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目指すは大麻の”布教”──ラッパーと牧師が異色のタッグ

大麻合法化への熱意を胸に、人気ラッパーのビル・スタックスとカン・ソンソク牧師は、韓国での大麻のイメージを一新するべく活動している。

by David Lee
21 May 2020, 12:32am

All photos by the writer.

韓国人ラッパーのビル・スタックス(以前はVascoとして活動)にとって、『Detox』は単なる5thアルバムではない。これは彼の〈ウィード・ムーブメント〉の始まりだった。

「このムーブメントの狙いは、大麻を違法薬物として認識している世間一般のイメージを変えること」と一児の父でもある39歳の大御所ヒップホップアーティストは、ソウルのホームスタジオからVICEに語った。

彼の外見は、韓国の一般的な父親からはかけ離れている。手、腕、胸はびっしりとタトゥーで覆われ、真っ赤なフーディの胸には、マクドナルドにそっくりなロゴの上に〈マリファナ〉の文字が踊る。これは彼自身がデザインしたアイテムで、近日ローンチされるアパレルブランドから発売予定だ。

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自宅のスタジオで最新アルバムのカセットを掲げるビル・スタックス。

8歳になるビルの息子は、ホームスタジオの外にあるキッチンで夕食をとっていた。スタジオの防音仕様の壁には〈医療用大麻は命に関わる問題だ〉と書かれたポスターが貼られ、その前には『Detox』の限定版カセットテープの入ったジップロックが置かれている。この緑色のテープは、420(※大麻を表すスラング)枚限定で発売された。

4月8日にリリースされた本作のために、ビルはこのスタジオで1年以上かけて「Wake N’ Bake」や「Lonely Stoner」などのトラックを制作してきた。

「僕は自分の音楽やファッション、そして他の文化的な影響を通して、社会の大麻に対するプロパガンダによって人びとが受けた洗脳を〈デトックス〉したいんです」

さらに、大麻をテーマにしたドキュメンタリーや映画の製作についても、監督やプロデューサーと相談中だという。

大麻とヒップホップは決して目新しい組み合わせではないが、韓国のメディアにおいては前例がなかった。本アルバムのアートワークにはブラント(大麻の葉巻)や大麻のつぼみの写真が使われているため、音楽ストリーミングプラットフォームには『Detox』を新作として紹介するのを拒否された。さらに、2015年に大麻を吸い、コカインとエクスタシーを摂取した容疑で、彼が2018年に告発されていたことも不利に働いた。ビルは懲役1年半を言い渡されたが、のちに拘留なしで起訴された。現在は3年間の保護観察中で、定期的な薬物検査を義務付けられている。

ビル自身の家族でさえも、彼の大麻合法化提唱者としての役割を認めていない。自分と違って当たり障りないことしか話そうとしない父親とは、仕事の話をするのはやめた、と彼はいう。

しかし、ありがたいことに、彼の他の家族はもっとオープンな考えの持ち主だ。

「僕をいちばん応援してくれているのは、妻とその家族です」とビルはいう。「誰もが気軽に大麻を使えるように活動することが僕の最終目標だ、と妻の家族に話した翌日、彼らはネットでリサーチをしたあと、質問を書き留めてもってきてくれました。いつか義母といっしょに大麻を吸う計画も立てたんです」

2018年、韓国は東アジアで初めて、幻覚作用を引き起こさない服用量の大麻の医療目的での使用を合法化したが、嗜好用大麻の所持や販売については非常に厳しい法律を定めている。

韓国における大麻の認識を変えるには、音楽という分野を超えた活動が必要だと気づいたビルは、意外な相手に協力を頼んだ。それが〈韓国独立教会及び宣教団体連合会(Korean Association of Independent Churches and Missions)〉の叙任を受けたカン・ソンソク牧師だ。現在41歳のカン牧師は、約200人のメンバーが在籍する市民団体〈医療用大麻合法化運動本部(Korean Medical Cannabis Organisation: KMCO)〉の創設者でもある。KMCOは韓国初の医療用大麻推進団体で、医療分野における大麻の使用を認めるよう政府にはたらきかけた組織のひとつだ。

「医療用大麻によって人生が変わるかもしれないてんかん、ガン、慢性痛を抱える人びとの話を共有することで、どうにか法律を変えるよう国会議員たちを説得することに成功しました」とカン牧師は回想する。

大麻をテーマとするポッドキャストの収録に向かうカン牧師は、他の牧師のように白い襟付きの黒いシャツと紺色のスーツに身を包んでいた。しかし彼の口調は牧師の説教というより、ビルのようなラッパーに近いものがある。

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医療用大麻の合法化に関するポッドキャストの収録に向けて準備をするカン・ソンソク牧師。

