性別違和とうまく付き合いながらセックスを楽しむ方法

トランス、ノンバイナリー、ジェンダーノンコンフォーミングの人々にとって、性行為はときに緊張感を伴うものだ。ジェンダーノンコンフォーミングの筆者が、違和感に向き合う方法を伝授する。
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translated by Nozomi Otaki
An illustration of trans people having sex in bed
Illustration by Mayticks

初めてセクシャルパートナーに胸に触っていいかと訊かれたとき、わたしは驚愕した。当時は自分が嫌でも胸にたくさん触れるのが〈いいセックス〉だと思い込んでいて、それを甘んじて受け入れた。そもそも、自分に胸があることにすら違和感があった。わたしはその違和感を指す言葉──性別違和(せいべついわ)──を知ったばかりだったが、パートナーたちが愛撫を始めたときにどうすればいいのかわからなかった。そしてある時ついにはっきりと〈ノー〉というチャンスを得た。

パートナーはその制限を尊重してくれた。胸の問題が解決すると、わたしはリラックスし、楽しく思い出に残る性体験を享受できるようになった。

最近では自分の胸が好きになったが、それでもわたしは(行為中は特に)他の場所に触れられることが好きなジェンダーノンコンフォーミングだ。パートナーたちに自分の要求を伝える方法を発見し、違和感を和らげる戦略を編み出した。わたしと同じような体験をしているひとに、悩みを忘れて思い切り没頭するコツを伝授する。

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性別違和とは何か

LGBTQ+ヘルスカンパニーのFOLXは、性別違和を「自身のジェンダーが出生時に判定された性と一致しない一部のトランスジェンダーとノンバイナリーの人びとが感じる情緒的、身体的苦痛」と定義づけている。

性別違和は、誤った性別の呼称を用いられた出来事への反応として、もしくは自分のジェンダーアイデンティティやジェンダー表現と合致しないと感じる体の部位への不快感など、普段から抱えている違和感によって生じる。

性別違和はどんなひとでも体験する可能性がある。結局、ジェンダー・パフォーマンスによる厳格な行動や表象への期待は、わたしたち全員に苦痛を与えているためだ。しかし、性別違和は特にトランス、ノンバイナリー、ジェンダーノンコンフォーミングの人びとに長期的かつ多大な影響を及ぼしてきた。性別適合医療を受けたトランスの成人を対象にした2021年の調査では、ほぼすべての回答者が7歳までに違和感を覚えるようになったと答えている。

もちろん、すべてのトランスやジェンダーノンコンフォーミングの人びとが性別違和を体験するとは限らないが、性別違和はウェルビーイング全般に影響を及ぼしかねない。性別違和はうつ、不安症、ときに自殺念慮を引き起こす。多くのトランスやジェンダーノンコンフォーミングの人びとが直面する性別適合ヘルスケアへの社会的スティグマ、差別、拒絶、障壁も、この違和感を悪化させる可能性がある。

もしあなたが日常生活で性別違和を感じているなら、それは必ずしも性行為中に生じるとは限らない。パートナーと転げ回っているときはジェンダーのことなんて思い浮かばない、というひともいるだろう。しかし、もし行為中に性別違和を感じるとしたら、それが集中力の妨げになるかもしれない。

性別違和が性生活に与える影響

ノンバイナリーの性教育者タック・マーロイ(Tuck Malloy)に性別違和が性生活に与える影響について尋ねると、エミリー・ナゴスキーの画期的な性の専門書『Come As You Are』から、性的な〈ブレーキ〉と〈アクセル〉の概念を紹介してくれた。

「わたしたちは自分をその気にさせるものと、ブレーキ、つまりそれをオフにするものを持っています」とマーロイは説明する。「性的なこと、すなわちアクセルを踏み込むことをしているときも、ブレーキに足をかければ、車は進まなくなりますよね」

一部のトランスやジェンダーノンコンフォーミングの人びとにとって、性別違和を抱えて生きるとは常にブレーキに足を乗せているような状態だ。「わたしは性別違和を抱える仲間たちと、アクセルを踏み込むだけでなく、ブレーキから足を離す方法を探ってきました」とマーロイはいう。

性別違和が邪魔をするとき、性生活を満喫するにはどうすればいいのだろう。

パートナーと自分の限界について話し合う

パートナーと始める前に、性的同意、性感染症、(関係ある場合は)避妊については、すでに相談済みだとする(確認したら先に進んで)。性別違和の引き金となる特定の言葉、行為、触れ方はあるだろうか。パートナーに自分の限界を伝え、相手についても質問しよう。長期的な性的関係に新しい条件を取り入れれば、その対話がふたりの距離を縮めるきっかけになるかもしれない。

「わたしはいつも、たとえ自分を弱さをさらけ出すことになっても、率直に打ち明けるようにしています。そうすると勇気が湧いてくるし、有意義な方法で相手とのつながりや関係を深めることができます」と〈Doing It Ourselves: The Trans Woman Porn Project〉シリーズの監督で短編集『Nerve Endings: The New Trans Erotic』編集者のトビー・ヒル=マイヤー(Tobi Hill-Meyer)はいう。

