人生のすべての瞬間を記憶している〈超記憶〉の持ち主に10の質問

「赤っぽい光が見える、暗い場所にいたのを覚えています。私の頭は自分の両脚の間にありました。おそらく子宮内にいたときの記憶だと思いますが、当時の自分が何ヶ月だったのかはわかりません」
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
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写真提供は全てレベッカ・シャーロック。

この記事はVICE Australiaに掲載された記事です。

たとえばあなたがハリー・ポッターシリーズのどれか1冊を手に取り、適当にページを開いて、音読を始めたとする。その続きをすぐに暗唱できてしまうのが、29歳のレベッカ・シャーロックだ。私が『ハリー・ポッターと賢者の石』の、「勇気にもいろいろある」という一文を読みあげると、レベッカは間髪を入れずこう続けた。「敵に立ち向かうのは大変勇気がいることだ…」

レベッカがハリー・ポッターを暗唱できるのは、人生のすべての瞬間を記憶しているからだ。しかも時系列順に、信じられないほど細部まで覚えている。彼女の場合、香り、会話の正確な断片、時には肉体的な痛みまでも含む、実にリアルなフラッシュバックとして記憶を想起する。このめずらしい能力は〈Highly Superior Autobiographical Memory (HSAM:非常に優れた自伝的記憶、または超記憶)〉として知られており、この能力をもつひとびとは世界で約80人ほどしか存在しない。

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レベッカの記憶や脳について、そして百科事典のように詳細な記憶が、彼女の生きる世界にどのような影響を及ぼしているのかについて知るべく、ブリスベン在住の彼女に電話インタビューを行なった。

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生後1日目の筆者。当然ながらレベッカはこの日に何が起きたかを覚えている。

──覚えているなかで一番古い記憶は?

レベッカ・シャーロック:赤っぽい光が見える、暗い場所にいたのを覚えています。私の頭は自分の両脚の間にありました。おそらく子宮内にいたときの記憶だと思いますが、当時の自分が何ヶ月だったのかはわかりません。それが一番最初ですね。記憶は常に時系列順に並んでいるので、これが一番古い記憶です。

──なるほど、すごいですね。いくつかテストさせてください。あなたは自分の2歳の誕生日、何をしましたか?

妹のジェシカが生まれるちょっと前だったんですが、当時母が妊娠していることは知りませんでした。席について、プラスチック製の電車が乗っているケーキが目の前にあったことを覚えています。私はロウソクよりも、その電車に興味がありました。ケーキの周りにはティンセルが飾り付けてあって、ケーキを食べたあと、飾りの電車をもらいました。その後数ヶ月、その電車がお気に入りのおもちゃでしたね。当時は自分が歳を取ることを自覚していませんでした。ただ、いつもと違うことが起きているな、という認識でした。

──一番はっきりと記憶に残っている出来事は?

古い記憶ほどはっきりと思い出せます。新しい記憶はそこまで根付いていないし、印象も弱めですね。たとえば3歳のとき、祖父母の家にある自分のベッドで座っていて、母に数週間前の夕飯に何を食べたか尋ねていたことを思い出します。「わからないわよ、ベッキー。ずっと前のことだもの」といつも母は答えていましたが、私は「今だっていつか〈ずっと前のこと〉になるよ」と反論していました。「そうなったら忘れちゃうわよ」と言われてましたが。

──記憶はどれほど強く残っているのでしょう?

私は全部覚えています。特に、香りは記憶のなかでも印象が強いですね。どこかへ出かけるとき、気持ちをつくっていきたい場合は、幸せな記憶のなかの特定の香りをまといます。

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現在レベッカは、自閉症の啓発活動にかかわり、地元の団体や学校で講演やセミナーを行なっている。

──HSAMはどのように検証、証明するのでしょうか。テストのプロセスを教えてください。

プロセスはかなり長期にわたります。私の両親がカリフォルニア大学アーバイン校のマクゴー・スターク研究室に連絡したのが始まりです。この研究室は、2006年に初めてHSAMを発見した研究室で、正式にHSAMの診断を受けられる唯一の場所です。検証プロセスを終えるのには数年かかりました。いろんなテストを受けたり、脳のスキャンをされたり。始まった当初にいくつか質問されたんですが、その受け答えを記録しておいて、その2年後、かつて自分が答えた通りに答えよ、と言われたりとかもありました。最初はテストを受けることに緊張していました。この出来事が起きたのは何曜日?とか、社会ではどんな問題が起きていた?などの質問に答えられず失敗するひとが多いと聞いていたので。でもテストに合格することができました。

──正式な診断を受けることは、あなたにとって重要でした?

もちろん。HSAMのことを知るまでは、自分に自信がもてなかったんです。自分はどこかが決定的におかしいんだ、と思っていたので。なので答えをもらえてよかった。自閉症の診断を受けたときも同じでした。ずっと、自分について答えのない疑問を抱えていたんです。

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HSAMのことを知ったのは21歳の頃でしたが、最初に何か変だな、と感じだしたのは、人付き合いが増え出した十代のときです。自分が、友達よりも物事に固執することに気づきました。HSAMの診断を受けるまでは、強迫性障害の症状だと思っていました。強迫性障害も患っているので。

──あなたにとってHSAMはうれしい能力? それともわずらわしい能力?

うれしさとわずらわしさが混ざり合っている感じです。時には呪いのように感じます。嫌な経験も忘れられないし、これまで感じたすべての感情を追体験することになる。そのせいで1日中、気分が沈むこともあります。でも、幸せな体験も追体験できるのでうれしいですね。たとえば今日は、子どもの頃の記憶を追体験できました。

──自分が体験したことを忘れられないとなると、特定の出来事を避ける必要があるのでは?

かなり注意しています。将来の記憶テストに備えて時事問題を知っておかなくてはいけないのですが、新聞のほうが好きなんです。テレビのニュース映像を見てしまうと、それが記憶にこびりついて離れないので。そういった不安に対処するために、薬剤を服用しています。たとえばクリスマスシーズンのショッピングなど、自分のストレスになる可能性があるとわかっている場合は、念のためバリウム(精神安定剤のジアゼパム)を飲んでおきます。セラピストに、そういった状況を避けるための方法も教わっています。どうしても避けられないときもありますけどね。

──あなたの能力を見せてくれと言われたり、あなたの記憶を試そうとするひとたちもいると思うんですが、それについてはどう思いますか?

能力を証明しろといわれると、何だか嫌な気分になりますし、恥ずかしいですね。見世物になったみたいで。疑わしい目で見られることもあります。お前は嘘つきだとメッセージを送ってくるひともいますし。

──もしHSAMを完全に治療できると言われたら、治療しますか?

嫌な記憶を失くせるならすぐに治療しますね。だけど幸せな記憶は全部取っておきたい。脳のどの部位が短期記憶と長期記憶を管理しているのかが現在研究されているので、それぞれの記憶のオン/オフを安全にできる方法も見つけられるはずです。

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