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厄ネタ不良映画『逆徒』、劇場急襲! 小林勇貴監督、犯行直前インタビュー

この秋、商業デビュー作『全員死刑』の公開が控えている小林勇貴監督。だが、もう1作、忘れてはならない映画が存在する。『Super Tandem』『NIGHT SAFARI』『孤高の遠吠』──。良識を蹴破る問題作を世に放ち続けた小林勇貴と不良たちの新たな犯行。インディペンデント最新作『逆徒』、8・26劇場急襲!

by Hirohisa Asahara
31 July 2017, 7:49am

※本インタビューでは映画の具体的なシーンに触れています。「ネタバレだ!」などと文句を言わないでください。

いいから、さっさと公開しろ! 強制参加型反抗映画『孤高の遠吠』を待ちながら vol.1 小林勇貴監督インタビュー

映画と不良。強制参加型反抗映画『孤高の遠吠』を待ちながら vol.2 ユキヤ(赤池由稀也)インタビュー

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前回のインタビューでは『孤高の遠吠』* を中心に、映画のつくり方を聞きました。出演者の赤池由稀也君や、由稀也君に紹介してもらった地元の不良の子たちを取材して、彼らが実際に体験した事件などの具体的なエピソードを集めて再構成し、シナリオを書いたと小林監督は言ってましたね。『逆徒』のストーリーも同じようにしてつくったんですか?

* 2015年/監督:小林勇貴/出演:渡辺優津紀、神尾和希、日比野翔矢、増田亮太、赤池由稀也、小林元樹、梅本佳暉、中西秀斗、牧野慶樹、中込篤、石川ボン、他

いえ、これまでのやり方とは真逆です。まずストーリーの大筋を考えます。そして登場人物の行動を不良の子たちに説明して、どうリアクションするかを聞きながらシーンをつくっていきました。「だったら俺はこうする──」とか答えてくれますから。主演の牧野(慶樹)君、それから中西(秀斗)君、梅本(佳暉)君、由稀也君たちに聞いていきました。

たとえば、どんなリアクションがありましたか?

「君たちがぶっ殺したはずの奴が這いあがってきたらどうする?」と聞いたんです。それで襲ってきたらどうするか──。すると中西君が、「どうするんスかねぇ……いちど殺しちゃってるからなぁ」と答えたんですよ。ハッとしました。加害者は自分たちがしたことが枷(かせ)になるんだ! と気づいて方向性がハッキリしました。ふつうのエンターティンメントなら死んだはずの奴が戻ってきたら派手な戦闘シーンが始まりますけど、そういうことじゃない。

牧野慶樹(ヨシキ役)

いま言った「ぶっ殺したはずの奴が這いあがってきたら」というのは冒頭でリンチされたヨシキ(牧野慶樹)のことですね。

そうです。一方、やられて死にかけた人間は何かが解放されて、やった奴らをオモチャみたいに感じてる。

リンチのシーンが終わって、タイトルバックで夜の公衆便所で服を燃やす映像が流れ、のどかな昼間のバーベキューのシーンへと続くのが嫌な感じでした。

便所のシーンは、川崎の中1男子リンチ殺人事件* に触発されて撮ったんです。加害者の少年たちは殺した子の衣服を証拠隠滅のため公衆便所で燃やしました。それでチャラ、なかったことにしようとした。これは怖いですよ。ずっと前から俺はリンチが大嫌いなんです。悪者をつくって安心しようとする図式は不良の世界だけじゃなくて職場や学校、ネットでもあるじゃないですか。リンチに対する嫌悪感が映画を撮る動機のひとつです。2014年の『NIGHT SAFARI』** は先輩に命じられたリンチを拒否するというオチがつきますけど。

* 2015年2月20日、川崎市川崎区港町の多摩川河川敷で中学1年生の少年(13歳)が殺害された。2月27日、17歳から18歳の少年3名が殺人容疑で逮捕。被害者の死因は鋭利な刃物で首を刺され、切られたことによる出血性ショック。供述により、加害者たちは被害者をカッターナイフで切ったほか、極寒の多摩川を全裸で泳がせていたことなども判明

