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ゲーム開発コストの真実

ゲーム業界関係者、ゲーム・アナリストは、ゲーム産業の栄枯盛衰を説明する切り札を常に探している。伝統的なビデオゲーム開発のコストの上昇傾向は疑いようもなく、確実なヒット作を生みだすのは困難になるいっぽうだ。『アサシン クリード』(ASSASSIN’S CREED)や『コール オブ デューティ』(Call of Duty)のような大ヒット・シリーズはなかなか現れず、もはやゲーム業界に安パイはないのでは、との懸念が広がっている。実際のところ、ゲーム・ライターのマイク・ローズ(Mike Rose)が示唆したように、もはや、ゲーム・ソフトでの成功は望めないのかもしれない。

かつて『ウルティマ オンライン』(Ultima Online, 1997)のリードデザイナーを務め、『スター・ウォーズ ギャラクシーズ 』(Star Wars Galaxies, 2003)や『エバークエストII』(EverQuest II, 2004)など数多のゲーム制作を指揮したラフ・コスター(Raph Koster)は、今年1月の彼の講演内容を自らのサイトに掲載した。そこで彼は、ゲーム業界特有の問題について明確に疑問を投げかけている。

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〈The Cost of Games〉と題した記事でコスターは、80年代初頭以降のゲーム250本のデータを調べ、ゲーム業界の経済構造について持論を展開している。記事によると、ハードウェアの世代や開発プロセスの効率化と開発コストには相関関係を見いだせるはずだ、と彼は予想していたようだ。しかし、主要データの分析から、コスターが得た結論は、ハードウェア、ジャンルの違いに拘わらず、ゲームデータのメガバイト(MB)当たりの制作コストはほぼ変わらない、という事実だった。

実に奇妙な発見だ。簡単に説明しよう。携帯ゲームをつくるのも、『Destiny』(2014)の次回作をつくるのも、データ1MBにかかるコストは、ほぼ変わらないのだ。どんなゲームであれ、データあたりの制作原価に差がないなんて、理解に苦しむ。

Destiny image courtesy Blizzard

コストの不変性について、コスターは、いくつかの見解を示している。第一に、ゲーム業界は、主に〈Unity〉や〈Unreal Engine〉をエンジンとして採用しているので、1MBあたりの制作コストは固定されており、それを下回る可能性はない。〈Unity〉や〈Unreal Engine〉を利用により、ゲームのクオリティが担保されるので、コスト効率、より優れた代替エンジンを追求する業界内の動きは、今のところない。

第二に、コスターは、1MBあたりのプレイヤーの負担額は、以前よりも低いという。過酷な労働状況に開発者を追い込み、収益をあげるのは、ゲーム業界の常套手段だ。その業界体質こそ、コストが変わらない理由ではないか、とこスターは指摘する。データあたりのコストが固定されるのは技術的な制約からであろうが、ゲームの末端価格に人件費が反映されていないのも事実だ。

ある意味、コスターが明らかにしたのは、ゲーム業界の構造的欠陥を議論するための新しい途なのかもしれない。ゲーム開発コストは上昇しているのに、プレイヤーがそれを負担していない。その代わり、同業界は、開発スタッフに時間外労働を強いる、もしくは、ルートボックスによる収益期間の長期化を図るなど、あらゆるかたちで利益を生み、コスト上昇分をカバーしている。

さらにコスターは、「2020年代初頭までに、開発に2億5000万ドル(約264億円)かかる1テラバイト規模のゲームが登場するだろう」という破滅的な予測もしている。しかし、結局のところ、彼の主張の肝は、コミュニティ、ユーザーが制作したコンテンツ、プレイヤースキルに焦点を合わせたゲームだけがコスト据え置きの罠から逃れられる、ということだ。例えば〈DotA〉系ゲームや『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』、『MINECRAFT』など、莫大な時間と課金をユーザーに要求するゲームは、ロングテール効果が大きく、開発会社に利益をもたらす。ゲーム市場において、ある程度の利益が見込めるアイテムを生みだせれば、それがボーナスになるのだ。

私見だが、コスターの記事から、シングルプレイ・ゲームが衰退するのでは、と強く感じた。それは、何通りもの視点に分けて検討すべき幅広い分析だ。さらに、コスターが示したデータだけで、インディーズのゲームやクリック・ゲーム、1人称視点の探検ゲームやシューティング・ゲームにいたるまで、拡大するゲームの世界を完全にカバーできているとも考えにくい。

ゲーム業界のトレンドを踏まえたうえで、コスターの見解が正しいと仮定すると、私たちがプレイすべきは、ド派手で大掛かりなメインストリームのゲームではないのかもしれない。ゲーム業界が近い将来、出版業界や音楽業界と同じような状況になるのでは、とコスターのデータは示唆している。つまり、非正規雇用のゲーム・クリエイターがふえるのでは、ということだ。そうなると、長期的な制作コスト回収プランが可能になり、1MBあたりのコストも予測できる程度に収められる。

コスターが記事の大部分で言及した大手ゲーム会社ではなく、パートタイムのクリエーター、困窮した生活を送るインディー・ゲーム開発者のゲームに資金を投下すれば、開発者に与える影響は、必然的に大きくなる。このビジネス・モデルの内であれば、ゲーム購入のさい、ユーザーは倫理観を問われる。つまり、プレイヤーはこう自問すべきなのだ。自腹で誰を支援するのか? 小規模開発者にとって、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)にとって、60ドルがどれだけの価値なのか?

ゲーム産業のカタチが変わりつつある事実は疑いようもないなかで、コスターのデータ分析は、消費者の購買力の意義を再考することの重要性を示している。興味があれば、〈itch.io〉を閲覧していただきたい。