激辛ソースで勝負する元AV男優のスパイシーな人生

ダニー・ワイルドとして知られるクリストファー・ザイスチェグは、元売れっ子AV男優。300本以上もの作品に出演し、アダルトビデオの最高峰を決定する〈AVNアワード〉での受賞経験もある。しかし、ED治療薬の度重なる服用によって、持続勃起症を起こし引退。そして彼は〈激辛ソース〉で第二の人生をスタートした。

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27 June 2017, 10:44am

辛いソースにはマゾヒズム的要素が多分に含まれている。タバスコや シラチャーソース(タイ生まれのホットソース。米国で商品化された)、 タパティオ(カリフォルニア生まれのホットソースブランド)など、穏やかならざる激辛ソースは、ほとんどが少量生産で、人目をひく変わった名前がついており、さらにラベルには、考え得る限りのあらゆる〈痛いくらいのおいしさ〉的コピーを冠している。そんな商品が激辛ソース市場には溢れているのだ。

たとえば、世界でいちばん辛いトウガラシとしてギネスに認定されたキャロライナ・リーパー(Carolina Reaper)を使ったリーパー・スリング・ブレード(Reaper Sling Blade)、辛さの単位〈スコヴィル(Scoville)〉の値、250万と驚異的記録をたたき出したブラック・マンバ(Black Mamba)のような激辛ソース(ちなみに、一般的なハラペーニョのスコヴィル値は3500から1万)は、間違いなく舌が燃えるほど辛いのだが、食材本来の味がわからなくなるのが問題である。

しかし、ありがたや、〈嗜虐の帝王〉が辛さとおいしさを同時に味わえる激辛ソースを開発してくれた。その名は〈ワイルドファイヤー(Wyldefire)〉。新発売のこのソース、おそらく、 BDSM(Bondage、Discipline、Sadism &Masochism)系AV男優が生みだした唯一の激辛ソースでもある。

ダニー・ワイルド(Danny Wylde)として知られるクリストファー・ザイスチェグ(Christopher Zeischegg)は、この10年間、悦びと痛みのはざまで生きてきた。彼がAV業界に足を踏み入れたのは、ご多分に漏れず、手っ取り早く稼ぐためだった。カリフォルニア大学サンタクルーズ校の学生で、無一文だったザイスチェグは、クレイグスリストをチェックし、BDSM作品に出演できる若い男性の募集広告を見つけた。「1回くらいこういうクレイジーな体験をしてみてもいいかと思ったんです」とザイスチェグは語った。「ちゃんとした仕事を見つけるまでのつなぎになるかな、と」

〈ワイルドファイヤー〉のロマンティック・エディション. Photo courtesy of Christopher Zeischegg.

しかしそうはならなかった。ザイスチェグは19歳で初めてAVに出演する。そして早送りすること数年、ザイスチェグ青年は、俳優〈ダニー・ワイルド〉へと変貌を遂げ、300本以上もの作品〈代表作:『Occupy My Ass』(アナルをどうぞ))に出演。アダルトビデオの最高峰を決定する〈AVNアワード〉で、彼の見事な演技が評価され、〈最優秀グループセックス賞〉を受賞した。

しかし、その栄光の陰で、ザイスチェグは、ある問題に突き当たる。彼の健康がむしばまれていたのだ。それは、AV男優の大勢が直面する問題でもある。AV業界では、男優が最高の状態で演技できるよう、ED治療薬の服用が慣習化している。ザイスチェグもその例に漏れず、治療薬を常用していたため、回復不能なほど健康を損なってしまった。

「パフォーマンスを高めるために、ほとんどのAV男優がED治療薬を服用している、といってもいいでしょう。私は、シアリスを服用していましたし、他の薬も併用していました」とザイスチェグ。その作用で持続勃起症にかかり、少なくとも2回は緊急治療室に運ばれたという。「最後に私が病院に運ばれたとき、医師に、もうこの仕事は辞めなさい、と勧告されました。このままだとペニスに瘢痕組織ができてしまい、自然な勃起が妨げられる、とのことでした。その翌日、私は引退しました」

しかし、そこでまた新たな問題が発生した。元AV男優が、この業界以外で職を見つける難しさに直面したのだ。

「いつかはAVから引退しなければいけません」、ザイスチェグはそう説明する。「生涯AV男優ではいられない。アスリートと同じです。問題は、ポルノで培った技術が他の職種には生かせない、という事実でした」

彼は、ポストプロダクションなども少なからず経験していたが、激辛ソース業界で新しい人生を始めようと閃いたのは、LAのダウンタウンにあるチムニー・コーヒーの元シェフ、ロイス・バーク(Royce Burke)との出会いがきっかけだった。バークは、パームスプリングスで催されたイベントにケータリングで参加したさい、そこでザイスチェグを見かけた。バークは彼を知っており、そこでふたりは会話した。そして彼らは、マジックマッシュルームを食べながらクレイジーな週末を過ごし、元AV俳優たちが直面する問題について語り合った。その結果生まれたのが〈ワイルドファイヤー〉だ。

「私はクリスと、AV業界で〈賞味期限切れ〉になってしまったAV俳優たちに転職のチャンスがない状況を、じっくり話し合いました。ひとつの文化として、大量のポルノを私たちは消費しているのに、俳優のその後について、ほとんど配慮がありません」。最近ロサンゼルスで〈シークレット・ラザニア(Secret Lasagna)〉という、デリバリーのラザニアビジネスを始めたバークはそのように語る。「そんな状況を変えるために、小さくてもいいから何か自分たちにできるビジネスはないか、と考えたのです」

〈ワイルドファイヤー〉を商品化するさい、バークはロサンゼルスでカルト的人気を誇るスパイシー・フライドチキン店〈ハウリン・レイズ(Howlin' Ray's)〉からヒントを得た。

「まずは大量の緑のプリッキーヌー(タイ原産のトウガラシ。タイチリ。)、ローズマリー、タイム、ニンニク、塩を混ぜます。そして24時間後、そこにビネガーを加えます。それから1週間ねかせます。〈ワイルドファイヤー〉の〈エクストリームバージョン〉では、あの悪名高いキャロライナ・リーパーも加えています。ハウリン・レイズの偉大なシェフであるジョニー・レイ・ゾーン(Johnny Ray Zone)に教えてもらいました」とバーク。「これ以上は話せません。企業秘密ですからね」

〈ワイルドファイヤー〉の〈エクストリーム〉バージョンのラベル. Image courtesy of Christopher Zeischegg.

今のところ〈ワイルドファイヤー〉は、オンラインのみの限定販売だが、ブランドは成長しており、認知度も徐々に高まっている。バークとザイスチェグはこれをきっかけに、AV俳優たちの第二の人生についての議論が活性化し、彼らにチャンスが生まれるよう望んでいる。

「大切な問題です」とバーク。「ザイスチェグは、男性のあるべき姿にふさわしいパフォーマンスをする、というプレッシャーにさらされた結果、身体にダメージを負ってしまった。そしてそれがキッカケでAV業界を引退しました。このソースにはそんなスターの名前を冠しています。まだまだ世の中は、セックスやセックス産業について、とんでもなく遅れた価値観を抱いています。世間のイメージが変化しなければならないでしょう」

その変化が、おいしい激辛ソースによってもたらされるなら、なおさら良い。