** 2014年/監督:小林勇貴/出演:赤池由稀也、望月樹、助川寛、高木健史郎、岩間登、小林元樹、遠藤克樹、富田周、佐野太紀、常磐尚也、石川ボン、大石淳也、佐野有紀、赤坂美咲、小林直美、他

その前後に撮った『Super Tandem』* と『孤高の遠吠』にもリンチのシーンがあります。

* 2014/監督:小林勇貴/出演:大石淳也、荻田大輔、石川ボン、佐野由磨、小林直美、他

『孤高の遠吠』が完成して、まだ上映が決まってなかったころに1日だけFC2動画で公開しました。それが川崎の事件が報道された日なんです。ニュースを見てムカついて、すぐに公開しました。事件がダブって平気で観れない、とTwitterに感想を書いてる人がいて、意図は伝わったと思いました。伝わってよかったとは言い難いですけど……。『ライチ☆光クラブ』を撮った内藤瑛亮監督は神戸連続児童殺傷事件が忘れられなくて、自分の映画に酒鬼薔薇聖斗を反映させていると何かで読みました。今回、俺にとって川崎の事件がそうなりました。『逆徒』はチャラの話です。どんな酷いことをしてもなかったことにして責任逃れ。その象徴として炎を燃やしました。

そこにバーベキューを繫げたのはどうしてですか?

2014年にカナザワ映画祭で『NIGHT SAFARI』を上映してもらったとき、雑談のなかで主催の人が言ったんです。「少年のリンチ事件の報道を見ていると、よく事件後にバーベキューをやってるけど、あれってなんだろう。暴力をチャラにしたかったのかな」と。それがずっと頭に引っかかっていて。

今回は牧野君演じる無軌道な一匹狼ヨシキが、富士宮と富士の不良グループに災いをもたらします。ヨシキはいわゆる“厄ネタ”的存在ですが、キャラクターづくりで参考にした作品はありますか?

やろうとしたのは実録ヤクザ映画の不良版です。厄ネタモノでは、『現代やくざ 人斬り与太』、『実録 私設銀座警察』、『仁義の墓場』、『新・仁義の墓場』なんかをあらためて観ました。1973年の『仁義なき戦い』のヒットから77年の『北陸代理戦争』まで実録路線のヤクザ映画が全盛期で、いろんな監督がこぞって暴力を撮りまくるなかで、登場人物の不死性に触れはじめました。あのままヒットが続いてジャンルが過熱していくと心霊みたいなものに到達し、バイオレンスとホラーが同居する瞬間があったんじゃないか、と思うんです。でも、『北陸代理戦争』を最後に実録路線が終わってしまった。

松方弘樹演じる主人公のモデルとなった組長が、映画と同じ状況で殺された事件がきっかけで、実録ヤクザ映画がつくれなくなって。

『北陸代理戦争』の松方弘樹には若干の不死性があったと思うんですけど……。『逆徒』では、実録ヤクザ映画を受け継ぎつつ、厄ネタに不死性や心霊的な要素をぶつけて羽化させたかった。主演してもらうにあたって牧野君には、さっき挙げた映画をひと通り観てもらいました。あとはヤクザ映画ではないけど、不死性のヒントで『太陽を盗んだ男』も。牧野君は律儀な男で、徹夜してすべて観てくれたんです。そして一緒にヨシキのキャラをつくっていきました。自分にとっても、いままでない刺激的な体験でした。

小林監督はこれまで全作品で撮影も兼任しています。『逆徒』で撮り方は変わりましたか? 例えば『孤高の遠吠』と比べてどうでしょう。

変わりました。『孤高の遠吠』は手伝いに来てくれた不良の子にもカメラを持ってもらって、2アングルで撮ったんです。尺が長い作品(125分)なのでカメラ2台で同時に撮れば早く進められると思って。でも『逆徒』は『孤高の遠吠』の約半分の尺なので自分ひとりで撮りました。撮り慣れてきていたし、人任せにせず1カメにこだわろうと思ったんです。保険のために結局は使いもしないカットをいくつも撮っておく監督が多いので、彼らに対する反抗心もありました。1カメで演技が上手い人を集めて撮ったので、凄く楽しくて。

