〈GOLD or JUST A STONE〉01.アートで揺さぶる視点と伝染ーBIENー

2019年4月19日にリリースした『EXTRA VICE』。移りゆく社会に呼応するように、新たな価値観で生きるユースフルなマインドを持つ人々は、何を感じ、何を表現するのか?ここでは『EXTRA VICE』から、ドローイングを中心としたアートを手がけるBIENの作品とインタビューをお送りする。新たな〈線〉は、受け手にどのような変化をもたらすのか?

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27 April 2019, 3:36am

インターネットやマッキントッシュ、スマートフォンなど、様々な科学技術の開発と呼応するように、新たなカルチャーが生まれ、新たな価値観が築かれてきた昨今。その真価が問われるのは、数年、あるいは数十年後の評価でしかない。
2020年、東京で開催されるオリンピックに向けて、どこもかしこも工事中。一足早く完成した豊洲市場、東京都で施行された受動喫煙防止条例など。古いものから新しいものへ、汚いだろうものを排除し、ますますクリーンな外装だけができあがっていく。
同時に、社会の監視と規制が強まるなかで、それならそれで、と軽やかに社会の闇をも受け入れ、自身の表現としてさらけ出す、若き心を持った人々を取材した。
金だろうが、ただの石ころだろうが、自分自身のジャンルのない道を進むものたちの心の声を聞いた。

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WOOZY WIZARD, 1230 x 1525 mm, cutting sheet on wood,2018 Photo By Kazunori Harimoto

SNSを使ったコミュニティーのように、ひとつの表現が無数に感染していくさまを、どこかで俯瞰して冷静に捉え、それをひとつの喜びとして捉えているアーティスト。BIENが描く線の行く先は、見るものの心をどう付き動かすのだろうか。

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「SPIDER’ S NEST」, 1230 x 1525 mm, cutting sheet on wood, 2018 Photo By Kazunori Harimoto

表現活動をしようと思ったきっかけを教えてください。

小学生のころから、親の影響でよく映画を見ていて、その流れで映画のポスターや平面作品に興味がありました。美大に行こうって決めたのは、それこそ高校2年生頃で、それまで美大があるなんて知らなかったです。それで美大のデザイン科に進んだって感じですね。

何かを表現したいというよりは、漠然とした憧れが強かったのですね?

ストリートアート的な話だと、最初に知ったのがバンクシーだったり、日本だとKAMIさんを見てカッコイイなって憧れてました。

やはり、グラフィティーもルーツのひとつなんですね。

そうですね。でも僕の場合は、もうちょいライトな感じかも。めっちゃハードコアなライターになりたいってよりは、もう少しメディアに出てたバリー・マッギーとかカウズを見ていたので。夜描きに行くようになったのも大学生になってからで、最初は大学の授業で作ったポスターを貼りに行ったりしてました。

どんなポスターでしたか?

僕の今の作品はキャラクターや文字の型を分解してできた〈線〉なんですけど、どこを境に元の型がなくなるか、を意識して作っていて。その原型になるのが、このとき作ったポスターなんです。だから、ストリートアートを手法的に取り入れてたって感じです。

グラフィティーの資本主義批判的な思想にも影響されたんですか?

普通に好きなことを自分でやるっていうか、反抗というか、そういうところが好きでしたね。音楽的にもロックやパンクとかが好きだったんです。基本的には90年代のカルチャーが好きでした。例えば、裏原のカルチャーとか古本屋で雑誌のバックナンバーを買って見たりして、めっちゃ盛り上がってました。

どのブランドが好きだったんですか?

裏原の雰囲気や現象に興味があって、カッコイイなって掘っていった感じなんです。だから服自体というよりもブランドの価値があがると名前だけでも売れるようになっていく、シンボルがあるだけで売れていくような現象にも興味がありました。

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個展「Living,Daylights,Room」at ANAGRA 2016 installation view Photo By Aya Suzuki
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個展「Living,Daylights,Room」at ANAGRA 2016 installation view Photo By Aya Suzuki

その感覚が面白いですね。90年代をリアルに過ごしてきた人たちは、おそらくそこまで理解してなくて、その現象を楽しめる余裕がなかったと思います。そんなBIENさんがアートを志したきっかけを教えてください。

