーナリスト集団〈RBSS(Raqqa is Being Slaughtered Silently)〉。彼らの活動に密着したドキュメンタリー作品『ラッカは静かに虐殺されている』が、現在公開されている。ドキュメンタリー作家でもある監督のマシュー・ハイネマンに話を訊いた。

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apr 23 2017, 6:45pm

c2017 A&E Television Networks, LLC | Our Time Projects, LLC

生々しいドキュメンタリー映画は、アート系シネマやストリーミング・サービスのなかでも人気のコンテンツだ。そのなかでも、ドキュメンタリー作家のマシュー・ハイネマン(Matthew Heineman)監督作品『ラッカは静かに虐殺されている』( City of Ghosts, 2017)は、絶望的な緊迫感をもってISとの闘いを映しだした、唯一無二の作品である。

日本でも4月14日より劇場公開されている本作は、人権活動団体〈RBSS(Raqqa is Being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)〉の苦難に密着している。RBSSは、IS支配下にある故郷ラッカの惨状を撮影し、決死の覚悟で世界へ発信する、シリアの勇敢な市民ジャーナリスト集団だ。愛する誰かの命どころか、自らの命さえもが危険にさらされる状況で、非人道的行為に立ち向かう彼らの力強い人間性が、本作品には克明に記録されている。

前作『カルテル・ランド』( Cartel Land, 2015)で、第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたハイネマン監督は、戦争、被写体からの信頼、ドキュメンタリー作家としての役割をどう考えているのだろうか。

RBSSをテーマに決めたきっかけを教えてください。

私が『カルテル・ランド』の撮影で世界を旅していた頃から、ISの問題はメディアを騒がせ始めていました。関連記事を読み漁り、映画にすべきテーマを探していたある日『The New Yorker』でデヴィッド・レムニック(David Remnick)の記事を読み、そこで初めてRBSSを知り、感銘を受けたんです。それから私は、RBSSのメンバーたちに連絡を取りました。すると偶然、亡命中のメンバーふたりが近くに滞在していたんです。私たちは会って話し、その1週間後から撮影を開始しました。

当時潜伏中だったRBSSのメンバーたちは、活動の撮影に消極的だったのではないですか?

彼らは、SNSという隠れ蓑から外に出て、ネット上のアバターではなく、実在する人間として発信することを望んでいました。素顔を公表して、イスラム教から逸脱したISと闘う、ラッカ出身の普通のムスリム男性の姿を、彼らは、世界に知らせたかったんです。もちろん素性を明かすことにリスクは潜んでいましたが、彼らはその意義を自覚していました。

メンバーたちはあなたを信頼したからこそ、極限状態の密着を許したのでしょうが、どのように彼らの信頼を得たのでしょうか。

一度会話しただけでは信頼は生まれません。何週間、何ヶ月もかけて関係を築き、ようやく信頼が芽生えます。私は、RBSSの共同創設者、アジズ・アルハムザ(Aziz Alhamza)を始めとするメンバーたちと、長い時間をともに過ごしました。そうして私は、彼らの日常生活のいち部になったんです。時間をかけるにつれ、彼らとの関係は深まっていきました。

信頼を得るのに重要なのは、本音で語ることです。映画のプランも、脚本も、ゴールも決まっていませんでしたが、彼らの物語を発信する手伝いがしたいという自分の意図を、最初から率直に伝えました。

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あなたはトルコやドイツの隠れ家に潜むメンバーに、日々、密着したんですよね。どんな撮影プロセスだったんですか?

こんなに難航した作品は初めてでした。まず、メンバーと連絡をとるのが難しい。撮影の方法、日時、場所を決めるのも難しい。しかも、安全確保は絶対条件。メンバーたちの亡命生活の実情を描くのも、容易ではありませんでした。

通信手段や撮影手法には、毎回、制限やルールがありました。私たちは、撮影対象の周囲に、隠れ家のヒントになるようなモノが映り込まないよう気を配り、さらに、暗号を使って連絡を取り合いました。撮影素材をネット上にアップするのも禁止でした。他にも様々なルールがありましたが、これ以上はいえません。私たち撮影チームは、何をするにも細心の注意を払い、被写体を守るためにあらゆる対策を講じました。

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難民危機やISの問題をここまで密接にとらえ、かつ当事者側の視点を掘り下げた今作は、世間の意識や、問題の理解度を変えるでしょうね。

シリア、IS、難民など、数々の重大問題が、新聞の見出しや統計データ、写真に落とし込まれた瞬間から、そこにいるはずの人びとの姿が見えなくなるんです。ドキュメンタリー作家として、問題の当事者の表情を映し、登場人物たちの行動を、オーディエンスに理屈抜きで、感情的に追体験させることこそ、自分の義務、仕事だと私は認識しています。この作品で、みんなが少しでもシリア難民に感情移入してくれればいいですね。

本作の鑑賞者が、積極的にこの問題にかかわり、行動することを願っていると?

私は、この作品が別の世界への扉になれば、と願っています。この作品じゃないと、知りえない世界への扉です。そしてそこから、諸問題についての対話に発展してほしいのです。この作品は、ジャーナリズム、市民ジャーナリストへのオマージュです。彼らは、世界の片隅を覆う影に光を当てています。特に、真実が簡単にゆがめられてしまうこの時代に、真実を暴き、悪と闘う人びとの業績にフォーカスする意義は大きいと、私は考えます。

本作は、法案の制定や公共政策の変革を目指しているわけではなく、報道では知ることのできない、人びとの姿に焦点を当てている作品です。作品を観て、RBSSの活動を正しいと思ったら、ぜひ世界中の市民ジャーナリストを支援してほしい。彼らは、とても大切な事実を伝えています。本作でも、シリア問題の情報戦争、イデオロギー戦争という側面に触れています。この戦争で使われている武器は、銃や爆弾ではない。インターネット、SNSなんです。だからみんながどんどん発信し、意見を述べるべきです。声を上げましょう。

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ラッカは静かに虐殺されている
2018年4月14日(土)アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開

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