南フランスの小さな街、セットで開催される写真フェスティバル「Image Singulières」では、毎年、この街をテーマにした作品を制作するという企画のために、一人の写真家を招待している。私は2015年の、このフェスティバルに招待され、現地で作品を制作するために滞在している間、夜の妖しげな雰囲気に惹かれて、街を彷徨っていた。とりわけ、立ち並ぶ家の、閉ざされたドアの向こう側で行われていることに惹かれていった。心優しき数名がドアの内側に招き入れてくれ、1歩踏み入ると、そこには夜の営みの情景が広がっていた。まるで映画のような、夢現つな光景が紡ぐ詩的な空間は、寝静まった街のなかで、微かな鼓動を伝えてくれた。暗闇と静けさに包まれた、現実と虚構が交差するかのような、魅惑的なワンシーンに浮かびあがったのは、そこで暮らす人々のリアルな日常だった。
VICE MAGAZINE「THE PHOTO ISSUE 2015」の記事より