それこそ自分がやりたくないことはできないというか、だったらバイトしながらでもやればいいやって気持ちが最初にあって。あと当時〈ANAGRA〉というスペースに行くようになったのが、かなりデカかったですかね。僕が雑誌で読んで好きだった90年代をリアルに過ごしていた人たちと出会って、そんな人たちが、みんなバイトしたり働きながら作品を作っていて、それがカッコよかったんです。これでいいじゃんって思わされて。しかも、最初にBIENってなったのも〈ANAGRA〉がきっかけなんです。もともとBNEのパロディでBIENって描いてあるステッカーを作って配ってたんですけど、そしたらBIEN(ビエン)て呼ばれるようになって、その感じも面白かったです。

憧れていた90年代と、リアルに繋がったのですね。ちなみに、このころはどのように作品を制作していたのですか?

制作をするってなるとひとりで籠って描いてました。作品のことを考えながら、いろんな映画を見てみたり。抽象的なんですけど、ひとりで映画を見てるときに「あ、これは」って思いつくときを待ってみたり。

ビジュアル的なきっかけを探す感覚ですか?

ビジュアルもありますし、セリフだったり、ストーリーだったり全部ですね。例えば作品のタイトルのような言葉について考えてるときは言葉待ちっていうか。タイトルひとつで作品の印象が決まったりするので。

また、BIENさんの作品は、ストリート一辺倒ってわけではないですよね?90年代だと、割とひとつのジャンルを掘って〈スタイルがある〉ことが重要だった気がします。

わかります。ハードコアかハードコアじゃないか、それはそうですよね。そういった〈スタイル〉でいうと僕は自分をグラフィティーライターだとは言わないし、もちろんそうだとは思っていなくて。ただ影響も受けているし、グラフィティーも好きでやるんですけど、それはアーティストである自分のいち要素であるというか、なにより先にいちアーティストでいたいって気持ちが強いです。

自分の作品でグラフィティー的な要素が滲み出ている自覚はあるんですか?

僕自身はあまり実感していないですが、繋げるとしたら絵画のなかで文字や形を崩して描いているところですかね。一見抽象的でただのめちゃくちゃな線に見えても、そこに文字が描いてあることを説明すればみんな理解できて、それってタグをみるのと似てるなって思って。なにも知らない状態でタグをみたら、そこに何がかいてあるかわからないけど、法則を知ってはじめて理解できるようになるじゃないですか。そういうのは似てるなって思ってます。

ちなみに、ジャンルとか気にするんですか?作品はドローイングがメインですが。

ジャンルってかなり見た目の話になってくると思うんですけど、僕がやりたいことって僕の作品を見てもらって、見てくれた人の住んでる世界の見方が変わったりする表現であって、ドローイング自体をやりたいわけじゃないっていうか、ドローイングはひとつの手段というか。なのであまり気にしていないです。ただ、ドローイングで、もっといろんなことができると思っています。

なぜ、世界の捉え方を、表現したいのですか?

それこそ映画を見たあとに価値観が変わることってあるじゃないですか。現実にはないフィクションの世界だけど、その作品を見たことで後々生活するなかで考えることがいっぱいあるのが面白くて、それに近い気がします。あとは僕の場合〈ANAGRA〉で自分の価値観が変わったのを自覚していて。グラフィティーもそうだし、美術の世界だったり色々掘るにつれて、自分が見てたものがすごく狭かったなって思うわけじゃないですか。そういうときの面白さってあると思います。

BIENさんの作品に影響を与えている映画を教えてください。

ひとつ挙げるなら昔からハリーポッターとか、ファンタジーが好きで。現実の世界の奥に違う世界があるかもって思うとやっぱり楽しいし、それが自分の作品にも影響しています。

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2017年「Reborn-Art Festival」石巻(宮城) インスタレーションビュー
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2017年「Reborn-Art Festival」石巻(宮城) インスタレーションビュー

ちなみに石巻では〈SIDE CORE〉と展示をしてましたよね。あれは、結構リアルな体験をもとに作品を作ったんですよね?

