「The best of adidas(最高のアディダス) 」と名付けられ、91年にオリジナルモデルがリリースされたEQT。90年代にファッション写真の支流を変革したユルゲン・テラー(Juergen Teller)。94年にスタートしたVICE。今回のEXTRA VICEは、フィールドは異なれど、90年代に生まれ、ともに時代を築いてきた3者のクリエイションが融合した1冊となっている。
このコラボレーションを説明する上で、まずはEQTが生まれた、90年代という時代について触れておきたい。
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日本における「失われた10年」とされるのが90年代。1970年代のニクソン・ショックとオイルショックに伴う不況を乗り越え訪れた、長きにわたる経済成長が、バブル崩壊とともに終焉する。終身雇用制どころか、それまで絶対的な権威であった大手金融機関の破綻、大手証券会社の倒産、そしてそのあおりを受けた就職氷河期など、多くの社会的な問題が巻き起こる。 こう提示すると、さぞ悲観的な時代と感じるかもしれない。しかし、ポケベルやPHSなど情報伝達ツールの普及や、インターネットの一般化によって、地理的な隔たりに左右されず、様々な文化に触れる機会を得られるようになった時代でもあった。 それらを活用する若者が、大手志向やブランド主義、学歴偏重といった既存の価値観から、新たな何かを求め、サブカルチャーを中心に多様な生き方を模索するようになる。
世界に目を移すと1989年11月9日に、東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊し90年代に突入する。
80年代、東ドイツも含めて東欧諸国の経済状況が停滞するなかで、ポーランドとハンガリーで民主化の動きが起こり始める。そして1989年8月19日ヨーロッパ・ピクニック計画が決行された。オーストリアとの国境の街、ハンガリーのショプロンから東ドイツ国民が、約1000人ほど西側に渡った。このニュースが報じられると、西側諸国に向かう東ドイツ人が後を絶たなくなる。そして迎えた11月9日。国外へと渡ろうとする国民に押され、東ドイツ政府は海外旅行を限定的に認める法案を発表する。すると、その発表を耳にした東ドイツ国民が、数時間後、直ちにベルリンの壁を越えていく。この日ベルリンの壁が崩壊。12月3日のアメリカとソ連の間での冷戦締結宣言へと繋がっていく。東欧諸国が続々と民主化を果たすなかで、1990年10月3日東西ドイツが正式に統一。翌’91年12月26日、ソビエト連邦が崩壊する。
こうして、第二次世界大戦以降続いていた長きにわたる分断が解消され、世界がグローバリゼーションへと向かうことになった。
そんな日本&世界情勢がグローバル化へと向かう一方で、様々なカルチャーやライフスタイルなど、異文化の情報が氾濫し混沌とするなか、アディダスはブランド自身のアイデンティティーに立ち返ったアプローチを取る。これまであらゆる技術を駆使して開発してきたなかで、アスリートのための最高水準のシューズを作り出す。それがEQTシリーズだ。
アディダスは、トルションシステム(足のねじれを防ぐアウトソール機能)など、各時代における独自の最先端機能を生み出し続けてきた。そんな精神は今でも受け継がれている。
先日公開された「Original is never finished」をテーマとしたアディダス オリジナルスのブランドムービーにも、それが表現されている。アディダスのルーツ、そして現在において欠かせないアーティストにより、それを体現。出演者はスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)、デージ・ローフ(Dej Loaf)、ストームジー(Stormzy)、カリーム・アブドゥル=ジャバー(Kareem Abdul-Jabbar)、デヴ・ハインズ(Dev Hynes)、マーク・ゴンザレス(Mark Gonzales)、ルーカス・プイグ(Lucas Puig)、ペトラ・コリンズ(Petra Collins)など。
映像では、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)による「My Way」のリミックスをBGMに、「伝承」と「リクリエイト」によってオリジナルを生み出すという強いメッセージが込められている。
例えば、現代のヨーロッパで表現された新たなスタイルの少林寺拳法や、ドローンの監視カメラを破壊することで既成概念を打ち破り新たな世界を手にする女性クルーなどが、力強く描き出されている。
ゲイリー・ローウッドは、アディダス オリジナルスのNMDを解体して作られたマスクを被ることで、現代におけるノマディックな集団を表現。
かつて美の象徴とされた「ヴィーナスの誕生」をモチーフに、ペトラ・コリンズが現代における美の象徴を表現。
スケートボーディングにおいてレジェンドとも言えるマーク・ゴンザレスと、フランスの若手ホープであるルーカス・プイグの両者が共演。真のオリジナルの意味を問うべく、伝統を受け継ぐこと、そしてその伝統をリクリエイトすることが表現されている。
そして、このムービーにアイコン的に登場するシューズこそ、90年代に登場し、今回新たに生まれ変わるEQTである。
2017年、現在の技術の粋を集めて生まれ変わったEQT。今回EXTRA VICEを彩るファッションストーリーを撮影したのが、90年代ファッション写真の世界で大きな変革を起こしたユルゲン・テラーである。
ユルゲン・テラーは、テリー・リチャードソンやヴォルフガング・ティルマンスとともに、1990年代のファッション・フォトグラフィーを変革したひとりだ。
ユルゲン・テラーはファッション写真に人間性、醜さ、厳しさ、そしてユーモアが感じられる作品を全く恐れず表現していく。ファッション誌のスタンダードであった大げさなスタジオセットや、劇的すぎる演出のもと撮られた、それまでの写真に対する新たな価値観を提示した。つまり、ファッション=ゴージャス、セクシー、クラシックと、華美であればあるほど良しとされた世界を、ある意味では反逆的に破壊し、再構築していく。
ドイツ出身の彼は、22歳で渡英し、『i-D』を始めとするファッション誌で、リアリティー、ドキュメント性を持ち込み、そのスタイルが、ファッションの世界のスタンダードとなっていく。その後、ユルゲン・テラーの作風を真似た写真が流布するのだが、それはあくまで表面的な模倣であって、写真に対して込められた深みや思想が伴うはずもない。しかし、ユルゲン・テラーは、その線を明確に提示するかのように、アートの世界に足を踏み入れ、さらなる成功を手にすることになる。
90年代にツールを持ち、共に本質を追究し進化を遂げてきたEQTとユルゲン・テラー。両者によるクリエイションが、今回のEXTRA VICEというフリーマガジンで存分に表現されている。
※EXTRA VICEは2017年1月26日より、全国の書店や、全国のアディダス オリジナルスショップなどで配布開始。
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