『NIGHT SAFARI』や『孤高の遠吠』でも出演していた富士宮と富士の本物の不良のオールスター的なキャスティングです。

撮影中、上手い人たちのなかにいると、あまり慣れてない人でも驚くべき演技をするんです。ときには上手い人を食うような。会話のシーンでは喋ってる人中心ではなく、カットバックして、聞いてる人の表情をできるだけ多く撮りました。怖い会話のシーンってあるじゃないですか。あの恐怖は話している側ではなく、聞いている側から生まれると思ってます。

聞いている側から恐怖が生まれるというのは、今回気づいたんですか?

もっと前に気づいてました。『NIGHT SAFARI』が大きかったですね。あのときは出てくれた不良の子たちとほぼ初対面ですから、俺は監督とはいえ彼らにとって部外者なんです。シーンとシーンのあいだで俺が段取りしてるとき、撮影再開を待ちながらみんなが一服入れてると、不良同士の雑談が怖い方向に行って、いきなり喧嘩になったりする。「お前さぁ!」ってなったとき、その当事者たちだけじゃなく、第三者の顔も怖いんですよ。先輩と後輩、喧嘩の強い奴と弱い奴なんかが入り混じったなかで状況判断している。そのとき、秤にかけるような眼をするんです。その眼が怖い。まだあります。『孤高の遠吠』で由稀也君が仕切ってるクラブイベントを撮影したとき、新しい不良の子にどっと会えたんです。当時は『NIGHT SAFARI』がカナザワ映画祭で受賞したことが富士宮市内でも話題になっていたし、弟の(小林)元樹が不良のあいだで知られていたので、俺はクラブの不良の子たちから秤にかけられる要素がありすぎでした。「賞もらって調子こいてんじゃねえか?」「映画にしちゃあカメラちっちェえな」「なんか胡散臭ぇけど、元樹の兄貴だって言ってるし……」とか。実際に怖い思いをすると、やっぱり逃れたいと思ってしまう。そんな体験が『逆徒』の〈責任逃れ〉の要素に生かされました。

撮影機材はこれまでと変えましたか?

初期の『TOGA』* と『絶対安全カッターナイフ』** は一眼レフのEOS Kissで、『Super Tandem』と『NIGHT SAFARI』がコンデジのPower Shot G14、『孤高の遠吠』がPower Shot G16、『逆徒』はビデオカメラのiVISで撮りました。高感度撮影がきれいで、ナイトシーンは格段によかったです。これまでは暗くて困ることがあって、『孤高の遠吠』では車を集めてヘッドライトを照明にして撮ってましたから。iVISはビックカメラで店員の営業トーク、「夜のカメラです」が決め手になって即買いしました。グリップを付けるとカーチェイスも撮りやすかったです。

* 2013年/監督:小林勇貴/出演:笠井渉、小野洋平、小林勇貴、大石淳也、近藤洋駆

** 2013年/監督:小林勇貴/出演:近藤洋駆、大石淳也、笠井渉、小野洋平、大石淳也、鈴木克幸、市川春奈、かんぺい(犬)

カーチェイスはスリリングでした。みんな運転が上手い。

上手いっスよね。彼らは未成年のときの暴走行為のせいで、最近やっと免許が取れたはずなんですが。違反日から一定期間は取得できないので。

カーチェイスの終わり方に、キーワードの〈枷〉を感じました。

そうですね。追いかけているあいだは「ぶっ殺してやる」と言ってても、車を降りたヨシキが逃げもせず自販機でジュースを買うのを目の当たりにすると虚をつかれ、自分たちがやってしまったことに向き合わざるを得なくなる。やっぱり枷になっているんです。カーチェイスを始めると、どうやって終えるかが悩ましいところなんですが、飽きてジュースを飲んでやめるっていうのを思いつきました。予算がふんだんにあれば派手なクラッシュで爆発して終わるのもアリですけど。

ぜったいに撮りたかったシーンはどのシーンですか?

