サイゼリアでごはん食べてたら、隣のヤング二人の会話が入ってきました。「やっぱヴァイブスがさ」、「そこはヴァイブスでしょ」、「感じられないんだよねヴァイブスが」、とかとか。ネクスト、「そこはリスペクトっしょ」、「リスペクトしてないんだよね」、「リスペクト、マジ大事」、とかとか。ネクスト、「それこそEDMっしょ」、「超EDMじゃん」、「そのEDM激ヤバ」、とかとか。EDMのことはあまり知りませんが、70パーセントくらいは分かったような気がしました。
日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。
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(魔)(ま)さん –仮名- (31歳):自営業
(魔)さんは、お友だちの方からの推薦なのですが、もしかして勝手に応募された感じですか?昔のアイドルみたいに。
いえ、「送っていいスか?」と頼まれたので、「いいよ」となりました。
送った方は昔からのお友だちなんですか?
友だちと言いますか、バンドの友だちなんですけど。
あ、バンドをやられていると。
ええ。それと僕の店のお客さんでもあります。
あ、お店もやられていると。何屋さんなのですか?
レコード屋です。
あ、前回のマットさんに続けて音楽系ですね。やはりメタルですか?ちょっとマサ伊藤さま入られていますが。
まぁ、そんなもんです(笑)。実際メタルは少ないですけど…輸入のパンク、ハードコアとかオルタナティヴロックがメインです。あとアパレルも色々作ってます。

そうですかー!ではその長髪に至るまでの人生をお聞きします。ご出身はどちらですか?
東京の日野市です。
日野の2トンしか、あまりピンとこないのですが。
住んでいたのは、京王線の高幡不動です。本当に何もない田舎です。お正月だけ高幡不動は盛り上がりますが、あとはモノレールとか、多摩動物公園くらいしかありません。
あ、多摩動物公園って日野市なんですか!
そうです、そうです、あ、いや、違うかもしれません。すいません。
調べておきますね。(※日野市でした)どんな子どもさんでしたか?
サッカーをやっていました。結構しっかりやっておりました。ただ、性格的にはかなり凶暴で、すぐに手を出してりして、いつも親は呼び出されていました。
凶暴?どんなタイミングで凶暴化するんですか?
ほとんど覚えていないのですが、気に入らないことがあったら、すぐにパンチ、キック、ラリアットをしていたようです。
癇癪持ち?ブリキの太鼓?
なんでなのかは本当に覚えていないのですが、幼稚園からだったそうです。
中学校も日野ですか?
いえ、中学は受験して別のところに。
やはりご両親の希望もあって?
いえ、親も出来ればそうして欲しいと思っていたようなのですが、「受験しなさい」と言われたことはありません。
では、自ら受験を?なんでですか?
小学校6年のときに、地元公立中学との交流会があったんです。学校見学とかするヤツです。そこに小学校のときにイジメていた一個上の先輩がいまして、その先輩が僕たちの案内役になったので、またイジメたんです。
暴力クンですものね。
すげえその先輩をいじっていたら、帰り際にすげえ怖い中学生が来て、「オメエか!さっきコイツをいじったのは!入学式、楽しみにしてるからな」と。めちゃくちゃ怖くてですね、それでこれは本当にヤバイと思いまして、中学受験するしかないと決めたんです。
フフフ、いいですねー。お父さん、お母さんは喜んだのでは?
ええ。「ようやくやる気になったな」と言われました。もちろんその理由は言っていません。
それで合格したんですか。恐怖がもたらすパワーってすごいですね。受かってどうでしたか?
心から「ヨッシャー!」って。
(笑)。
その受験の直前に、仲の良い中学の先輩に会いまして、「オマエ、絶対に受かった方がイイ。じゃないと本当にヤバイことになるぞ。入学式一発目に殴る当番、その次の日に殴る当番も決まってるぞ」って教えてくれたんです。なので本当に良かったです。
本当におめでとうございました(笑)。じゃ、先輩に中学で遭遇することはなかったんですね。
はい。あ、でも暫くして会ったんです。僕が高校のときだったと思うんですけど、地元のレンタルビデオ屋の前に先輩がいまして。あんなに弱っちい人だったのに、豹変してまして。
わーどんな風に?
相変わらず小さかったんですけど、マッチョになっていて、金ネック付けて、土方みたいな格好していたんです。「あー、やばいかも」って思ってたら、向こうも気づいて「ヨォ~ッス!!」って。完全にキャラも変わっていました。「お疲れさまです」って返したら仲良く話してくれました(笑)。でも後で周りから聞いたんですが、学校や家庭にいろんなことがあったと。苦労したみたいで。なんか僕も悪いことしたのかなぁって思ったりもしました。
そうですか…人生ですね。さて、どちらの中学校に行かれたのですか?
サッカーもしていたので国学院久我山に行きました。でもサッカーはすぐに辞めてしまいました。
あらー、どうしてですか?