「いつも自分のためにセックスをしているんだ、と自分に言い聞かせています」と性教育者のマーロイは語る。「もし相手がわたしにとって楽しい体験にするための対話をしたがらなければ、自分は本当にこのひととしたいのかどうか、もう一度考え直すでしょう」

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服を全部脱ぐ必要はない

自分の体に見たくない、もしくは触れたくない部分があるなら、下着、ブラ、バインダー、もしくはすべての服を身につけたまま行為に及んでも、なんの問題もない。「服を着たままでも、セクシーなことはたくさんできます」とマーロイはいう。服の下に手を這わせてもいいし、パンツや下着の上から強力なバイブレーターで性器を刺激してもいい。それから昔ながらの着衣セックスも、意外なほどセクシーな気分になれる(盛りのついたティーンエイジャーだけのものではない)。

できるだけ裸になりたいけれど自分の性器を見たくない、という場合は、デンタルダムやLoralsのアンダーウェアを使うといい。これらの製品は薄いラテックスかポリウレタン製で、今自分に何が触れているか感じられるし、おまけに性感染症も予防できる。その代わりに、カバーをつけたバイブレーターやストローカーを使ってもいい。なかにはトランスマスキュリンの体のための専用商品もある。

性別多幸感を意識する

性別違和と向き合うさい、否定的な感情を軽減する方法にフォーカスしがちかもしれないが、性別多幸感──すなわち自分のジェンダーを正しく判定され、ジェンダーが一致していることへの幸福感──が、あなたの楽しみを増幅させてくれるかもしれない。

行為中に性別多幸感を探ることは、そこまで難しいことではない。「普段と同じことをすればいいんです。ただ、少し違う方法で」とヒル=マイヤーは説明する。彼女はパートナーに「いい子(good boy/good girl)」と呼んでもらったり、お好みのジェンダーにまつわる猥談をしてもらうことを勧めた。パートナーに、あなたのジェンダーアイデンティティやジェンダー表現に合致する形容詞を使ってもらおう。個人的に、わたしは「かわいい」より「ハンサム」と言ってもらうほうが好きだ。自分の性器や体の部位に対して、相手に使ってほしい言葉を知ってもらおう。

ロールプレイも、性別多幸感を引き出すきっかけになる。マーロイは、普段とは異なるキャラクターやパワーを持つことが違和感を「圧倒する」と指摘する。ふしだらな看護師やセクシーな便利屋を演じるのに忙しければ、自分の体に違和感を覚える暇はない。さらにロールプレイでは、どんな行為をするのか前もって計画を立てることができる。何が起こるのかがわかっていれば、安心して行為に臨めるはずだ。

パートナーには、自分にしっくりくる方法でオーラルセックスをしてほしいとお願いしよう。フェラチオならディルドを舐めてほしいとか、頭を上下させてほしいと頼んでもいい。クンニリングスは、性器に優しく触れて「コーンのアイスクリームを舐めるように、舌の広い部分を平らにして長く舐めて」もらうのがいい、とヒル=マイヤーは説明する。彼女によれば、マッフィング(ZINE『Fucking Trans Women』でミラ・ベルウェザーが新しく作った、鼠径管を指で愛撫することをさす言葉)は挿入を「その用意がない体で」体験するための有効な手段だという。

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これらのテクニックは、ヒル=マイヤーが性別多幸感に満ちた体験のための「ロケット燃料」と称するもので、オーガズムに達することはできなかったとしても、オモチャやお互いへのマスターベーションなど、確実に達することのできる他の手段と並行して用いてもいいそうだ。

不快感があれば中断する

いくら事前に限界を設けたり要求を共有したりしても、行為中に性別違和を感じることもあるかもしれない。でも、それはあなたが間違っていることをしているからではない。どんなに内省や準備を重ねても違和感は現れるもので、セクシャルパートナーがあなたが同意した以外のことをしてしまったら──たとえそれが意図的ではなくても──あなたにショックを与える可能性がある。

行為中に不快感を覚えたら、それに気を留め、自分の体をいたわってあげよう。「脳にリセットする時間を与えてください」とヒル=マイヤーはいう。性別違和を感じたら、相手の体に意識を集中させたり、パートナーに性別多幸感へと近づくための言葉や触れ合いを求めたり、体勢を変えたりすることが大切だ。

必要ならいつでも中断していい。マーロイは、性別違和に対処するために、セーフワードの使用を勧めている。「青、黄、赤の信号のシステムを使えば、お互いの意志を確認しながら進めることができます」とマーロイは説明する。青は〈最高〉、黄色は〈ちょっと微妙〉または〈休憩したい〉、赤は〈もうやめたい〉だ。

性別違和は、性行為についてクリエイティブに考える機会を与えてくれる。これを機に新たな実験をしたり明瞭なコミュニケーションを実践すれば、あなたにぴったりな、最高の気分にしてくれる言葉、オモチャ、テクニックが見つかるはずだ。そして何よりも、あなたとパートナーがセクシーな気分になれる限り、邪道というものはない。さあ、思い切り羽目を外してみよう。

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