便所で服燃やすのも、秤にかけるような表情も、テーマに触れるシーンですから撮りたかったです。あとは、好きな映画には真似してみたいシーンがよくあって、それが映画をつくる原動力にもなっています。今回はそのひとつが、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『オンリー・ゴッド』のヒットマンが原付で殺しに行くシーンです。以前、ゴールデン街で高橋ヨシキさんたちと飲んだときに俺が、「タイ人のヒットマンが2ケツして殺しに行くところが怖いですよね。マシンガン担いで、ボロい原付にグデ〜っと乗ってる姿が気持ち悪くて──」と身振りを交えて話したら、お店の人たちまで一緒になって「そうそうそう!」って盛り上がりました。意気揚々と家に帰り、そのシーンをFacebookにアップして、またみんなで盛り上がりたくて動画を検索したんです。そしたら──。

ボロい原付じゃなかったでしょ。

そうなんですよ! もっと大きくてカッコいいバイクで、スッゲェびっくりしたんです。夢でも見たのかなと。

たぶんD-TRACKERというカワサキの125CCです。あのバイク欲しいな、と観ているときに思ったから覚えてます。

俺は自分が好きなように記憶を書き換えて、恐ろしいことにその疑似記憶を酒場で共有して盛り上がってた。でも、俺が『逆徒』でやりたかったのは、夢で見たほうなんです。

『逆徒』のヒットマンは、夜道をつまらなそうに2ケツで蛇行運転しながら殺しに行くのがカッコいい。くわえ煙草で金属バットを引きずって走っていく。

グデ〜感、出てましたか。撮影の日、ちょうど小雨が降ったのもよかった。路面が濡れると画面がゴージャスになるんです。いい具合にジトっとして、ヘッドライトの反射もきれいで。『いつかギラギラする日』では、わざと道路を濡らして撮影したそうです。光の反射でパトカーの台数が多く見えるのもあって。

ヒットマンが暗い団地から出てきてバイクに乗るのもよかった。

俺は小さいころ、団地に住んでたんです。そこがヤバい奴ばっかり住んでる不良団地で、いま振り返ると凄く面白い。実は以前、ヤバい奴しかいない団地を舞台にしたシナリオを書いたけど、内容が内容なだけに撮影許可が下りなくてダメになったことがあるんです。廃墟を使っても飾り込みでかなり予算がかかってしまう。保見団地の写真集* ありましたよね。あ〜ゆう作品を見るとまた思いを馳せて……。団地が舞台の映画はいつか必ず撮りたいです。

* 『Familia 保見団地』名越啓介(写真)、藤野眞功(文)

メインのキャストたちの印象に残ったシーンをいくつか言います。ヨシキが煙草を吸おうとしたけどライターがない。石を打って火をつけようとして、あっさりあきらめ、メインタイトル「逆徒」が出る。あの流れは気持ちいい。

『脱獄広島殺人囚』のラストシーンが気に入っていて、やってみました。松方弘樹演じる脱獄囚が大根をかじりながら山のなかの線路を歩いてきてシケモクを拾う。それで石で線路を叩いて火をおこそうとして、キャンキャンキャンキャンと鳴りながら終わるんです。いいですよね〜。ヒデ(中西秀斗)の家に監禁されたヨシキが、後ろ手に縛られたまま割った皿で、手首の結束バンドを切断するところも懲罰房の松方のシーンを真似ました。

富士のアタマのウメ(梅本佳暉)のことを聞きます。厄ネタのヨシキに振りまわされて富士宮と富士の関係が悪化します。富士宮の後輩のカツキ(遠藤克樹)を拉致したときのウメが凄い。「こいつスゲェカッコよかったからあんとき、教えてやろうか」のあとの言葉が出ないけど、あれはわざとですね。

そう、凄いんですよ。「ミスしたのをそのまま使ったの?」って観た人によく聞かれますが、脚本通りです。「アイツさ、あんときさ、あのぉ……なんだっけ、ダメだ、ちょっと緊張するわ。なんだっけか、思い出せねぇわ」という台詞。あのやりとりを成立させるためにカットを割ってます。2回撮って、最初のテイクを使いました。ふだんの会話で唖然としたり脱力したりすることってあるじゃないですか。居酒屋でわいわいやってるときに肝心なところで言葉が出てこなくて「……アレだよ!」ってなって、みんなガックシみたいな。あれが凄い好きで、敢えて怖いシーンでやってみました。

梅本君は上手いですね。

顔も相当いいし演技も上手くて。梅本君を商業映画に推していきたいです。きっと次の安藤昇になる!