なんかすごくみんな真面目だったんです。体育会系で、練習もキツくなって、プロになろうとしてるんじゃないかってノリで。面倒臭くなって辞めたんです。それにちょうどそのタイミングでギターを始めたりして。
あらー、いけませんねぇ。誰かからの影響とかあったんですか?
hideですね。
そうですか。
あ…バカにしていますか(笑)?
いえいえ!ただ、すいません、hideさんの偉大さが今ひとつ把握出来ておりませんので。カリスマなんですよね。
ええ、そんな感じです。中一くらいからX JAPANを聴き始めました。

ちなみに小学校のときは何を聴いていたんですか?
普通にJ-POPです。
例えば?
うーん、そうですね……浜ちゃん。H Jungle with tです。
狙ってません?
いえいえ、本当にそうなんです。ここから音楽に目覚めたんです。元々ダウンタウン…「ごっつええ感じ」が好きだったんで。
俺の大好きな浜ちゃんが歌を出すと。それがめちゃくちゃカッコ良かったと。
はい。すごく覚えているんですけど、「めざましテレビ」で、いきなりPVが流れたんですね。ネルシャツみたいの着てブラブラしている浜ちゃんが、なぜか本当にカッコ良く思えたんです。
では、浜ちゃんからX JAPANへの道のりを教えてください。
浜ちゃん→ミスチル→DIR EN GREY→X…でいかがでしょうか?
X JAPANの魅力を教えてください。
やっぱり不良っぽいところじゃないでしょうか。過激なところも魅力でした。ジャケットとか歌詞もすごく怖かったんですけど、本当に衝撃を受けました。「血」とか「切り刻む」とか「吊るし上げる」とか。
吊るし上げるんですか!
はい。でも最初小学校のときに、親が何か買ってくれるって、一緒にCD屋に行ったんです。それでXを指差したんですが、さすがにダメでした。手首に釘を刺しているジャケでしたので。
でしょうね(笑)。ではその代わりに何を買ってもらったんですか?
ミスチルでしたね。
お母さん、安心ですね。
黒夢もまだギリ大丈夫でした。
クラスのみんなも聴いていましたか?
そうですね、中学の頃はJ-POP全盛でしたので。SHAZNAとかT.M.Revolutionとか、あとUAとかチャラとかみんな聴いていました。
Takanori Makes Revolutionですか。でもそんな中、(魔)さんは、どんどんよろしくない方向へ進んでいくと。他の子はストップ出来たのにねえ…。さて、高校も国学院久我山ですか?
はい、そうです。
また部活にも入らないで?
いや、それがバンド同好会みたいなのがあったので入りました。
当時、その同好会で一番人気のあるバンドって何でしたか?
特に一番っていうのはありませんでしたが、ハイスタとかブラフマン、メタリカとか。でもなぜかジェフ・ベックやってる先輩が一人いました。
いい先輩ですね(笑)!でもなんか全体的におしゃれですね。
当時はAIR JAM全盛でしたので、そこら辺は人気があったんです。メタルも人気がありましたね。
じゃ、(魔)さんもメタルを?
まぁ、パンクとかハードコアとか。コピーばかりでしたけど。
そして大学も国学院ですか?
いえ、受験して青山学院大学に入ったのですが、一ヶ月くらいですぐに辞めました。
またですか(笑)。VICEは中退層に支えられているようですね。なんで辞めたんですか?
すごくつまんなくて。既に高校の終わりくらいから、決まって朝起きて学校いくのが嫌になっていたんです。それが大学になったら、さらに自分で選択して行かなきゃならない。午前中から学校に行くのが本当に辛くなってきたんです。
イケませんねぇ。私もかかったことありますが、パンク/ハードコア病ですね。ご両親はなんて?
めちゃくちゃ泣いてました。それで「とりあえずは休学にしなさい」ってなったんですが、もちろん僕はそんなつもりありませんでした。
それほど青山学院が嫌だったのですか?超おしゃれじゃないですか。女の子もステキそうじゃないですか。小脇にファッション誌抱えたりして。
僕には合いませんでした。ちょっと頑張ろうと音楽サークルも覗いたんですが、その部長が「お!君パンクでしょ!」って。
どんな格好していたんですか?
ビリビリのジーパンに、ハードコア・バンドのTシャツ着て、あとはスイサイダル・テンデンシーズのキャップです。
スイサイダルの帽子って、いつでもどこでもですよねぇ(笑)。高円寺ではオッサンも被ってますよ。
そしたら「ウチもパンク演ってるから。175Rとかー」って言われまして。これはろくなもんじゃないと。絶対ダメだと。
(笑)。まぁ、18歳くらいにしたら、決定的ですよね。それで休学してどうしたんですか?
大学生ってことは隠して、吉祥寺のライヴハウスでバイトを始めました。
ああ~重病ですね。結局もう戻って来れなかったと?
はい。
どうでしたか?ライヴハウス・ワークは?おっかないこととかありませんでした?