そうですね。東日本大震災があったとき、東京もすごく揺れたけど、特に大きな影響はなかったじゃないですか。1日中親と連絡がとれなかったり、不安になることはあったけど少し時間が経つと普通になってくし。震災を本当に実感したのは〈リボーン・アートフェス〉に参加したときですね。〈SIDE CORE〉の人たちと一緒に石巻に行って何ヶ月も過ごして、大変なことだったんだなってようやく実感して。

〈リボーン・アートフェス〉では、どのような作品を作ったのですか?

僕のなかでは、このとき作った作品が結構重要なんです。石巻の〈ワンパーク〉という、展示会場にあった古い板材を削って作った作品なんですけど、どこかの場所に滞在することで生まれる作品があるんだなって。そこで展示をするとなった時に、今まで通りキャンバスを張って描くっていうことをここでやったらおかしいなって、やっぱり思って。それにそれまで地方に長く滞在することがなかったから色々新鮮で、そのなかでも線幅が均等な虫食いの線がある木を見つけて、それがすごく綺麗で。自分がデジタルな要素や記号的なことを考えて描いている線の表現と木に残った虫食いの線がとても似ていて、そこがリンクしたことに影響されて石巻の木を削って作品にしたんです。自分の我を通してやるっていうよりは、合気道的に影響を受けて、それを自分のものに展開させるっていうことができたのが石巻の作品なんです。

よく短期間でそこまで消化できましたね。

ひとりでは完成できなかったです。SIDE COREの人たちと一緒にいて色々話したり、いろんな人たちと交流したからできたっていうのはあります。内だった自分が、むき出しにされたっていうか(笑)そういう感覚がありました。

嫌じゃなかったんですか踏み込まれるのとか。

最初はやっぱり抵抗がありました。自分が作品を作るときは、ひとりになって何時間も悩んでみたいな作りかただったから。周りで他の人が作業してたし、一緒に住んでたし、そこで鍛えられたというか。だんだん面白いなって思えてきたっていうか。勝手に頑なに固執してたことが揺らいだのが良かったかなとは思います。

人との繋がりやその土地で影響されたものから着想を得て、そこから想像し作品にしていく。現実とファンタジーが、はじめて融合したと自覚できる表現だったのですね。

本当に、その塩梅っていうのが面白いところですね。もともと自分の作品はファンタジー要素が強めだったので、石巻のリアルな体験と融合させた作品ができて、今でもすごく大事な作品です。

これからも、アートと社会が連動している作品を制作していきたいですか?

自分では作品で表現したいことや考えていることがもちろんあるけど、抽象的だからか社会と関係がないものとして見られがちなんですよね。だから目標っていうか、自分の表現で社会に対してもコミットした作品を見せていきたいです。ただ、やっぱり絵だけでは難しいなと思っていて。今までも彫刻などはやっていますが、他にもインスタレーションだったり、映像表現だったり、表現によって伝わりやすいものもあると思うので、そのときに表現したいことに合わせて絵画以外も色々やりたいです。

ちなみに自分の作品が、なぜ受け入れられてると思いますか?

自分では変な感じだなって思います。自分の表現として線を描いていって、考えている全部は伝わりきってないと思うし、何なんですかね、難しいですね。描いている線の話でいうと、たくさんの好きな先輩作家の作品があるなかで、僕の場合はどこか軽くて動いていくものっていうか、ランダムで自由なものを大事にしていきたいなとは思っています。だから、僕自身囚われないようにいこうと思うし、はみ出ていこうと思っていて。何かに囚われたくないってのは作品にでてるのかな?どの場所も好きだけど、どこも落ち着かなかったり。

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copyright (c) 2018 Rebel Without a Cause: I Love Art 14’ watari-um museum .all rights reserved. photo by Kazunori Harimoto
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こちらの記事は、2019年4月19日、約2年ぶりとなるフリーマガジン『EXTRA VICE』に掲載。今号は〈GOLD or JUST A STONE〉をタイトルに、〈ユースフルなマインド〉をテーマにした1冊。移りゆく社会に呼応するように、新たな価値観で生きる人々をクローズアップ。
通常のVICE MAGAZINE同様に、書店、レコードショップ、アートギャラリー、ホテル、そして今号で特集している全国のフレッドペリーのショップでも配布している。