梅本佳暉(ウメ役)

富士宮のアタマのユキヤについて。『仁義なき戦い』で金子信雄演じる山守義雄が菅原文太演じる広能昌三に言った台詞、「そがな昔のこと、誰が知るかい」をアレンジして、掛け合いのシーンで由稀也君に言わせています。

現場で段取りをしているときに思いつきました。『仁義なき戦い』の名台詞を使いたいと言ったら由稀也君もノリノリで。

由稀也君は『NIGHT SAFARI』では先輩に翻弄される不良を演じましたが、今回の役はずいぶん駆け引きに長けています。『仁義なき戦い』に喩えると、広能が山守に変身したような。『NIGHT SAFARI』の不良少年たちが世代交代して『逆徒』の彼らになったという見方は可能でしょうか。

そうですね。『NIGHT SAFARI』と『逆徒』は兄弟みたいな関係で、リンクしてるところが多いです。

『逆徒』では、富士宮と富士、ふたつの不良グループのコントラストが効いてます。それぞれのアタマもキャラクターも対照的で、富士宮のユキヤが策士タイプなのに対し、富士のウメはストレートで調略には向きません。

はい。『逆徒』の富士宮はユキヤだけじゃなくて副リーダーのノボル(岩間登)も計算高そう。彼らに憧れているカツキも頭の回転が早い。

赤池由稀也(ユキヤ役)と岩間登(ノボル役)

一方、富士で頭がまわるのは中西君演じるナンバー2のヒデぐらいですね。後輩のカツキをケガさせられたユキヤが富士に掛け合いに来たとき、話をまとめたのはヒデでした。

富士を超バカな軍団にするとわざとらしすぎるので、チームバランスを考えて、ヒデだけは交渉上手なキャラにしました。

それで富士宮と富士は手打ちになりますが、今度はヨシキが富士宮の後輩を襲います。その後、どうして富士宮はヨシキではなく、ヒデに報復したんでしょうか。もともとヨシキは富士の人間ではありますが。

富士宮と富士は厄ネタであるヨシキの存在を逆手にとって交渉のカードにしていました。ヨシキを人間凶器として、いいように使っていた。ユキヤとしては後輩を襲ったのがヨシキなのはわかっていても、報復して凶器を破壊してもしょうがない。だから「次、どっちかがなんかやったら、そのやったほうが悪いってことでいいじゃん」と言ったヒデを襲わせた。俺は、言ったことは返ってくるという因果応報感が好みなんです。あとは実際の喧嘩でも、全然関係ない人が首を突っ込んできたり、意外な人が復讐されたりすることがある。そういう歪(いびつ)な心理や怖さを出したかったのもあります。

厄ネタの暴走

ヒットマンに襲われて入院しているヒデと見舞いにきた富士の仲間のアツシ(中込篤)の会話のシーンはとても自然でした。とくに中西君は力が抜け切っていて入院患者にしか見えない。

俺の母親がちょうどヘルニアで入院していたので、そのベッドで撮りました。腰が痛いのに「映画、頑張ってるからねぇ」と言って、撮影のためにどいてくれたのはよかったけど、途中から「早く終わらせろ!」ってスッゲェ文句言いだしたんです。せかせかした雰囲気のなかで彼らは一発オッケーでした。そしたら、ふたりのやりとりがかわいかったもんだから母親が勝手にもうワンテイク要求したんです。「なんだ、やってみろ!」って。わけわかんないですよ。

そんなお母さんに対して、中西君や篤君はどんな感じなんですか?