もちろんありました。サイコビリー系の方のイベントなんかは特に怖くて、周りの住民の方から苦情が来ないように、外に立つ当番があるんです。でも、みなさん自転車とかバイクで来るんで、となりのマンションとかに止めちゃうんです。それを注意しなきゃいけないんですけど、その度に「殺すぞ」「殺すぞ」の連続で。「この道通るヤツ全員に言えよ」「いえ、そういうことじゃないんです…」とか、本当にアレは嫌でした。
ではもうどっぷり音楽の生活というわけですね。バンド活動はいかがでしたか?
はい、今もやっております。
どんな系ですか?
一言で言うと速いです。相当速いと思います。
シャーッッッ!!!!!って感じですね。バンド名は?
いえ、そこはちょっと。大丈夫です。
大丈夫ですか。そうですか。それではお店はどのように始まったのでしょうか?
働いていたライヴハウスはスタジオもやっていまして、僕はそこへ移動になったんです。場所は同じなんですけど。
スタジオって大変じゃないですか?夜中もやってるんですよね?
はい、当時は朝5時までやってました。週末は24時間営業で。現在は深夜0時までに営業時間短縮されていますけど。
たまーに朝早くどっかのスタジオの前とか通ったときに、中の待合室とか見えるじゃないですか。練習後のロックな人たちなのかな、みなさんダラーンとしてて、覇気が全く感じられなくて。アレってちょっと見たくない光景ですよね。実は楽しくないのかなぁっていつも思うんです。
ああ、分かります。吉祥寺駅前早朝の日高屋にたくさんいらっしゃいますね。早く帰って寝たらいいのにって思います、僕も。
ですよね!ではスタジオを経てお店スタートですか?
いえ、一回スタジオを辞めてチェーン系のレコード屋に勤めたんですが、思っていたより面白くなかったんです。とっても大人の世界でした。それでもう一回スタジオに戻りまして、一応レコード屋のノウハウみたいなものは学んでいたので、この中でお店を作ることを提案したんです。それでスタジオの仕事もしながら、店もやることになったんです。
どんな商品を扱っていたのですか?
最初は委託だけだったんですけど、ライヴに出ているバンドとか、お客さんだったり、知り合いのバンドのものを並べていました。同時に通販も始めました。
それが現在では自営になったんですよね?そのいきさつを教えてください。
僕が店の方ばっかりやって、スタジオ業務を怠るようになったんですね。そしたら「お前クビ」って。「その代わり、このままココで店はやらせてやるから、一人でやってみろ」と。それが今も続いているんです。
ちなみにお店の名前とか出さなくていいんですか?ちょっとはお役に立つかもしれませんよ。
いえ、そこはちょっと。大丈夫です。
さっきのバンドのときも、そうおっしゃられましたね。どうしてですか?
その、なんか宣伝っぽくなるのは嫌ですから。
あー、そういうところですね、商売の勝ち組と負け組の分かれ目は。お気持ちは分かりますが、もうちょっとがめついてもいいんじゃないですか?かなり患ってますね、ハードコア病。ちなみに商売的にはいかがですか?音楽不況なんて言われていますが。
最初はキツかったですけど、ここ最近はちょっと良くなって来ている気がします。レコードとかカセットも動き始めていまして、売り上げはCDと逆転しています。
若いお客さんもいるんですか?
最近来るようになりました。大学生とか18歳くらいの子とか。
最初はドキドキしながら入ってくるんでしょうね。変な音楽ばかりだし。
だと思います。なので、「何かお探しですかー?」なんて、優しく声はかけるようにしています。やはり接客は大事だと思っています。

しかしXのジャケより酷い…というか、スゲエものを売ってるわけじゃないですか。ご両親はなんておっしゃってます?
高校の頃にデスメタルとかグラインドコアとか、変なのを聴いていたのは知ってるんで、そこに関しては何も言いません。店についても、100パーセント安心はしていないと思いますけど、やれているんならイイんじゃない、頑張りなさいって言ってくれています。
じゃあ、そんなご両親に聴かせられない、今お店で一番イケている音楽を教えてください。
CIVILIZEDってバンドです。コロラド州デンバーのバンドです。
ありがとうございました!では最後に(魔)さんの夢を教えてください。
夢ですか…そうですね、やはり店に関係することなんですが、高校の頃に代官山の超イケてる人気の服屋に行ったんです。そしたら店先で店長みたいな人は、友だちとタバコ吸いながら大声でダベってるし、中の従業員もダラダラして、すげえ態度が悪くてムカついたんです。でも儲かっていると。
ええ。
なにこの店!すげえ羨ましい。…ああなりたいです。
いやいや、接客は大事って、さっき言ったじゃないですか?
いや、あれくらい楽に商売出来たらってことです。そんなに深い意味はありません。そうですね、堅実にやらないといけませんね。店なんて速攻でとんじゃいますから。頑張らないといけません。
やっぱ、お店の名前出した方がいいと思いますよ。
いえ、そこはちょっと。大丈夫です。
ハードコアって厄介ですね。

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