世界大麻デーである4月20日、カン牧師とビルはインスタライブを行い、オンライン嘆願書への署名を呼びかけた。この署名運動は、病を抱える人びとが医療用大麻を入手しやすくするため、そして嗜好目的での大麻の使用を非犯罪化するために、ビルがインスタライブの数時間前に始めたもの。同書には6日間で8400を超える署名が集まったが、ムン・ジェイン大統領府から正式な回答を得るために必要な20万人分を30日間で達成するには遠く及ばない。

「彼のことは、僕と同じ方向を見据えている同僚だと思っています」とビルはカン牧師について語り、牧師が嘆願書の作成にも協力してくれたことを明かした。

インスタライブに出演するだけでなく、カン牧師が率いるKMCOは、SNS上で嘆願書への署名を呼びかけた。カン牧師とビルが連絡を取り合う仲になったのは、昨年の世界大麻デーに、ビルがソウルの流行の発信地である弘大(ホンデ)地区の教会で開かれたKMCOの総会に参加したことがきっかけだった。

「彼はその場でメンバーになり、それ以来熱心なサポーターとして、定期的に会費を払ってくれています」とカン牧師はいう。

カン牧師とビルは、カルチャーと市民運動を通して大麻を推奨するため、この先もさまざまなコラボレーションを予定している。彼らの共通点は、ふたりとも業界の〈異端者〉であるということだ。韓国のヒップホップアーティストは、基本的に神の存在について語ることも、宗教団体と交流することもない。韓国国民大学テクノデザイン専門大学院のチョ・マンス教授がVICEに語ったところによると、クリスチャンを自認する韓国人は全体の3割近くで、その多くが大麻の合法化に反対しているという。

「今のところ、私の団体や活動を他のキリスト教団体から公に非難されたことはありませんが、支持を表明してくれた団体もありません」とカン牧師は語る。彼は一家の三世代目の牧師で、朝鮮戦争中に信仰を告白して処刑された有名な殉教者を祖父にもつ。カン牧師が医療用大麻について知ったのは2014年、椎間板ヘルニアと診断されたときのことだった。

カン牧師にとって、大麻合法化を訴えることは、布教活動と同じだという。

「かつてイエスが多くの人びとを癒されたように、私の医療における使命は、患者さんたちに治療法を届けることです」

ビルと同じくカン牧師も、教授や医師たちが医療用大麻のメリットを熟知していながらそれを敬遠するのは、社会的な偏見が原因だ、と考えている。だからこそ、カン牧師は医療用大麻の推奨にいっそう力を入れるようになった。

「韓国では、ほぼ全てのひとが大麻の推奨に反対しているといっても過言ではありません」とチョ教授は説明する。彼は大麻の産業化を研究する数少ない韓国人研究者のひとりだ。韓国人が大麻に関する知識も関心もないのは、多くのひとが一度も大麻に触れたことがないからだ、と教授は述べる。

「実際に大麻を使用したことのある韓国の成人は、全体のわずか10%程度です」と教授は指摘する。彼が所属する研究チームは、〈韓国麻薬退治運動本部〉と警察のドラッグ関連の逮捕にまつわるデータを分析した。

「韓国では、大麻の使用歴のあるひとの数とハードドラッグの使用歴のあるひとの数がほぼ同じなため、大麻はコカイン、ヘロイン、覚せい剤などのハードドラッグと同じカテゴリーに入れられています」

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ユースカルチャーの中心地である弘大などのエリアの裏路地では、しばしばマリファナのマークを見かける。

さらに、大麻はより依存性の高いドラッグとほぼ価格が変わらないため、〈財閥ドラッグ〉、すなわち富裕層のためのドラッグと呼ばれているという。

「韓国で大麻と聞くと、まず浮かぶのは大麻吸引の容疑で捜査を受ける財閥関係者のニュースです」とカン牧師は指摘する。「この国で大麻所持で起訴されるのは、殺人で有罪判決を受けるも同然なんです」

だからこそ、ビルの最新アルバム『Detox』も正当な評価を得られずにいるのだろう。彼の過去作の多くはストリーミングサイトでトップ100入りを果たしたが、『Detox』の収録曲は1曲もランクインしていない。本作は、ビルが期待したような議論を呼ぶことはなかった。

「もしもっと多くのひとがこのアルバムを聴いてくれたら、ストリーミングサイトのコメント欄には、ファンからの賞賛よりも、批判やアンチコメントが殺到するはずです」とビル。「僕が新しいアルバムを出したことすら知らないひとも多いんじゃないかな」

「みんなにこのアルバムを聴いて、『すごいな、この国でこんなアルバムをリリースできるのか』と驚いてほしかったんだけど」とビルは残念そうに語る。

しかし、望みが絶たれたわけではない。

韓国の人びとが大麻を受け入れるまで、ラッパーと牧師のコンビは全力で〈布教〉を続けるつもりだ。


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This article originally appeared on VICE ASIA.