「あ〜、おばちゃん」みたいな。

抑えが効かないガキども

その後、富士宮と富士の抗争を経て、2度目の手打ちに至ります。拉致されて負傷ながらも抗争を現場で指揮していた富士宮のカツキはやられ損のまま。彼はどんな気持ちで手打ちの場に臨んだのでしょうか。

スッゴイ気持ちですよね。駐車場で直立して待っていると、自分を殴ったウメから「ヨォ!」と声をかけられる。カツキはウメを車に乗せるためにドアを開ける。あそこからの一連のシーンは凄く好きなんです。自分たちにケンカさせて、勝手に仲直りして、メシ食って酒飲んでるだけの先輩連中に対して激しいものを内に秘めている。そこに、暴力が再燃する予感を滲ませたかった。前半のヨシキがヒデの家を襲撃するシーンの、ヨシキ視点の映像は画素を落として粗くしています。そしてラスト前でヨシキ以外の生き残りをひとりずつアップで撮りますけど、そこでも同じエフェクトをかけてます。次のターゲットという暗示のつもりで。ただカツキだけは別で、他の人物より暗くしています。忌まわしい種が一粒残った恐ろしさが出たらと思って。俺は中盤以降のカツキのキャラに共感します。

遠藤克樹(カツキ役)

富士のヒロキ(福田博貴)は不思議な存在です。おばあちゃん子で無口、他人とはダイヤル音でコミュニケートする。不良グループのなかに彼のような毛色が違う、マニアックな感じの人がいると妙に惹かれます。

福田君はイカつい顔をしてるけど人柄がよくて、現実の不良界隈で人気の高い人なんです。他の不良の子からもずっと推薦されていて出てほしかったんですけど、福田君自身はデリケートな人で、「カメラの前で喋りたくない」って言うんです。俺は無言のキャラが好きで、『Super Tandem』でもやってる* ので、福田君に出てもらうために役を考えました。今回は喋らない代わりにテレパシーを使えないかと考え、ダイヤルアップの接続音で会話するのを思いつきました。俺んちは小学生のころダイヤル回線でパソコンはwindows 95でした。接続音は、ピ〜〜、ピ〜〜〜ウゴ〜〜ピ〜ゴ〜、ピ〜〜〜〜で始まるんですけど、途中のピ〜〜〜〜〜ヴ〜〜〜ゴ〜〜〜ウビ〜ウビ〜ウビ〜がサビだと思ってて、映画ではそこを使いました。後半のパートのザ〜〜〜はダメなんです。そういう苦労はありました。

* 劇中で自警団を結成した大石(大石淳也)と荻田(荻田大輔)のうち、萩田は喋らないキャラクターだった

映画の冒頭のクレジットで「失踪未遂 牧野慶樹」となってますけど、何があったんですか?

撮影の中盤で突然音信不通になり大騒ぎになったんです。ちょっと言えない事情で、外部と連絡ができないところにいたんですけど、しばらくして「出れます」と電話があって撮影再開しました。

同じく「逮捕者 田口優雅 藤田健斗」は?

優雅君と健斗君はメインの出演者よりだいぶ歳下で、富士の後輩役で出てもらったんです。彼らが出演する日、「迎えに行こうか?」って聞いたんですけど「いいです」と言うから撮影場所で待ってました。約束の時間から10分たっても来ないので不安になって電話すると、「もうすぐ着きます! 大丈夫ですよ、いま2ケツしててスピード遅いんです。もうすぐ着きますから」って言う。待ってると電話があり、「すいません! ……ちょっと遅れま〜す!」で切れた。心配しますよ。そしたら原付の音とウウウゥゥゥゥゥーン!ってサイレンが聞こえてきた。来たのはいいけど、パトカーに追われてるんです。そんで「遅れま〜す!」と叫びながら2ケツのまま走り去った。

撮影はできたんですか?

