1987年の変遷は、経済面だけにとどまらない。1986年にどんな作品が生まれたか振り返ろう。『トップガン』(Top Gun)、『フェリスはある朝突然に』(Ferris Bueller’s Day Off)、METALLICAの『メタル・マスター』(Master of Puppets)、ボン・ジョヴィの『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』(Slippery When Wet)などなど。一方、1988年には、『ダイ・ハード』(Die Hard)、『ロジャー・ラビット』(Who Framed Roger Rabbit)、 N.W.A.の『ストレイト・アウタ・コンプトン』(Straight Outta Compton)、そしてトレイシー・チャップマン(Tracy Chapman)が登場した。これらの事実から、90年代への布石はわずか2年足らずの間に準備されたのが明らかになる。そして、たっぷりのヘアジェル、ギラギラしたシンセサウンド、控えめな暴力描写などの要素は、時代に取り残されていった。
だが同作品は、SFブームにも乗り遅れ、結果として主要新聞の批評で散々こき下ろされてしまった。ニューヨークタイムズ紙はプレデターを「恐ろしさと退屈さが交互に訪れ、驚く場面もほとんどない映画」と酷評し、ロサンゼルスタイムズ紙は「これまで大手スタジオで創られた映画の中でも最も空虚で、内容に乏しく、独創性のない脚本のひとつ」と批評している。ワシントンポスト紙の物言いはなかでも特にひどい。『プレデター』という映画そのものを中傷しながら、「正直いって、ゴキブリの方が怖い」と貶している。どうやら批評家たちは、80年代の終焉が宣言される以前から、80年代に見切りをつけていたようだ。しかし、『プレデター』の名声は徐々に高まった。映画公開時のレビューの統計をとった〈Metacritic〉では、36点という散々な評価であったが、近年のレビューも踏まえた〈Rotten Tomatoes〉のトマトメーターでは78%、オーディエンススコアは87%、更に〈IMDb〉でも10点満点中7.8という高評価を獲得している。最近になってプレデターは〈映画史に残る傑作〉と評され、ローリングストーン誌の読者投票による〈アクション映画ベスト10〉では、『レイダース/失われたアーク』(Raiders of the Lost Ark, 1981)や『マトリックス』(The Matrix, 1999)よりも上位にランクされている。
『プレデター』は、逆もまた然り、という事実を証明したといえる。だが、当時の批評家たちは、アーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)や、自動機関銃を背負う単細胞なキャラクターたち、エキゾチックなジャングル、地球圏外などのシーンを、何回も観させられすぎていたのだろう。’87年になると、例えその映画の完成度がどれほど素晴らしかろうが、〈マッチョな男が暴れるアクション/SF〉というジャンルは、否応なく観客の拒絶反応を引き起こすようになっていた。革新的、あるいは、埋もれた傑作、とされる類の映画は、時代を先取りしていたためにそう評されるが、『プレデター』の場合、時代の流行から少々遅れてしまっていたため、人気を獲得できなかった。『ステイ・フレンズ』(Friends with Benefits, 2011)や2015年版『スティーブ・ジョブズ』(Steve Jobs)は、その双子ともいえる作品『抱きたいカンケイ』(No Strings Attached, 2011)、2013年版『スティーブ・ジョブズ』(Jobs)より優れていたのだろうか、と問われれば答えは、イエス。しかし、趣向を同じくする映画が数か月前に公開されたせいで、インパクトは確実に薄れてしまった。