できました。すぐに戻ってきましたから。「今日のところは勘弁してやる」と警察に言われたそうです。実際は逮捕ではなく補導ですね。映画で、車のなかで話しているウメとアツシ、ヒロキにジュースを持ってきた後輩が優雅君です。ヒデの仇討ちを誰がやるかって話になって、「俺んとこのツレでよければ──」と言ってしまったメガネの子です。

メガネのフレームをガムテープで補強してたのが気になって覚えてます。

あれは演出じゃなくて、優雅君がその状態で来たんですよ。見た瞬間、ツイてる! いい映画撮れるゾ、と思いました。

ところで、小林監督は自分が好きな映画からの影響を隠しませんね。オマージュがわかりやすい場合もあるし、インタビューでも自分から話してくれます。

俺の映画のはじめに〈シネマトクラブ〉とクレジットが出るじゃないですか。笠井(渉)君という小学校からの親友がいて、ふたりでやってる自主映画のユニットなんです。高校は別でしたが、いつも笠井君の家でお菓子食いながら好きな映画を観てギャーギャー騒いでました。それから映画をつくろうってことになって、2013年に『toga』と『絶対安全カッターナイフ』を撮ったんです。もう1作目から、それぞれ好きな映画の影響が出ましたよ。それを他の友達に「ココはアノ映画のアレなんだよ!」って話すのが楽しかった。いまでもインタビューやふだん話してるときに真似したシーンを言っちゃうのは、映画の話で盛り上がりたいから。笠井君と大騒ぎしてたときみたいな幸せをお裾分けしたいから(笑)。笠井君はいま、トヨタでエンジニアをやっていて映画の世界に関わってませんが、脚本で悩んだりしたときは相談してます。

逆に、観た人から指摘されるのは嬉しいですか?

嬉しいです。『セーラー制服と機関銃』の薬師丸ひろ子とヤクザの子分が寺でダベっているところに暴走族が通りかかって、バイクを借りて2ケツで大通りに出ていくシーンがあるじゃないですか。それを『孤高の遠吠』の悪童戯曲(ワルツ)* の出撃シーンで真似したんです。なんと指摘した人がいたんですよ! 去年のゆうばり映画祭でオリジナルの『セーラー制服と機関銃』と橋本環奈の『セーラー服と機関銃-卒業-』が上映されました。その前日に『孤高の遠吠』の上映があったから、続けて観て気づいたんだと思います。でもその人は、真似しただろうって顔でブスっとしてて……。おかしいな、君と友達になりたかったのにって思いました(笑)。

* 富士宮の攻撃特化型武装単車部隊

観ている側からすると、オマージュに気づくのは楽しいときもあります。『逆徒』のカツキの床屋のシーン、『仁義なき戦い』ファンにとっては<散髪したら死亡フラグ>* です。

* 『仁義なき戦い』で、電話で山守義雄(金子信雄)に「一度こんなと腹割って話したいんじゃが」と持ちかけられた上田透(伊吹吾郎)が「今夜はもう遅いけん、明日の朝9時に散髪してからそっちにまわるわいの」とわざわざ詳しく答えたため、翌朝、山守の命を受けた有田俊雄(渡瀬恒彦)に床屋で髭を剃っているところを射殺される

あのシーンは入れたかったです。『NIGHT SAFARI』では<サウナに入ると死亡フラグ>* をやったので、今回は念願の〈散髪したら死亡フラグ〉をやりました。

* 『アウトレイジ』で、村瀬(石橋蓮司)が組員ふたりとサウナでくつろいでいるところに大友(ビートたけし)が乗り込んできて全員を射殺

『逆徒』のエンディングはザラッとした味わいで、観終わったあとも跡をひきます。

よかったです。ところが、ラストシーンでヨシキが現れて、女や子供を含めた全員を殺せばよかったのに、と観た人からけっこう言われました。あそこで皆殺しなんてやったら、酷い言い方ですけど、学生の卒業制作みたいですよ。俺は観た人が言ってきそうな感想や意見を幾通りも想像して映画をつくっています。想像したうえで、無難な、ダサい、魅力的じゃないアイデアを払いのけて夢に近づこうとしているんです。直接的な暴力描写よりも、暴力に至るまでの過程を描いたほうがずっと怖いと思っています。

一方で、『孤高の遠吠』の青春っぽいエンディングの延長線を期待する人が多かったと聞きました。

そう! オカワリの人がいるんですよ。あの爽やかさの続きと学生映画的なハッチャケを求める人が。ホント勘弁してよって感じです。

エンドロールもなく、バッサリ斬ったように終わるのも映画に合ってる。

「終」で終わりにしたかったんです。昔の東映映画のパロディです。いまの商業映画はエンドロール入れないのは難しいから、今回は自主制作でよかった。

エンドロールでいい曲かけて帳尻合わせをするような映画が多い気がします。

エゲツないことやってないのにエンディングテーマでチャラにしようというセコい魂胆がムカつく。逆に『バトル・ロワイアル』ぐらいメチャクチャやってたら音楽がドラゴン・アッシュでも、いい曲だな〜ってなりますけど。

最後に何か言い残したことがあれば。

秋公開の『全員死刑』* も凄いゾ! たぶん偶然ですけど、クランクインが実際の大牟田4人殺害事件 ** の最初の被害者、穣吏さんが殺された日。そして映画が完成した日には埼玉愛犬家連続殺人事件 *** の関根元が死亡──。業の深い映画になりました。

* 2017年/監督:小林勇貴/出演:間宮祥太朗、毎熊克哉、六平直政、入絵加奈子、清水葉月、落合モトキ、藤原季節、鳥居みゆき、他

** 2004年9月に福岡県大牟田市で発生した強盗殺人死体遺棄事件。被害者側も被告側も家族単位(被害者側は友人1名を含む)で4名ずつ、また被告である家族4名全員の死刑が確定した特異な事件。逮捕された北村兄弟はともに元力士で、暴走族や暴力団との関わりもあった。小林勇貴監督の『全員死刑』は、北村孝紘被告の手記に基づく鈴木智彦のノンフィクション『我が一家全員死刑』を映画化した作品

*** 1993年に埼玉県熊谷市周辺で発生した殺人事件。関根元(51)は元妻の風間博子(36)と共謀し、犬の高額売買をめぐる金銭トラブルになっていた埼玉県行田市の男性会社役員(39)ら3人に硝酸ストリキニーネ入りカプセルを飲ませるなどして殺害、遺体を切断のうえ焼却。関根はさらに、行田市の主婦(54歳)も毒殺。2009年6月5日、関根と風間の死刑判決が確定した。関根死刑囚は2017年3月27日、収容先の東京拘置所で死亡。享年75

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小林勇貴(こばやし・ゆうき):1990年9月30日生まれ、静岡県富士宮市出身。監督作に『TOGA』(13)、『絶対安全カッターナイフ』(13)、『Super Tandem』(14)、『NIGHT SAFARI』(14)、『脱法ドライブ』(14)、『孤高の遠吠』(15)がある。『Super Tandem』で第36回PFF入選。『NIGHT SAFARI』でカナザワ映画祭賞受賞、TAMA NEW WAVEある視点入選、『孤高の遠吠』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016オフシアター・コンペティション部門グランプリ。今秋、商業デビュー作『全員死刑』の公開が控えている。

特襲上映開催! 小林勇貴監督作品一挙上映
ポレポレ東中野
8月26日(土)『逆徒』/『NIGHT SAFARI』 ※初日舞台挨拶:小林勇貴
8月27日(日)『孤高の遠吠』 ※トーク:鈴木智彦×小林勇貴
8月28日(月)『逆徒』 ※ゲリラワークショップ:小林勇貴×小峰克彦
8月29日(火)『孤高の遠吠』 ※トーク:平山夢明×小林勇貴
8月30日(水)『逆徒』/『Super Tandem』 ※トーク:西村喜廣×大石淳也×小林勇貴
8月31日(木)『孤高の遠吠』 ※トーク:田野辺尚人×小林勇貴
9月1日(金)『NIGHT SAFARI』/『逆徒』 ※最終日舞台挨拶:小林勇貴

大阪シアターセブン
9月2日(土)〜9月8日(金)

以後、名古屋シネマスコーレでも上映予定